魔法先生ネギま! 星を司る魔法使い   作:osero

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第一話『始まりへの序章』

 

 

 太陽が闇に呑まれ静まり返った夜。

 

 ある村はその暗闇に似合わず、チカチカと光を照らし激しく燃えていた。

 

 木が、家が、自然が、紅い炎に蹂躙されていく。

 

 燃える際に発するバチバチと火花音が静寂の村に嫌に鳴り響く。人が時間をかけて積み上げたきた物が一瞬にして儚くかき消える。

 

 村全体がゆらゆらと蠢くように熱波が覆い、火の粉が色彩となり村を紅く染め上げていた。これだけの規模の大災害。しかし人の悲鳴はまったくといっていい程聞こえない。

 

 それもそのはず人間は皆動きを止め石という形で存在していたのだから。村人の人間がコンクリートで型を取ったかのように微動だにせず石の像と化している。

 

 

杖を持ち如何にも魔法使いが被りそうな帽子を被っており小さい子供、大人から老人まで全ての人間が地獄ともいえる燃え盛る大地で生を止めていた。 

 

 泣き喚く子供。絶望に染まる大人。覚悟を決めた表情を浮かべる老人。人の命とも言える灯火の心音は止まり、ただの木偶の像とかしていた。

 

 まさしく地獄。

 

 そんな地獄絵図と変わり果てた村に、まだ石となっていない人間がいた。

 

「俺が…………だから、は、早く逃げろ!!」

 

「だ、駄目よ!逃げましょうユーキ!!このままじゃ危険だわ!」

 

 地獄と化したその場所で、頭から血を流し意識朦朧と片手で剣を握る少年。背後には戦いをやめてと少年の背中を掴み叫ぶ少女。

 

 先ほどからこの原因を作った何かと戦闘を行っていたのだ。

 

 少年と少女と対峙している者、それはもはや形容しにくい異形の形をした化け物であった。

 

 悪魔、堕天使、カテゴリーにあえて分類するならその言葉が当てはまるであろうその姿。

 

 二足歩行で人のなりをしているが禍々しい黒い翼、人ならざぬ異形の顔、頭に生える角。もはや物語から出てきた悪魔と言った方が早いだろう。

 

 悠然と立つ悪魔は見ているだけでもおぞましい存在である。悪魔から揺らぐ黒の不透明な何か。人が理解不能な歪な瘴気を撒き散らす。

 

 瞬間、変化があらわれる。家が、自然が浸食され触れたとたんに腐食していた。まるで害を撒き散らすために作られたというべき存在。

 

 異常ともいえる光景を実現させる悪魔を前に少年は先ほどからずっと攻撃を防いでいた。

 

 現に今もその猛攻は止むこともなく続いていた。

 

爆発的な速度で地面を爆ぜて距離を詰め腕を振るう悪魔。少女を咄嗟に横に突き飛ばし少年はその攻撃をかろうじで刃で受けとめたが威力が強力すぎて意図も容易に吹き飛ばされる。

 

 圧倒的なまでの力の差だった。

 

体が二回、三回とバウンドし家の壁に叩きつけられ息が詰まり身体がミシミシと悲鳴あげる。

 

「っっカハ!--!?」

 

 休む隙もなく、痛みを堪えて少年はなり振り構わずすぐさまその場を横に跳躍。

 

 刹那、少年の横を悪魔の爪が振り下ろされ家が破壊された。まるで豆腐を切るかの如く意図も容易く家が木っ端微塵に刻まれた。

 

 当たれば命を刈り取られるだろう威力。家をただ壊すだけでは飽きたらずジュウ、と焼けるような音と共に腐らせていく。

 

破片が飛び散り巻き込まれる少年。逃がすつもりはなく猛追する悪魔。

 

(速度が速い……それに攻撃も重い!!)

