人間不信な俺と隠れオタクな彼女の青春ラブコメ 作:幼馴染み最強伝説
八幡のキャラ改変が凄まじいため、なかなか書くことがむずかしく、矛盾している点もあると思いますが、どうぞ温かい目で見ていって下さい。
最初の奉仕部のくだりは前後半分けします。このままだと凄まじい長さになりそうだったので。
それでは最新話をどうぞ。
青春とは嘘であり、欺瞞であり、悪である。
その二文字の前には正義は悪となり、悪は正義となる。
アニメで例えるなら敵の言っている事は超正論で論破の余地もないほどに熟考した結果の産物だとしても、主人公はよくわからない理論をおっ立ててそいつを倒す。主人公=正義の図式が出来上がっている以上、どれだけ人類の未来を思った末の行動も、主人公が否定すれば悪になるのと同じだ。
青春という大義名分を振りかざした少年少女達が否定すれば、正しさは悪に、間違いは正義へと変わる。
そんな世界の根源的悪意の塊である青春という言葉に対して、中学二年の途中まで俺は否定的だった。
間違いだらけの世界。
大衆に理解されない者は淘汰され、その尊厳すらも踏みにじられる。
そうしていくうちに周囲から一歩どころか十歩以上離れた位置に身を置き、誰からも認識されないように策を弄し、悪意から逃れるために常に行動の裏に潜む意志を汲み取る。
かくいう俺もその犠牲者の一人だった。一人の女の子と出会うまでは。
唯一、俺の存在を肯定したその女子との出会いは俺にとって人生の転機すらも超越し、もう其処から完全に新しく始まったかのような変化を与えた。
彼女と出会うまでの俺は救いようのない……というより救われなかったぼっちだった。
信頼は裏切られ、好意は踏みにじられる。
存在する事すら許されない、まるで犯罪者か何かのように忌避され、目が一瞬でも合うと謝罪を要求される。
これ程までに理不尽な人生に意味などあるのだろうか?
答えは否。そんなものに何の価値もない。
だが、今は違う。
俺はその女子によって救われた。
その女子がいなければ今頃俺の青春否定論は作文用紙十枚を消費しても執筆の手が止まらない程のものだったかもしれない。というか、そうに違いない。
出会いが人を変えるとは言うが、それは全くその通りだ。
たった一人の人間との出会いが俺の在り方を変えた。生き方を変えた。
灰色の人生から真っ黒の人生へ、真っ黒の人生から薔薇色の人生という、劇的どころか最早全く別の作品へと変わりそうな勢いの俺の人生はとても充実している。
学校では限られた時間内でしか時間を過ごす事は出来ないが、それはそれでいいと思っている。互いにそれは理解の上だ。
話は逸れたが、俺は青春を悪と断ずると同時にその悪に救われているという奇妙な状態にある。
リア充砕け散れ。青春爆発しろ。そう思っていた俺がごく少数の人間から同じ言葉を向けられるというのはなかなかにむず痒い。
そういうわけで俺の高校生活はかなり充実しているので、別に気にしないで下さい。
「比企谷。私が出した作文の課題はなんだったかな?」
「はぁ。高校生活を振り返って……ですね」
「何故高校どころか人生丸ごと振り返っているのかはこの際どうでも良い」
俺の眼の前に座った国語教諭、平塚静先生はタバコに火をつけて吸うと煙を吐いた。
今俺はどういうわけだか、職員室に呼び出しをくらっている。
理由は作文の課題の事らしいのだが、全くもってわからん。
書き直しに書き直しを重ね、小町や茜、果ては折本にさえ、何処を省けば、書きたいことを書きつつ、先生に呼び出されないかを考慮した結果だというのに、これはあんまりだ。一体この作文を書くのに何時間かかったのか、最早思い出したくもない。
「ふぅ……比企谷。なんというか、君は目が濁っているな」
「まぁ、中学の時はよく言われましたね。朝の挨拶交じりに目のことを言われるのはザラでしたね」
「そんな君だからおおよそ碌なものを書いてこないだろうと高を括っていたのだが………予想外に良い作文を書いてきた。教職に就いてから色んな人間を見てきたが、君みたいなタイプは少し珍しい」
「そうっすか」
