人間不信な俺と隠れオタクな彼女の青春ラブコメ   作:幼馴染み最強伝説

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なんか評価が凄まじい事になってた………

この作品を評価してくださっている方。ありがとうございます!

というか、読んで下さっている皆様ありがとうございます!

ネタが尽きない限りは短い期間で出せますが、なくなってきたら遅くなりますので、その辺はご了承下さい!




失われたものは大きく、彼女は未だその想いに気づかない

私には少し変わった友人がいる。

 

その人は何時でも独りぼっち。何をするにも一人だった。

 

中学に入学して間もない頃から人の輪の中にいた私とは正反対で本人は目立たないようにひっそりとしているらしいけれど、悪目立ちをしていたからクラスメイトには名前こそ知れてはいなかったけど、顔は確実に覚えられていたと思う。

 

ある時、彼が友人の一人である折本かおりに告白し、振られたと聞いた。

 

それを聞いた時は「あんな一匹狼な人でも好きな人はいるんだなぁ」くらいの感覚でしかなく、それと一緒に出回っていた彼の噂は全くと言っていいほどに興味がなかった。例え、自分の友人達が彼を笑い者にし、貶していたとしても、どうでも良かった。

 

そんな彼と出会ったのはその噂が始まった初日の出来事だった。

 

何時も通りに学校を終えた私はその日発売される予定だったラノベを買うために二つ隣の町まで出向いた。

 

理由は一つ。至ってシンプル。

 

私がオタクであることをバレないようにするためだ。

 

周囲には全く知られていない、私の秘密。

 

それは私が実はオタクであるということ。

 

深夜アニメは録画して、暇を見つけてはテレビに張り付き、勉強を覚えるがのごとく、内容を脳内や網膜に焼き付ける。

 

ラノベはアニメが見れない時に読み、学校でも時折授業中などに読んだりもした。

 

フィギュアやDVDBOXを買いたいと思った事はあったけど、形に残るものは極力避けてきた。

 

保存するのにスペースをとるし、友人が遊びに来た時に言い訳が付かないから。

 

何故バレたくないのか?それも簡単。

 

オタクだと変な目で見られる事が多いから。

 

もし、それで今の関係を失ってしまうとなるのは私は嫌だった。

 

けれど、自分の趣味を止めることは出来ず、結局は変装して、知り合いの目が少ない二つ隣の町まで出向く事で今までは大丈夫だった。

 

だが、その日。

 

私は彼とーー比企谷八幡くんと書店で出会った。

 

何件も回りまくった結果、僅かに到着の遅れた私はそのラノベの争奪戦に敗北。軍配は比企谷くんに挙がったのだが、とても良い事に比企谷くんはそれを快く譲ってくれた。

 

ーー何だ。全然良い人じゃん。

 

それがその日、本を譲ってもらった私の比企谷くんに対する感想だった。

 

次の日に会った時に「誰?」って真面目な顔で聞かれた時は凄く傷ついたけど、その後も比企谷くんと関わっていく中で彼は本当に良い人で、とても心の優しい人間だとわかった。そして比企谷くんが私と同じくかなりのオタクである事も。

 

それがわかった時は嬉しくてたまらなかった。

 

今まで、誰とも話せなかった話題が。通じなかった話題が話せるし通じるのだ。これ以上に嬉しいことはなかった。

 

其処からだ。私にとって楽しかった日常にはさらなる楽しみが追加された。

 

本当なら学校でも比企谷くんと話をしたいけれど、比企谷くんはそれを嫌がる。

 

というよりも、私の立場的な問題が〜と言って取りつく島もない。

 

だから、学校が終わって帰宅してから一、二時間が経過した頃ぐらいに電話をかけて、それから一時間程度話すのが日課になりつつあった。

 

そうしているうちに比企谷くんについてわかってきたことが色々あった。

 

よく喋るし、ボキャブラリーも豊富な事。とても妹想いな良いお兄ちゃんな事。目ざとかったり、凄く頭の回転が速い事。面倒見が良い所……etc.

