読んで下さる方々、応援して下さる皆様本当にありがとうございます!皆様が原動力です!
なので思い切り続きました。短編の番外編なのに。
色々とねつ造設定たっぷりです。原作のゲーム、公式設定にはないものが盛り沢山です。あくまでも「この小説の番外編の中だけの設定」です。
しかも一番の見せ場な勘違いも殆どない。
その上思い切り尻切れトンボ。
…一応、2パターン作ってみました。
深夜テンションなのできっと後で後悔するんだろうなー…誤字脱字があったらこっそり教えて頂けると嬉しいです。
大典太光世が行方不明になってから数日。
本丸には朝から鎮魂(たましずめ)の歌が響いていた。声の主は石切丸と太郎太刀である。
眉を寄せ紡ぐ言葉一つ一つに霊力を乗せる、御神刀の二振りは必死だ。
いったい何を鎮めているのか?
同じ刀剣…三日月宗近と山姥切国広の二振りである。
三日月宗近は大典太光世の行方が一向に分からない事に苛立ち、普段のどこかまったりとした笑顔とマイペースぶりはなりを潜め、戦場の前線指揮官のように常にピリピリしている。それでもいくらかは冷静であるらしく、主には気を使っているようであるが…。
山姥切国広は自分を庇い崖から落ちた大典太光世を目にしたせいで完全に病んで盛大にこじらせた。大典太光世の本体である刀を抱いて部屋に閉じこもり出てこない。よく荒御魂にならないものだ。恐らく抱いている刀が瘴気を払っているのだろう。
主たる女性は大典太光世が純粋に心配なのと、二振りがあまりにも恐ろしすぎる事からこちらも必死に彼の霊力を辿ってみたり審神者のネットワークを使ったりと手を尽くしているが…成果はまったく上がらない。
しまいには「大典太光世とか顕現してない刀探せる訳がない」「自演乙」などの返事にブチきれ、パソコンを壊そうとして和泉守兼定などに止められる始末だ。
「主なんとかしてよ!」と他の刀達に言われるが、只の人間にどうこう出来る筈がなくガチ泣きし、中間管理職のような思いを日々味わっている。最近では胃薬が手放せないらしい。
大典太光世を兄と呼ぶ程慕っていた乱藤四郎は時折涙ぐみ他の兄弟達を心配させる。同じように大典太光世を兄と慕っていた次郎太刀はあまり変化をみせないものの、酒の量がぐっと増えていた。
他の者も三日月宗近を恐れてひっそりと息を潜めている。今の彼を刺激するなど、そんな恐ろしい事が出来る筈がなかった。
一応、流石にこれはなかろうと鶴丸国永や岩融が三日月宗近に声をかけたのだが…
「……」
「…すまん」
「…いや…うむ、すまぬ」
敵を見る大典太光世並に無表情で冷たい目を向けられたので、早々に心が折れた。
何あれ怖い。変に冷静な分タチが悪い。
と二人は本気でそう思った。
引きこもっている山姥切国広の方は被害が少ないのか、というとそんなはない。
まず両隣の部屋の者が即、根を上げて他の者の部屋に逃げた。
何せ呪詛が延々と静かな声で聞こえてくるのだ、自室なのに欠片も安らげない。
部屋の前を通る時も同じだ。どうしても通らねばならない時は耳を塞ぐ。
一度、審神者の女性が大典太光世の霊力を辿りたいからと、刀を借りようとした時にヤンデレの例のあの目で見られた。
あ、これガチでヤバいやつだ。
一瞬で悟った審神者の女性は丁寧に大典太光世の刀を山姥切国広に返す。
祟り神になっちゃダメ!と霊刀大典太光世の効力に縋った。
今の所、霊刀としての力をしっかり発揮してくれているようである。
瘴気などがよく見える石切丸、太郎太刀は涙した。大典太光世が刀だけであっても自分達を救ってくれている事に。
鎮魂(たましずめ)の歌があるからある程度二振りを抑えていられるのだ、それを止めて山姥切国広個人の瘴気を払う余裕などない。
つまるところ、今の本丸はガタガタにも程がある、という状態であった。
そして誰もが…特に被害者の面々が、それはもう切実に大典太光世の帰還を願い祈っている。
捜索隊は組まれているし、三日月宗近も単身で戦場を探している。
だが見つからない。
本体が無事であるから折れた、という事はない。
ならば考えられるのは一つ。
何者かが天下五剣が一振り、大典太光世を手中に収めんと無理矢理連れ去ったのか。
何せ現在顕現しているのは、彼ただ一振りなのだから。
三日月宗近は、目の前に居るのが敵である事を幸いとばかりに苛立ちをぶつける。
自分とて頭では理解している。大典太光世はまだ無事だと。
一部の者が言うように、確かに捕まった先で要領よく立ち回っているかもしれない。加えてあれは刀剣としては珍しい事に徒手空拳も得手としている、刀などなくともそうそう後れをとりはすまい。
だが、それもこれも弱っていなければの話だ。
自分も大典太光世も並外れた能力を持ってはいる。しかし器は脆弱とも言える人の身と変わりない。
あの崖の高さから川に落ちたとなれば、刀剣である事から死にはしなくとも当然弱る。川の流れも速い、相当に体力も気力も削られた筈だ。
その証拠に川から上がったであろう彼の霊力を辿れない。多少弱ろうが自分達程の霊力、神気があれば見つけられない筈がないのだから、それが出来ないという事はつまり…。
瀕死の大典太を浚うのは、さぞや楽であったろうよ…!