珍獣扱いされた。くっ…………まさか目をつけられないようによくある良い感じにまとまった作文を書いたのが裏目に出たか!こんな事なら三回目の訂正くらいでやめとくべきだった。
「ところで何故君は国際教養科ではなく、普通科を選んだのかね?君の成績であれば十分に通用するどころか、上位にも食い込めると思うが」
「それはその………止むを得ない事情があるんですよ」
中学の時に決めたことだ。互いに依存するのではなく、手を取り合って困難に立ち向かう道を。その為に色々な方面に通用する強さを身につけると。
「そうか。なら、あまり深入りはしない………が、一つ聞いておきたいことがある。比企谷。君はこの学校に友達はいるかね?」
「そうですね。まずどこからどこまでが友人にあたるのか定義付けを………」
「もういい。わかった。つまり君は友達はいないのだな?」
おい、聞いたんだから最後まで聞こうよ。確かに『この学校には』いないけども。それに友達ならあっちがそう言ってるからいるぞ。
俺としては友達ではなく、悪友。何かの漫画で言っていた友人と悪友の定義は違うとな。もっとも友という点では変わらないらしい。
「まぁ、いくら優秀でも友人がいない奴を一人知っている。そういう点では君と一緒だ。ましてや、友人もいないのなら、君は恋人もいないのだろう?」
「いますよ」
当たり前のように訊かれたので、こちらも当たり前のように返した。
平塚先生は俺の返事に目を瞬かせた後、憐憫の籠められた瞳で見つめてきた。
「比企谷………見栄を張りたくなるのはわかるがな。嘘を吐くならもう少しマシなものを吐け」
教員として生徒を全力で否定するのは如何なものか。
や、まあわかるよ?俺みたいな奴に出来るなら私にも出来る的な事が言いたいのだろう。
そういえば平塚先生って独身だったっけ。アラサー……
フオンッ!
風切り音と共に何かが俺の耳元を通過した。というか、平塚先生の拳がボクサーもびっくりのスピードで振り抜かれていた。
「比企谷。君は隠し事が下手だな………次はないぞ?」
「さ、サー。イエス、サー」
こ、怖え………。目が据わってるんですけどこの人。一瞬、裏社会に生きる人かと錯覚しちゃうレベルの殺気を感じたよ。
「ふぅ……。さて、話を戻すがな。君は社会不適合者という点を除けば、非常に優秀な生徒だ。君が進学を希望する大学も、このまま何事もなければ進学するにあたってなんら問題はないだろう」
社会不適合者扱いされた。一体何をもって社会不適合者扱いをするのだろう。基本的に一人での行動を好み、積極性と協調性に欠けているだけのごくごく一般的な高校生………じゃないな、うん。
流石に社会不適合者などと言われる程ではないが、最近の社畜には仕事効率以上に協調性やらコミュニケーション能力の高さを求められる。俺は割と自己評価は高めだが、その点においては五段階評価を下すなら二位だろう。他人にどうこう言われるのはあれだが、それはそれ。俺にも問題はあるといえばあるし、ないといえばない。微妙なラインだ。
「今のところ、君の進学志望している大学を志望している他の生徒は国際教養科に数人いる。客観的に見て、君の成績は国際教養科に引けをとらんだろうから、筆記試験は滞りなく進むだろう。ただな。やはり普通科と国際教養科。成績が同じであれば国際教養科の方がやはり優先されてしまう」
「まぁ……そうですよね。普通は」
成績が同じであれば、やはりランクの高い方を優先するのは普通だ。例え同じテストを受けた上での成績でも、ランクの高い方が良いと思ってしまう。まぁ、無名の会社が人気ゲームをリメイクするより、有名な大手ゲーム会社がリメイクした方が売れるのと同じだろう。そもそもそんな事があるのかは知らないが。
「それに君は些か積極性に欠ける。部活動も入っていないだろう?」
「他の事に時間を使いたいので」
「積極性に欠けるというのはやはり進学をするにあたって小さくはない障害だ。特に比較対象が部活動ないし生徒会役員であればその差は致命的だ」
「………今からでも遅くはないから部活動を始めて積極性ないし協調性の高さを示せば確実性は増すと?」
「まぁ、あくまでもしもの話だ。進路が本格的に決まり始めるのはもう少し先の話だが、其処から始めるのは居心地も都合も悪いだろう」
