なのはさん30歳、本気で恋をがんばる   作:ミミカキ

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時としてジョークセンスも問われます

 

 

「こ、これは……!」

 

 例の擬似デートから早数日。今日の仕事も終わり、ふと気まぐれ雑誌を手にしたのたが、それを開いた瞬間、僕は今までに受けたことがないような衝撃を受けていた。

 

 信じられない。否定したい。でも、否定できるような材料を僕は持っていない。だからと言って、受け入れるにはあまりに残酷な真実がそこには綴られている。

 

 その見出しにはでかでかとこう書かれていた。

 

 

『美人で優しいだけじゃダメ! 結婚にはジョークセンスが必要!?』

 

 

 まるで、自分の中の常識が覆されたような気分だった。それも、なんとなく手にした雑誌でこんなことを言われたのだから尚更だ。

 

 今まで、結婚というのは趣味が合って、お互いの性格が良ければどうにかなるものだと思っていた。それが真正面から否定されたのだ。

 

 訳も分からず茫然としていると、ちょうど僕と同じく仕事終わりのなのはさんが教員室に入ってくる姿が写った。

 

「な、なのはさん! これ見てくださいよ、これ!」

 

「わっ、びっくりした。どうしたのエディ? そんなに慌てて」

 

「これですよ、これ!」

 

 なのはさんに突き付けるようにして雑誌を見せる。最初は戸惑っていたなのはさんだったが、雑誌を読み進めているうちに、その表情には焦りの表情が浮かんでいた。

 

『現在では技術やメイクの進歩により、美人が珍しくない存在になってしまいました。そのため、美人やイケメンでもジョークセンスの無い人は売れ残る現象が起きています。この夏はジョークセンスを磨き、理想の相手をゲットしましょう!』

 

「……エディ、これなに?」

 

「今、教え子の女の子たちの間で流行ってる雑誌です。話題合わせに読んでみようと思ったら、まさかこんなことが……」

 

「どうしよう……。私、ジョークなんて言えないよ……」

 

「僕もですよ。それに、なのはさんはまだいいですよ。僕なんてイケメンですらありませんし……」

 

 二人して溜め息を吐く。僕もなのはさんも若い内から仕事仕事で生きてきたのだ。気の利いたジョークなんて知るはずもない。

 

 しかも、僕の前の彼女は、とにかく自分が喋るのが好きな人だったから、僕は聞き役に徹するだけで、あまりこちらから話題を振った記憶もないから参考にならない。

 

「そういえば私たち、前の擬似デートの時もお母さんかヴィヴィオの話題しか無かったし……」

 

「今のまま婚活に行っても、売れ残るだけ……?」

 

 それは、なんとも恐ろしい未来図だった。せっかく婚活パーティに出ても、面白い小話ひとつができないために売れ残る。それだけは何としてでも回避しなければならなかった。

 

「……練習しようか。ジョーク」

 

「そうですね……」

 

 いくら嘆いていても仕方がない。無いのなら努力して手に入れればいいのだ。まさにそれこそが教導隊のモットーだ。むしろ、本番前に気付けただけラッキーだったと考えよう。今から練習すれば、パーティ当日までには何とかなるはずだ。

 

「じゃあ、まずは私がジョークを言ってみるから、エディはその採点をお願い。くれぐれもお世辞はダメだからね!」

 

「はい」

 

 コホン、と一息吐いてから話を始めた。その目は、とても今から笑い話をするとは思えないほどに真剣そのものだった。

 

「この前ね、ヴィヴィオと一緒に散歩に出かけたんだ」

 

「はいはい!」

 

「そしたら、大きな犬を連れたお婆ちゃんに出会ったんだ」

 

「それでそれで?」

 

「すっごくかわいかったよ!」

 

「……ん?」

 

 え、終わり? えーっと……どこで笑えばいいんだ? そもそも、今のはなのはさん的には笑い話だったのだろうか。

 

 なのはさんが怪訝な表情を浮かべながら、僕の反応を待っていた。

 

「面白くなかったかな……?」

 

「あー、いえ、面白くないということは無かったんですけど、笑いどころが分からないといいますか……正直、ふぅんって感じでした」

 

「そんなあっ!? 私のとっておきの話だったのに!」

 

 なのはさんはいたくショックを受けている様子だったが、今のは贔屓目で見ても笑い話とは言えないだろう。確かに微笑ましい光景ではあると思うが。

 

「じゃあ、次は僕の番ですね。実は、元カノの話なんですけど」

 

「うんうん」

 

「あいつ、よくダイエットをしてて、体重が減る度に僕に報告してたんですよ」

 

「へぇ」

 

「でも、一度気になって数えてみたら、あいつ、僕と付き合い始めてから80キロも痩せてたんですよね~」

 

 さぁ、どうですか。と口には出さないが、自信を持ってなのはさんの反応を待つ。しかし、僕の期待に反してなのはさんは難しい表情を浮かべていただけだった。

 

「うーん……確かに面白かったんだけど、婚活で元カノの……それも体重の話するのって大丈夫なのかな……?」

 

「確かに……」

 

 よく考えてみれば、それは盲点だった。友達の間では受けていたけど、婚活パーティで元カノの話をするやつなんてあまりいないような気がする。もっとも、実際に参加したことは無いので、僕の勝手なイメージに過ぎないが。

 

「う~……でも、話自体は確かに面白かったし、なんだかエディに負けたみたいで、なのはさん、ちょっとだけ悔しいかも」

 

