人間不信な俺と隠れオタクな彼女の青春ラブコメ   作:幼馴染み最強伝説

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だから彼には幾つもの選択肢がある

 

翌日。

 

放課後の部室には、俺達奉仕部部員と茜の他に、川崎と船橋の姿があった。

 

「事情は沙希から訊いたよ……その、今回は色々迷惑をかけた」

 

そういって頭をさげる船橋。居心地が悪そうにしている川崎に無理に頭を下げさせない辺り、船橋の人となりがわかる。

 

「全然気にしなくていいよ!やー、だって、私達困ってる人を助けるのが仕事みたいな感じだし?寧ろ歓迎みたいな……」

 

「歓迎……というわけではないけれど、由比ヶ浜さんの言っている事は概ね合っているわ。だから頭を下げる必要はないわ」

 

由比ヶ浜と雪ノ下に言われて、船橋は頭を上げる。そして俺と茜の方に向き直った。

 

「じゃあ、せめて二人には礼を言わせてくれ。お蔭で沙希達家族の関係も元通りになったし、無理にバイトをする必要もなくなった。俺も前みたいに沙希とこうして一緒にいられるようになって嬉しい」

 

「ばっ、馬鹿!八千代、あんた何言ってんのよ!?」

 

「?本音を言っただけだぞ?沙希は嫌か?」

 

「嫌……じゃない、けど」

 

「ならいいじゃないか」

 

そう言って川崎の頭をぽんと叩く。

 

それは実に微笑ましい光景だったのだが、見られている事に気がついた川崎がはっとしてこちらを睨みつけてきた。いや、なんでだよ。

 

「ともかく、今回は本当に世話になった。また今度、俺が手伝えるような事があったら、なんでも言ってくれ」

 

そう言って船橋は手を差し出してきた。

 

一瞬だけ、その手を取るべきか否かと悩んだものの、今は他に誤魔化しがきかないし、何より後ろから睨んでくる川崎が超怖いので握手をする事にした。

 

俺と握手をした後、満足気に船橋は頷く。

 

「色々予定が立て込んでるから、今日はこの辺で失礼するよ」

 

「川崎さんとデートでもしに行くのかな?」

 

さらっと爆弾を投下する茜に川崎は顔を真っ赤にして口をぱくぱくとさせるが、その様子を知らない船橋は苦笑する。

 

「まあ、大体そんな感じ。まだ話しきれてない事はあるわけだし、仲直りの記念も込めて、一緒にご飯でも食べに行こうかって。何せ、沙希は唯一の幼馴染だからね」

 

その答えに、今度はこちらが苦笑する事になった。

 

何というか、川崎も苦労しているんだな。

 

ラノベほどじゃないものの、船橋は鈍感というか、その好意が幼馴染故だと思っているに違いない。だから、川崎が顔を真っ赤にさせると怒っているのだと勘違いしている。既に川崎の好意を知っている俺達からしてみれば、これ程分かり易い好意もないと思うがな。

 

そうして、船橋と川崎が出て行こうとした時………ふと川崎が立ち止まり、数瞬迷う素振りを見せた後、俺達の……茜の方へと足早に向かってきた。

 

「……あの時言った通り、ちゃんと八千代には話したから。あんたが言いたかったこと……なんか、あたしにもわかったから」

 

ぶっきらぼうにそう言う川崎に茜は目を瞬かせた後、頬を緩ませた。

 

「良かった。また何か困った事があったら、相談にのるよ?例えば……恋の話とか」

 

「は、はぁっ!?ち、調子に乗んな!」

 

顔を真っ赤にして茜にそう言い放つと川崎はそそくさと部室を出て行った。川崎さん、あなた意外と初心ですよね。

 

「依頼解決……ということでいいのかしらね」

 

「なんか川崎さんも船橋くんも仲よさげだったし、解決でいいんじゃない?デートするって言ってたし」

 

「……まあ、お互いに意識の差はあるかもしれないけどな」

 

寧ろ、差が漠然としすぎている気がしなくもない。それこそ、船橋が主人公で、川崎がヒロインのラノベを十巻くらい書けそう。

 