「今からでも十分悪いと思いますけどね」
二年からの入部となると一年のうちに作られている仲良しグループの中に割って入っていかなければならない。俺は優しいから集団の輪を乱したりはしない。故に俺に集団行動とか無理。別にハブられるのが嫌だとか、変な目で見られるのがあれだとかそういうのじゃない。
「とまあ、ここまでは私個人の見解だが、おおよそ当たっているだろう。そしてそれを踏まえた上で比企谷。君に一つ提案がある」
吸っていた煙草を灰皿にねじ込み、平塚先生は椅子から立ち上がる。
いちいち所作がかっこいい先生だ。何故結婚出来ないのだろうか。
「ついてきたまえ。話しはそれからだ」
千葉市総武高校の校舎は少し歪な形をしている。
上空から見下ろせば、ちょうど漢字の口、カタカナのロによく似ていて、その下にちょろりと視聴覚棟の部分を付け足せば俯瞰図が完成する。
道路側に教室棟、向かい合うように特別棟がある。それぞれは二階の渡り廊下で結ばれており、これが四角形を形成している。
校舎で四方を囲われた空間が俗に呼ばれる『リア充』の聖地・中庭である。あそこに行くとなんだか浄化されそうになるのでいかない。何が何でも。
渡り廊下を歩いて行くと平塚先生がプレートに何も書かれていない教室の前で止まり、扉を開けた。
「入るぞ、雪ノ下」
平塚先生の後からその教室に入ると無人の空き教室であるはずのその部屋には一人の少女がいた。
煌めくような黒髪。透き通るような白い肌。少し離れた位置からでもわかる整った容姿に一瞬だけ目を奪われた。
少女は文庫本に栞を挟んで閉じると顔を上げて此方を見る。
「平塚先生。入るときはノックをお願いしているはずですが……」
「ノックをしても、君は返事をした試しがないじゃないか」
「それは先生が………」
その時、彼女を見る俺の視線と俺を見る彼女の視線が交差した。
其処で俺はその少女を思い出した。
雪ノ下雪乃。
国際教養科でもほぼ全教科トップの成績を誇る優等生の中の優等生。
整った容姿とそのクールな態度から男子からはよく告白されるらしいが、その度に辛辣な態度で振るんだとか。それでも殆ど女子校にも等しい国際教養科の殆どの生徒から信仰されているらしい。まぁ、容姿が整っているという点に限っては同意出来る。つーか、茜以外にも天に二物以上与えられた理不尽が歩いている人間は初めて見たな。
「……そのぬぼーっとした男は何ですか?」
「入部希望者だ。名前は「比企谷八幡くんですね」何だ。知っているじゃないか」
「はい。私ほどではありませんが、時折彼の噂は耳にします」
私ほどでは……って、何この子ナルシストなの?もしかして鏡を見ては「今日も私は美しいわ」とか素で言っちゃう感じの子なの?頭痛いよ、この子。つーか、噂ってなんだよ、俺知らないんだけど。
「依頼人ではないんですね」
「ああ。だが、私からは依頼がある」
「先生から……ですか」
「私は比企谷の噂については知らんが、基本的に素行の悪くない優秀な生徒なんだ。だが、どうにも妄想癖があるらしい」
「は?」
妄想癖ってなんだ。俺がいつそんな素振りを見せたんだよ。
「友人はいないが、恋人はいると言ってな。このままでは下手をすると犯罪者にもなりかねない。其処で雪ノ下。君には彼を更生させてもらいたい」
「お断りします。その男の濁った目を見ていると酷く不愉快なので」
俺はお前の言い方が凄く不愉快だよ。
「そうか。流石の雪ノ下でも出来ないことはあるか。ならば仕方がないな」
何これ。すっごい見え見えの挑発なんですけど。これあれだよね?主人公側の仲間がライバルキャラ煽るけど、逆に煽られる展開だよね?こんな見え透いた挑発に乗る奴なんて………
「………わかりました。その見え透いた挑発に乗るのは癪ですが、先生の依頼を無碍には出来ません」
いた。おまけに挑発と分かった上で乗る奴が。
取り敢えず分かったことはこいつはものすごく負けず嫌いだという事だな。
「では後は任せたぞ、雪ノ下」
そう言うと平塚先生はくるりと踵を返して教室から出て行った。
は?おいおいおい!待てよ!あんた、話があるとか何とか言ってただろ!
