番外編に登場する団体、人物名、名称など本編とは何ら関わりがあるものではありません。
大典太光世が悲劇(笑)の青年に仕立て上げられる勘違い。
こういう勘違いもあるよね、と色々影響されまくって書きました。
反省はしているが後悔はしていない。
ですが、前書きを読んで尚、合わない!という意見が多ければ多分消します。
本日は打刀と槍の部隊に配属されて合戦場です。
ぅおーい、審神者ちゃーん、私あっちこっち行き過ぎじゃね?それともあれですか、てめーみたいな根暗は皆ともっと喋れよ、ていう主の優しさですか?こうなってからろくに声出した事ないけどね!
それから極力刀抜いちゃダメ、て言われた。いじめ?ねぇこれいじめ?
あ、でも何気に王子と同じ部隊は初めてかもしれない。
色々あってただ今崖の近くで戦闘中ですよー。うぅ…嫌な予感しかしない。なるべく崖側に近づかないでおこう。
と言うのがフラグだったらしい。
いやー、王子の背後に敵!友達は助けるぜ!て調子こいた私がバカでした。
敵を蹴り飛ばしたら見事に崖っぷちで足を滑らせたんだぜ、はっはっ!
落ちてく感覚に胃がヒュッてなってる。
たあぁぁすけてえええぇぇ!!!
下は幸いにも深い川だったみたいで、どぼんっ!て水に入った。つーか痛っ!流れが速いらしくて上も下も分からないし水が鼻とか口から入ってくる。
息出来なくて苦しいし目が回って気持ち悪い。
もがくにもがいて…気がついたら河原みたいなとこに流れ着いてた。
死にたくないし、ガクガクする体を無理矢理動かして何とか陸まで這い上がる。
うぇ…気持ち悪い…これは胃の中身出しちゃうのは仕方ないよね…。
気分最悪だけど生きてただけ御の字だ。あーあ、服破れてあちこち傷だらけだ。
ぜーはーいいながら少し休んで移動を始める。だって合戦場だよ?悠長に休んでたら命(タマ)とられそう。
河原の側の雑木林っていうのかな?それを抜けると草原だった。まぁ、爽やかなものじゃなくて、折れた武器とかが散乱してる酷い場所だけど。
ふらふらしながら少し歩くと敵さんのお出ましだ。ですよねー、一人でふらふらしてるのは良い獲物だよねー。
か、刀…がねぇよおい!どこで落としたし!
うわあぁっ!容赦なくあちらさんは刀振ってくるし!
敵の攻撃を転がって走って避け…きれずにあちこち切られてるけど諦めたら死ぬ!
必死こいてわちゃわちゃ逃げまくる。某先生も言ってる!諦めたらそこで試合終了ですよ、と!
汚れなんか気にする余裕なんかなくて、ゴロゴロ転がりまくる。と、手に何か当たった。
反射的に掴んだそれは折れかけてるかた…ん?普通に綺麗な刀だ。目の錯覚?
とかやってる場合じゃねぇ!このっ、ビビりでもこちとら実戦積んでんだよ!!
ははっ、火事場の馬鹿力って凄いね。
どうにかこうにか周りの敵は倒したけど、あー…もう足に力入らん。
刀を地面に突き刺して膝をつく。そのままぜいぜいいってると何か気配を感じた。
敵かなぁ、ヤバいなぁ、今度こそジ・エンドかぁ。
何やら声を掛けられるのを遠くに聞きながら、私の視界は暗転した。
ふと目を開けると見知らない天井が目に入ってきた。
いったいどれくらい気を失ってたんだろ、とりあえず生きて…生きてんの、私?
て、ハッ!やばいやばいやばい…これって隊からはぐれて行方不明になってるんじゃ…魔王様のお怒りが私に向く!
顔を真っ青にして起き上がるけど、頭がくらくらして布団の上に倒れ込んだ。それでも何とかして布団から這い出て、そのまま畳の上をずりずり這ってたら目の前の襖がいきなり開いた。
その先には…やぁ、カソック!あー…見知っ…
「そんなお怪我で何をなされているんです!」
誰だお前!?
