なのはさん30歳、本気で恋をがんばる 作:ミミカキ
「え、結婚? なのはママが?」
「できたらいいなーって話だけどね」
今日は我が家の一人娘、ヴィヴィオの誕生日。そして私たちは今、エディの発案で急遽開かれることになった誕生日パーティの準備を二人でしています。
「なのはママの旦那様……つまり私のパパになる人かぁ」
「あはは、一応そういうことになるのかな? でも、もし本当にママに好きな人ができたら、ヴィヴィオは……どう思う?」
「もちろん私は応援するよ。だってママの幸せは私の幸せだもん」
そう言うヴィヴィオの表情は、まるでどっちが親なのか分からないくらい慈愛に満ちたものだった。
それが本当に私の幸せだけを願ってくれているみたいで……
「ちょっと生意気ー」
「あはは! ちょっ、ママ、くすぐたいってば!!」
とりあえずヴィヴィオの頭を思いっきり撫でてやることにした。
あー、ダメ。ちょっと不安に思っていた自分が馬鹿みたい。絶対に私、今ニヤついている。こんなだらしない表情をヴィヴィオに見られるわけにはいかないので、ママとしての最後のプライドの為にも、ヴィヴィオにはこのまま犠牲になってもらおう。
「分かった! 分かったからぁ~! あー、もうママったら……。それで、話を戻すけど、ママは一体どんな人と結婚したいの?」
「……え?」
私には一瞬、ヴィヴィオの言っている意味がよく分からなかった。
呆けた声を出す私を見て、ヴィヴィオはやれやれと言った様子で説明を始めてくれた。
「ほら、いわゆる好きな人に求める条件っていうやつ。ママだって相手が誰でもいいって訳じゃないんでしょ?」
「そりゃ……ねー。でもそっか、確かにそれは考えてなかったかも……」
条件かぁ……。漠然と結婚したいなーって考えてるだけで、その辺りは確かに考えていなかったかもしれない。
私は、一体どんな人と結婚したい?
普通なら顔や収入とかが重要視されるんだろうけど、正直、収入には困ってないし、人は見かけによらないと思うし……。
試しに知り合いに置き換えて考えてみよう。
ユーノくんとは、案外いけたのかもしれないけど、もうお互い友達の期間が長すぎて今更って感じだし……。
クロノくんは……もう既に結婚してるから論外だ。
あとは……フェイトちゃん? いや、それは無いか……。
そうなると…………。
そこで、私の思考は呼び鈴の鳴る音に遮られたのだった
☆☆☆
「お邪魔しまーす。あれ、僕が最後ですか?」
それなりに早く仕事を終わらせてきたつもりだったが、どうやら出遅れてしまったらしい。既に声をかけた面々は集合済みで、お菓子や料理に手を伸ばしていた。
さすがにみんな仕事があるので知り合いがみんな集まるという訳にもいかなかったけど、それでも急に開かれたパーティにしては結構な人数が集まっていた。これもヴィヴィオとなのはさんの人望の成せる技だろうか。
「あっ、先輩お久し振りです!」
「や、ヴィヴィオ。誕生日おめでとう」
「はい! ありがとうございます!」
ちなみに、俺自身こうしてヴィヴィオに直接会うのも何ヵ月かぶりだったりする。メールのやり取りくらいはしていたものの、彼女ができて以来どうにも疎遠気味だったが、まぁそれも今となってはだ。
それにしてあのチヴィヴィオが今日で17か……。
「あ、そうだ。ヴィヴィオもアインハルトも、早く大人モード解除しとけよ。折角の誕生日だ。ありのままの成長を祝おうじゃないか」
「もう大人モードじゃありませんー! 歴とした成長ですー! なんだったら久し振りに手合わせでもしてみますか?」
「フッ……。ヴィヴィオ、やめてよね。ストライクアーツ全国レベルのお前と本気で戦ったら俺が10人いても勝てるわけ無いだろ。無茶言うなよ」
「先輩…… 」
分かってる。分かってるよ、君が何を言いたいのかくらい。だからそんな目で僕を見ないでくれ。心が折れそうだ。
そしてその後は、ヴィヴィオとの話もそれなりに、パーティ参加者に挨拶をして回った。我ながら律儀だとは思うが、この場にいるのは基本的に年上で目上の人ばかりなのだ。礼儀を欠かすわけにはいかない。
俺がこの場で気軽に話せるのなんて精々、リオやらコロナやらを除けば同級生だったアインハルトくらいのものだ。
……いや、もう二人ほど例外がいた。
「エリオくん! それにキャロ! 良かった、今日来られたんだね」
「エディ、久し振り……ってほどでもないか。ちょくちょく遊びに来るもんね」
「こんにちは、エディくん」
この二人は、僕より2つ年上で、なにかと良くしてくれる兄貴分、姉貴分といったところだ。
エリオくんは年上として色々な相談に乗ってくれるし、キャロはもうとにかく優しいの一言に尽きる。
思えば管理局に入ると決めた時も、この二人にはかなりお世話になった。いつかは恩返しがしたいものだ。
「エディは最近どう? 例の彼女とは上手くいってるの?」
「あー……あんまり上手くは行ってないというか、終わったというか……。はぁ、もう世の中の女の子がみんなキャロになればいいのに……」
「えぇ!? そ、それはちょっと怖いよ……」
「エディがそんなこと言うなんて珍しいね。彼女と何かあったの?」
「ああいや、実は……」
ある程度かいつまんでエリオくん達に事情を話す。俺に彼女ができたこと、それなりに上手くいってたと思うこと、それがメール一本で終わりを告げたこと。
後になって考えると、こういう席でこういう話をするのもどうかと思う、でもこの時は僕自身いっぱいいっぱいで、とにかく誰かに弱音を聞いてほしかったのかもしれない。
「ーーそんなわけで、要約すると、あんたの知り合いってあんなに美人の人が沢山いて、どうせ浮気してるんでしょ! だって……」
「うわ、それ言われたらショックだねな……」
「結局のところ、信頼されてなかったんだからね……」
付き合ってくれるエリオくんには本当にありがたいと思うと同時に、同じくらい申し訳ないとも思う。エリオくんだってこんな話を聞きにここに来たんじゃないだろうに、いつだって真剣に僕の話を聞いてくれる。
もっとも、本人にこれを言えば「ボクはエディよりお兄さんだからね」なんて返されるのだから、もう非の付け所がない。同じ男としてこういう大人になりたいものだ。
「……ボクから言えることはあまりないけど……エディ、過ぎたことはあまり気にしすぎない方がいいよ。重要なのは、エディがこれからどうしたいかだと思うな」
「これから……?」
それってどういう……。
「あ、いた。先輩、ちょっと今いいですか?」
「ヴィヴィオ?」
僕を探していたのか?