三日月宗近は最後の一体を力まかせに圧し切る。
単身での出撃、普段では考えられないような無茶な戦闘を繰り返し、さしもの三日月宗近も疲労から息を乱し膝をついた。
※ルート分岐A※
そして地に視線を落とし目を見開く。
今にも消えそうな程、微かなものであるがこの霊力は…。
み つ け た
三日月宗近の口は知らず弧を描く。
彼の瞳に浮かぶ月のように、ゆるりと、静かに。
山姥切国広は、あの日大典太光世が自分を庇い崖から落ちていく映像が頭から離れなかった。
その時の彼が微かな笑みを浮かべていたから余計に。
きっと心配するなと、わざと己の本体を置いていった。
だから大典太光世が無事生きている事を疑いはしない。帰ってくると信じてもいる。
だが自己嫌悪は別だ。
自分さえ居なければ…所詮写しでしかない自分など、天下五剣が庇う必要などなかったのに。
延々と己に対し呪詛の言葉を紡ぐ。
が、それでも自害する気にはなれない。抱いた刀が暖かく、ギリギリの所で自分を引き止めているのが分かった。
暗い部屋でいったい幾日そうしていたのか。
ある日部屋の襖が乱暴に、勢いよく開かれた。そうしたのは三日月宗近である。
「見つけた。行くぞ」
俯く山姥切国広に三日月宗近が端的に告げる。
何の事か、など尋ねる必要はない。
山姥切国広は大典太光世の刀を持ち、重い腰を上げた。
練度の高い者から数名見繕い、大典太光世が居る本丸の前へと三日月宗近らが立つ。
審神者の女性は疲労困憊で今は寝ている。無理無茶を押し通してくれた主に感謝だ。
余談であるが、ある意味とばっちりを受けた数名は三日月宗近と山姥切国広が居れば事足りるのではないかと思っている。
別に大典太光世が心配でない訳ではない。彼は大事な仲間だ、当然心配はある。
だがそれ以上に三日月宗近と山姥切国広が怖いのだ。
自分達の役目は大典太光世を救出する事より、この二振りを止める事だと思う。
出来る出来ないは別として。
兎にも角にも、こうして場所は見つけた。後は大典太光世を連れて帰るだけだ。
本丸に張られる結界から彼の刀の力が感じられる事に三日月宗近は眉を寄せる。
結界の維持に使われているのか。真こちらの神経を逆撫でしてくれる。
多少痛みはするだろうが、許せよ。
三日月宗近は刀を構え、この強固な守りを無理矢理突破せんと結界に向かって大きく振りかぶり己の霊力を乗せ思い切り斬りつけた。
その日はいつもと変わらぬ穏やかな日であった。
桜の花弁がふわりと風に舞い、暖かな日差しの降り注ぐ縁側で眠る彼の髪へと落ちる。
最近ではこうして無防備な姿を晒してくれるようになった。
偶々集まった三人はその事に嬉しさを覚える。
寝る姿を見せるなど、それこそ主から全幅の信頼を寄せられている証拠だ。何と心地良い事か。
そのまま、いつも通りの時間が過ぎると思っていた。ほんの一瞬前までは。
寝ていた主が目を覚まし急に起き上がる。
夢見が悪かったのか?それとも厠かと問おうと顔を覗き込むと顔色を無くしていた。
いち早く主の異変に気がついたへし切長谷部が口を開こうとした瞬間、彼は己の胸を掴み苦痛に顔を歪め身を屈めた。
次いで何かが割れる音が本丸の中に響く。
本丸の結界が破られたのだ、と直ぐに三人は気がついた。
「大倶利伽羅、主を頼む」
「分かった」
「どこの誰だか知らないけど、いい度胸だよね」
短いやり取りだけをして、へし切長谷部と燭台切光忠は門へと走る。
着いた先には見るからに禍々しい気を纏った天下五剣が一振り。他に目立つのが山姥切国広。そして数名の刀剣が居た。
「あやつを返して貰うぞ」
余所で言われるマイペースじじい、などとは程遠い空気。顔には笑みの欠片もない。
「返して貰う」?