有り得ない言葉使いに慄いて伸ばされた手を勢いよく払う。
こっ、怖いんだけどなになに…?
うぐっ、何か傷ついた顔された。私悪くないのに何この罪悪感…。
暫く恐怖から視線を逸らせないでいるとカソックが膝をついてがばりと頭を下げた。
今度は何!?
「傷ついた貴方に頼むのは酷であると重々承知しています。ですが…どうか、お救い願いたく」
顔は見えないけどさ、苦渋に満ちた声ってこういうのを言うんだろうね。
うー…ん…多分、助けてくれたのカソックだと思うし、何か切羽詰まってるし、頭くらくらするけど仕方ないな…。
頷いて立ち上が…あ、手はいいです、遠慮します。私に優しいカソックとか何か怖い。
壁に手をついてゆっくり案内されながらどこかの部屋に入る。
中には布団に横たわるおかんとガングロ学生服。枕元には、何か、見るからに汚れて今にも折れそうな…ちょっ、本体の刀じゃね?
霊力を~、とかカソックが説明してくれたけど私の頭じゃ理解出来ん。要は触ればいいんだよね?
近い位置にあるし二本の刀…あ、本じゃなくて二振りか。とにかく刀に触ると…うわっ、私の中から「何か」がごっそり抜けてった!
二人が目を覚ましたみたいだけど私はそれどころじゃねーんだけど…うぅ…ぼーっとしてきた。やばいこれ倒れる。
体が畳に落ちるのを他人事みたいに感じながらこう思ったよ。
おかしいな、私に病弱設定も不幸設定もないのにな。
気がついたら私的にさっきと同じ天井が目に飛び込んできた。
体を起こすといくらかマシになってるような気がする。
ぼんやりしてると今度はおかんが入ってきた。手にお盆持ってる。あ、美味しそうな匂いが。
「タイミングばっちり、だったかな。お腹空いてない?」
おかんが隣に座ってお盆を置いた。上には水の入ったコップと雑炊、かな?
た、食べていいのこれ?正直喉渇いたしお腹空いた。
よそ様の家でご飯食べていいのかとか色々考えてたら、ふとおかんがコップの水を一口飲んで雑炊を一口食べた。
え、私にやる飯はねーよ、て事?
「大丈夫だよ、おかしな物は入ってないから」
あ、ああ、毒味してくれたのか。いやいやいや、何で毒味?疑ってないけど。
とりあえず喉の渇きが先だ。コップを手に持って…う、力入らない。両手で持って中身を飲む。
うわー、水ってこんなに美味かったんだ。しこたま飲まされた川の水とは大違いだね!
次は雑炊。やっぱ器重い…。
太股の上に器を置いてスプーンで一口食べる。
うわっ!すっごい美味い!おかんてどのおかんでも料理上手なの?凄いな。
あー美味しい。これ最後の晩餐になるのかな…魔王様の制裁怖い…何日経ってるか分からないけど絶対怒られる。あ、心の汗が目から落ちてきた。雑炊美味しいなぁ…。
ゆっくりしてね、の言葉に甘えてのんびりさせて貰ってるけど、生理現象は仕方ない訳で。トイレに行こうとして部屋を出た…まではいいけどちょっと迷った。
うーん、多分ここよそ様の本丸かな?構造に見覚えがある。だとトイレはこっちかなー。にしても他の人の姿が…
「おい」
考え事をしてたから、後ろから声をかけられて超ビビった。思い切りビクッ!てなった。
後ろを振り向くとガングロ学生服の姿。
な、何かな?
