刀剣男子ってなんぞや?   作:甚三紅

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五虎退の虎、一匹だけじゃなく何匹かいる事にして下さい。
書き上げてから気づいた…。

とか言ってたらちゃんと数匹いたんですね。教えて下さった方々、ありがとうございます!


刀剣男子ってなんぞや?

「大典太光世、これからよろしく」

 

一瞬の光を感じた後、目の前にはこちらに向かって手を差し出してきた女性。

彼女はいったい何を言っているのか。と言うか誰だ。そしてここは何処だ。そもそも私の名前はそんなのじゃない。

私の名前は…。

名前は…。

 

思い出せない?

 

「主、そいつは酷く困惑してる。まずは説明してやったらどうだ?」

 

女性の隣に居た男性が女性に声をかける。男性の手には刀が握られて…刀!?銃刀法違反じゃないのか!

こちらが驚き困惑している間にあれよあれよと和室に連れられ、女性と対面するように座る形となった。女性の後ろには先程の男性が控えるように正座している。

…その刀でバッサリいかれるんじゃなかろうか。

こちらが怯えているのを知ってか知らずが女性が苦笑する。そして彼女は私に説明する為に口を開いた。

 

ざっくり説明すると審神者と呼ばれる人間と刀剣男子と呼ばれる九十九神?付喪神?的な存在が歴史を守る為に戦っているらしい。

そして私はその刀剣男子とか。

いやいやいや!私はれっきとした人間だ!そりゃあ訳の分からない状況に陥っているが人間な事は覚えている。しかも審神者とか歴史修正者?とかそんなの存在しない普通の世界に居た筈だ。

 

「そういえば自己紹介してなかったね!あたしの名前は…、…で、彼はあたしの近侍の和泉守兼定」

 

正直、彼女の名前は聞き取れなかった。

 

「主はオレの妻だ、手を出したら叩っ切るぞ」

 

やけにきっぱりはっきりした口調で私に言ってきた和泉なんちゃら。

お、おう。

 

「誰が誰の妻だって!?」

 

スパーン!と襖が開き色々な服装の色々な男性達がどやどやと入ってきた。そして何やら女性の取り合いをしている。

ぼんやりとそれを眺めている内にいつの間にか私の歓迎会をする、という事で落ち着いた。

ちなみにこの間私は一言も喋っていない。

 

 

「さぁ今夜は飲むよー!」

 

明るい女性の声と共に歓迎会が始まる。と言うか掛け声が既に歓迎会じゃない。そして全くついていけない。展開が早すぎて悩む時間も何もないよ、どうなってんの。

 

わいわいがやがやと女性を中心に騒ぐ刀剣男子?達。私にも色々話しかけてきてくれるが、誰作だ由来だ何やら聞かれても全く分からん。つーか私は人間だっつーの!いつの間にかなんでか帯刀してるし服装も妙なのになってるけど人間だ!

 

少し空気が悪くなってきた気がするので一旦席を外す事にする。私が何か言う前に送り出されたのでそのまま宴会場?から出ていった。

 

あー疲れた!

ため息を吐き、月明かりに照らされた見事な庭を眺める。静かな空間に癒やされ背伸びをしようと腕を上げると、途中で何かを受け止めた感触がした。

そっちに目をやると月の光を反射する大層綺麗な抜き身の刃が真っ先に目に入る。

は?なにこれ…?

ビビり過ぎて微動だに出来ない上顔も固まる。無理矢理刃の元を視線で辿ると驚いた顔をしている綺麗な顔をした男性。

驚いたのはこっちだ馬鹿やろう!!

 

「はっはっは、止められてしまったな」

 

目の前の男性は朗らかに笑うと刀を鞘に戻し、何事もなかったかのようにこちらに笑いかけてきた。

当然こっちは笑う気になれないし、そもそも表情は固まったまま動かない。

 

「今まで新参者にこうして来たが、止められたのは初めてだ」

 

新人いびり?上下関係たたき込むの?綺麗な面しておっかないよこいつ!

こっちがビビりまくっている間に当の本人は何やら納得した様子で宴会場に戻っていった。

何なんだよお前えぇっ!!

 

 

さて、私は何故こんな場所に居るのか。

こんな場所、とは戦場の事だ。

昔の日本…戦国時代のような感じの合戦場。

…え?え?今朝いきなり出陣とか言われて驚いてる間に連れてこられたんだけど。

帯刀してるけど使える訳じゃないんだけど!?

一緒に来ていた男性達は各々敵?と斬り合っている。

私放置!!

に、逃げ…逃げたい…。つーか逃げる!敵前逃亡が何だ!命大事に、だ!

丸腰は怖いので刀を抜き、本気で泣きたい気持ちになりながら戦場を走る。時々何かが引っ掛かってるような感触がするが構ってられるか!