捨てたのは、そちらだろう。
三日月宗近の言葉に一瞬にしてへし切長谷部と燭台切光忠は殺気立つ。
問答は無用。
二人は刀を構え眼前の「敵」を睨みつける。
「主に仇なす敵は…斬る…!」
へし切長谷部はその機動力を生かし頭を潰さんと、三日月宗近の懐に入り横凪に刀を払う。
だが手応えは軽い。衣を斬っただけらしい事に舌打ちし、上方からの剣撃を受け止める。
酷く重いその一撃にへし切長谷部の顔が歪んだ。
一方、三日月宗近はへし切長谷部の言葉にこそ怒りを覚えた。
主とは、大典太誘拐を企てた者の事か。
このへし切長谷部はそんな者に心酔し、従う事に僅かも疑問を抱いていない。
実力もあるというのに、主を止める事も諫める事もしなかったのか…!
確かに、単純な機動力で言えば三日月宗近とへし切長谷部では圧倒的にへし切長谷部の方が速い。
しかしながら、普通の彼の刀であれば捌ききれる自信があった。
だと言うのに一文字に衣を裂かれた。加えてこちらの反撃に対処するだけの力も持っている。
「…本気になるか」
舐めてかかってはこちらの首が落ちる。
そう判断した三日月宗近は真っ直ぐに「敵」を見据え束を握り直した。
燭台切光忠は三振りの刀を前にし、口元に緩く笑みを浮かべる。
これらが主を傷つけた刀達か。
怒りで頭がどうにかなりそうだ。
へし切長谷部と剣を交えている三日月宗近は文字通り格が違う、こちらで一番神格の高いへし切長谷部でなければ対処は難しいだろう。
だが、目の前の三振り「程度」であれば自分で十分だ。現にこちらの威圧に押されている。
駆けていった山姥切国広は押さえられなかったが…主の元には大倶利伽羅が居る。何の問題もない。
「長船派の祖、光忠が一振り…参る」
- - - - - -
いっっってええぇぇぇ!!
昼寝してたら嫌な予感がして飛び起きた。まではともかく、直後に胸の奥に激痛がっ!
何これっ!ぐはっ、息詰まる痛い痛い!
あまりにも私が痛がるせいかガングロ学生服が背中撫でてくれてる。
本当に君はいい子だね!
少しして痛みも落ち着いて、ぜーはーいってると…ややっ、庭の方に見覚えのあるフードマントが。
「大典太!!」
な、何か凄い悲壮感漂う顔で名前呼ばれた。
あー…ただでさえメンタル弱い王子の前でやらかしたからなぁ…あれはかなり拙かった。流石に反省。
私の前に出て警戒してるガングロ学生服を押さえて、サンダルを履いて庭に下りる。
そしたら凄い勢いで突進され…うわっ、倒れ…!あ、支えてくれてありがとう、ガングロ学生服。
あーあー…王子が、何と言うか…迷子でギャン泣きした子供がやっと親を見つけた!てな状態になっとる。
はいはい、ごめんねー。これからはちゃんと考えて行動します。本当にごめんなさい。
あの…王子、本当に私が悪かった。うぅ…のほほんと日常を満喫してただけに心が痛い…。
「こいつは敵じゃないのか」
私を支えたままのガングロ学生服に質問?された。
敵?んな訳ないじゃーん、王子は私の友達だよ。癒しとも言う。
頷いた私にそうか、の一言だけ返ってきた。
落ち着いた王子から迎えにきたよ、てな事を聞いた。すっごい心配してた、て事も。
あー…うー…これ絶対魔王様怒り狂ってるだろうなぁ。迷子、かつ行方不明になってた私に対して。
てコラ!ガングロ学生服は王子を睨むんじゃない!