「まだ本調子とは程遠いだろ、部屋に戻れ」
あの、でもトイレがね?生理現象は仕方ないと思うんだよ。
「…辛いなら手を貸してやる」
一人で立てるんで結構です。
あ、これって心配してくれてるのか。おお、いい子だなガングロ学生服。
でもトイレ行きたいからやっぱいいです。
首を振ってトイレ目指して歩いたよ。あー体痛い。
ちなみに、トイレにはちゃんと間に合ったからね。
あの三人以外の人影がない事を不思議に思いながら、何日か経った。これもう完全に行方不明だよなー、とか考えつつ縁側に座ってぼんやりと庭を眺める。
桜が咲いてて日差しも穏やか、いい昼寝日和だよね。時々吹く風も柔らかいし、怪我も治ってきたし快適快適。
そういえば、本丸の景色って審神者のさじ加減一つ…、…ん?審神者?あれ、この本丸の審神者って…。
「またこちらにおいででしたか。確かにこの桜は見事なものです」
声をかけられたからそっちに目をやると…やぁカソック。最近じゃ甲斐甲斐しい君にも慣れてきたよ。
君のそういうのは主にしか適応されないと思ってた、案外世話好きなんだね。
…んん?「主にしか」?
「本日のお八つはシフォンケーキだそうですよ。光忠が会心の出来だと言っていました」
よっしゃおやつ!
こっちのおかんは和菓子より洋菓子派だったんだよね、これはラッキー。和菓子も美味しかったけど。
見目は一緒でもちゃんと一人一人個性があるんだね!
ウキウキしながら食事の為の部屋に向かう。最近じゃ壁に手をつかなくても歩けるから移動も楽だ。
おやつは四人揃って食べた。男四人でケーキとか、ぶはっ!笑える!
でもってシフォンケーキは絶品でした。ふわっふわで甘さも丁度いいし、添えられたホイップクリームも絶妙。これ金とれんじゃね?てくらい美味しかった。
…このまま現実逃避してたい。ダメですか?
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へし切長谷部の呼び出された本丸は、所謂放置本丸というものであった。
審神者が任につき本丸を作り出したものの、主は殆ど本丸に寄りつかず気紛れに刀が増えるだけの場所だった。
いや、それでも気紛れに訪れていただけマシだった。姿を見かけなくなってからいったい幾日経ったのか。
霊力は底をつき生存力の低い短刀から少しずつ姿を消していく。僅かに居た太刀、大太刀は短刀に己の生存力を分け与え、早々に居なくなった。
本丸の空気は淀み穢れが溜まり、木々は枯れ池の水も腐った。
このまま朽ち果てていくのかと思った矢先、久方ぶりに主が訪れる。
その際近侍であるへし切長谷部に多少の霊力が流れ込み持ち直したものの、主はこの惨状に顔を歪め単身での出陣を命じてまた消えてしまった。
命じられてしまった以上どう思おうが戦場に赴くしかない。唯一残った大倶利伽羅が気になったが、へし切長谷部は命じられた場所へと足を進める。
やはり単身で合戦場に行くなど無謀もいい所である。刀装などある筈もなくへし切長谷部は膝をつく。
これで、とっとと折れてしまえ、という主の思惑通りかと自嘲の笑みが浮かんだ。
それでも燭台切光忠を拾うくらいはした。もっとも、あんな場所ではろくに顕現も出来なかろうが。
消えていく自身を眺めながら、へし切長谷部の心の内にどす黒い感情が湧き上がる。
何故自分達だったのか。いっそ呼び出さないでくれた方がまだマシだった。あんな主さえ…審神者さえ居なければ…。
じわりと、紙に墨を垂らしたようにへし切長谷部の顔に黒い色が滲む。
と、その瞬間へし切長谷部に一気に霊力が流れ込んできた。はっとして顔を上げると傷だらけの男が己の刀を持っている。
自分の本体とも言うべき刀を、まるで手足の延長の如く使いこなし敵を屠る様はまるで舞っているようで見惚れた。