ひたすら走りまくる。

走って走ってでっかい影にビビって刀を振り回してたらいつの間にか合戦は終わっていた。

ミラクル!!

震える手で刀を鞘に戻していると審神者という女性が近づいてくる。つーかあんたこんな危ないとこ来るなよ、一般女性だろ?足手まといじゃね?ついでに足手まといな私もこんな場所に寄越さないでくれ。

 

「凄い凄い!今回の合戦で一番の活躍だったよ!!」

 

目をキラキラさせて私を誉めまくる女性。

何の話だ?

そして一緒に来てた刀剣男子の目が痛い!お前等が彼女の事が好きなの分かってるから!手なんか出さないから!

 

 

 

「流石天下五剣、妖刀じゃないかとまで言われた切れ味だね」

 

本丸とかいう場所に帰り一人になった所で声をかけられた。

全身真っ白な若いあんちゃんだ。と言うか天下五剣って何?

 

「三日月宗近の剣を止め、初陣で敵総大将を簡単に断ち切る。いいね、君の驚きは面白い」

 

こちらには喋らせず、訳の分からん事を言ってあんちゃんは勝手に納得してどこかに行ってしまった。昨日の奴といい何なのお前等…。

 

気持ちを切り替える為に本丸の中を適当に歩いていると畑や馬小屋を見つけた。自給自足?え?マジで?

あと何かちっこい子供達がチャンバラごっこやってたのは微笑ましかった。それから虎っぽい猫…いやあれ虎だよね?人懐っこい可愛い虎だったな。かーわーいーいー!て例の口調で言いたいくらい可愛いよ虎。

ちびっ子達が仲間に入れてくれたのは嬉しかったなぁ。途中で、でっかい野郎共も乱入してきたのはいただけなかったけど。

 

 

あー…にしても、本当に何なんだよ、ここ。

私帰れんの?

 

 

 

- - - - - -

 

 

 

大典太光世。

天下五剣と称される名刀の内の一振り。

彼が造り出された時、この本丸の審神者は純粋に喜んだ。

それを見て近侍の和泉守兼定も表情を緩める。ただ、彼の刀は酷く困惑しているようだったので助け舟を出したが。

客間に彼を通し審神者が説明をしている間、和泉守兼定はじっと彼を観察していた。

平安の生まれでありながら、実戦向けなのかまるで将校のような格好をしている。帽子はなく髪は短い。あのどこかふんわりとした雰囲気を持つ三日月宗近とは真逆、鋭い目つきに硬く結ばれた唇、氷の刃のような雰囲気をまとっている。背筋を伸ばし正座をしているが、その凛とした佇まいは似ているだろうか。

 

同じ太刀ではあるが、自分達とは違う。これは三日月宗近と同類だ。

 

そう思った瞬間、和泉守兼定は主をとられまいと口を開いていた。それに反応したのは彼の刀ではなく、隣で聞き耳を立てていた他の刀剣男士達であったが。

騒ぎを静かに眺める彼を、三日月が見ていた事には誰も気づかなかった。

 

その日の夜、新しい仲間を迎える歓迎会という名の飲み会が開催された。

主たる審神者が賑やかなのが好きで、その影響かここの刀達は騒ぐのが好きだ。各々料理を楽しみ、酒を、仲間との会話を楽しむ。

早速、大典太光世に何人もの刀が話しかけるが彼は一切口を開かない。ただただ食事をし、酒を飲んでいる。陸奥守吉行など、明るく友好的な相手であってもその態度は変わらなかった。

個性的で気難しい刀であっても一言も喋りもせず、取り付く島もない者など居なかっただけに刀剣男士達は戸惑いを隠せない。

少しばかり微妙な空気になりかけた頃、彼は空気を察したのか出て行こうと立ち上がる。刀達はどうぞと退室を促した。

彼の後を追い掛けるように出ていく三日月からは、誰もが目を逸らした。

 

三日月宗近は主である審神者が好きで、この本丸に暮らす仲間が好きだ。

だからこそ新参者には「こいつには逆らわない方がいい」という事を叩き込む。万一にも主にかすり傷一つ負わせない為であり、戦場でも指示を通し易くなる。結果、主も仲間も守れる。

皆を守る為に、さながら狼の社会のように上下関係を文字通り叩き込むのだ。

だがそれは今回ばかりはあっさりと失敗に終わる。

何気ない動作、しかも素手で簡単に刀を止められた。受け止めたのは袖口のボタン一つ。

勿論寸止めをするつもりであったが、たかだかボタンに止められるような速度ではなかった筈だ。

彼が身にまとう物が頑丈なのか、それとも並外れた技量の賜物か。何にせよ、奇襲をあっさりと受け止め、白刃を前にしても動揺の欠片もない様子は賞賛に値する。

 

