人間不信な俺と隠れオタクな彼女の青春ラブコメ 作:幼馴染み最強伝説
来栖茜と関係を絶ってから二カ月が経過した。
彼女と話す事が無くなっても、俺の日常には大した変化はなかった。
一週間ほどで退院して再び通い始めた学校では相変わらずのぼっちで、未だ消えない黒歴史はちょくちょくと話題に引き出されはするものの、それ以上に俺をボコボコにしたクラスメイト三人(不意打ちだったので詳しい事はわからない)の話題の方が引き上げられた。
どうやらあいつは俺の元に来る前に三人が犯人或いはそれに関わる人間であると突き止めたようで、彼等は既に学校中から敵視されている。まぁ、俺の時とある意味似た状態だ。交友関係の広い折本かおりが笑い話として俺の告白を広めたように、学校の人気者である来栖茜は意図せず三人を暴行犯として校内に広めた。
この場合、どちらも発信源は人に好かれ、交友関係が広い事が共通している。
人間とは何時も交友関係が広く、信頼されているものの発言を是とする。
それは仕方のないことで、信頼がない人間の言葉は真実であっても戯言でしかない。
対照的に信頼さえ足りればその言葉は虚偽であったとしても真実となり、肯定される。
所詮人間はその程度だ。それが嘘でも真でも先入観一つで決定してしまう。
だからこそ、青春とは嘘であり、悪なのだ。
嘘を嘘で塗り固め、その嘘を肯定する。
自己と周囲を欺き、取り巻く環境全てを肯定的に捉える。
何もかもを『青春』の一言で終わらせ、それが例え犯罪行為だとしても肯定する。
今回、俺が病院送りにされたことも、もし来栖が糾弾していなければ、彼らの青春の一ページとして、武勇伝として語り継がれていたに違いない。
けれど、誰一人としてそれを否定することはない。
それが悪だとしても、彼等にとってはそれは『青春』で、懐かしむべき思い出なのだ。
人の思い出にいちゃもんをつけるなんて酷い。とか、例え正しい事を言っていても彼等の前では正論すらも暴論へと変化させられ、正義は悪へ、悪は正義へと変化する。彼等の中では社会通念や罪科さえもスパイスでしかないのだ。
彼等の脳内はさぞハッピーに違いない。
失敗も敗北も青春の証として肯定され、特別性が見出される。
全てはただのご都合主義。ならばそれは欺瞞だ。肯定されていいはずがない。
じゃあ、俺と彼女の関係はどうだったのだろうか。
たった一ヶ月程度の携帯越しに話し合う関係。
人の目を盗んで本の貸し借りをしたりする程度でしかないそれは、青春を謳歌する者にとっては知り合い以上友達未満。クラスの人気者とクラスの笑い者という要素が加わる事でなお一層その扱いは酷いものになるだろう。
始めから交わっていい存在ではなかった。
クラスの誰からも愛されている彼女とクラスから疎まれ続けてきた俺はまさしく月とすっぽん。手を伸ばしても届きはしない存在だ。すれ違う事はあれど交わる道が存在していいはずがなかった。
だから、今こうして彼女が友人達と楽しく話し合い、例え嘘や欺瞞に満ち溢れていたとしても、その青春を謳歌しているという事はきっと正しい事なのだろう。そもそも、俺と会話をしたり、たった一度きりでも遊びに行くような事はイレギュラー以外のなにものでもなかった。
この状況こそが正しい。
教室の片隅で、誰とも接する事なく、干渉される事なく、ぼんやりと一日を過ごし、家に帰れば、本を読み、アニメを見て、勉強して、寝る。
俺も彼女も元の居るべき場所に戻っただけに過ぎないのだ。
そう。それだけに過ぎない………はず、なんだ。
だというのに、未だに違和感が拭えないのは何故だ。
今までがおかしかったはずなのに、それを当たり前だと感じ始めたのは何時からだ。
誰も信じられなくなって、もう人を信じるのはやめようと誓ったのにもう一度だけ、彼女だけは信じてみたいと、人の優しさに賭けてみたいなどと考え始めたのは。
またあの時のように踏みにじられるかもしれないのに。
裏切られ、蔑まれ、笑い者にされるかもしれないのに。
もう黒歴史を作らない為に、裏切られない為に、常に猜疑心を持って、行動をしようと決めていたのに。
彼女の優しさだけはーーーー彼女との関係だけは信じてみたくなったのは。
例え嘘や欺瞞に満ち溢れていたとしても、
『私の名前は来栖茜。比企谷くんの隣の席だから、ちゃんと覚えておくように』
幼稚な悪意で容易く崩れ壊れてしまう、脆く浅い関係だとしても、
『今日は付き合ってくれてありがと、比企谷くん』
