リメイク版『異常な普通』も異世界から来るそうですよ? 作:しにかけ/あかいひと
「で、呼び出されたはいいけどよ、何で誰もいねぇんだよ。こういう場合って、招待状に書かれていた箱庭とか言うものの説明をする人間が現れるもんじゃねぇのか?」
少しして落ち着いた空気の中、逆廻クンがそう言った。
「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」
「動きようがないと言うよりは、どの動きが正しい行動なのかが分からないという方が正確じゃないかな?」
なにせ、異世界だ。前の世界とはルールすら違うことは考えられるし。
「それは…………そうね」
少し嫌な顔をした彼女は、反論しようとして口を噤んだ。この場合、僕の方が正しいと彼女が判断したからだろう。
そんな風に、またあーでもないこーでもないと議論をしていると、春日部サンがボソッと口を開いた。
「………。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」
うん、そのセリフは最もなんだけど…………
「……1番落ち着いてそうな君が言うの? 所謂おまいうってやつだよ?」
「「「いや、オマエ(貴方)(あなた)も人のこと言えない」」」
「何故に⁉」
いやいや、割と慌てふためいてる方なんだぜこれ!? 落ち着いてるように見えてね!!
「だって既に死にかけてたじゃない貴方」
「普通はパニックになるはず」
「ま、アレ見て落ち着いてる俺たちも俺たちだがな」
あ、同類だと仰りたいので? わーいわーい!! …………死にたい。
とまあそれはともかく。
僕は、
そしてくだらないことを口にしながら皆と視線を交わす。
『アレ、絶対誰かいるよね?』
『間違い無いわね』
『……うん。気配が殺し切れてない』
『ほー? お前らも分かったのか』
『当たり前よ。あんなの隠れてる内に入らないわ。そう言う貴方も分かってたのね?』
『当然。隠れん坊じゃ負け無しだぜ?』
…………繰り返し言おう。僕らは初対面である。…………のだが、何故かアイコンタクトでここまでの会話が出来る程度には気が合う上に打ち解けた様だ。…………ん? 僕は違うよ。表情読んでるだけさ。
『…………とりあえず、ふん捕まえるしかないよな。僕、行ってくるよ』
『『『任せた』』』
◇◇◇
そんな彼らを物陰から見ていた人物(?)がいた。
人、と言うには、彼女は少々奇抜な容姿をしていた。
別に、醜悪というわけではない。寧ろこの上ない美女である。それも絶世の、と付けても違和感がないレベルだ。スタイルも、出るところは出て引っ込むところが引っ込んでいるという、ワガママ仕様だ。
じゃあ何故奇抜なのか。それは、頭上からまるでウサギの様な耳が生えていたのだ。ついでに、尻の上に尻尾も生えていた。
リアルバニーガールとでも言えばいいのか…………。
とりあえず、彼女の素性は置いておこう。
とにかく彼女は、眼前の光景…………少年少女が談笑する光景を、顔を真っ青にして見ていた。
(や、やってしまったのですよ────っ!!!?)
何をやってしまったのか?
それは、何を隠そう彼女こそが彼らをこの世界へ呼び込むよう依頼した1人なのである。彼女が彼らを召喚したと言い換えても大筋的には構わない。
何故青くなって震えているのか?
それは、己の(そんな意図はしてなかったとは言え)依頼したことにより、危うく人を殺しかけた為である。いろんな事情から、彼女は申し訳ないやら怖いやらで震えていたのだった。
(こ、こんなことになるとは思ってなかった…………いや、コレは黒ウサギの罪ですね…………)
元々、腹の中にあまり綺麗とは言えない策を抱えていた彼女、改め黒ウサギ。しかし、この状況でそれを為そうと思える程彼女は腐ってはいなかった。
(し、仕方ありません! まずは、彼らに…………特に死にかけた例の彼に謝罪を!)
彼女がそう意を決して立ち上がろうとした、その時だった。
「バニーガール、ゲットだぜ!」
「ッッッ!!!?」
彼女は、頭上の耳を掴まれる感覚に、思わず気が動転する。
(え、ええ、ええっ!!? な、なな何で!!?)