……そういえば、船橋の事で思い出したが、昨年の冬にあった暴力事件。

 

結果こそ、船橋が三人ほど病院送りにしたとなっているものの、それはガラの悪い連中に絡まれた川崎を助ける為にやったそうだ。その過程で大したことはなかったものの、川崎の顔に傷がつき、その事にぶち切れた船橋がその連中を半殺し、自身も頭から血を流す、多数の打撲などの怪我をしたそうだ。

 

それ以降、船橋の悪評は尾ひれがついて広まり、千葉で恐れられる不良になってしまった。

 

本人も特に否定しなかったことも原因の一つだろうが、当事者が何を言っても大衆は耳を貸さない。寧ろ逆効果であるので、賢明な判断ではある。

 

ひょっとしたら、船橋自身、暴力に訴えてしまったという事実を戒めとして、否定しなかった可能性もあるが、それは俺にはわからないことだ。

 

……しかし、半殺しまでするなんて、案外船橋も川崎の事を好きなのかもしれない。ただの幼馴染というだけで、ここまで本気でブチ切れたりするものなのかは幼馴染はおろか、幼い頃の友達だった可能性のある奴らの顔すら思い出せないのでよくわからないが。

 

「さて、これで問題は解決されたのだし、テストへ向けて最後の追い込みね。由比ヶ浜さん」

 

「ここからは手加減抜きでするから、結衣ちゃん。覚悟してね?」

 

「何か怖っ!ヒッキー、ゆきのんと茜ちゃんが怖いんだけど!」

 

「まあ、仕方ねえんじゃねえの。頼んだのお前だし。つーか、俺も雪ノ下と茜側の人間だろ。教えるんだから」

 

「見捨てられた!?」

 

見捨ててねえよ。や、ほら、やっぱり俺はいつだって茜の味方だし、教えてって頼まれたじゃないですかー?だから、俺が二人に便乗してもおかしくないし、別に怖くないよ。八幡、ウソツカナイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試験期間一週間の全日程を終了し、休みが明けての月曜日。今日は試験結果が全て返される日だ。

 

授業は答案返却と問題解説のみ、答案が返ってくるたびに以前よりも点数が上がっていることに好感触であることを感じながら、わざわざ報告しにくる由比ヶ浜に溜息が出る。

 

「ヒッキー!日本史点数上がったよ!やっば、あの勉強会やばいって!」

 

「まあな。お前途中で目が虚ろになってたもんな」

 

「そういう意味じゃないし!……でも、本当に辛かったかも」

 

そういう由比ヶ浜の目は酷く疲れきったものになっていた。

 

まあ、あの勉強会は由比ヶ浜のようなお馬鹿には辛かったかもしれないな。あれはある種の洗脳に近い。刷り込み式に詰め込んでいく方式だったわけだが、途中で由比ヶ浜の目は死んでいた。公式とか歴史の内容をうわ言のように呟くようになった。

 

俺としてはあの勉強会は、まあそれなりに良かった。全体的に点数は上がっているし、校内順位も上がった。相変わらず一番得意な国語では学年三位のままではあるが、それはそれ。超えられない壁が二つ前に存在しているので多少諦めもつく。頑張れば同率首位が目指せると思うんだけどな。これがなかなか難しい。

 

由比ヶ浜や俺の点数が上がったのはあの二人と勉強したからだとして、あの二人の勝負は結局どうなったのか。

 

いつも終わるまで茜の点数は聞いてないし、雪ノ下の点数を聞く気もない。あの二人もいちいちテストを見せ合いっこしてるわけじゃないだろうから、わかるのは成績上位者のみ張り出される成績発表の時だけだろう。

 

一つのミスが勝敗につながりそうなバトルだけに、結果としては同率首位もあり得る。その場合はあの二人にとってどういう見解になるのだろうか。引き分けか、次回に持ち越しか、それとも独自ルールで勝敗を決めるか。どっちにしても茜の勝った後のお願いについて、考えておくに越したことはない。何を言い出すのかはわからないけどな。

 

テストも返ってきたし、当分は羽を伸ばせる……なんてことはなく、なんとテストを返した後に件の職場見学が存在する。

 

