リメイク版『異常な普通』も異世界から来るそうですよ? 作:FGMe/あかいひと
新年初更新です。今年もよろしくお願いいたします。
翌日、僕は白夜叉サンに呼び出しをくらったため、『サウザンドアイズ』の支店の、彼女の私室で縮こまっていた。『マジ★狩る学習帳』の件についてだ。
「うむ、ご足労だったな」
「いえいえ、割と近いので其処は問題ないです」
本来ならば、ジンくん達のゲームの応援&観戦をしたかったのだが、呼び出されてしまっては仕方がない。結局、僕は蚊帳の外のままあの2人であの作戦を決行することになるのだろう。ぐぬぬ…………。
まあ、そんな私情を持ち出すわけにもいかんので、顔に出してるのはそれなりの笑顔である。
「さて、では早速本題に入ろう。件の参考書のことだが」
「ええ、一応裏ワザで何冊か増やしておきました」
ギフトカードから、計5冊の学習帳がバサリと現れる。
「そしてこちらが、この学習帳を量産するにあたって必要な筆記用具です」
さらに、学習帳を書くのに使用した黒赤青のボールペンに、ピンクオレンジ黄緑空色の蛍光ペンを4色。それ自体は市販のソレそのものだが、学習帳にセットしてある自己修復機能を作動させるための外せない組み合わせとなっている。
「そして昨日の夜纏めた、この学習帳の仕上げ方を書き記したノートです。ただ書き写すだけじゃなくて、日や時間帯、書き順にペンを走らせるスピード、筆圧にも、多少細かい制限があるので」
「うむ、至れり尽くせりで助かる」
白夜叉サンは、三色ボールと蛍光ペンセットに視線をやったあと、次に書き方ノートを流し気味で目を通しながらそう言った。
「ふむ…………やはり紙媒体とインク程度で作れてしまう以上、それなりの制約はあるのだな」
「超グレーゾーンの反則使ってるッスからねぇ…………本当なら〇〇の生き血とか、〇〇の〇〇とか、そんなモノ使わんとダメなわけですし」
まあ、その辺は考えてもしゃーないしゃーない。裏ワザ上等である。
「で、僕はいわば商品を卸すどころか、その製法まであげちゃったわけなのですが。それ相応の対価は貰えちゃったりするのでしょうか?」
「うむ。
白夜叉サンが指パッチンをすると…………上からドスンとアタッシュケースが。
その中味はみっちり詰まった…………
「うおっ!? え、めっちゃ金貨ですやん!?」
「ここら一帯で出回ってる通貨…………まあ、ウチの発行しておる物なんだが。まあ本来ならここまで払わなくても良いのだが、おんし達はこれから何かと先立つ物も必要だろうからの」
「…………価値は分からんのでなんとも言えんのですが。有難く頂戴いたします」
彼女が騙しているという線はないし、間違い無いのだろう。やったぜ。
「とは言えそんな贔屓みたいなことしてよろしいので? あんまり良くは思われないだろうと思うんですが…………」
「贔屓……と言えば否定はできぬが、別に利益を度外視したわけではないからの。確実にこれは売れるだろうし、原価自体は非常に安い。しかも、作り方まで売ってくれたのだ。問題はなかろうよ」
「なら、いいんですが」
今回、『サウザンドアイズ』に学習帳を卸す件について考えた結果、そのまんま卸したら売れないという結論に陥った。
と、言うのも。僕の入ったコミュニティは『ノーネーム』。名前が無いため信用度ゼロなのである。故に、そのコミュニティが作る商品の信用度も…………ということである。
だから僕と白夜叉サンの出した結論は、学習帳の作り方並びに製造権を売り渡してしまえば、長期的に見れば分からないが、短期的に見れば『ノーネーム』へのメリットは大きいので、こういうことになったというわけだ。
思い入れが無い…………と言えば嘘になるが、所詮僕にとっての魔法は隠蔽工作手段の一つでしかないので、手放すことに問題はない。
「あ、丸々売り飛ばしたって話は黒ウサギにはナイショでお願いします。多分彼女なら無駄に気を使いそうなんで」
「うむ、心得た」
そういうわけで、後ろめたい気分に支配されながらも、一応の話の決着はついたのだった。
─────この時僕は失念していた。
あの学習帳、表紙の題、クラス、名前の表記も構成要素の一つだと言うことを。
数ヶ月後、架空の魔法少女『日下部景子』の名が、箱庭下層に知れ渡っていることを僕が知るのは、かなり先のお話。
◇◇◇
さて、用事を済ませたところで。もうゲームは終わっているだろうから、本拠に戻ろうかね。
「……………………なんつーか、寂しいねぇ」
ほら、仲間複数の異世界モノってさ? もっとこう…………みんなでワイワイやってサバイバるイメージっていうか…………間違っても、一人きりで行動するのは違うような………。
というかそもそも、僕ちゃん浮いてない?
「…………考えちゃダメ考えちゃダメ…………景山健太は普通の人」
最早何の意味もない暗示を口にしつつ唱えながら、戻ってきました『ノーネーム』の本拠にね…………ん?