まぁ、確かに傷も完全に治ったし、いつまでもお世話になってるのは悪いよね。居心地よくてつい。
それに、帰り方なんかさっっぱり分からなかったけど、迎えに来てくれたなら帰れるだろうし。
よし!カソックとおかんにお礼言って…や、何故か多分私のお口は喋ってくれない気がするけど…帰ろうか。
カソックとおかんは…あ、門のとこ行った?了解了解。
て事で門のとこまで来たんだけど…。
……、…え?…え?
て二度見するレベルの大惨事になってた。
魔王様vsカソック、うちの三人vsおかん。
戦闘が繰り広げられてるんですが…あの…全員傷だらけなんですけど…。
ガングロ学生服は険しい顔してるけど私の側を離れない。止める気ねーよ、て事ですか?
王子は…何かどうでもよさ気だ。王子、もうちょっと他人に興味持とうな?多分その原因、やらかした私だろうけどね!
……いやいやいや、待った。タンマ、え?何で何がどうなってこうなったの?
皆して私にも分かるくらい殺気立ってるよ?
ねぇこれマジ?マジもんの殺し合い?
何で?理由は?
すー…と血の気が引いていくのが分かった。
そりゃあさ、私だって敵を斬ったよ。殺したよ。だから、今更殺し合い自体に対してどうこう言うつもりはない。
でもさ、それが自分の知ってる…仲間と恩人達とかさ、これ何て悪夢だよ。
きゃー、私の為に争わないでー、なんて?ははっ!
…笑えないな。
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変化はほんの一瞬。
山姥切国広から己の刀を受けった大典太光世が鯉口を切った。たったそれだけ。
だが、それだけの動作で瞬く間に大典太光世が変わる。
服装は将校服に帽子を被り手には白手袋、近づくだけで八つ裂きにでもされそうな雰囲気をまとっていた。
彼が刀剣とは知らなかった大倶利伽羅は元より、初めて帽子などを被っている姿を目にした山姥切国広もその空気に飲まれ固まる。正確には、恐怖から足が竦んだ。
大典太光世が動いた事で場の空気が動く。
燭台切光忠と、対峙していた三人は彼の様子に動きが止まった。
燭台切光忠は主が刀剣であった事と、それ以上に彼のまとう日本刀そのもの、といった風な空気に。
三人は、大典太光世を怒らせれば三日月宗近並に恐ろしい事を知っているが故に。
時間は僅かに遡る。
三日月宗近とへし切長谷部、何合と打ち合っているが互いに決定打に欠いており双方歯噛みをしていた。
三日月宗近の攻撃は、当たりはするがその機動力をもってして途中で避けられ深くまでは入らない。へし切長谷部の攻撃は、こちらも深く入る前に抜群の防御技術により流される。
厄介な相手だと、互いが互いをそう評価していた。
そんな打ち合いも唐突に終わりを告げる。
突然叩き付けられた剣気。
初めて感じた命の危機を思わせるそれにへし切長谷部の動きが僅かに止まった。逆に三日月宗近にとってよく知るそれは何ら動きを妨げるものではない。
故に、その一瞬で勝敗が決まったも同然であった。
もっとも、彼さえ居なければ、の話だが…。
へし切長谷部の首をとらんと振りかぶられた刀の前に身を滑り込ませたのは大典太光世、彼の刀である。
対峙していた二振りは驚きに目を見開いた。
対して大典太光世は酷く冷めた目をしており、居合い抜きの勢いを持ってして三日月宗近の刀を弾き上げた。
そしてがら空きとなった胴に容赦のない蹴りが入る。
連日の疲労もあり、三日月宗近の体は堪えきれずに吹き飛んだ。疲労があった事を差し引いても相変わらずの出鱈目な威力である。
へし切長谷部の方は、三日月宗近の攻撃に対処しようとした己の刀の威力を殺しきれず無理矢理軌道を変えた為筋を酷く痛めたが…主に当てるより万倍では利かぬ程にマシだと息を吐く。
そしてこちらに向けられた目の冷たさに背筋が凍り、反射的に膝をつき頭を垂れた。
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へ…へーい!やっちゃったんだぜ!