何故別の日にしなかったのかと突っ込みたいところではあるものの、それはそれで授業を受けなくてもいいし、見学しているフリさえすればいい。後、茜に会える。これで何の問題もない。あるとすれば葉山とその追っかけのような女子ぐらいだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……マジか」

 

本当に問題だった。

 

この職場見学なるものは三人グループで回っていくのがルールというか、決まりのようなものだった。

 

だが、実際行ってみれば当然の如く、葉山にどんどんと人が集まっていく始末。

 

同じ班であるはずの葉山など人混みの彼方。

 

さて、どうしたものかと考えているうちに戸塚も女子に囲まれていて、おっかなびっくり状態の戸塚の様子だけ見れば、虐められているのかと勘違いしそうになる。

 

結局、葉山の周りに落ち着いたのは別の班を組んでいた戸部達三人、三浦や由比ヶ浜など俗に言う『イツメン』状態。ちらほら数えて七組ぐらいの班が来ているようで、その中には当然茜もいた。

 

友達と仲良く話しているようだし、俺は最後尾にでもポジショニングしておこう。人混みは今でも苦手だ。

 

しかし……俺が選んだ場所は概ね盛況のようだ。

 

アミューズメント性ばっちりのミュージアムも併設された場所ではあるんだが、メカメカしいもの目当てで選んだ割にはウケが良くて何よりだ。これで文句は間接的でも言われまい。

 

前の集団がどんどん進んでいく中、メカメカしいものに歩みを遅めていく俺、どんどん差が開いていく。

 

そんなことも御構い無しに、と見たいものを見ていると、ふと後方からヒールが地面を叩く音が近づいてきた。

 

「比企谷。ここへ来ていたのか」

 

平塚先生は珍しく白衣を脱いでいた。まぁ、ここの従業員と似たような格好だと紛らわしいからだろうな。

 

「先生は見回りですか?」

 

「そんなところだ」

 

その割には視線が生徒に微塵も向けられてない。この人、絶対アレだ。自分からここの見回り買って出たな。だって、「ガンダムできないかなぁ……」とか超童心に帰ってるもん。鋼に恋するよりもリアルに恋してくださいよ、本当。

 

もう置いてっちゃおうかな、と思い、歩き始めると、その足音に気づいて、平塚先生も歩き始めて、俺の横に並んだ。

 

「上手くやっているみたいじゃないか、奉仕部は。やはり、君を連れて行って正解だったよ」

 

「社会不適合者扱いして連行しましたもんね……」

 

「嘘も方便だよ、比企谷。ああ言わなければ、君は私を煙に巻いていただろうからな」

 

平塚先生の言い分に、残念ながら返す言葉はなかった。

 

嘘も方便にしては、酷い言われようだったし、正直茜が現れてからのリアクションを考えると、絶対本気だったと思うが、実際のところ、強制連行に近い形でもない限り、あそこには行かなかったのは確かだ。行く理由もないし、何より率先して人助けなんて性に合わない。そんなものは、葉山辺りにでもやらせていれば良い。

 

「由比ヶ浜、戸塚、船橋と川崎。内容はバラバラだが、解決に導いている。喜ばしいことだ。生徒間で問題を解決でき、新たな繋がりが生まれるというのは」

 

「まぁ、どれも俺だけの力じゃ無理だったんですけど」

 

「だからこそだよ。一人では無理だった。でも二人なら、三人なら。君はそう言ったものを嫌うかもしれないが、社会とはそういうものだよ。人は一人では生きていけない。そういう風に出来ているからな」

 

「……それについては、今は理解してるつもりです」

 

人が一人で生きていける、なんていうのは傲慢だ。誰かの支えなしに、人は生きてはいけない。

 

かなり暴論じみているが、物心つく前に親に育てられている。その時点で、一人で生きてきたというのは嘘八百もいいところだ。

 

それに……一人と二人では見える世界が違うなんてことは、とっくに思い知らされている。ことここに至って、平塚先生の言い分に無駄な理屈をこねようなどとは思わなかった。

 