そしてそれ以上に、流れ込んでくる霊力の暖かさに胸の内が震える。純度が高く、一気に一段階上の存在に引き上げられたのが分かった。
半ば呆然としていると最後の一体を男が斬り伏せる。
力を使い果たしたのか、膝をついた男にへし切長谷部は反射的に駆け寄る。無意識に、主と、そう叫びながら。
へし切長谷部が「主」を背負い本丸に帰ると変化は劇的であった。
「以前の主」の存在などあっという間に押し潰し、塗り替え、淀みも穢れも一瞬で吹き飛んだ。
空気すらも腐っていたような場所だったというのに、ふわりと吹く穏やかな風は酷く心地よく、まるで「主」の霊力そのものだ。
まずは「主」の治療が先だと、へし切長谷部は意識のない彼を着替えさせ汚れを可能な限り清め傷の治療を行う。
びしょ濡れで汚れも酷く、体のあちこちが傷だらけで自然とへし切長谷部の眉が寄せられた。
へし切長谷部は彼を布団に寝かせてから大倶利伽羅と燭台切光忠の様子を見にいく。
大倶利伽羅がまだ存在していた事に安堵し、目を閉じて動かない燭台切光忠を大倶利伽羅の隣に寝かせた。顕現こそしていたが、やはり体を動かす霊力が圧倒的に足りなかったらしい。
双方、あまり猶予はない。あんな酷い状態の彼に更に酷な事を頼まねばならないのかと、へし切長谷部は奥歯を噛みしめた。
「主」の部屋に戻ると彼は目を覚ましていた。
それ自体は喜ばしい。しかしながらズタボロの状態だというのに無理矢理動く様子に、へし切長谷部は思わず声を大にする。
這う彼に手を差し出すと怯えた風に振り払われへし切長谷部ははたと気づく。
自分がした事は誘拐もいい所であるし、しかも厚かましくも頼み事までしようとしている。自分のやっている事に反吐でも出そうだ。
それでも、せめてあの二振りだけは。
罵倒も罵声も覚悟で頭を下げると意外な事に彼は何も言う事はなく、静かに頷いた。
手を貸す事は許されなかったが、彼は見事二振りを再生してくれた。刀も本来の輝きを取り戻し、きっと自分のように存在を一段階押し上げられた筈だ。
その代償として彼は再び倒れてしまったが…それを承知で二振りに霊力を注いでくれたようだった。
意識のない彼を布団に寝かせ、万感の想いを込めへし切長谷部は深く頭を下げる。
「ありがとう、ございます…」
燭台切光忠が最初に感じたのは暗く重い醜悪な澱み。次いで清廉で強い霊力と神気。
体が動くようになったのはそれからだった。
瞼を開け体を起こしてみると、真っ先に目に入ったのが倒れる傷だらけの男。彼が主らしい。そして自分がよく知る刀二振りが近くに居た。
状況がよく飲み込めないまま、青い顔をしたへし切長谷部が主を背負い部屋を出て行くのを眺める。
隣の大倶利伽羅も自分と同じような顔をしていたので、布団を片付けてへし切長谷部を待つ流れとなった。
へし切長谷部に流れを全て聞き、燭台切光忠は腕を組み黙り込む。
何とも残念な事に、彼は正式な主ではなかったらしい。
それにしても、それって思い切り犯罪じゃないの?
喉まで出かかった言葉を辛うじて飲み込む。全てを聞けばへし切長谷部がした事も理解出来なくもない。
酷い状態を知らない自分はともかく、棺桶に首まで突っ込んだ状態であったらしい大倶利伽羅などは酷く納得している。
「何にせよ、あるっ…彼の治療が最優先だ」
ああ、彼に主になって欲しいんだね。
燭台切光忠は自分とてそう思った為に今度は素直に頷いた。
彼はまる一日眠り続けた。人の身では刀のように手入れをしてはいおしまい、とはいかない。三人は心配しきりであったが、時に任せるしかないのが現状である。
ふと、霊力の繋がりから彼が目覚めそうな空気を感じた。
ならばと燭台切光忠は彼の為に雑炊を作る。料理は伊達公のおかげで得意だ、彼は喜んでくれるだろうか。