てめーらいい加減にしろよ!てキレたはいいけど魔王様蹴っちゃったよ…どう考えても戦いの原因私。悪いのも私。なのにやっちまった…。
とりあえず納刀したけど、どうしようこの空気…。
え、えーと…とりあえず中に入ろうか?
という事で居間です。
あ、先にカソックとおかんの怪我を治したよ。手入れ部屋ではぱーっと。魔王様達は手入れを拒んだからそのままです。
で、だ。
右手には魔王様を筆頭にお迎え隊。
左手には私の命の恩人隊。
私?お誕生日席ってやつだよ。い、今からやり玉に上げられんの?
ビクビクしてたらおかんがお茶を用意してくれた。
私と命の恩人隊にはコーヒー。私が好きだから合わせてくれたんだろうね。流石気配りの出来るおかん!笑顔が素敵!
なのに、お迎え隊には…あの…コールタール?え、これ飲み物?置く時も凄い形相して凄く乱暴だったんだけど…。
「客人に満足に茶も出せんのか、程度が知れる」
「はっ、襲撃者が何か出して貰えるだけありがたいと思え」
向かい合う二人の間でバチバチと火花が散った気がした。
こえぇぇよ!魔王様から大魔王様にランクアップする気か!
そんでもって鼻を鳴らすカソックの態度…わぁ、懐かしいなー…審神者ちゃんのカソックの最初の時みたいだ。
いやいや、現実逃避してる場合じゃない。
原因は100%私だろう。それは分かる。
でもさ、何で君ら命の取り合いしてた訳?理由プリーズ。
「結界を無理矢理破るなど賊のやる事。襲撃を受けたので迎撃したまでです」
私の言いたい事を察知したらしくて先にカソックが口を開く。君、本当に察知能力高いな。何故それが一点集中でしか発揮されないんだろ。…あ、一点集中だからこそか。
話それた。そうじゃなくて、ああうん、確かに襲撃だねそれ。
「なに、誘拐されたおぬしを助けにきたまでの事」
しれっと言いながら穏やかな顔を見せる魔王様。おい!さっきカソックに見せた顔と180度違うぞ!
えーと…まぁ、確かに戦場から居なくなるわ連絡ないわ、行方不明ときたらそりゃ誘拐されたと思っても仕方ない…よなぁ…。
これどっちの言い分も間違ってない気がする。
そしてやっぱり私が原因じゃねーか、て再確認したというか。
いや待て自分。まずはカソック達が、私の命の恩人である事を伝えなきゃならないんじゃね?
だって魔王様達はカソック達を誘拐犯だと思ってる訳で。
なら、怪我が酷かったから、ここで休ませて貰ったんだよ、て伝えないと。
そんでもって、カソック達には私は魔王様達のとこに居たんだよ、て教えないとね。私が自力で戻れなかったから、わざわざお迎えに来てくれたんだしさ。
審神者ちゃん心配してるんだろーなぁ。こうして最大戦力ぶち込んでくるくらいだし。
……、…。
何か段々面倒になってきた。
あー…審神者ちゃんに会いたいなー。いくら美形でもさ、野郎ばっかで正直飽きた。麗しいけど潤いじゃねーからな、君達。
審神者ちゃんは貴重な女の子だよね。潤い…女の子が足りない。この際男の娘でも可。
そういやここの審神者には結局会わなかった。もし女の子なら…仮におばあちゃんだったとしても会いたかったなぁ。女性は何歳でも女性です。キリッ。…我ながらバカ全開だなおい。
はー…、て深い溜め息を吐くと一斉にこっちに目が向いた。
えっ、あの、何、でしょう…。
目があり過ぎて思いっきり腰が引けた。
正直怖い。
…ごめん、私にこの空気は無理。
コーヒーを飲み干して立ち上がる。そんでそのまま逃げました。
あ、王子がついてきた。
これ完全にトラウマ植え付けちゃったかなぁ…王子には本当、頭下げても下げたりない。
ちなみに、紆余曲折あって本丸に帰ったんだけど…有り得ないくらい歓迎された。
男泣きしてる面々も居た。
審神者ちゃんに抱きつかれたのに誰からも文句はなかった。
…私が居ない間に何があったし?