「それは……いや、みなまで言う必要はないか。わかっているのならそれでいい」

 

優しげな微笑みを浮かべ、平塚先生はそう言った。その表情は本当に教師らしいというか、時折見せる残念さとはかけ離れた温かさを感じさせた。

 

……まぁ、その分余計に残念な時は心底残念なんだが。

 

「さて、私は他の生徒の様子も見てくるとしよう。君は彼女と仲良くしていたまえ。今回くらいは大目に見よう」

 

平塚先生は踵を返し、元来た道を帰って行った。いや、あんたメカ好き過ぎるだろ。最近の小学生よりもメカに対する好感度高いぞ。

 

またぼっちになったな、と思っていた矢先、平塚先生と入れ替わりでこちらにかけてくる人間が……。

 

「おまたせー、八幡。ごめんね?なかなか抜け出せなくて」

 

少し走ったからか、肩で息をしているのは茜だった。

 

合点がいった。なるほど、平塚先生の『大目にみる』というのはこういう事らしい。いや、別に平塚先生の許可とかはいらないんだけども。

 

「いいのか?友達は」

 

「大丈夫。ちゃんと一言言ってきたから」

 

そう言って笑顔を見せる茜。

 

だが、ちょっと心配だったりもする。なんといっても茜さん。この子、既に妙な宗教団体(無意識)を発足させかけてますからねぇ……ちなみに教祖は俺である。知らない間に共犯者になってる。

 

「色々、上手くいって良かったね。これも八幡の人柄ゆえかな?」

 

「残念だが違うな。今回はただのズレみたいなもんだ。元に戻せば簡単に直る」

 

葉山は認識がズレていた。船橋と川崎は想い方がズレていた。

 

それを正せば、ピタリとはまる。それこそパズルのピースのように。

 

ただ、それが今後も上手く続いていくかは彼等次第。特に川崎は前途多難だ。あの様子じゃ、船橋の感情がラブなんだかライクなんだか、家族愛なんだか異性愛なんだかよくわからん事になってる。事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものである。

 

「それに俺だけの力じゃない。雪ノ下や由比ヶ浜も頑張ってくれた。当然、茜もな」

 

「えへへ……当然の事をしただけだよ。私はいつだって、八幡の力になりたいって思ってるもん」

 

そういって茜は胸を張った。ついでに揺れた。割と真剣な話だったから、かろうじて引力に耐えたが、やはり恐るべし。メロン。

 

そこからずっと他愛のない話が続く。

 

それは何でもないが、とても貴い時間だ。そもそも茜との時間は全てが貴い。貴すぎて消費するのがもったいないくらいには。まぁ、そんな事はできないわけだが。

 

俺たち以外に誰もいない。

 

出口へ向かい、誰もいないエントランスについたところで、この後どうするかを茜に切り出そうとすると、ふと視界に見覚えのあるお団子を見つけた。

 

「……何してんだ、由比ヶ浜」

 

縁石に座り込み、膝を抱えてぽちぽちと携帯電話をいじっている由比ヶ浜。声をかけるべきか悩んだが、由比ヶ浜が一人でいるという光景の珍しさゆえに、つい声をかけてしまった。

 

「あ、二人とも遅い!もうみんな行っちゃったよ?」

 

「あ、ああ、悪い」

 

ほとんど条件反射で謝ってしまった。別にそのみんなとやらと行動を共にしたいわけではないんだけども。

 

「……もしかして、待っててくれたのか?」

 

「へ?あ、やー、べ、別にヒッキーを待ってたわけじゃないよ!茜ちゃんを待つついでにヒッキーも待ってただけなの!ほら、置いてけぼりとか可哀想だし!」

 

「別に置いてけぼりを食らってるわけじゃないんだが……」

 

「素直じゃないなぁ、結衣ちゃんは」

 

二人揃って由比ヶ浜の言葉に苦笑する。

 

理由はともかくとして、ついでだとしても俺の事を考えてくれる人間などごく僅かだろう。そして、それは茜と会う以前の俺なら『優しい人間だから』と突き放していたに違いない。特にあの事を知ってしまったからには尚更。

 

