「あーっ、もうムカつくムカつくムカつくっ」
とんとんとんとん。玉ねぎを刻みながら、凰鈴音は目を赤くしていた。無論玉ねぎの汁が原因ではない。もう慣れている。慣れていないのは、優柔不断な一夏の態度だ。
幻滅している、という訳ではなかった。一夏の良いところは何も変わってないし、鈴音自身の一夏が好きだという気持ちにも変わりはない。無いのだが、問題は自分以外に一夏へ纏わりつく女のことだ。
(そもそも、一夏が優しいからいけないのよっ)
一夏は誰にでも優しい。男子に興味津々でしつっこく色々聞いてくる女子生徒にも、内心はともかくとして、外から見れば顔色一つ変えず紳士的に対応している。何かにつけて高飛車なセシリア、強引なラウラと上手くやれているのも、先ず一歩引いて相手の言葉を受け止める姿勢があるからだろう。
鈴音も、そんな優しい一夏が好きなのに、だからこそどこか矛盾した考えを抱いてしまう。
(一夏が誰にだって優しいから……私は迷っちゃう)
だれにでも優しい一夏は、鈴音にも優しい。
――そう、鈴音にも、誰にも。
だから困るのだ。自分への優しさを他の女の子に――箒に、セシリアに、シャルに、そしてラウラにも振り撒いているんだと考えてしまえば、本当は嬉しい優しさを、素直に受け止められることが出来なくなる。
嬉しさだけではなく、どうせ、という暗い気持ちが入り込んでしまうのだ。
(勿論、自分に自信が、無いわけじゃないのよ。一夏の気を引くように、一杯頑張ってるつもりだし)
容姿を整えて、なるべく負担にならないように振る舞って。小さいころの、今考えてみれば結構いい加減であやふやな約束だって健気に信じて、料理の腕を磨いてきた。
一夏に想いを寄せる他の女の子に、負けているつもりは無いのだ。
無いのだが。
(……幼馴染歴は、箒の方が上だし、セシリアのように綺麗じゃないし、シャルみたいに元気じゃないし、ラウラみたいに、素直にもなれない)
何故だか、自分に自信を持てない。引っ込み思案なんて自分らしくないのに、どうしても一歩、出遅れてしまうのだ。
例えるなら、遠くで見るお祭りの明かりと楽しさより、人混みから離れている寂しさを感じてしまうような気持ち。
どうしてかと何回自問自答した所で、答えは見つからない。
(……はぁ、ほんと、ムカつくっ)
料理を作る手を機械的に動かしながら、鈴音はまた、一夏のために作る料理を練習する。今は、それだけしか出来なかった。