なのはさん30歳、本気で恋をがんばる   作:ミミカキ

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自分に足りないものを考えましょう

 

 その日、僕たちは夕食を共にしていた。と言っても、お洒落なレストランでディナーという訳ではない。単に仕事が長引いて遅くなってしまった為、近くのファミレスで夕食を済ませようということになったのだ。

 

 それに、仕事自体は無事に終わったものの、今後の予定を話し合う必要があったというのもある。

 

「ねぇ、明日はどこ遊びに行くぅ~?」

 

「なっちゃんの行きたい所でいいよぉ~」

 

「やぁだ~! エーくんの行きたい所に行くのぉ~」

 

「僕はなっちゃんと居られればそれだけで満足だもん~」

 

「私もぉ~! エーくん大好きぃ~! チュッ」

 

「僕もぉ~! チュッ」

 

 ーーと、いちゃついているカップルの横の席で寂しくハンバーグ定食を食べる客が二人。もちろん僕となのはさんだ。

 

 なのはさんの方を見ると、僕と同じようにバツの悪そうな顔をしていた。なんでよりにもよってこんなカップルと隣になってしまったのか。とお互い口には出さなくても表情が語っていた。

 

「……甘いですね」

 

「どっちかっていうと熱いかな? もうちょっと冷房効かせるように店員さんに頼もうか?」

 

「あ、じゃあ自分が。なのはさんは座っててください」

 

「うん、ありがとうエディ」

 

 少し皮肉を混ぜたつもりだったが、どうやらなのはさんには効かなかったらしい。しかも、僕が店員に冷房を下げるように頼んでいる内にカップルは店から出ていってしまったというのだから、間抜けなことこの上ない。

 

「……それにしても、どう思います? さっきのアレ」

 

「う~ん……仲が良いのは素敵だけど、あんまり公共の場ではよろしくないかもね」

 

「かといって注意しようにも、ああいうのって本人たちに言っても無駄なんですよね」

 

「そういうのってなんて言うんだっけ? 猫の耳に真珠?」

 

 なのはさん、それ色々と混ざってます。

 

 なのはさんのエキゾチックなことわざに苦笑しつつ、すっかり空になったコップにお冷を注ぎ、一気に飲み干す。

 

「……うらやましいですねぇ」

 

「そうだねぇ……」

 

 二人して小さく溜め息を吐く。さっきのは極端な例にしても、やはりああいうラブラブというか熱々な関係への憧れはあった。いや、さっきのは本当に極端な例だが。

 

 そして、どうすれば僕たちはその領域に足を踏み入れることができるのか。まさにそれこそが僕となのはさんが、仕事終わりの倦怠感を無視してまで議論しようとしていた内容だったりする。

 

「私たち、何が足りないのかな……」

 

「さぁ……」

 

 正直、それが簡単に分かれば苦労はない。なのはさんには、恋人を作るには何かが不足していて、僕には恋人の信用を得られる何かが無かった。

 

 事実としてそれが分かっていても、じゃあ具体的に何が足りなかったかと聞かれれば答えに詰まるのが正直な現状だ。こういう時に意見をくれる異性がいればいいんだけど……

 

 ……いや、いた。それも目の前に。

 

「高町一尉、私に提案が」

 

「発言を許可します。セドリック空曹」

 

 なのはさんは以外とノリが良かった。まあ、それは置いておいて。

 

「思ったんですけど、僕たちって、ずっと『僕たち』というくくりで物事を考えて、それぞれのことで考えていなかったと思うんですよ」

 

「つまり、集団としての『私たち』じゃなくて、個人としての私たちにそれぞれ問題があるってことかな?」

 

「はい。あくまで僕の愚考に過ぎませんが」

 

「……ううん。確かにそれは盲点だったかもしれないね。それで、提案っていうのは?」

 

「それはですね、まずは実際に恋人ができたと仮定した上で、お互いの行動を観察し、何が足りないのかを見つけ合えないかなと」

 

「……つまりそれってデートのお誘いってことかな?」

 

 なのはさんから少しからかうような視線を向けられる。あながち間違いでもないのだが、なんだか年上の余裕を見せつけられたようで若干悔しかったので、ここはNoと答えておくことにしよう。

 

「いえ、多分そんなに甘酸っぱいものじゃないと思いますよ。なにせお互いの欠点を突きつけ合うわけですから。強いていうなら……擬似デート?」

 

「擬似デートって……エディってたまにとんでもないことをさらっと言うよね。……でも練習かぁ」

 

 教導隊に身を置く者として、なのはさんも″練習″という言葉がどれほど重い意味を持っているのかは重々理解している。もし本当に恋人を作ることができたとして、経験不足が祟って上手く付き合うことができずに破局なんて話はザラにある。だからこそ、なのはさんも俺の提案を馬鹿かと一蹴することは無かった。

 

そして……

 

「……やってみようか、練習」

 

 

☆☆☆

 

 

 翌日。

 

 時計を確認してみると、待ち合わせの時間までにはまだ30分もあった。流石に早すぎたかもしれない。

 

 とはいえ、今日の目的がお互いを貶し合うことだと考えれば、絶対にエディより先に着いておく必要があったのだから仕方ない。上官として、そしてなにより年上として、相手より遅く着いていきなり駄目出しを食らうわけにはいかないのだ。

 

「それにしても、相手がエディとはいえ、男の子と待ち合わせかぁ……。何気に始めてかも」

 

 なんだかその場のノリですごいことになっちゃったけど、改めて考えると、十も年下の男の子と擬似デートで特訓してる私も相当変なやつなんじゃないだろうか……。

 

「なのはさーん!」

 

「あ、エディ」

 

 顔をあげた私の視界に飛び込んできたのは、元気よく右手をこちらに振るエディの姿と、左手に握られた12ロール入りのトイレットペーパーだった。

 

 ……なぜ?