ウサ耳を掴んでいる、見た目はこれ以上なく平凡な少年は知らぬことだが、彼女の耳は、この世界の中枢に繋がっている超高性能なソナーと言い換えてもいい代物である。故に、彼女に気付かれることなくこの様なことは、本来なら不可能な筈なのだ。
そういった事情もあり、黒ウサギはこの上なく狼狽えていた。
頭の中を支配するのは、無限に増え続ける疑問符である。
「なー見て見てー! バニーガールだぜー! 多分こいつが僕達を喚び出した張本人だと思うよー!」
「なっ!!?」
次に、『暴露てしまった』という焦燥。少年の声で集まる視線が、とても痛いが為である。
「ハァ…………もっと他の方法があったでしょうに」
「空気、読めないんだ」
「いや、アレは確信犯だろ」
「あ、ばれてーら」
会話自体は仲の良い少年少女のソレ。なのに何故だろう。彼女はそれを微笑ましいとは思えなかった。
(だって、笑顔が黒過ぎますよぉ……)
彼らの顔は、『こいつめ、どう調理してやろうか?』と捕まえるのに苦労した獲物の調理法を考える猟師を彷彿とさせる笑顔だったのだ。それは確かに黒いってレベルではないだろう。
しかし、彼女はそんな状況にありながら口を開いた。
「あ、あの…………少しよろしいですか?」
「んん? あ、命乞い以外ならなんでも」
耳を握っている少年が、さらに心が折れかける言葉を口にする。しかし彼女は止まらない…………止まれない。
拘束を振り切り、彼らの前に出て…………
「本ッ当に!! 申し訳ありませんでした─────ッ!!!」
全力の謝罪。渾身の土下座。
如何に彼女が今回の件で申し訳なく思っているかの証左である。
「え、ちょ、止めようよ!? 態度見てたら分かるけどワザとじゃねーんでしょう!? 土下座までさせるつもりは無いってば!!?」
「いいえ、止めません! 本来なら、この程度ですら足りないのですから!」
「いやいや、止めてよ!? じゃないと───────」
少年が、チラリと他の少年少女に目を向けると、
「女の子に土下座を強要させるとか…………最低ね」
「………女の敵」
「…………にゃー」
「おっと近寄るんじゃねえぞ? 俺も敵扱いされちゃかなわねえ」
「こうなっちゃうんですよねェェェエエエエエッッッ!!! ってか猫にまで責められてるゥゥゥゥウウウウウッッッ!!!」
ニヤリ、と笑いながら少年に冷たい視線を向ける面々。間違いない、確信犯である。
「だから、ね! ね!? やめて下さいってば!! 僕はもう気にしてませんからァァァアアアアアッ!!」
少年の悲痛な叫びは、黒ウサギが土下座を止めるまで続いたのだった。
◇◇◇
「───あ、あり得ん、あり得んぞ…………事態の収束に一時間も掛かるなんて」
「ううっ…………すみません」
どうにかしてこのバニーガール…………えっと、名前は『黒ウサギ』だっけ? を落ち着かせ、とりあえず僕は生きている以上気にしてないという旨を何回も伝えることでようやく落ち着いた。勘弁して欲しいとはまさにこのことだろう。
「コントは良いからサッサと進めろ」
「コント染みたやり取りをせざるを得ない原因の一つのアンタが言うなッ!!」
とはいえ、説明してもらわなければならないというのは事実であり。
「えっと黒ウサギサン、で良いのかな? 用意してる定型文とかカンペ見てもいいから、説明していただけると嬉しいかなぁ?」
そう言うと、まるで水を得た魚のように表情を光らせ、耳をシャキンッ!! と伸ばした。
「分かりました! 不肖この黒ウサギ、全力で説明させていただきます!」
そして、説明が始まった。
「ようこそ《箱庭の世界》へ!我々は皆様にギフトを与えられた者だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただこうかと召喚いたしました!」
それは、日常という平和なぬるま湯に浸かり続けてきた僕の、平穏の終わりを告げる、鐘の音。
◇◇◇
黒ウサギの話を要約すると、
・ここは『
・ここでは生活するにあたり、活動の拠点となる『コミュニティ』に属さないとやってけない
・ここでは様々な『ギフトゲーム』と呼ばれるものに参加可能、だが参加資格が定められているものもアリ
・ギフトゲームでは、自身のギフトも含めていろんなモノを賭けたり手にいれたり出来る
・ほぼギフトゲームが箱庭のルールみたいなモノだが、『殺人は罪』みたいな一応の禁止事項もある(優先されるのはもちろんギフトゲームの方だが)
ザッと纏めるとこんな感じか。
しかし、これはおそらく基本中の基本だろう。後でまた必要なことを調べる必要がある。
…………それに、気になることもあるし。
「さて、説明ばかりでも退屈でしょうから、チュートリアルとして一つ、ギフトゲームをいたしましょう!」
んん? ゲームとな?