あー…ここと向こうと、行ったり来たりな生活開始ーっと。
暫くしたらあの三人はこっちに越してくるけどね。
うーん…めでたしめでたし?
※ルート分岐B※
地面に視線を落とし、そして目を閉じて悔しげに奥歯を噛み締める。
長として、これ以上の捜索の打ち切りを検討しなければいけない。
大典太光世の本体を解刀する事こそしないが、これ以上「余計な事」に時間と人員を割くのは下策だ。
本丸の空気も悪い。自分も気持ちを入れ替える必要がある。
山姥切国広も…最悪、解刀しなければ。
荒御魂を生み出す訳にはいかないのだから。
- - - - - -
ーっ…!
何だろ、今凄い特大のフラグが立った気がしたんだけど。
寝転がってた縁側から体を起こす。
あ、「光忠」が私の為に昼寝用クッション買ってきてくれたんだ。流石皆のおかん、気配り半端ないね!
「主、いかがなされました?」
私が寝てる間控えてたらしい「長谷部」に声を掛けられた。
いや、私主じゃねーから。君らの主…審神者は別に居るでしょ。…居るんだよね?見た事ないけど。
緩く首を振って庭の桜に目を向ける。本丸の景色って不思議だよね、青葉はともかく桜散らないし。
たまーに桜吹雪なんておこるけど、直ぐに元通りだ。
ま、私は春が一番好きだし、桜大好きだからいいんだけどさ。
ぼーっとしてたら「倶利伽羅」が野菜の入ったカゴを持ってきた。
おお、今日の収穫だね。つーかさ、景色は春なのに収穫出来る野菜とか季節関係ないとか凄くね?
本丸って不思議がいっぱいだなおい。
…うーん、やっぱ名前呼ぶのちょっと照れ臭いね。いや、だってほら、カソック、おかん、ガングロ学生服だと被るし。
あれだ、顔は一緒だけど別人だ、て凄く実感したからちょっと変えてみようかと思って。
何でこっちが名前呼びなのか?
そりゃあ命の恩人達だからね!
それにしても、ここが天国か!て感じだね。
だってまず戦わなくていい。暴力嫌いな私としてはそれが一番嬉しい。
そんでもって日長一日ぼんやり桜見上げて、たまに昼寝して、三人と一緒におやつ食べてご飯食べて風呂入って寝る。
希に月見酒なんかも飲む。
いやー、極楽極楽。
…ダメ人間まっしぐらだこれ!!
待て。待て自分。今の状態はニートもいいとこだ。しかも居候の分際でニートやってるとかダメ人間にも程があるだろ。
私本当に何もしてないぞ、大真面目に一日中桜見てるだけだ。
よし!まずは今日の晩ご飯の手伝いから!
…そういえばここ来てから自分で水汲んだ事すらない。いやだってさ、いつも喉渇いたなー、とか思ったら既に用意されてんだもんよ。
どこのお貴族ですか?
て事で厨?てとこに来てみた。…ら、普通に平成のキッチンだ!わー、審神者ちゃんのとこ割りと昔風だったから新鮮って言うか懐かしいって言うか。
まぁそうだよね、オーブンとかなかったらケーキとか難易度アルティメットにも程があるよね。
「あれ、どうしたの?厨に来るなんて…あ、喉渇いた?」
ぱたぱたとせわしなく動いてた光忠が即私に気がついて声をかけてきた。
君ら後ろに目でもついてんの?て早さで私に気がつくよね。
まぁそれはいいや。
私にも何か手伝わせてくれ、ニートからせめて家事手伝いに!
「うー…ん、そうだなぁ…あ、じゃあ汁物をお願いしようかな」
よっしゃ任せろ!
平成のキッチンなら普通に料理出来るからな!
和物じゃどう足掻いてもおかんには勝てないからポトフっぽい何かを作った。
味は…まあ、普通…うん、不味くはない。
ああそうそう、その日から食事には洋食やら中華やら出始めた。
何なの、おかんは食事に関して万能なの?