優し過ぎるが故に、現実から目を背けられず、続けられる事が出来なかったとしても、
『こんな私と友達でいてくれてありがとうございました』
俺はあの日常が嫌いでは………いや、好きだった。
初めて人に心を許せた。
家族以外で俺の存在を肯定してくれる唯一の存在だった。
俺の事を初めて『友達』と呼んでくれた。何ものにも変え難い存在だった。
本当に俺は愚かな人間だった。
今までずっとぼっちだったから、あの事件がトラウマになって怖かったなんて言い訳には出来ない。
彼女の優しさが本心から来るものなのはわかっていたはずだ。
上辺だけではなく、真の意味での優しさであると。
だから、彼女はあの時別れの言葉を告げた。
俺が弱かったからだ。肉体的にも精神的にも。
俺が自分のせいで傷つけられるのを見たくないと彼女はそう言った。
彼女の優しさは降りかかる悪意を見過ごせない。
そしてそれが原因で友達が傷つけられるのを良しとしない。
そんな事はごく当たり前の事だ。嘘や欺瞞に満ち溢れた青春を謳歌せし者達ですら、他者は傷つけても、友人達が傷つけられるのは良しとしないだろう。
ならば強くなろう。二度と失わない為に、失ったものを取り返すために。
例え、彼女がそれを望んでいなくても、俺の我儘でそれを通す。
せめて、別れ際くらいは笑顔でいてほしいから……なんて、臭いセリフを吐けるほど、俺はイケメンでもなんでもない。
ただ、あんな無理矢理作った笑顔で別れを告げられるのも、いつも通りに振る舞おうとしているのが痛々しい姿の彼女も、俺は見たくはないのだ。
太陽のような笑顔を振りまき、周囲の人間達すらも自然と笑顔が溢れてしまうような美しい彼女の姿を俺は取り戻したい。
以前のような関係に戻れなくてもいい。俺はぼっちだ。孤高の一匹狼で、群れることを良しとしない存在だ。
だが、偶には月ではなく太陽に向けて吼えてもいいだろう。それくらいの我儘はいるかわからないラブコメの神様も許してくれるはずだ。
行動に移すなら放課後。彼女が帰っている時だ。
メールを送って呼び出すのもいいが、それでは逃げられてしまう可能性もある。
逃しはしない。俺も逃げるのはやめた。なら、彼女にだって逃げるのはやめてもらう。
俺は取り戻してみせる。人生で初めて出来たたった一人の友人を。
と意気込んだまでは良かった。
放課後まで緻密に作戦を立て、何もかも完璧かに思えた。
だというのに……
ザーッ。
外は土砂降りの大雨だった。
うそーん。今日は天気予報で快晴だって言ってたじゃないですか、ヤダー。
俺ほどのエリートぼっちにかかれば予め傘は学校に置きっ放しにしておくのだが、ものの見事に盗まれていた。
くっ、やはり安上がりのビニール傘にしたのが問題だったか。
女子辺りにラッキーくらいの感覚で取られたに違いない。
作戦は決行不可。おまけに傘は盗まれる。踏んだり蹴ったりとはこの事である。
「作戦は後日にするとして……この雨はどうするか……」
止むまで待つか。走って帰るか。
止むまで待つにしてもこれ以上酷くなる可能性もあるし、五時からいつも観ているアニメがある以上、時間も限られる。そして今日は金曜日。幸いにも服が泥まみれになろうが洗えばどうにかなる。
こんな日に限って自転車はパンクしてるんだから、酷い話だ。
自転車なら全力で漕げばあっという間に家に着くというのに。
玄関まで移動した俺はリア充よろしく、鞄を頭の上にして、雨から防御しつつ、雨の中を一気に駆け抜ける。
とはいえ、その防御は雨という弾幕の中では盾に成り得なかったらしく、家と学校の中間地点にあるコンビニと言う名の雨宿りポイントに到達する頃にはもう防御の必要がないくらいにビシャビシャになっていた。
髪の毛からは水が滴ってるし、服も絞ればそれなりに水が出てきそうなくらい濡れてる。これならもういっそ防御を捨てた方が良さそうだな。雨足も酷さが増してきそうだし。
雨雲の中にちらほらと雷雲も見えてきた。
これはもしかしたら警報なんかも出るかもしれないな。
そう考えていた時、俺同様に雨の中を鞄を防御代わりにして駆け抜ける猛者がいた。しかも女子。
その女子はこちらまで走ってきて、軒下まで来ると鞄を濡れていない地面に置いた。
そしてその姿を見たとき、俺は言葉を失った。
「うぅ〜、聞いてないよ〜。こんなに雨が降るなんて」
鞄を下ろした時に見えたのは茶色い髪。口から発せられたのはよく聞いたことのある声。
至る所から水を滴らせていたのは来栖茜だった。