 当たれば頭が吹き飛ぶ程の頭部に放たれた蹴りを己の体を瞬間的にしゃがむことでかわし、パンチや蹴りを後退しながら刃でいなし紙一重で防いでいく。

 

 ぶつかり合う刃と拳。甲高い金属音を打ち鳴らしそれはさらに激しさを増す。悪魔が放つ一発一発の重さが少年の行動を次第に遅らせる。しかし少年もただでは黙っていない。ふざけるなと己を渇破し刃を振るう速度を上げる。

 

 命を刈り取る魔爪。それを見切り半身で避けお返しとばかりに刃を突き立てるが逆の腕で振り払われる。か高い金属音が鳴り響く。

 

 弾かれ体制を崩した少年に悪魔は容赦なく鋭い爪を突き立てた。

 

 不利な体制での攻撃。当たれば確実に先ほどの家の二の舞になるだろう一撃。

 

(刃を戻しても間に合わない、なら……!)

 

 このままではヤバいと瞬時に判断した少年は敢えて弾かれた流れに逆らわず独楽のように体を一回転させ自分の得物を横に振り抜く。

 

 振り抜かれた刃と振り下ろした爪が衝突し互いに拮抗する。

 

 衝撃の余波が少年と悪魔の周囲に靡く。

 

 拮抗も一瞬の束の間。

 

 少年は直ぐさま後ろに高く跳び退く。そして着地した刹那―――

 

「我流剣技――刺突撃」

 

 瞬時に両手から右手に刃を持ち替え先端を相手に向けながら左手は刃の先端に添えてそのまま地面を滑空するかの如く疾走し高速の突きを放つ。

 

 意表を付く動き、剣に魔力を籠めた点での刺突。

 

 光を纏った刃は悪魔に当たるが肉を抉ることはなく、素手で刃を掴まれていた。そして少年と得物ごと投げられた。

 

「糞!」

 

「さあもっと楽しませろっ!」

 

 完璧に見切られていることに悪態をつきながらも空中で体制を整え着地。すぐさま振り向かず背後に刃を振るえば身近に接近していた悪魔と鍔迫り合いになりかたかたと刃を揺らす。

 

 「行くぞ、ショウネン!!」

 

 そこからは悪魔の怒涛の攻撃。手加減していたのかさらに上がる速度。少年の視覚が追いつかず次第に相手の腕が霞む。

 

(死ぬわけには行かないっ!!)

 

 視認すら容易ではない、怒涛のラッシュ。それでも少年は必死に喰らいつく。

 

 凶器の魔爪が幾度となく少年を襲い傷をつける。頬に掠る、足、腹、手、至る所に切り傷が増え血が滲みだす。

 

 だが、少年は退かない、いや退けない。

 

 自分が目の前の化け物を倒さなければ少女を守れないのだ。

 

 それだけはさせない。ならば刃を振るえと己に言い聞かせただ自分の感性に従い一心不乱に刃を振るう。

 

 思いと共に次第に上がっていく少年の剣技。無駄を無くせ。最短最速で刃を届かせろ。 

 

 三十、四十と止め処なく鮮烈に響き渡る刃と拳の狂音。

 

 少年の激烈な刃撃。防ぐ、いなす、かわす、刺す、突く、切る、切り上げ、切り下げ、ただ切り殺す。それのみを考え、両断するべく振るわれる刃の嵐。刃の特性を最大限活かす少年の動き。

 

 少年自身の限界を越えた剣技にその場は均衡を保つ。だが、限界を超えようとも刃は届かない。

 

(糞、腕が……!)

 

 悪魔の攻撃を受ける度に腕が微かに痺れ対処が遅れる。一太刀、二太刀と触れ合う毎に刻々と痺れが腕を蝕む。

 

 そして遂に腕に痛みが走りほんの一瞬反応が遅れた。その刹那の瞬間を逃がすほど悪魔は優しい相手ではない。

 

「隙だらけだぞ」

 

「しまッッ……!」

 

 悪魔の爪が遂に少年を捉えた。抉る如く鋭い爪は少年の左手を突き刺さり血飛沫が飛び散る。肉の焼ける匂いがより痛みを引き出す。

 

「アァァアアアッッ!!」

 

 神経を直接弄られてるかのような焼ける激痛に動きが止まり致命傷ほどの隙を晒してしまう。悪魔はそれを逃さず少年の水月に拳がめり込む。

 

「ッッカハ!」

 