 

やはり話してみなければわからない事は沢山ある。

 

昨日だって、比企谷くんはハイテンションで動き回る私に嫌な顔一つせず……って程じゃないけれど、あーだこーだ言いながらついて来てくれたし、助けてくれた。

 

自分で言うのもなんだけど、私は結構容姿は整った方だ。

 

親や親戚にはよく褒められるし、男子からも人気はものすごく高い。

 

おまけに中学生というのに少しばかり発育が良すぎる。

 

だから同じ中学だけではなく、他校の生徒の人にまでよく下心の含まれた目で見られる。

 

今までは別にって感じだったけど、最近は何かやだなぁと思い始めてきた。

 

けど、比企谷くんは全然私をそういう目で見ない。

 

それは死活問題のように思えなくもないし、時々視線が私の胸辺りに釘漬けになることもあるけれど、男子中学生ならそれくらいは普通かなぁ、なんて思ってる。

 

それに何故かはわからないけど、比企谷くんにそういう目で見られても不思議と嫌じゃなかった。なんでだろ?よくわからないけど。

 

ともかく私の日々は充実している。

 

今日も今日で比企谷くんに是非進めたいライトノベルがある。

 

教室内では手渡しで渡せないから、何時も通りに下校時に靴箱に入れて渡すようにしている。

 

「〜♪」

 

「おはよう、茜。何か良いことあったの?」

 

「まあね〜」

 

「なになに?ついに好きな人でも出来た?」

 

「それはないかな。まだそういうのには興味ないし」

 

恋愛だとかはまだよくわからない。

 

人を好きになるとか人を嫌いになるとか。一体どういう感覚なのかわかっていない。

 

よく告白とかされるけど、皆、理由は大体が「一目惚れ」とか「優しいから」とかそんな理由。

 

いちゃもんをつけたいわけじゃないけど、理由にしては少し安すぎる。

 

悪い気はしないけど、かといって心を動かされる程の理由にはならない。

 

ましてや、それが親しくない人ともなると尚更だ。

 

例え付き合ったとしても長続きするはずはないし、付き合うなら私が好きだと思えるような人が良い。

 

何時も通り朝のSHRが始まるまで友達と適当な話題で会話をする。

 

そういうなんてことない話をしている時間は楽しいけど、やっぱり比企谷くんと話してる時が一番楽しいかなぁ。

 

なんて考えていたら、先生が何処かピリピリとした雰囲気で周囲に静かにするよう促した後、衝撃の事実を告げた。

 

「朝から重い話をするようで悪いが、昨日、うちの生徒が襲われて怪我をしたと連絡があった。察しているとは思うが、その生徒はクラスメイトの比企谷だ。昨日帰宅中に襲われたらしいが、誰か心当たりはあるやつはいるか?」

 

え?

 

何かとてつもなく硬く重いもので殴られたような衝撃が私に走った。

 

帰りに襲われた?

 

誰が?比企谷くんが?

 

何時襲われたの?私と別れてすぐ?それとも暫く経ってから?

 

誰がそんな事を……。

 

そう先生に問おうとした時、私の耳にははっきりと聞こえた。

 

皆が比企谷くんの事を噂したり、その事を怖いねと言い合ったりする中で嘲笑と侮蔑の混じった笑い声と一緒にこんな言葉が聞こえてきた。

 

「ホント……傑作だよな……ブフっ」

 

「オタ谷の癖に………調子に乗ってるから……だよな」

 

「ばっか、声でけーよ……バレるだろ」

 

先生の声に混じって聞こえるから全部が全部聞こえたわけではないけど、部分的に聞こえたのは確実に比企谷くんの事を何か知っているようなそんな口調だった。

 

「茜……?」

 

「貴方達……比企谷くんの事……知ってる、の?」

 

ふらふらと覚束ない足取りと震える声で私は話している三人に問いかける。

 

三人は私が話しかけた途端にその話をやめて、何時も通りの振る舞いで返事をしてきた。

 

「来栖さん。どうかした?」

 

「どうって……だから、比企谷くんの事……」

 

「あー、あいつね。俺らは何も知らないよ。ほら、あいつ何時もぼっちだしwww……し、しかも、あの腐った目とか……ま、マジでキモすぎwww」

 