このやり取りで、彼は守るべき対象ではなく自分と同等だと三日月宗近は認めた。本丸にいるのは皆、業物と言って良い逸品ばかりだが三日月宗近が庇護の対象外だと認めのは彼、たった一振りだ。

今後それは変わる事なく、大典太光世は三日月宗近と肩を並べる唯一の刀となる。

 

そんなやり取りがあった翌日。

いつものように合戦場に行くという主に、大典太光世を連れていくよう進言したのは三日月宗近である。

今から行くのは激戦区であり、三日月宗近を筆頭に鍛えに鍛えた太刀、大太刀と挑む場所だからと審神者である彼女は最初反対した。

当然だ。何せ彼は昨日造られたばかりで実戦経験など全くない、最初はもっと簡単な場所に連れていくのが定石だ。

だが三日月宗近は、彼にしては至極珍しい事に強く彼の刀を推す。

 

「あれは既に俺と同等だ。主よ、使ってみてはくれぬか」

 

と普段と変わらぬ笑みながら、一歩も譲らない三日月宗近にとうとう審神者は折れた。

 

 

鶴丸国永は今自分が見ている光景が信じられなかった。

あの三日月宗近が認めたのだから、ただ者ではないと思っていたが真には理解していなかったらしい。

 

通常造られたばかりの刀は例え大太刀であろうとも、自分の能力を使いこなしきれない。自分でも、初陣ではただの短刀を一撃で葬り去る事は出来なかった。更に言うなら防御も拙い。最初は軽いとはいえよく怪我をした。

と言っても元々の能力値が高い為、少し経験を積めば直ぐにコツを掴むのだが。

それが彼…大典太光世はどうだ。

初陣で、しかも、強敵しかいないこの合戦場で目覚ましい戦果を上げている。

矢や鉄砲の玉は彼には当たらず、敵の槍や太刀などまるで抵抗などないようにするりと両断された。

 

最初は急に走り出した彼を止めようと思った。

三日月宗近は全面的に彼に任せるようで見向きもしなかったので、自分がと思ったのだ。

ところがそれは杞憂に終わり、彼は単独で敵大将まで打ち取ってしまった。何の気負いもなく、当然といった風に。

 

これは凄い驚きだ!彼は面白い、自分の生活に驚きをもたらしてくれる!

 

鶴丸国永は、主が彼を誉めるのを聞きながら歓喜した。

無口でつまらない男かと思っていたが、そうではなかった。面白い仲間は大歓迎だ。

 

本丸に戻ってから鶴丸国永はわざわざ彼に会いに行った。

話しかけてもやはり一言も喋る事はなく、静かにこちらを眺めるだけであったが構わない。なぜなら、そのおかげで先程の事など彼にとっては些事だという事が分かったからだ。

戦場に行けば自然と気分は高揚するし、主にあんな風に手放しで誉められれば嬉しくなる。あの三日月宗近ですらそうだ。

だが彼は何一つ変わらない。凪いだ海の様に静かなままそこに立っている。

 

やはり彼は面白い。

 

鶴丸国永は満足そうに笑い彼に背を向けた。

 

 

自分達が手合わせをしている所にふらりと現れた大典太光世。藤四郎兄弟を始め、短刀達は最初彼に怯えていた。

先の合戦の事は既に知っている。

あんなに凄くて無口で無愛想で怖い刀が自分達にいったい何の用なのか。

怖くて動きが止まっていた為に、五虎退の虎の子の動きを誰も止められなかった。

あ、と思う間もなく虎の子は彼の足元に走り寄る。虎が斬られる!と誰もが真っ青になった。が、そんな心配をよそに大典太光世は虎の子を優しく抱き上げた。

虎の子に触れる手は優しく、虎の子もすっかり身を預けて気持ち良さそうに目を細めている。その一匹を羨んでか他の虎の子も次々と彼の元に行くが、ただの一瞬も彼が虎達を邪険に扱う事はなかった。

 

何だ、怖い人じゃないのか。

 

そう思ってからは短刀達が懐くのは早かった。

言葉を発する事はないが自分達への態度は柔らかい。よく見れば表情も気持ち穏やかな気がする。

手合わせを頼めば、皆ころりころりと簡単に転がされたがまるで遊んでいるようで楽しい。

そうこうしている内に訓練だと脇差しが加わり、我も我もと打刀が加わる。更に賑やかさを聞きつけた大太刀や薙刀、槍が面白がって騒ぎを大きくし、最後に太刀が騒ぎを抑える為に集まった。

いつの間にか主である審神者も居て、皆楽しげに笑っている。

そんな騒ぎの中、静かに場を離れ、遠くを見つめる大典太光世を虎の子達だけが見ていた。

 

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