たばねさんはかわいいです   作:凍結する人

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そして、篠ノ之束は可愛い

 五人五様の恋模様。それぞれがそれぞれに悩みを抱き、今一歩、望むものに近づけないでいた。

 

 そんな情景が映し出されているのは、薄暗い地下室に並べられたモニタ群。特徴的な五人の他にも、バンダナを巻いた赤毛の少女や、薄い水色の髪が映える容姿端麗な美人姉妹。その他にもスタイルの良い眼鏡教師や、益荒男をそのまま女にしたような凛々しい美女も映っている。

 

 彼女たちの共通点は唯一つ。織斑一夏という男性の近くにいて、彼に関わっていること。

 

「く、くふふふ」

 

 だが、折角映し出されているそれらに、部屋の主は見向きもせず。眼前数センチにずずいと迫っている大画面に無理やり焦点を当てながら、涎を垂らし、至福そのものといった恍惚の表情を浮かべていた。

 

「いっくぅぅぅん~……うふ、うふふふ」

 

 見ているのは、青いドレスを纏って機械のウサミミを頭にくっつけて、道化のような格好をしている女性。

 多数のメカニズムで構成された銀色の奇妙な椅子をちきり、ちきり、ちきりりと鳴らせつつ、彼女――篠ノ之束は、モニタに映されている織斑一夏の姿、その微細に至るまでを網膜に焼き付かせていた。

 

「はぁぁ、今日もいっくんはかっこいいなぁ、優しいなぁ」

 

 束は見ていた。織斑一夏をずっと、ずっと見つめてきた。

 ある時は某国の監視衛星をハッキングして。またある時は自作のステルス迷彩タイツスーツですぐ側から。そして今のように、欠陥機として放置されていたのを半ば強引に分捕って、一夏専用に完成させた『白式』のセンサーを経由して。

 

「そう、いっくんは優しいんだよね、誰にでも、私にも、他の有象無象にも」

 

 そして、あることに気づいた。

 束が心底惚れこんでいた男の子。自分より年下でありながら、そのハートを鷲掴みにした男の子は、束以外の女の子にも気に入られている。ともすれば、惚れた腫れたの恋愛感情すら、抱かせてしまう。

 それに気づいた時――まだ小学生だった自分の妹が恋する乙女の表情を見せたその時――束はあることを決意して、そして。

 

 ISを開発した。

 

「いっくんは誰にでも優しい。それはいいんだ。そこがいっくんのいいとこだもの。だけど、それを、素直に受け止めて貰われたら、とっっっても困るんだよね」

 

 椅子にくっついているロボットアームを動かし、一夏を生中継していたモニタが退けられる。そうして、先程からずっと乙女たちを映し出していた小さいモニタを睥睨した束は――

 自らの思惑が完全に実現していることを認識し、薄ら冷たい笑いを浮かべた。

 

「善哉善哉、春は短し恋せよ乙女」

 

 彼女たちを激励するような台詞を吐きながらも、その表情は酷薄で、残酷だった。

 

 束が開発したIS、そのコアは操縦者のデータを理解しその思考や感情を読み取って自己進化をする。するとIS自身が操縦者の特性を理解し、操縦者はよりISの性能を引き出せるようになる。

 会見で発言したその機能は、なるほど真実だ。そうでなければ、「二次移行」も「三次移行」も起こらない。

 だが、それだけではないのだ。

 ISのコアは、操縦者の思考を理解して――密かに“改竄”している。

 それは人格を変化するような仰々しい変化でもなければ、深層心理に殺戮衝動を刷り込む邪悪な催眠でもない。もしそうなら、とっくの昔にバレている。

 

 束がISに仕込んだのは、たった一つのシンプルな仕掛けだ。

 

 『男性への好意、またはそれに類する感情を歪曲して放つべし。また、男性からの好意を極力、否定すべし』

 

 そんな、ほんの些細な心理を、ISに触れた全女性に植えつけるだけの仕掛けだった。

 その結果として、女性は男性を疎み、憎しみ。ISという絶対的な力にかこつけたった十年で女尊男卑の風潮を世界的に広めたのだが――それは、束の興味の範疇外だ。

 彼女がこの仕掛けを、宇宙開発にも軍事にも使えるパワードスーツという“どうでもいい”外殻に包んで夜に送り出したのは、たった一人の男の子の為なのだから。

 

「素直になれない女の子って、可愛いからね。特に箒ちゃん! あぁぁ、大切にしたいけど、口より先に手が出ちゃう、その矛盾にこっそり悩む……うん、最高だねぇ」

 

 他のモニタを文字通り足蹴りにして、妹のモニタだけをずっと見つめ、その思い悩む様を楽しむ束。しかもそれは、ただ彼女の迷いを観察して湯悦に浸るだけでなく、その縛りから解き放たれ、なろうと思えばいくらでも素直になれる『自分』と比較しての優越感でもあった。

 

 そう。

 

 篠ノ之箒が拳を握るのも

 セシリア・オルコットが躊躇うのも

 凰鈴音が劣等感を抱くのも

 シャルロット・デュノアが友情と恋愛に悩むのも

 ラウラ・ボーデヴィッヒが『嫁』に拘るのも

 

 全ては、彼女たちの持っている、いや、無意識に付けられているIS(くびわ)によって誘導されている思考なのだった。

 

「どれだけ悩んでも苦しんでも、いっくんは振り向いてくれないよ?だって……いっくんは、私のものだから」

 

 束は両手を脇腹において、そのまま腕をぎゅっと自分の体にむけて押し込んだ。まるで自分で自分を抱きしめているような体勢は、着ている青いドレスに向けられたものだ。

 

 女の子との約束や思い出に対して、異常なまでにちゃらんぽらんな一夏はもう覚えていないだろうが。束ははっきり覚えている。その日時、天候、気温、湿度、その他諸々あらゆる事象と共に。

 

 ――わぁ、その服、可愛いなぁ。なんか、うさぎっぽくて。

 

 たった一言。その一言でさえ、天才は忘れていなかった。

 

「うふふ、くふふふ、あははははははは」

 

 そうして束はとうとう、一夏にも『白式』を取り付けた。態々女性のみという限定を解除し、藍越学園の受験場所を操作し、ISに触れさせて。

 

 だが、束にはもう、一夏の心を操ろうという意図はない。ただの高性能監視カメラとして、盗撮と覗きに使うだけだ。

 

 だって、その必要はもう無いのだ。

 全ての選択肢を潰された一夏が向かうのは、年上で、暴力を振るわなくて、リードしてくれて、それでいて強引でもなく――おまけに天才の、ウサミミが似合うとっても魅力的で可愛い女性に、決まっているのだから。




以上です。
千冬姉や更識姉妹も書こうと思えば書けたんですが、とりあえずこれで収めてみようかと。時系列としては四巻辺りを想像してください。
――後、鈴ちゃんの部分が初稿だとギリギリ1000字届かなくて、ちょいちょい付け足す必要があったのはわざとじゃないんです信じてくださいおねがいします
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