「だよなwww。あんな目してるから他校の生徒に襲われるんだよなwww眼鏡かけてても意味ねえって」

 

三人が笑いを堪えながら言う中で私はその言葉に疑問を持った。

 

確かに比企谷くんの目つきは悪い。

 

人に言わせれば濁っていて気持ち悪いと言う人がいるかもしれないけど、私はあの引き込まれるような、なんでも見通しているかのような目が好きだ。あんな良い目をしている人はそういない。

 

けど、そんな理由で襲われたりはしないはずだ。

 

それに………

 

「何で貴方達が比企谷くんが眼鏡をかけてたって…………知ってるの?」

 

それは私以外知らない事。

 

今病院にいる比企谷くんを昨日見かけたりしていない限り、あり得ない。

 

友達なら少し離れた場所から見ればわかる。

 

けど、この人達は比企谷くんの友達でもなければ、寧ろ散々馬鹿にしてきた酷い人達だ。

 

なら、そんな人達がすれ違った程度で雰囲気の変わった比企谷くんに気づけるはずもない。

 

「あれは昨日、私が比企谷くんにあげたものなの。なのに、何で貴方達は知ってるの?」

 

「え……?いや……」

 

「それにさっき言ってた調子に乗ってるってどういう意味?何時も比企谷くんは目立たないようにしてたよ」

 

逆効果だったけど。寧ろ、集団の中で一人は悪目立ちする要因にしかならない。

 

でも、そういう所も尊敬出来た。

 

一人になりたくないからオタクであることを隠し続けている私と違って、比企谷くんは何時も一人で居続ける事を肯定出来た人間たわから。

 

「教えて。比企谷くんに何をしたの?」

 

今までの自分から考えられないくらい低く冷たい声だったと思う。

 

私の問いに三人は答えない。けれど、その沈黙こそ答えだ。

 

この三人が比企谷くんに何かした。直接でなくても間接的にかもしれないけれど、三人が関わっていることに変わりはない。

 

原因はおそらく私だと思う。

 

昨日、比企谷くんは言っていた。顔がバレバレだって。

 

きっとバレてたんだ。あの変装は。

 

三人は以前時期こそバラバラだったけど、私に告白をしてきた人達だ。

 

理由は色々考えられるけど、私と比企谷くんが仲良くしているのが気に入らなかったのだろう。私にはよくわからない感覚だけど、好きな異性が他の同性と仲良くしているのは嫉妬の対象になる。それが学校一の笑い物なら尚更気に入らなかったに違いない。

 

「やっぱり教えてくれなくてもいい。けど、覚えておいて。私は貴方達の事が大嫌い。二度と話しかけてこないでください」

 

私は三人に吐き捨てるようにそう言って、先生に早退しますと伝え、足早に学校から出て行った。

 

人を好きになったことがない私だったけど、初めて人を嫌いになれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ………はっ………」

 

私は比企谷くんのいる病室に向かって走っていた。

 

病院の中だし、走るのはマナーが悪いけど、それどころじゃなかった。

 

ただただ、比企谷くんが無事である事を心の中で祈り、目的の病室である『808』号室に着いた。

 

「比企谷くんっ!」

 

「あ?誰………って、お前か」

 

扉を開くと病室のベッドの上には上半身を起こし、小説を読む比企谷くんの姿があった。

 

顔の至る所に湿布を貼り、頭には包帯を巻いていて、昨日の生々しい傷跡がたくさん残っていた。

 

けれど、比企谷くんは元気そうだ。

 

その事実を知っただけで、私はその場にヘナヘナと座り込んでしまった。

 

「よ、良かった……」

 

無事だった。比企谷くんは。

 

冷静に考えてみれば、いくら気に入らない相手に暴力を振るうにしても、命に関わる程の事はしないはずだった。冷静さを失うくらい焦った事なんて、アニメの特番を録画し損ねた時くらい。あの時でもここまでは焦ってなかったかも。

 

「何でそんな血相変えてんだよ。つか、学校は?」

 

「早退しちゃった」

 

「いや、しちゃったじゃねえよ……」

 