 

「これ安かったんですよ~! ちょうど切らしてたんで助かりました」

 

「いやいやいや。あのね、エディ?これ、練習だったよね? 自分に足りないものを見つけて、理想の相手をゲットする練習をしようって話したよね? 確かにトイレットペーパーも足りなかったかもしれないけど、女性とのデートでそれはちょっとマズイかな……」

 

「え、そうなんですか!? 前の彼女はダッシュで自分の分も買いに行ってましたよ!?」

 

 君達は二人してトイレットペーパーを握り締めながらデートしてたの……?

 

「とにかくそれは絶対にダメ! 早速だけどエディに足りないものはデリカシーだよ! ほら、それは車に置いてくる!」

 

「は、はいっ!!」

 

 

 

 そんなアクシデントに見舞われ、私たちの擬似デートはお世辞にも好調とは言えないながらも、無事にスタートを切ったのだった。

 

「天気いいですね」

 

「そうだね。こんな日に空を飛んだら気持ちいいだろうね」

 

「そうですね」

 

「昨日はなに食べた?」

 

「一緒にハンバーグ定食食べたじゃないですか」

 

「あ、そっか……」

 

「映画やってるみたいですよ。ラベンダーズって知ってます?」

 

「よくCMやってるよね。私はちょっと分からないけど……」

 

「……ですか」

 

 ……会話が続かない。

 

 普段のちょっとした雑談や、仕事の話なら平気なのに、いざ意識して話そうとすると、どうにも何を話していいのか分からない。話題が無いとか、緊張で話せないとかいうわけじゃなくて、本当に何をどう話せばいいのかが分からなかった。

 

「そ、そうだ! エディ、お腹減ってない? 近くでおいしいパスタのお店があるんだけど!」

 

「あ、いいですねパスタ! 」

 

「でしょ? 今日はなのはさんが奢っちゃうよー!」

 

「いえいえ、こういう時は男に払わせてくださいよ」

 

「え? でも悪いよ。私の方が収入あるんだし」

 

「なのはさんアウトです!」

 

 何故か泣きそうな表情になっているエディに人指し指を突きつけられた。でも、アウトですと言われても、今の会話のどこが悪かったのかが分からないんだけど……。

 

「いいですか? 私の方が収入あるとか、事実でも男の面子丸潰れです。ただでさえなのはさんは凄すぎて男は引き下がり気味なんですから、こういう時は頼るのも大事ですよ」

 

「そ、そっか。そういうものなんだ……」

 

 事実でも相手を怒らせちゃうことがあるんだ……。奥が深いなぁ、恋愛。

 

 結局、エディに押しきられる形でパスタを奢ってもらうことになった。そんなに高級なものではないとは言っても、やっぱり年下の男の子にご馳走になるっていうのはなんだか変な気持ちになって……結局、お店にいる間は上手く話すことができなかった。

 

「おいしかったですね」

 

「うん。ミートスパゲティなんて久しぶりかも。地球にいたころはお母さんがよく作ってくれたな……」

 

「へぇ、地球にもミートソースってあるんですね。家も母親が作ってくれましたけど、ミートスパゲティとは名ばかりのケチャップぶっかけパスタでしたね」

 

「わ、それちょっと見てみたいかも。あ、そうだお母さんといえばーーー」

 

 そして始まるお母さん談義。たまに美味しくないお菓子を買ってくるとか、部屋に置いている雑誌がいつの間にか積まれてるとか、そんなことを笑い混じりに語り合った。

 

 それはそれで結構楽しかったけど……さすがに恋愛経験の無い私でも分かる。いい年の男女の話題がお母さんについてしか無いのがマズイことくらい。

 

「そういえば、なのはさんのお母様って……」

 

「そ、そういえばヴィヴィオは元気だよ!」

 

「へ? あ、そうなんですか……」

 

 って私のバカ! さすがに唐突過ぎるよ! しかも話題がお母さんから娘に移っただけだし!

 

「あ、そうだ。ヴィヴィオといえば、例のプレゼントは喜んでくれました?」

 

「ふぇ!? あ、ああうん! もうすっごい喜んでたよ! 毎日抱いて寝てるくらいだし」

 

「そうなんですか。ぬいぐるみなんてベタだったんじゃないかと思ってたんですが、それなら良かったです」

 

「ヴィヴィオは昔からウサギさんが好きだったからね。ちなみに、私が始めてヴィヴィオに渡したのもウサギのぬいぐるみだったんだよ?」

 

 結局、その後は二人でその場にいないヴィヴィオについて語り合うだけで一日が終わってしまった。

 

 とてもデートとは言えないような、それこそ友達と遊びに行くような結果だったけど、ある意味当初の目的は達成できたから良かった。今のままじゃ駄目なんだってことが、それはもう痛いくらいに分かってしまった。

 

 結論、私たちに足りなかったのは本気。

 結局のところ、何がなんでも自分をステップアップしようという気持ちが私たちには足りなかったのだ。

 

 それを解決するために必要なことは……本当に好きな人を見つけること。この人のためなら何でも頑張れると思うほど、好きな人を見つけること。

 

 ……だと思う。

 

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