次の日は倶利伽羅と一緒に畑いじりをしてみた。
雑草抜いて、畑耕して種蒔きして。あー懐かしい。
倶利伽羅はあんま喋らないから…まぁ、私には言われたくないだろうけど…割りと静かに時間が進んでいく。
ん?あれ、倶利伽羅の姿が見えな…いっ!
あちこち見てたら首にヒヤッとした物を当てられて超ビックリした。
振り向いたら倶利伽羅がよく冷えたサイダーの缶を差し出してたよ。
「お疲れ」
君も本当、よく出来たいい子だよね。
しみじみ思いながら缶を受け取って口をつける。
っかー!美味い!
そんでもって次は長谷部。
カソッ…長谷部はどうやら書類仕事をやってたらしい。
そういや審神者ちゃんもやってたなぁ。
て事は審神者の仕事やってんの?凄いぞカソック!じゃなくて長谷部!
これは私には出来ないな…あ、休憩用にお茶持ってきてやろう。
てな感じで日々まったり、ニートから家事手伝いにジョブチェンジして過ごしてた。
そしたらある日の夜、長谷部が夕食後、深刻な顔をしてこんな事を切り出した。
「演練場への召喚状が届いた。こんな制度などなかった筈なんだが…」
聞いた話をざっくりまとめると、政府の資金やら何やらがほにゃららで放置本丸撲滅キャンペーン中だってさ。けっ!
あーはいはい、君ら私にかかりきりだったもんね。いいよ、いってらー…え?私も行くの?
私戦えな…戦わなくていい?見てるだけ?
…まあ、それくらいなら。
日にちは…は?明後日?届いたの夕方だって言ってたよね。
政府仕事しろよ!!
- - - - - -
へし切長谷部は縁側で眠る主の姿にふと表情を緩める。最初は無防備な姿など決してみせなかった彼が、今ではこうして眠るという最大に無防備な姿を見せてくれる。
それはつまり、自分達に全幅の信頼を寄せてくれている、という事だ。
これが嬉しくならない筈がない。
この方ならと、心からの忠誠を捧げるに値する主に仕えられる幸せをへし切長谷部は噛み締めた。
そして、今度は主の方から自分達に歩み寄ろとし始めている。
例えばそう…最近になり、繋がりがより強くなったのを感じた。彼の中で何かしらの変化があったのは明白だ。
だが、だからといってそれを口に出すような不粋な真似はしない。
大倶利伽羅が収穫してきた野菜を見て嬉しそうにする主を眺めながら、へし切長谷部は思う。
こうやって主と共に静かにゆっくりと日々を過ごせれば、自分達はそれでいい。
夕食の支度中、燭台切光忠は突然の主の来訪に驚き手が止まる。
ふと繋がりが強くなった日から、彼の気配を探りやすくなったし感情も前よりは読み易くなった。その為彼が訪れた事に直ぐに気がついたのだ。
まぁ、それは僕だけじゃないだろうけど。
胸中でひとりごちながら燭台切光忠は主にどうしたのかと問う。
彼は相変わらず喋らないし、仕草もそうやる事はしない。しかしながらある程度は読める。
どうやら主は何やら手伝いをしたいらしい。
主に食事の用意をさせるなど、台所番としては否と言いたい。
だが彼から歩み寄ろうとしてくれている貴重な機会を潰したくない。
僅かばかり考えた後、軍配は後者へと上がった。仲良くしたいのだから、当然といえば当然の結果であった。
もし、万が一、失敗してもどうにかなりそうな汁物を頼むと彼は意外と料理上手であった。西洋風の汁物は初めてだったが悪くない。
そして主の味の好みを知れたのはとても大きな収穫だった。
彼は食事を残す事はしない、例え嫌いな物が出てもちゃんと食べきる。
だが、どうせなら美味しく食べて欲しいと思うのは料理を作る者ならば当然思う事だ。
和食以外を作れるようになればそれが叶う。
となれば、燭台切光忠がとる行動はたった一つに決まっている。
大倶利伽羅は隣で雑草を抜く主に目をやる。
元々土いじりが好きなのか、畑仕事をやる姿は実に楽しそうだ。
彼から伝わる嬉しい、楽しいといった感情はとても心地よく、自分も嬉しくなるのでもっとそう感じて欲しいと思う。
逆に負の感情を感じているのであればそれを取り除きたいとも。
自分達を救ってくれてから暫くは、主から負の感情ばかり感じていた。