マジかよ…………諦めた矢先に標的寄越すとか何考えてんの、神様。
「雨止まないかなぁ。お財布は忘れちゃったし、家には今誰もいないし………はぁ。最近ついてないなぁ」
俺が隣にいる事に気が付いていないのだろうか、それとも全然別の人物だと思っている来栖は深い溜め息を吐いた後、そうごちた。
「ちょっと家遠いけど走って帰るしかないよね。うん、気持ちは一方○行の如く、雨を反射させている気で帰ろう」
「いや、全然反射できねえから………あ」
「え……?」
やべぇ。うっかり、突っ込んじまった。
もう彼此二ヶ月もそういうやり取りはしていないというのに俺の身体は何故かそれに反応してしまった。まるで待っていたとでもいうかのごとく。
「あ………比企谷くん…」
来栖は俺の顔を見た途端、表情を暗くさせた。
きっと思い出しているんだ。二ヶ月前の事を。俺が襲われた日の翌日。懺悔をしに来た日の事を。
はっきり言って今すぐにでもこの場から逃げ出したい。俺が用意したいのはこの場ではないんだ。
視線を彷徨わせた後、微妙な空気に包まれたその場から先に逃げるように動き出したのは来栖の方だった。
彼女は地面に置いてあった鞄を取るとそのまま走り出そうとする。
これで良い。今はまだその時じゃない。
絶対に失敗するわけにはいかないんだ。今、彼女と出会ったから実行に移すというのは緻密に立てた作戦を無意味にし、下手をすれば二度と修復することが出来なくなる。
だから、この場は彼女をそのまま見送れ。そして俺も家に帰ってもう一度考えを見直すべきだ。
失ったものを取り戻すために、二度と失わない為に。
でも…………
本当に次なんてあるのか?
「え……?」
俺の脳裏にそんな言葉が過った時、考えるよりも早くに俺は雨の中、彼女の後を追いかけ、その手を掴んでいた。あの日、幕張メッセの時のように。
「雨が止むまで、俺の家で雨宿りしていくか?」
「え……あ……うん」
自分の突拍子もない行動に戸惑いながらも絞り出した言葉に来栖もまた困惑しながらそう答えた。
「ほれ、ココアだ」
「ん……ありがと……」
互いに全力疾走で俺の家へと向かった俺達は家に着いた後、風邪を引かぬように個別にシャワーを浴び(もちろん俺が先に入った)、着替えてからリビングで何故か隣り合わせで座っていた。
俺の手にはコーヒー。そして来栖の手にはココア。
互いに冷えた身体を温めることの出来る飲み物を手にしてはいるが、やはり微妙な空気のせいか、口をつけるに至っていない。
因みに来栖の着替えは俺のを貸した。
小町のを貸そうにもサイズが色々と小さく、貸すに貸せなかった。
だからこんな状況で言うのもあれだが、今、彼女は下着をつけていなかったりする。何それ超エロい。直視できない。や、元々直視出来る相手の方が少ないけれども。
でも、やっぱりあれじゃないですかー。ほら、沈黙されていると気になるみたいなー?
内心イマドキの高校生風(俺はまだ中二だ。色んな意味で)に言い訳をしつつ、横目でチラっと見てみると、此方を同じようにチラ見する来栖と目があった。
「こ、ココア……冷めるぞ」
「あ……うん」
目があったのが気まずくて、咄嗟にココアを飲むように促した。
両手でコップをとって飲むその所作は何故だか妙に艶かしい。
それに合わせて俺もコーヒーを飲む………にがっ⁉︎
うっかりミルク入れて砂糖を入れ損ねた。これじゃ飲めねえよ。
「あの……さ……比企谷くん」
「……なんだ?」
次に口を開いたのは来栖の方だった。
手にしているコップを弄び、視線はコップに落としたまま問いかけてくる。
「怪我は……もう大丈夫?」
「ああ。元々打撲程度だったし、骨は折れてなかった。あいつらも痛い目に遭わせたかっただけであんま行き過ぎた事をするつもりはなかったんだろ」
退院するのに一週間も必要なかったしな。
念の為に重要な検査とかその他諸々はしたが、大した怪我はなかった。や、ほんと良かった。もし、治療不可能の怪我とか出来てたら、俺のスポーツマンとしての高校デビューが果たせなくなるところだった。無論、そのつもりはないが。
「だから、あの事でお前が思い悩む必要はない。好きな女子が自分以外の異性と……ましてや、俺みたいなのと親しくしてりゃ、誰だってぶん殴りたくもなる」
「……それは比企谷くんも?」
「当たり前だ。いや、寧ろ俺の場合は殴らずに呪うまである」
殴ったら傷害犯扱いされるじゃないですかー。なら、バレないように的確に陰湿に攻撃するしかない。これ、報復の鉄則な!良い子は真似して!