「僕も似たようなもんですよ。僕らだけじゃ埒があきません。こうなったらスケットを頼みましょう」

 

「そうだね。私たちの知り合いで笑いに精通している人と言えば……」

 

「あの人しかいないですよね……」

 

 

☆☆☆

 

 

「「ーーというわけで八神師匠! 僕たち私たちに、笑いのなん足るかのご教授お願いします!!」」

 

「え、な、なに!? なんや自分ら藪からスティックに!?」

 

 八神さんが思わず手にしていたコーヒーを取り落としそうになる。現場に出た経験も何度かあり、いつでも冷静を欠かない判断を下してきた、あの八神さんがだ。いきなり部下と幼馴染みの二人が仲良く訳の分からないことを口走った衝撃は、どうやら次元犯罪を越えていたらしい。

 

「はやてちゃんっ!」

 

「は、はい、なんでしょう……?」

 

「八神さん!」

 

「お、おう……?」

 

「八神はやてさゃん!!」

 

「だからなんやねん!? 人をおちょくっとんのか!!」

 

 そろそろ八神さんが本気で怒り出してしまいそうな雰囲気だったので、僕たちは一度心を落ち着けてから、ゆっくりと八神さんに事情を話した。僕たちにはジョークセンスが無いこと、このままではマズイということ、そして、笑いには人一倍厳しいという八神さんに監督して欲しいということを。

 

「なるほどなぁ……異性との会話に困らんおもろい話なぁ。また妙な事が始まったもんやわ……。まぁ、うん、話は分かったわ」

 

「じゃあ……!」

 

 八神さんは、仕方がないな、とでも言いたげな表情で軽く、しかし確かに頷いてくれた。

 

「でも私の指導は厳しいで! 二人とも覚悟はあるか!?」

 

「「はい!!」」

 

 こうして、八神さんによる、教導隊員二人へのお笑いの訓練が始まったのだった。

 

「まず『相手を笑わせる』のが目的の会話で大事なのは、勢いの付け方とイントネーション。とにかく相手を自分の話に引きずり込むんが大事や」

 

「はい、八神さん」

 

「はい、なんやエディ?」

 

「ということは、勢いさえあれば、話の内容事態はそんなに面白くなくても良いのでしょうか?」

 

「うん、いい質問やな。でもその答えはNoや。勢いだけの話やと、相手は肩透かし食らって、逆に引いてまう。勢いはあくまで前提条件やね」

 

 なるほど、そういうものなのか。確かに考えてみれば、テレビで見るお笑い芸人なんかもみんな、大なり小なりどこか独特の勢いがあった。淡々と事実だけを話すやり方じゃ聞く方も飽きてしまうからだろう。

 

「さて、今のを踏まえた上で、まずは私に二人のとっておきの話を聞かせてみ。少なくとも来る前よりはよくなるはずや」

 

「「はい!」」

 

 二人で先程の話を再びする。もちろん、八神さんからのアドバイスを忘れず、テンポや勢いに気を付けながら。しかし、今度は聞かせる相手が八神さんなので、さっきほど気軽な気持ちではいられなかったが。

 

 それでも、さっきまでよりは二人とも随分とそれっぽく聞こえるようになったと思う。

 

「じゃあ、さっそく八神先生の採点といこか。まず、なのはちゃんやけど……話にオチがないんやな」

 

「オチ?」

 

「そうや、オチや。犬がかわいいのなんてみんな知ってんねん。笑いを取るんやったら、もっと相手に意外な結末でインパクトを与えたらんと」

 

 話にオチを付ける……一見簡単なように聞こえて、実は結構難しい話だ。特になのはさんの場合は、根本から話の内容を変えなくてはいけなくなるだろう。

 

「そっか……でも、だったらどんな話をすればいいんだろ?」

 

「そうやなぁ……なのはちゃんは自分の失敗談とかでええんとちゃう?」

 

「えぇ……でも、そんなの恥ずかしいよ……」

 

「だからこそや。自分の失敗や弱点を晒すっちゅうのは、裏返せば相手を信用してますって証拠になるし、特になのはちゃんみたいな一件ハイスペックな子がやると、ギャップでより一層面白くなるもんよ」

 

「なるほど……」

 

 なのはさんはまだ迷っている様子ではあるが、とりあえず八神さんの言葉に納得したようだった。きっと今は自分の中の、少ない失敗談を必死に探しているのだろう。

 

「ちなみに八神さん、失敗談って、僕の方にも使えますかね?」

 

「いや、女はどじっ子で済むけど、男の場合はただのマヌケになる」

 

 なんとも世知辛い世の中だった。

「エディは逆に、オチはちょっと弱め、でもつまらなくはない。そういう話がええな。そういう意味では、今の話は体重と元カノの話でさえなければいい感じやったよ」

 

「え、そんなに面白くない話でいいんですか?」

 

「面白すぎる男は友達止まりになって、恋愛対象からは外されやすいからな。今の感じで、かつ元カノ、体重、下ネタに絡まない話を見つけとき」

 

 それって、何気になのはさんよりも僕の方が難易度が高いんじゃないだろうか。

 

 

 

 こうして、八神さんの指導は一端終わりを告げたのだが、「よし、今日は徹底的にお笑いについて教えたろ」と言う八神さんによって、居酒屋に連行された僕たちが一晩中″ヨシモト″という地球の番組を見ることになったのはまた別の話。

 




なのは は 話術スキル が 10 あがった
エディ は 話術スキル が 10 あがった
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