死ネタが駄目な方は回れ右。
勘違いもない。本編のギャグっぷりなど欠片もないとにかくシリアス。
見た後での苦情は受け付けません。
あったかもしれない未来。
パチパチと木が燃える音と煙に熱。それから炎の赤、血の赤、夕日の赤、ははっ、赤色がいっぱいだ。
怒号のような音を聞きながら本丸の中をとにかく走る。邪魔なものは刀を振り回して切り捨てて走る。
ああくそっ、怖いよヒビってるよ手が震えるし足が竦みそうになるよ!
お、沢山兄弟の一人みっけ。ああ、でもその前のデカ物が邪魔だ。
「大典太さん!」
デカ物を倒す事は出来たけど、一般人には色々キツい。
ぜいぜいと肩で息をしているとちみっこマントが心配そうに顔を覗き込んできた。子供に心配させらんないよね、何とか笑顔を作り頭を撫でてやるとちみっこマントは泣きそうな顔からキリッとした顔に変わる。
そーそー、その調子。あーあ、ちみっこもボロボロだ。
「っ…主はこちらには…どうかご武運を…」
私の手を握り情報を置いてから走って行くちみっこマント。
審神者ちゃん、まだいるのか…。女の子は守らないとね!さぁ、もう一踏ん張りかな!
時々おっかない敵と遭遇して、とんでもない数と交戦しながら審神者ちゃんを探す。
そうこうしてる内に中庭に出た。ら、そこにも凄い数の敵、敵、敵。ああでもその中心に審神者ちゃんはっけーん。
側には斬りつけ魔、奴が審神者ちゃんをしっかりと守ってたらしい。あんなボロボロな姿、初めて見たや。
さっきからの戦闘でとっくに恐怖なんかは麻痺してて、あそこに早く行かなきゃ、て気持ちだけが湧き上がる。
微妙に力が入らなくなってきた手で無理矢理刀を握り直して円の外側から思い切り敵を斬り飛ばす。
わーお、私にも物理的に飛ばす事が出来たんだね。
無理矢理円を割って中心に辿り着くと、審神者ちゃんを真ん中にして私と斬りつけ魔で背中合わせになり敵と対峙する。
「はっはっは、良いたいみんぐだ」
「……」
「分かっている。そなたが居れば遅れなどとらぬよ」
笑ってる場合じゃねーんだよ!とか思ってたら珍しくもちゃんと伝わったらしい。
斬りつけ魔の言葉を合図にしたかのように敵が一斉に襲い掛かってきた。
正に四方八方ってやつ?
でもまぁ、斬りつけ魔が居るならそう心配はないかな。体を動かしてる内に目に見えて敵の数は減ってきた。ああでも、つーか、審神者ちゃん守りながらは戦い難い!
あと二、三体という所まで減った。ちょー頑張ったよ、私。手足ガクガクいってる。
後は斬りつけ魔に任せようか、と視線だけ流すと今にも審神者ちゃんに斬りかかりそうな敵。
…女の子は守らないと…
- - - - - -
それは突然の襲撃であった。
本来ならば結界で守られている筈の本丸。昼と夜の合間の穏やかな時間にその結界が突然壊れたのだ。
丸裸となった本丸は歴史修正主義者の恰好の餌食である。まるで示し合わせたかのように大量の刀や槍、薙刀が丸裸となった本丸に押し寄せてきた。
まさかの敵襲に本丸に居た全ての者が慌てふためく。
早々に火がつけられ瞬く間に本丸は炎に包まれていった。
幸いだったのは出陣した部隊が丁度帰ってきた所だった事。その部隊には三日月宗近と大典太光世が揃っていた事。そして審神者の女性の周りには刀剣男士が集まっていた事。三つの僥倖が重なった。
出撃部隊はすぐさま散開して各々が敵と当たる。
一体一体は大した事はなくとも物量で押し潰そうとしてくる上に、時折混じる強敵が厄介であった。
田畑は焼かれ、それぞれの思い出がつまった本丸を炎が飲み込んでいく。
中傷以上に傷つきながら、審神者の側に居た刀達は必死になって彼女を逃がそうとしていた。
自分達は折れても良い。彼女だけは…。
その思いも虚しく、煙に巻かれ刀達と審神者の女性ははぐれてしまう。
三日月宗近は惨状とも言うべき現状に臍を噛む。
何故結界が破られているのか、何故こんなにも大量の敵が雪崩れ込んでいるのか。何故、何故…。
これはまるで誰かに細工でもされたような…。
薄ら寒いものを感じながら指示を出せる者には指示を出し、自らも刀を握り敵を一体一体潰していく。
ふと嫌な予感がして本丸を駆ければ、廊下の突き当たりにうずくまる主の姿を見つけた。
普段主と主と騒ぐくせに、あの馬鹿共は一体何をしているのか!
