「ただいまー、ラウラ……あれ、いないや」
日が丁度沈んだ頃、図書館で課題を終えて戻ってきたシャルロット・デュノアは、ルームメイトの不在を意外に思った。いつもならこの時間帯、電話で部下の副隊長とやらに恋愛相談をしているか、お揃いにした寝間着を着てすっかり眠っているはずなのだ。
机を見れば、書き置きがあった。“クラスメートにお呼ばれしたから、晩御飯はいらない”と書いてあって、シャルロットは思わず胸を撫で下ろした。
(良かった。友達、ちゃんと出来てるんだ)
ラウラ・ボーデヴィッヒという女の子は16歳にして少佐の階級を持っている。故にその価値観や常識も、普通の女の子とは少し違っていて、転校してきた最初は周りと余り打ち解けられていなかった。
シャルロットが彼女の世話を焼く一因は、それを放っておけなかったから、なのかもしれない。居場所のない辛さは良く分かるのだ。
そうして今、ラウラは立派にIS学園一年生女子として受け入れられ、夜遅くまで遊ぶ友達も出来た。善き哉、と満足しながら首を縦に振りたくなった。
と、同時に。
(――でも。ライバル、なんだよね)
そういう事実も、胸を掠めていく。
シャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒ。二人共に、好きな男の子は同じただ一人。織斑一夏という日本人のことを、男として好きになっている。
そう、恋焦がれるのは二人、相手は一人。いつかは決着を付けねばならないのだ。
(前にも誰かに言われたっけ。ルームメイトだからって、ちょっと塩送りすぎなんじゃ、って)
夏休みのある日、食堂で仲の良い数人とわいわい騒ぎながら不意に突っ込まれた一言は、シャルロットの頭に未だこびりついている。
服を選んであげたり、ちょっとずれている副隊長さんの代わりに女の子らしさをアドバイスしてあげたり。
考えてみれば、そうして魅力的になったラウラという、恋のライバルを増やしてしまっている。
(ほんとのほんとに、一夏が欲しいのなら――あんまり、しちゃいけないことなんだろうなぁ)
臨海学校の時、担任教師である織斑千冬に言われたことを思い出す。
女なら、奪うくらいの気持ちで行け。
多分、その通りなのだろう。特にあの、鈍感で鈍い一夏相手なら。
(でも、ね)
クローゼットから黄色と黒の着ぐるみ猫パジャマを取り出しながら、シャルは心の中で首を大きく横に振った。
自分は確かに、一夏が好きだ。
だけど、ラウラも――もっと言えば、箒にセシリア、鈴も好きだ。
だってここは、シャルロット・デュノアの数少ない居場所だから。実家に道具として利用され本国には性別の虚偽を責められている身で、ただ一つこの学園だけが自分を受け入れてくれている。
その元は一夏の熱い言葉だったが、それを実現させるために学園の大人たちがどれだけ頑張っているか。そして、複雑な状況について何も言わず、仲良くしてくれているクラスメートの度量の広さについて、想像出来ないシャルロットではなかった。
だから、抜け駆けなんて出来ない。シャルロットは一夏が好きだが、それと同じくらい、この学園にいる皆が好きだから。
(――でも、このままじゃ、なぁ)
進展のない現状。はぁ、と溜息をついたシャルはパジャマを二つベッドの上に置いて、お腹を空かせて帰るだろうラウラのために料理を作ろうと冷蔵庫を開けた。