繋がりが薄い分特に強く思っている事が微かに分かる程度であったが…それでも、夜中や、ふとした瞬間に感じたそれに三人共顔を歪めたものだ。
それが今では全くの逆、正の感情を多く感じる。
大倶利伽羅は、それが堪らなく嬉しかった。
自分の考えに没頭している間に主は大分動いていたらしい、汗をかいているのが分かる。
確かサイダーとかいうのがあったなと、大倶利伽羅は主の為に飲み物を取りに行く事にした。
キンキンに冷えた缶を持ち、再び畑に向かいながら、たまには悪戯でもしてみようかと大倶利伽羅は考える。
悪戯をして、そして彼に「許される」事できっと自分は安堵する。主もその事を分かっていて自分に許しを与えるだろう。
今だからこそ出来る遊びだ。
大倶利伽羅が、主に悪戯を仕掛けるまであと少し。
へし切長谷部は書類仕事をしながら少しばかり居心地の悪さを感じていた。
主が自分…いや、自分達に興味を持ってくれるのは純粋に嬉しい。
嬉しいがしかし、審神者として恐ろしい目にあった彼に「審神者」というものを極力思い出させたくないへし切長谷部にとって、審神者の仕事を引き受けている自分の姿はあまり見せたくはなかった。
現に今もあまりいい感情は感じない。
だからといって主のやりたい事を妨げる事も出来ない。向き合おうとしているのならば、自分がそれを遠ざけてしまってはいけないのだから。
少しして主が部屋を出ていった事にへし切長谷部は安堵の息を吐く。
叶うなら、彼には心穏やかに過ごして欲しい。
それ故の安堵だった。
まぁ、戻ってきた時は酷く驚いたが…主直々の差し入れに申し訳なくなり、それ以上の嬉しさを味わったので良しとする。
その日の夕方。
へし切長谷部がパソコンでメールなどのチェックをしていると、政府から正式なメールが届いていた。
長ったらしい無駄な文章を省くとこうだ。
『資金節約の為、放置本丸や審神者の居ない本丸への給金の支払いを止める。稼働している本丸の者はその証拠に演練に訪れよ』
今更か?
と思わなくもなかったが、杜撰な運営に助けられてきたのは事実な為そこはまぁ良い。
問題は演練に赴かなければならない事だ。
自分達が戦うのは構わない。武器の本分であるし、そこいらの刀剣に負ける気もしない。
だが重要なのはそこではなく「戦い」というものを主に見せなくてはならない事だ。
刀剣だけが演練に行くだけで済むなら話は早かったのだが…審神者と刀剣、両方が揃ってくるようにと釘を刺してある為それは叶わない。
その日の夜、気が進まないながら話を切り出してみるとやはり主は僅かとはいえ顔を歪めた。
それはそうだろう、彼は戦いというものを嫌っているのだから。
否が応でも前の本丸の事を思い出してしまうに違いない。
主が鍛刀をしないのもそれが原因であろう。
別人だと理解していても、誰だって自分を傷つけた者の顔など見たくない筈だ。
ひとまず主から刀装を作る許可だけ貰い、三人共が各々の刀装を作る。
全く使っていない為に資源は山ほどあるし、主の極上と言える霊力と神気のおかげで特上の物が出来た。
刀装は文句なしの出来であるし、多少は戦闘への昂揚もなくはない。
しかし三人は暗い顔をしてそれはそれは深い溜め息を吐いた。
「気が重いね…」
「ああ」
「主にはただ穏やかに過ごして頂きたかったが…」
「生きてる以上、先立つ物は必要だからね。仕方ないとはいえ…」
「…せめて、主の恥にならないようにするだけだ」
「今はそれぐらいしか思いつかんな」
再び溜め息を吐き、刀装を持ってその日の夜は解散となった。
指定された日に演練場に行くと、普段ではまずお目にかからないような人数の審神者と刀剣達で会場はごった返していた。
手続きにも試合にもやたら時間が掛かっており、若干の混乱もあって誰もがこう思った。
マジで政府仕事しやがらねぇ!!
慌てて後日また来るようにと後から来た審神者達に紙が配られ始める。
紙を受け取った四人は頭が痛くなるような気がしながら帰ろうかと踵を返した所で一つの声を拾った。
「大典太!!」
と、誰かがそう呼んだ。