食材は、彼の為に何かしたいからと大倶利伽羅が買ってきた。資金は放置本丸であっても政府から支給され続けていたので、実はかなり溜まっている。杜撰な管理に感謝だ。
雑炊と水を盆で持って部屋に訪れるとタイミング良く彼が起きた所であった。
食事を勧めてみたが酷く警戒した様子で彼は動かない。
まぁ、確かに怪しさ満点か。
現状を省みれば誘拐されて限界以上に霊力を使う事を強制された、と彼が思っていても可笑しくはない。警戒も当たり前であろう。
毒味として自分が目の前で水と雑炊に口をつけた事で、彼はようやく安心したらしくコップに手を伸ばす。
燭台切光忠は全く力の入らない様子にはらはらしながら食事をする様子を見守る。すると、彼の頬を濡らす一筋の光に気がついた。
警戒しているだけにしてはおかしい、気がする…。
彼が落とした滴は燭台切光忠の胸に波紋を呼んだ。
何か見落としているのか、何か思い違いをしているのではないか、そう思えてならない。
燭台切光忠はひとまず今は何も聞かずにおき、穏やかに声をかけ空になった器を下げる事にした。
襖を閉め廊下に出ると燭台切光忠の空気が一変する。自分の嫌な想像に顔を歪め、冷えた空気をまとい厨へと向かって足を動かした。
大倶利伽羅はへし切長谷部が拾ってきた男に深く感謝していた。
自分を呼び出した審神者を怨み、世を怨み、堕ちて消えかけていた所を救われたのだ。これで感謝しない方がどうかしている。
彼に関して…と、残り二振りとなら、馴れ合うつもりはない、などと言う気にはなれない。
彼が目覚めたのを大倶利伽羅も感じていた。あれだけの霊力を注ぎ込んで貰えば、正式な主でなかろうと自然と繋がりは出来るものである。
その彼が何やらあちらこちらとへ廊下を歩いている。心配になった大倶利伽羅は彼を追い掛ける事にした。恐らく自分が一番彼に近い場所に居る。
目的の人物は直ぐに見つかった。ふらふらとした足取りで実に頼りない。
後ろから声をかけると彼は酷く驚いた様子でこちらを振り返る。その際、何か…手の形と位置から、刀かそれに準ずるもの…武器を探していたのを大倶利伽羅は見逃さなかった。
まるでこちらを拒絶するような空気に必要な距離ですら詰めるのが躊躇われ、少しばかり離れたまま話し掛けてみたが…彼は一言も言葉を発しない。
冷えた目をして首を振り、またどこぞへと歩き出した彼を大倶利伽羅は追い掛ける事が出来なかった。
武器がなければいけないような日常だったのか?彼はどこぞの審神者ではないのか、彼を守るべき刀剣は…。
そこまで考え、ざわりと大倶利伽羅を怒気が包む。
舌打ちを一つして残り二振りが居るであろう場所へと向かう。
彼について話をしなければ。
夜も更けた頃に三人は居間へと集まった。
頭に血が昇りすぎないように、と燭台切光忠が茶を淹れる。
「長谷部君、もう一度確認するけど彼はたった一人で戦場に居たんだよね?しかも酷い有様で」
「ああ。間違いない」
「審神者は普通、過去…戦場にはいけない。まぁ、こんなのは建て前でいくらでも抜け道はあるだろうけど。仮に審神者も戦場に立ったとして、普通なら刀剣が死に物狂いで主を守る筈だよね。まず一人にはならない筈」
「単純にはぐれた、という可能性もあるが…」
「そこまでならな」
へし切長谷部、燭台切光忠、大倶利伽羅、三者三様に険しい顔をし茶を一口啜る。
今から口にする事はあくまでも想像だが、恐らく間違っていない筈だ。でなければ、彼があんな風な理由の説明がつかない。
「ブラック本丸引き継ぎ、なんてものが存在するらしいね」
「刀剣が新しく来た主を傷つけ、時に殺めてしまうらしいな」
「つまり…」
彼が、その引き継ぎをした審神者なのではないのか…?