「…………なーんか、ヤバい感じ?」
本拠内の一部から、何というかが焦っているイメージが漂ってくる。正直、嫌な感じだ。
とりあえず、その嫌な感じの中心を目指し、まだ来たばかりで慣れない本拠の中を走る。
そして着いた先は…………何かの部屋? そして中から漏れる気配は、黒ウサギと春日部サン。
鍵も閉まってない様なので、ノックをして入ると、
「…………ッ」
顔に少し焦燥を滲ませた黒ウサギが、ベットに横たわる、右腕を大きな切り裂かれた傷痕が痛々しい春日部サンを、何かしらの道具を使って治療していた。
「く、黒ウサギ、これどういうこと!?」
春日部サンが怪我を負った。恐らくコレはゲーム中に起きたこと。
だが待って欲しい。昨日聞いた話だと、件の外道リーダーは春日部サンに手も足も出なかったらしいじゃないか!?
「……すみませんが、説明は後です。今は治療に専念を──────」
「[春日部耀]の創傷並びに失血への『白紙処理』」
「基点参照:昨日の[春日部耀]」
「変位:右腕に爪などによって負った切創、血液1.25Lの減少」
「『
「最終確認:切創、失血量ともに基点との差異[0]」
「『白紙処理』の完了を確認、これより[春日部耀]の意識の覚醒を開始──────ッ」
一気に細かい情報処理をしたせいで痛む頭を押さえながら、僕は糸の切れたマリオネットの如く床にへたり込む。
「ううぅ…………いってぇ…………」
「け、健太さん!?」
「あぁ…………気にしないでいつものこと…………それよりもそろそろ春日部サンが目を覚ますよん?」
あえて頭への負荷を[0]にすることなく対応したせいだね…………まあそれはともかく、閉じていた目が眠そうに開き、彼女はそのままゆっくりと身体を起こした。
「ん………ここ、は?」
「『ノーネーム』の工房です。えっと…………お身体の方は問題ないですか耀さん?」
「…………ああ、そっか。私、怪我しちゃったんだ」
そう言いながら、彼女は怪我を負ったはずの右腕を見て、眉を顰めた。
「……切り傷が無くなってる。血も、大分流れた筈なのに、問題なく頭が回ってる」
「よ、よかったです…………健太さん、これは一体?」
「僕が口にしたまんまだ。『
一切合切を白紙に戻すと記憶まで逝っちゃうという欠点は孕みつつも、覆水盆に返らせるという割と便利な能力使用法である。
「僕が高所落下で死んだ時も、これ系統の能力の応用でどうにかなったというわけなのですよ…………うう、痛いぃ…………」
「そうなんだ…………ありがとう健太」
「いえいえどういたしまして…………」
頭痛程度で致命傷がどうにかなるのなら、悪いことじゃないでしょ? ま、この痛みも[0]にしてしまえばそれまでではあるのだけどね。とりあえず半分残った人間らしさの演出ということで。
「とりあえずもう問題はないだろうから…………早く元気な姿見せてくれば? 多分…………心配かけてるでしょん?」
「うん、そうする。本当にありがとね健太、お礼はまた今度」
「お〜…………」
そう言って、彼女は工房と呼ばれたこの部屋を飛ぶ様にして出て行った。
「黒ウサギからも。本当にありがとうございます健太さん…………ですが、頭痛の方は大丈夫なのですか?」
「気にしないで…………ぶっちゃけ痛覚も[0]にできるのにそれをしないのは趣味の一環だから」
「…………随分と特殊な趣味ですね」
「あーごめん。M的な意味じゃなくて、少しでも人間らしさを前面に押し出したいだけだから」
まあ、Mと言われても仕方がないけどね。
「バケモノになっちゃってから、どうにも人間だった頃に執着するようになってだね…………この不便さが愛おしいというか何というか」
そんなことを言うと黒ウサギが、悲痛そうに顔を歪めて僕を見た。
「…………あまり、無理はなさらないでくださいね?」
「おーとも…………ま、無理がないからこそのバケモノですがね」
ふざけながら言っても、彼女は耳をヘタレさせて凹んでいる。冗談が通じねぇって相当だ。
うーん、なんか黒ウサギのトラウマを抉る様なことをしたかねぇ? まあ良いや、それはおいおい考えよう。
「つーわけで黒ウサギ。僕は今こんな感じで使い物になりません。故に今回の件をありがたく思っているのなら…………子供達の面倒よろしくー」
「あ、はいっ! 分かりました!」
僕の言葉にハッとしながら、春日部サン同様飛び出して行った黒ウサギ。アレで調子が戻ると良いけどね。子供と接すると癒されるし。
さて、僕はしばし眠りに落ちますかね……………………あ、ゲームのこととか聞くの忘れた。
「ま、いいか」
それにしても、僕めっちゃ黒ウサギに心労ばっかかけることしてるなぁ…………ちょっとは自重しよ。
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