と、急な展開について行けない僕を置いて、黒ウサギは手を2回ほど叩いた。
すると、虚空からにテーブルが出現した。
…………流石ファンタジー。
「と言っても、チュートリアルですので簡単なゲームです」
そして、黒ウサギは封の開けられていないトランプを取り出し、開けたソレをテーブルの上に広げた。
「今回使うのは、トランプカード。それも、これらの14枚だけです」
広げた内から♠︎の1〜K、そしてジョーカー1つの14枚を取り出して、彼女は言った。
「ゲームのルールは至って簡単。皆様にはこのカードをシャッフルしていただき、1枚選び見ずに黒ウサギに見せながらお渡しください」
「成る程? カード当てゲームか」
「おっ、その通りです十六夜さん。付け加えて言うのであればイカサマは禁止、ということですね。黒ウサギの耳はあらゆるルール違反を見逃さないので、できるとは思わぬよう」
…………うげー、マジかよ。
「さて、今回のゲームに関しましては皆様にチップやベットを用意していただく必要はありません。まあ強いて言うならば…………
「「「「ッ!」」」」
…………にゃろう、試してやがるな?
「ゲームに臨む程度の度胸すらない臆病者は、この箱庭ではやっていけません。…………キツい物言いだとは思いますが、ご理解をいただけると幸いです」
「……………………」
表情を見る。
そして、彼女の心配が彼女の抱える隠し事に繋がっていることを理解。
僕ほど理解できなくても、周りも彼女が顔に貼り付けた笑みの後ろに昏いものがあるのを感じ取ったのか、先程の挑発で殺気立っていた空気から一転、何を言ったらいいのか考えあぐねるソレに変わった。
「あーあー分かったよ、ったく。もちろん、俺らのプライドが掛かってんだ、それなりの報酬はあるんだろうな?」
そんな空気を破ったのは逆廻クン。そして、彼の問いに黒ウサギが答えた。
「ええ勿論。黒ウサギが叶えられる範囲という制限は付きますが、願いを一つ聞き入れましょう」
「いかがです?」
と黒ウサギが問う。
「「「「乗った」」」」
ここまで言われて、僕らに降りるという選択肢は、無かった。
◇◇◇
このゲームは、一見運に作用されるゲームと思える。
が、仕込み次第ではルールに抵触することなく必勝できるゲームである。
故に、少年少女は使用するカードを思い思いに見て、触っていた。
しかし、
「よし黒ウサギ、始めよう」
『!?』
そんな準備なぞ知ったことかと、景山健太が笑顔でゲームの促す。
「…………本当に、よろしいので?」
「うん。その代わり一つ聞いてもいい?」
笑顔なのに、どこか感情の読み取れない貌で、健太は口を開く。
「カードを当てる前に、番号を言っていって反応を見る、という行為はセーフかな?」
「っ! 成る程、そういうことでしたか」
準備をせぬことにも得心のいく黒ウサギ。
「勿論いいですとも。しかし、その程度のことなら言わずとも良かったのでは?」
言外に、『その対策なんて簡単に取れる』と匂わせて、黒ウサギは許可を出す。
「んーん、問題ないさ。じゃ、やろうぜ」
他の彼らが仕込みの終わったカードを掴み、シャッフルを開始する健太。
そして1枚引き、黒ウサギに渡す。
「それでは…………」
彼の顔から表情が抜け落ちた。
「1」
「…………、…………」
「2」
「……………、………」
「3」
「………、……………」
「4」
「………………、……」
「5」
「………………、……」
「6」
「…………、…………」
「7」
「……………、………」
「8」
「………、……………」
「9」
「………………、……」
「10」
「…………、…………」
「J」
「……………、………」
「Q」
「………、……………」
「K」
「………………、……」
「Joker」
「…………、…………」
全ての確認を終えた後、彼は満足そうに微笑んだ。
「うん、素晴らしいポーカーフェイスだ。表情から何かを読み取るなんて難しい」
「それでは、降参ですか?」
「ふふっ、まさか」
そして、彼は手のひらを広げて彼女に突きつけた。
「その手の♠︎の5を、見せてちょうだい?」
「…………な───────」
驚愕に彩られた彼女の手から零れ落ちたカードは、『♠︎5』であった…………。