だからあんなにもこちらに、刀剣に怯えいた。
だからあんなにも、毒を恐れ温かい食事に涙した。
だからあんなにも、武器を必要とし拒絶していた。
へし切長谷部と大倶利伽羅の持つ湯飲みにぴしりとヒビが入る。二人の手に入る力に湯飲みの硬度が負けたのだ。
「気持ちは分からんでもないがな。俺とて「前の主」を手にかけられるならそうしている」
「たが、それを次の者…あいつに向けるのはお門違いだ」
堕ちかけた二人は理不尽な扱いを受けたであろう刀剣にある一定の理解を示した。しかしながら、彼を傷つけられた怒りの方が大きく激しい。
そういう意味では、地獄を知らない分燭台切光忠は幾分か冷静さを保っていた。
「合戦場に捨てられたのなら、きっともう戻れないだろうね。…必要ないなら…僕達が貰ってしまおうか」
それでもやはり彼に酷い仕打ちをした事は許せない。
左側だけ晒される龍の瞳は、底冷えする程に温度を無くしていた。
その日から、三人は彼を怯えさせてしまわないよう気をつけ、ゆったりとした時間を過ごすよう心がけた。
へし切長谷部と大倶利伽羅、二人で彼の身の周りの世話をし、畑仕事や買い出しを。
燭台切光忠は食事と本丸の管理を。特に、デザートのホットケーキとやらに彼が喜んだ様子から洋菓子を必死に勉強した。今では洋菓子の方が和菓子よりも得意だ。
そして彼が一切喋らない…喋れない事に心を痛める。
心的要因か、喉を潰されたのか…。
後者ならば絶対に圧し斬る、と三人共思っている。
穏やかな日々を過ごしていると、本丸の景色が少しずつ変化していった。
何の変哲もなかった庭に徐々に花が咲き始め、日差しは柔らかくなり吹く風は花の良い香りを運んでくる。
青葉を茂らせていた桜が花へと変わり、満開となった様は実に見事であった。
彼が寝てから、三人は月明かりの元その桜の下でひっそりと酒を飲んだ。
景色が変わる。
それはつまり、彼が主としてこの本丸に馴染み、自分達に心を開いてきてくれている証拠なのだから。
彼は…主は、庭の桜がとてもお気に入りらしい。暇さえあれば縁側に腰掛け桜を眺めている。
体の傷も癒え、歩く度にふらつく事もなくなった。
そして心の傷もー…。
一緒の卓につき、嬉しそうにお八つを食べる姿に三人は暖かな気持ちになり表情が緩む。
主はあまり表情の変化はないが、繋がりがあるしよく見ている事もあり三人は彼が嬉しいのも悲しいのも雰囲気で分かる。
どうやら主は燭台切光忠会心の出来であるシフォンケーキにご満悦らしい。
差し出した手を取ってくれるようになったのは、いつだったのか。
毒味もなく食事に箸をつけてくれるようになったのは、いつだったのか。
背後から声をかけても武器を探す事がなくなったのは、いつだったのか。
三人はちゃんと覚えている。もしかしたら主にとっては些細な事かもしれないが…自分達は飛び上がりたい程に嬉しかったのだ。
三人ともが彼の傷が癒えきった時、正式な主として契約して欲しいと頼むつもりである。
そんな彼の霊力の純度は恐ろしく高く、また神気も持ち合わせている。
主の事だ、八百万の神々の内のどれかに気に入られでもしているのだろう。
そして彼が居る事で張られる本丸の結界は強固で並の審神者や術者、刀剣では破れない。
つい先日も「何者か」がこの本丸に侵入しようとして無様に弾かれたばかりだ。
その「何者か」は門前で散々騒音をわめき散らかした挙げ句、本丸乗っ取りだなどと捨て台詞を吐いていった。
もし仮に「何者か」が中に入っていたら血祭りにあげられていたというのに、結果的に命を救ってくれた主を罵倒するとは…。
日々霊力と神気を与えられている三振りの神格は高い。無論、その実力も。当然の如く塵芥を掃除するなど訳がなかった。
ひっそりと、静かに。
「何者か」の醜悪な霊力も、怨み辛みも綺麗に断ち切って主の元へと帰る。
自分達はただ、主との穏やかな時間があれば、それでいい。
問い。大典太光世の本体(刀)は?
崖の上に置き去り。山姥切国広がお持ち帰りしました。
問い。何で刀剣って気づかないの?
多分、器(刀剣)が弱り魂(人間)が強く出てたから(適当)。そして思い込んだら中々認識は覆りませんよね、そういう事です。
問い。何でこの三人?
趣味です。
問い。元々の本丸は?
阿鼻叫喚。
主の刀だろ!何とかしてよ!
大魔王と病み魔神に人間が勝てる訳ないでしょ!
大典太帰ってきてええぇぇ!!