今日の主役の頼みだし、聞いてあげたいのは山々だけど……
「ちなみに、それって今じゃないとまずい話?」
「そういう訳じゃないんですけど……できるだけ早く話しておきたいことではあります」
大丈夫かな? とエリオくん達に視線だけで確認を取ると、二人とも笑顔で行っておいでよ、と視線を返してくれた。
やっぱり、この二人は俺よりずっと大人だ。
☆☆☆
「あの……もしかして私、先輩のことをパパって呼ばなきゃいけない感じですか?」
「……呼びたいのか?」
いきなり呼ばれたと思ったら罰ゲームの話だろうか。
いや、ヴィヴィオがわさわざ俺達の話を中断させてまでそんなしょうもない事をするとも思えない。じゃあどういうことだ?
「……私は、先輩をパパって呼ぶのは嫌です」
「僕もだ。というかどうして僕がパパなんだ?」
「だって先輩、ママと仲良いですよね?」
「そりゃ、上司と部下だからなぁ。そもそも、そんなこと言ったらユーノさんの方がよっぽど仲良いじゃないか」
「それは……そうですけど。でも先輩、今度なのはママと二人で出かけるんですよね?」
……ああ、なるほど、そういうことか。パパ=なのはさんの旦那さんってことで、ヴィヴィオは何故か僕がその候補に上がっているってことか。実際は二人で仲良く婚活パーティに行くような関係なのにね。
とりあえず、順を追ってヴィヴィオの誤解を解いていこう。
「あー、実は……言ってなかったけど、僕彼女いてさ」
「え…………?」
「いや、正確には昨日振られたんだけど」
「そうなんですか!」
「他人の不幸は蜜の味ってキャラでも無いだろうに……そんなに嬉しそうに言わないでくれよ」
「あっ、ごめんなさい……」
「まぁいいや。それでその場のノリで婚活同盟みたいなの作って、二人で婚活パーティ行こっかって話しただけだよ」
「なんだ、そうだったんですか」
ヴィヴィオが心底安堵したような声を出す。
どうやら、大好きなママが取られるとでも思ってたみたいだが、それはまったくの杞憂ってものだ。なんにしても早いうちに誤解が解けて良かった。こういうのは拗らせれば録な結果にならない。例えば先週の僕みたいに。
「で、なのはさん、その後どんな感じなんだ?」
「それが、ママったら恋人作るって言っておきながら、自分がどんな人と付き合いたいかも考えてなかったんですよ」
なのはさん、ヴィヴィオにそんな話までしてたのか……。そりゃ、本気ならいずれは必要な話だろうけど……いくら何でも時期尚早じゃないか?
「 目的を見つけたら何も考えずに一直線というか…… 何ともなのはさんらしいというか 」
「ですよねー。そんなママには早くいい人を見つけてほしいです」
「エースオブエースも、娘相手じゃ形無しか。というか、そういうヴィヴィオはそういう人はいないのかい?」
「そういう人……ですか?」
「そうだよ、つまりボーイフレンドだ。俺が学生だった頃もヴィヴィオはモテてたし、彼氏の二人や三人いるんじゃないか?」
「いや、彼氏が何人もいたら普通に最低じゃないですか……。はぁ……そもそも彼氏なんていませんよ。でも……」
「でも?」
ヴィヴィオがそこで一度口をつぐむ。
何かを伝えたいけど、上手く言葉が見つからない。今のヴィヴィオからはそんな儚さすら感じられた。
僕も、そんな普段のヴィヴィオらしからぬ雰囲気に口を出すことができないでいた。
そして、ヴィヴィオは言葉を続けようとしてーー
「エディ! ちょっと水持ってきてー!」
「え? なにエリオく……ちょっ! なのはさん大丈夫ですか!?」
「うぅ……ちょっと前までは大丈夫だったのに、遂にポテチ一袋が食べられない体に……気持ち悪い」
あー、あー、無理してまでそんな塩分全力全開なものをわざわざ食べないでもいいのに。
というかむしろ、今の俺でもキツイそのポテチ極味をちょっと前までは食べられてたんですか。
「とにかく今、水持っていきますから、もうちょっと頑張ってください! すまんな、ヴィヴィオ。話はまた後で」
「……いえ、私はずっと待ってますから。ずっと前から……」
結局、その日はヴィヴィオの真意を確かめることは出来なかった。
でも、最後にヴィヴィオが見せた寂しそうな表情の正体だけはいつか確かめたいと思う。