 メリメリと異音を発し吹き飛ばされ地面を転がる少年。

 

 更に追い討ちをかけようと飛びかかろうとした悪魔だったが、突如上空から降り注ぐ魔法に後退。

 

「ユーキ!しっかりして」

 

 その間に少女は少年に近づく。

 

 少女は今の今まで少年と悪魔の動きが早すぎて援護が出来なかったのだ。

 

「だ、大丈夫だ……」

 

「そんな訳ないでしょ!」

 

 心配ないと言う少年だが、左腕を見れば嘘だと少女は直ぐ分かった。

 

 悪魔に突き立てられた左腕は肉が抉れ血が吹き出し骨が剥き出しの状態だった。肉も悪魔の爪によって色が変色していた。骨も異常をきたしてるかもしれない。痛ましい程の重傷。

 

(どうしよう、ユーキが死んじゃう!)

 

  焦る少女を退かし刃を支えにふらふらと立ちあがる。苦しげに立った少年の眼は絶望に染まらず瞳は燃えるかのような灼熱。

 

 恐怖を押し殺し覚悟を決め未だに不屈の闘志を燃やし悪魔を見据えていた。

 

 絶望、不幸、恐怖、痛み、あらゆる負の感情に蝕まれているそれを無理やり胸に押し殺し立つその少年の姿に悪魔は愉快に笑みを深める。  

 

「イイ目だ。もっと私を楽しませろ!ソノ目を絶望にソメアゲテヤル」

 

 宣言と共に悪魔は手を広げる。黒い翼が悪魔の感情に同調するかのように渦の如く形を変え、やがては両翼から数十の針翼となりて苛烈に、激流となりて少年と少女に襲いかかる。たいして少女は魔力を練り空中に魔法の矢を具現。

 

「させないわっ!魔法の射手 連弾・闇の100矢(サギタ・マギカ――セリエス・ルーキス!!)」

 

 少女の放つ黒一色の闇魔法が悪魔の針翼と激しく光をは発してぶつかりあう。

 

「ほう。普通の闇魔法ジャナイナ。我の攻撃がこんな容易く消されるとは。闇の中でも異端の消滅か……なんとも珍しいモノを……だが、どうということではない!」

 

 大多数の魔法でも太刀打ちすら出来なかった悪魔の攻撃を少女の魔法が全て打ち消す。だが悪魔は無くなるや否やさらに翼から針翼を放出。迫り来る針翼が少年と少女に飛来する。

 

 少年は姿勢はそのままにすぐさま少女を後ろに投げ飛ばす。

 

「ユーキ!!」

 

 少女の叫びが炎に包まれた村に響く。

 

 たいして少年は刃をしっかりと握りあえて逃げずに狼の如く疾走する。

 

 前進して加速することで正面と上方から降り注ぐ針翼を躱わす。

 

 少年が避けた後の針翼は容易く地面を抉る。当たれば軽傷どこのでは済まない。

 

 躱しきれない物は剣で弾く。ただ弾く。ひたすら弾く。最早全方位と言ってもいい針翼が流星の如く降り注ぐ。

 

 それを片手に持つ剣一本のみで少年は掻い潜る。

 

 しかしとめどなく降り注ぐすべてを防ぐことは適わず、針翼が肩、腹、足に突き刺さり瞬く間に体から血を流す。激痛に顔を歪めるがそれでも少年は止まらず疾走する。

 

「ッッァァッァアア!」

 

 咆哮をあげ、痛みを振り払う。

 

 そしてようやく針翼という死地を抜けた少年は生まれつき少ない魔力をすべて刃に込める。

 

 相手を見れば攻撃直後で隙だらけであり、ここが最後の勝機。

 

 少年は覚悟を決めた。

 

「纏え雷。嘆く稲光、輝く雷光、猛る稲妻、天地終雷――――」

 

 紡がれる詠唱に反応して光が剣に収束する。

 

 迸る聖色。

 

 さらに少年は集中して詠唱を続ける。

 

「集え火の化身。緋(ひ)、紅(くれない)、炎(えん)、焔(ほむら)、業火の炎。堕ちる雷光、集束せしは魔を裁く雷炎――――」

 