マジかよ………よりにもよって、空き教室で女子と二人きりにされた挙句、初対面でいきなりディスってきた奴と一緒なんて………これならまだあからさまに避けられてる方がやりようがある。
くっ………どうする。俺のなけなしのコミュニケーション能力を発揮するか?こう見えても、人と話す時に引かれずキモがられないようにキョドらず、噛まず、どもらない特訓はこなしてきたんだぞ。それでもなんで友達が出来なかったのにはそれなりに理由がある。目の濁りはそれをブーストする結果となったが。
「あー、と。雪ノ下……で合ってるよな?」
「平塚先生はさっきそう言ってたはずだけれど………早くも痴呆かしら?」
「人を老人扱いしてんじゃねえ。それより聞きたいのはここは何をするところなんだ?さっき依頼人が何とか言ってたが、そもそも何かをするところなのか?」
「ええ。一応部活動よ。名前は………そうね。貴方が当ててみなさい」
「はあ?」
「依頼をこなす上で必要な事よ。さっさと考えて答えなさい」
なんつー横暴だ。こんなところにも社会の不条理が。
「文系部……それかボランティア部か?」
「へぇ……その心は?」
「まずは両方特別な機材を必要としない。加えて、雪ノ下。お前は本を読んでいる。この時点までなら文系部でほぼ確定だったが、さっき平塚先生とお前は依頼を受けるか否かを話していた。この事から依頼をしに来る人間が多かれ少なかれ存在するということになる。そうなるとお前が読者していた理由はそれが部活動の一環ではなく、依頼人が来るまでの暇潰しって事で辻褄は合う」
俺がそう言うと雪ノ下は目を瞬かせる。見たか、培われた俺の観察眼を。伊達に目立たない生き方をしてきたわけじゃない。結構難しいんだぞ、ぼっちを維持しつつ、目立たない生き方すんの。
「惜しいわね。外れよ」
思わずずっこけかけた。
紛らわしい反応するなよ。一瞬ドヤ顔になりかけただろ。
「けれど、かなり良い線はいっていたわよ。よく頑張ったのではないかしら」
「そうかよ」
喜べねぇ………なんでかっていうと目の前のこいつが無駄に勝ち誇ってるから。
「持つ者が持たざるものに慈悲の心を持ってこれを与える。途上国にはODAを、ホームレスには炊き出しを、モテない男子には女子との会話を。困っているものに救いの手を差し伸べる。それがこの部の活動理念であり、人はそれをーー」
「ーー奉仕と呼ぶか。奉仕部なんてまた紛らわしい名前だな」
特に思春期の男子はご奉仕してくれるなんて聞いたら別のものと勘違いしちゃうだろ。ほら、やっぱり多感な時期だし、そういう事を想像しちゃっても悪くはない。寧ろ紛らわしい部名をしているこの部が悪いまである。
「平塚先生曰く、優れた人間は憐れな者を救う義務がある、のだそうよ。頼まれた以上、責任は果たすわ。貴方の問題を矯正してあげる。感謝なさい」
ノブレス・オブリージュというやつか。確か貴族の務めとか何とか。
腕をくんでそういう雪ノ下の姿はまさに貴族。ついでに容姿も言動も貴族並みだ。
だが、ここはちょっと言ってやらねばなるまい。
とても重要な点を見落としていることを。
「……誤解があるようだから言っておくがな。俺はあくまで『この学校には』友達がいないだけで、約一名友人という定義に当てはまる奴はいる。自慢じゃないが、実力テスト文系コースは学年三位だ。全国模試だって何位か忘れたが二十位以内には入ってる。顔だって目の濁りが取れればいい方だって言われてる。何より俺には彼女がいる。これらを踏まえて俺は憐れな者でも何でもない」
「……比企谷くん。貴方の更生はまず妄想と現実を区別出来るようになるところからね」
やっぱり妄想扱いか……!そうまでして俺を奇人変人扱いするのがご所望か。なら、こっちもこの手だけは使いたくなかったが、使わせてもらうぞ。
「其処まで言うなら証拠……見せてやろうか?」
「ええ。貴方が連れてくる相手が画面の向こう側にいる相手ではない事を祈っておくわ」
今度は二次元の存在を彼女扱いしているオタクだと言われた。こ、この女………まあいい。その余裕綽々の表情が出来るのも今のうちだ(三下感)。目にもの見せてやる。
そんな事を思いながら、俺は電話をかけた。