肉まんちゃんの大冒険 作:食塩
膨れ始めた肉まん。よく観察していると、だんだんと食べられたところから修復されていき、10分ほどたっただろうか。
呻き声を上げているものの、その体は犬に食べられる前の温かそうでほかほかしており、非常に食欲をそそる美味しい匂いがふんわりとする元の肉まんに戻っていた。
肉まんに備わっているいくつかある不思議な体質のうちの一つが、この体の回復である。
他の、人間に飼われているペットとしての肉まんや野良まん、それ以外のほとんどの肉まんは、一度食べられてしまえばその傷がふさがることはないし、ましてや修復されることなどありえない。
しかし、極希に、天文学的確率で修復機能を持っている肉まんが誕生することがある。この肉まんはまさにそれだ。
どんな方法で食べられ、どんな体を失ったとしても、少しでも元の体があるのならば体がどんどん修復されていき、おおよそ10分で完全体に戻る事ができる。
ただし、かけら残さず一口で食べられてしまえば消化されてしまい二度と復活することができなくなる。
「フミュゥ…フミュウ…」
このような体質のおかげで復活した肉まん。傷も治っており痛みが幾分か和らいだのか、肉まんはまた眠りにつく。この時まだ深夜3時を回ったところである、まだまだ夜は
更けてゆく。
「ンミュ……ミフッ…!」
ゆっくりと目を開けた肉まん。瞼の隙間からは光が差し込み、空を見上げると朝日が空を曇りひとつない綺麗な水色に染め上げていた。
「ミィ!」
昨晩犬に食べられたことなど忘れたように、青空に見蕩れていた肉まんだったが視線を下に落としてみると、あたり一面に餡が飛び散っており、さながら殺人現場のようだった。
それを見た瞬間、肉まんは全身に嫌なものがはしったのを感じた。自分の体は大丈夫かどうか、なにか欠けたりしてないかを必死に焦りながら確認する肉まん。
しかし自分で見たところ何処も異常はなく、至っていつも通りの体だった。
「フー…」
大きく息を吐く肉まん。よかったよかったと手で胸のあたりをなでている。
一安心したからか、疲れと空腹がどっと来た。さて、今日のご飯はどうやって調達しようかと悩む肉まん。
「ミ……ミッ!?」
あたりに散らばる餡、そして昨日の出来事を思い出す。
自分の体はちゃんと元に戻ってる、そして昨日犬が食べて吐いた肉片は消えることなく残っている。
そこから導き出せる結論…それは……
(一度何かで体をバラバラにして、復活した時に肉片を自分で食べれば食料に困ることが金輪際なくなるのでは!?)
妙案なのか愚案なのか、そこは神のみぞ知るといったところだが、肉まんの中ではかなりいい案らしくさっそく実行に移そうとしている。
どうやって体をバラバラにするかは、高いところから飛び降りて細い棒などに勢いよくぶつかればいい具合にバラけるのではないかと考えた肉まん。謎のちからを使い、マンションの壁をスイスイと上り、地面から約15m離れたところまで来た。
屋上から下を見下ろせば、いい具合のところに細い鉄パイプでできた柵がある。
そこにぶつかれば、計算通りにうまくいく。
これはもう行くしかないと、少しもためらわずに肉まんは飛び降りる
「ミゥキュンミゥ!!!」
I can fly!!!と人間には全く理解できない声を発しながら飛び降りた肉まん。
しかし、まだ肉まんの体になってから2日も経っていない。感覚も人間だった時と全く違い。助走が足りなかったようで、柵より30cm以上も手前に落ちていく。
そして今更軌道修正が出来る訳もなく、なすすべなく肉まんの体は地面と強烈なキスをした。
結局、肉まんの目論見は見事に外れ、そこにあるのは直径50cmほどにぺちゃんこに潰れた肉まんが存在するだけであった。