「ふふっ……なにそれ」
頬を緩ませて、笑顔を浮かべる来栖。
「やっと笑ったな」
「え?」
ぽつりと呟いた俺の言葉に来栖は疑問の声を上げた。
「ずっとぎこちなかったんだ。お前の笑顔。何つーか、無理して笑ってるのがバレバレだった」
愛想笑いとかそういうのに近い。あの日以来、来栖の笑顔を見ても特に何も思えなかった。
「よく……見てるね」
「……まあな。ぼっちだから目が利くのを抜きにしても、お前の事は比較的観ているつもりだ」
「ほぇ?それってどういう意味?」
「あー……つまりだな」
つまり、どういう意味なのだろうか。
自分でもよくわからない。
二ヶ月前までの名残にしては何時も来栖の事は目で追っていたような気がする。
まあ……だから、その……なんだ。
「気になるから……だろ」
あんな別れをした以上気にならない筈もない。それに妙なところで抜けてるのも心配ではあった。なんというか、そういうところはお兄ちゃんパワーが働くというか。
俺がそう答えると来栖は目を瞬かせた後、驚いた様子で言った。
「比企谷くんて……結構大胆なんだね」
「は?」
思わず、疑問の声を上げた。どういうことだってばよ。
「理由つけて女の子を家に連れ込んじゃうし………誰にもばれて無い事を一人だけ気づいてるし………何時も観てるとか言っちゃうし………気になるとか言っちゃうし………落ち込んでる女の子は優しくされるのに弱いんだよ?」
「そうは言うが、他に言いようはないしな。お前が落ち込む原因になったのは誰でもない俺だ。当然の責任を取ってるだけだ。それに……言いたい事もあるしな」
寧ろ、これを言わないと先に進めない。
様々な過程をぶっ飛ばし、場所も何もかもを無視した所為で、緻密に練られた作戦を蔑ろにしてしまったが、それはそれでいい。元来、作戦とは思うように運べないものだ。
「来栖。そういえば、俺はお前に貸しがあるんだったよな?」
「へ?………あ、そうだね。でも出来る範囲でだよ?その………いくら、比企谷くんでも………そういうのはまだ早いし……ちょっと……ね」
自分の身体を守るように抱きながらそう言う。そういう格好するのはやめましょうね、キミがするとものすごくあれだから。つーか、なんか壮絶な勘違いしてらっしゃいませんか?あなた。
「変な勘違いしてるとこ悪いが、多分お前が思ってるようなことじゃないし、無茶な事も言わん」
「そ、そうなんだ。良かった……変な事お願いされたらどうしようかと思って………」
変な事って具体的にどういうことなのだろうか。聞いてみたい気もするが、今はそういう空気じゃないし、そういう空気になると誤魔化して終わってしまいかねない。
俺が彼女に望むのはただ一つ。関係の修復ではなく、新たな関係の構築。
以前のようにいかないなら、以前とは違う形で繋がりを持てばいい。
仲直りしよう。なんて持ちかけても、来栖はまた戻ってしまうだけだ。
優しすぎるがゆえに感じる必要のない罪悪感に苛まれ続けるだけだ。それは彼女を永遠に苦しめ続ける。
終わらせられるのはその要因となった俺自身しかない。
新たな関係の構築こそが、来栖茜がその罪に苛まれる事が無くなって始めて、あの一件を完全に過去のものとすることができる。
「来栖」
だから、俺達なりのやり方で。
彼女との関係を築く。もう二度と壊れないように。誰にも奪われないように。
普通とは少し違う。
彼女に通じるやり方で。俺は道を創る。
「S'il vous plaît devenu pour moi et amant」
俺が告げたのはいつだか彼女に貸してもらったラノベで使われた言葉。
彼女がシャワーを浴びている最中に短時間ながらそれだけを言えるように努力した。こう見えても俺は要領が良いんだ。
俺がそれを告げると、彼女は顔を真っ赤にし、瞳に涙を浮かべてこう答えた。
「……こちらこそ……よろしくお願いします」
………あれ?なんか返事が違くね?何かあの台詞の返事と違うんですけど。
こんな感じにしてみました。
自己犠牲を抜きにして、全てを踏まえた上で解決に走るけど、思った通りにいかず、言い間違えて誤解を生むのが割と八幡がラノベの主人公だなぁと思わされるところだったりします。
言葉の勘違いを駆使するのは割と主人公特権ですよね。適当言ってますけど。