余裕のなさから内心悪態をつき、主の手を引き無理矢理立たせて外を目指す。流石に無駄口を叩いている暇はなかった。
主を守ろうとすれば隙が出来、そこを敵に突かれ少しずつ生存力が減っていく。
刀装はとうに壊れた。
主だけは何としてでも守らねばならぬと三日月宗近は敵を斬り続ける。
せめて己の背中を預けられる者が居れば…。
詮無き事がふと頭を過ぎるも、直ぐに思考を切り替え二人は中庭を目指した。
中庭に出ても状況は変わらず…否、寧ろ悪化した。
火と煙の驚異から逃れられはしたものの、自分達を囲むように出来た敵の円。
こちらはボロボロだというのに、まったく笑える。
「すまぬな、主。天下五剣の名にかけて、主だけは守ってみせよう」
「いい。あたしの命、宗近に預けた」
背に庇う主から強い言葉と眼差しを受ける。
気丈な女子だと、三日月宗近は僅かに目を細めた。
さぁ死合いをしよう、と刀を構え直した所で敵の円が崩れる。
勢い良く中に飛び込んできたのは大典太光世。三日月宗近もボロボロだが、大典太光世は更に酷い有様であった。
優し過ぎる程に優しい彼の刀は、皆を守る為に相当の無茶をしたのが分かる。
現状はあまり変わらない。だが、彼が居れば変えられる、この窮地を。
三日月宗近と大典太光世が揃った事で戦場はひっくり返される。
互いが互いの死角を補い、傷の一つもつけまいと審神者の女性を守る。背中を預ける事が出来る者がいるおかげで、前に集中する事が出来た。
このままならば敵を倒しきれる、といった所まできた。残りは二、三体。
自分達ならば難なく倒せる筈であった。
そう、本来であれば。
耳に届いたのは乾いた金属音。
次いで女の悲鳴。
三日月宗近は目の前の敵を瞬時に斬り伏せ振り返る。
その先の、己の瞳に映ったものを、三日月宗近は信じたくなかった。
それは丁度大典太光世が敵の喉を切り裂いている所であった。
振り抜かれたのは中ほどから「折れた」刀。
彼の足下には血が落ちて地面を赤黒く染めている。
敵が落ちるのと同時に彼の刀が地に落ちる。
その様子がまるでスローモーションのように感じた。
しっかりと握っていた筈の手の感覚はなく、自分が刀を持っているのかいないのかも分からない。
半狂乱で泣き叫ぶ審神者の傍らには赤く染まった大典太光世。彼が仰向けなのは審神者がそうしたようだ。
まるで幽鬼のような足取りで三日月宗近は足を進め、大典太光世の側まで来ると糸が切れたかのように膝をつく。
丁度その頃、本丸の中に居た敵を何とか殲滅させた刀達が主の気配を目印に中庭に集まり始めた。
そして誰もが三人を目にした瞬間に足が止まる。
中には山姥切国広のように駆け寄ろうとした者もいたが、山伏国広や同田貫正国などに止められた。
大典太光世は最早助からない。
誰もがそれを悟る。
ある者は信じられぬと顔を反らし、ある者は彼との思い出を頭に浮かべ、ある者はもっと仲を深めていればと悔やむ。
審神者の泣き声だけが響く中、ぽつりぽつりと空から滴が落ち始めた。
次第に滴は増えていき、いつしか本降りとなったが誰もその場を動けなかった。
空から落ちる滴が大典太光世を濡らし、大きく斬りつけられた傷から血液を流してしまうのを見て三日月宗近は震える手を伸ばす。
ああ、命の水よ流れないでくれ。彼が…彼が…。
「ぃ…、な…。いくな…逝くな!俺を置いて逝くのか!!大典太!!」
三日月宗近は大典太光世の服を両手で掴み悲鳴を上げる。
手遅れと理解しているだろうに、必死に大典太光世を呼ぶその酷く取り乱した様子に審神者の女性も息を飲み悲しみを驚きが塗りつぶした。
何度目か、三日月宗近が大典太光世の名を呼ぶと彼の瞼が震えゆるりと開けられる。
大典太光世はゆっくりと三日月宗近を見上げると、ふと力なく微笑み指先で彼の眦を拭った。
「泣くなよ…三日月…」
酷く優しい声で呼ばれた、最初で最後の己の名。
三日月宗近が、名を呼び返そうと口を開いた瞬間に彼はさらさらと光の粒へと変わっていく。
逝くな!逝かないでくれ!
いくら大典太光世だった光を集めようとしても何一つ掴めない。全てすり抜け端から消えてゆく。
最後の一粒すら光が消えてしまうと、あとに残ったのは泥と雨にまみれたボロボロの折れた刀だけであった。
三日月宗近は茫然とした表情で刀を眺め、少ししてから刀の欠片を一つ一つ拾い始める。
審神者の女性も手伝おうと手を伸ばしたが、その手を払い己だけで「彼」を集めた。
折れて欠片となっても変わらぬ切れ味を誇る「彼」は三日月宗近の手を裂いたが、そのような些事など気にはならなかった。
全ての欠片を拾い上げて胸に抱く。
あれは主を守りきった。主の盾となった。主を守り皆を守ったのだ。誇りだ、誉だ。されど…。
激しく降り続く雨の中、唯一無二を失った三日月宗近の慟哭が響いた。