「比企谷くんの事が心配でいてもたってもいられなくなって…………ごめん。迷惑だよね」

 

比企谷くんは強い人だ。私がこうして来ないほうが比企谷くんにとっては嬉しい事なんだと思う。

 

比企谷くん曰く、ぼっちは孤独を望み、静寂を欲する。

 

だとすれば、私の来訪は孤独を奪い、静寂を打ち破る。比企谷くんにとっては何一つ良いことなんてないだろう。

 

「別に……迷惑って事はねえ。ただ、いきなり来るもんだから、ビビっただけだ」

 

視線をそらしながら比企谷くんはそう言う。

 

やっぱり彼は優しい。

 

きっと彼は気づいている。私がこうなってしまった元凶であるという事を。

 

私に迷惑がかからないようにと何時も配慮してくれていた。誰よりも迷惑を被り、こうして被害を受けるのは他でもない自分なのに、それすらも無視して、比企谷くんは私の今の立場を第一としてくれていた。

 

それが出来るのは、彼の頭が良く、機転が利くからであり、周囲を観る為の観察眼に長けている事の裏付けだ。私は成績は良いけれど、比企谷くんと同じ事は出来ない。

 

でも………

 

「ごめんなさい。比企谷くんがそうなったのは私のせいなの……」

 

彼の優しさに甘えるわけにはいかない。そうしても傷つかないのは私だけで、誰よりも比企谷くんが傷ついてしまうから。

 

「貴方の言う通り。私って色々と抜けてるから、結局比企谷くんに迷惑をかけるだけだね」

 

「そんな事ねえよ。もし、この怪我が自分の所為だって言うなら勘違いも良いところだ。ほら、俺って目が腐ってるしな。目つきが気に入らねえって絡まれたんだよ。ったく、最近の千葉も荒れてんな」

 

わざとらしく悪態をつく比企谷くん。

 

ごめんね、貴方のその優しさを受け入れられれば、きっとこの場では解決する問題。

 

でも、駄目。ここで解決しても、後から後から比企谷くんに迷惑がかかる。

 

今回のように私がいない時に比企谷くんが辛い目に遭う。

 

私はそんな事………耐えられる程強くない。

 

「今まで迷惑をかけて本当にごめんなさい。もう比企谷くんに迷惑はかけないから」

 

「おい、それ以上はーー」

 

「昨日までありがとう。楽しかったよ、比企谷くん。短い間だったけど、こんな私と友達でいてくれてありがとうございました」

 

なんとか何時も通りの笑顔で私は告げる。

 

散々迷惑をかけておいて、今更逃げるなんて許される事じゃない。

 

でも、これが最善。

 

また誰かが変な気を起こして比企谷くんを傷つけるとも限らないのに、このまま友達でいて下さいなんて言えるはずがない。

 

「さようなら、比企谷くん」

 

別れの言葉。

 

今までなら「また明日」。明日も会おうねとそう言えた。

 

でも、もう言えない。この別れは私と彼にとっての決別の言葉になる。

 

学校で顔を合わせても、きっと挨拶をする事もないだろう。元々、学校ではあまり会話はしていなかったから、それも完全になくなって、電話をすることもない。

 

踵を返して、私は比企谷くんから逃げるようにその場を離れる。

 

病院を出ても、私の歩みは止まることはなかった。

 

家に帰るまでは誰とも会いたくなくて、今の酷い顔を誰にも見せたくなくて。

 

病院から十分経った頃に家に着いた私はドアの鍵をかけた後、そのまま声を殺すことなく大声で泣いた。

 

もう帰ってこない日常に。二度と手に入りはしないあの日々に。二度と聞くことはない彼の声に。

 

出会いと別れ。

 

人生で繰り返されるそれを人は喜び、悲しみ、歓喜し、嘆く。

 

皆、それを受け入れてたくましく生きていく。別れがあれば、新たな出会いがあると。

 

だから、この別れも新たな出会いの為の必要な喪失かもしれない。

 

けど………

 

「こんなの………やだよぉ……」

 

私はその日、何よりも大切な物を失った。

 


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