「由比ヶ浜」

 

「な、なに!?」

 

「あの時……入学式の日に助けた犬の飼い主、あれお前だろ」

 

「………うん。気づいてたんだ」

 

一瞬驚きはしたものの、由比ヶ浜は頷いた。

 

本当はもっと早くに決着をつけておくべきだった。それもこれも名前を覚えていなかった小町に原因があるのだが、今は問うまい。

 

「まぁ、その……なんだ。あの時の事は気にしなくていい。大した怪我もしてなかったしな。これから気をつけてくれりゃいい。だから、変に気負ってるっていうのなら、それは無駄な気負いだ。あの時の事はちょっとラッキーぐらいに思っててくれていい」

 

「私は心臓が止まるかと思ったけどね……」

 

「あれは悪かったとしか言いようがない」

 

大したことがなかったから、遅れた理由を説明するのに『ちょっと事故ってな』と切り出したら、茜の顔から血の気が引いて顔面蒼白になったのはとても印象的だった。まぁ、切り出し方が悪かったのもそうだが、目の前でピンピンしてるのに『大丈夫!?大怪我とかしてないよね!?』って言ってきた茜もなかなかのものだと思うが。

 

「それであの時の件は終了。貸しも借りもなしだ。わかったな?」

 

「………うん、ヒッキーが、そう言うなら」

 

よし、頷いたな。

 

これで俺が大怪我でもしていようものなら、由比ヶ浜もそう簡単に頷かなかっただろうが、俺はせいぜい入学式が遅れたのと擦り傷程度。後、好奇の目に晒されたことで受けたメンタルダメージ。どう考えても後者の方が辛かった。

 

それじゃあ、改めて。

 

「由比ヶ浜。俺と友達になってくれ」

 

「へ……?」

 

俺の言葉に由比ヶ浜が間の抜けた声を上げた。

 

ぐっ……出来れば一発で反応してほしかったな。元熟練ぼっち、現友達極少の俺にはかなり勇気のいる言葉なんだぞ。

 

「あ、あれだ。今までも違うだろうが、やっぱ遠慮してた部分もあるかもしれないだろ?だから、そういうのを抜きにして、これからも仲良くしようぜって事なんだが……あ、嫌なら嫌で別にいいぞ。強制はしない」

 

やや早口になりつつも、なんとか噛まずに言い切る。これも茜や折本達のおかげだな。なけなしのコミュ力でも、よほどのことでない限り、噛む事はあまりないわけだしな。

 

目を瞬かせた後、由比ヶ浜は吹き出し、それにつられてか茜も吹き出した。

 

「………ぷっ。ははははははははは」

 

なんだ!?ひょっとして、また俺は黒歴史を生み出したのか!?

 

ひとしきり笑った後、由比ヶ浜は目の端に浮かんだ涙を拭いてから言う。

 

「ヒッキーってば、すっごく真剣な顔するから何言うんだろって、思ってたらまさかそんな事だなんて……」

 

「そんな事って……俺には十分ハードルが高いんだぞ。後、笑い過ぎだ、茜」

 

一回つぼに入ると笑いというのはそうそう収まるものでもないが、茜の場合はつぼが広すぎる気がする。いつも笑いのつぼにはまった後は息絶え絶えだし。若干エロいし。

 

「で、ど、どうなんだ?」

 

話は一瞬それたが、今重要なのはそれだけだ。

 

もちろん、由比ヶ浜が拒否すれば友達は成立しない。大人しく身は引くし、馴れ馴れしく話しかける事はないだろう。や、そもそもそんな時の方が少ないんですけどね。

 

「ヒッキー、ビビりすぎ……うん、いいよ」

 

力強く由比ヶ浜は頷き、笑顔で答えてくれて。

 

「改めてよろしくね、ヒッキー!」

 

「おう……ヒッキーはやめるつもりないのな」

 

「だってヒッキーはヒッキーだもん。ねー、茜ちゃん」

 

「ねー」

 

出た。女子同士の謎の感覚共有。効果はもちろん異性の除外。つまり、空気になる。

 

友達になったばかりなんですけどね……。

 

 


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