 紡がれる詠唱。

 

 迸る雷剣。それを紅蓮の炎が包みこみ覆い尽くす。剣が激しく鳴き、オレンジ色に輝く。

 

 それは悪を滅ぼす雷炎。

 

 神が裁く天罰。

 

 邪を滅する聖光。

 

 剣に纏っていた淡い残光が、粒子となって力を彩る。

 

「ヌ!?」

 

 少年が持つ異様な剣光に悪魔の顔から始めて不敵な笑みが消える。その剣に宿る異常性に気づいたのだろう。

 

――――しかし最早遅い。

 

 気づいた悪魔に少年は最高速度のまま防御の隙すら与えず雷炎と纏う剣を振り下ろす。

 

「敵を滅せ――――――神炎聖雷(ディバインジャッジメント!!!)」

 

 剣からバチバチと雷(いかずち)が暴れ出て周囲を閃光の如き照らす。 

 

 その光も一瞬の束の間、悪を裁く断罪の炎が町を包み大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やったか……ゴフッ!!…………ハァハァ」

 

「ユーキ!?大丈夫!?どうすれば……わたしはっ」

 

 剣を杖代わりに立つ少年は口から吐血した。

 

 血を吹き出すその姿は最早、満身創痍。今すぐ治療しなければ死ぬほど少年の傷は痛々しい。むしろこの傷で生きてるのが最早奇跡に近い。腹は抉られ、足も、手も同様に酷い傷である。

 

(……や、やったか?)

 

 少年は確かな手応えを感じていた。感触はあった。殺った手応えもある――――なのに消えない不信感。背中に氷を入れたようなぞっとするほどの悪寒。

 

 視界がぐにゃりと歪む。

 

「は、はや……く。早く……逃げろ。まだ敵が……生きてるかも……しれない」

 

「貴方を置いて逃げるなんて……出来ないわ。それにこの威力なら……」

 

 少年の問いに少女は必死に治癒魔術をかけながら少年が放った魔法の後を見た。

 

 少年が技を放った場所は一直線上に焦げた焼け野原と化していた。

 

 悪魔も、家も、木も跡形もなく、文字通り総てを消し去っていた。回避も防御すらも許さず一瞬にして過ぎ去る雷(いかずち)。全てを燃やす業火の炎。その二つの破壊があわさり凄まじい威力を発揮していた。

 

 今もなお術の名残が残っているのか、辺りはバチバチと音を奏で炎も轟々と燃え盛り如何にその魔法が凄まじかったのを物語っていた。

 

 だがその代償は大きすぎた。

 

「ゴフッッ!」

 

 彼の口から吹き出す血が止まらないのだ。夥しい血の量は地面を侵食する。

 

「ユーキ!なんてことを!」

 

 少女が悲痛の声を上げる。原因は少年がもつ剣。魔剣にあった。少年は生まれつき魔力が極端に少なかった。初級並みの魔法を数発、中級ならば一発、よくて二発打てば空っぽになるほどの極小の魔力量。それを補っていたのが少年がもつ魔剣だった。

 

 魔剣は相当な魔具に位置していて、切れ味は鉄をも切り裂き、魔力を少し込めれば魔法威力を数倍高めるという破格の武器性能を発揮するのだ。

 

 しかし魔剣と呼ばれるだけの代償がある。

 

 今の二つだけなら代償は必要ない、だが三つ目の能力がそれに当てはまる。

 

 自分の魔力量以上の魔法を使う場合、己が自身の寿命を喰らうことによりそれを実現させるのだ。

 

 云うならば人の生命力を喰らい魔力を高める。

 

 これだけの威力。どれだけ代償を払ったかなど考える余地もなかった。

 

(数年……いや、もしかしたら数十年……)

 

 それを知っているからこそ少女は絶句するしかなかった。涙が溢れそうになるが必死に耐える。今はそうしてられないと己に発破をかけ急いで少年を一刻も早くどうにかしようと思考する。

 

(早くしないと間に合わないっっ!)

 

 出血が酷い少年の傷痕を見て余計なことを考えてる余裕などないと振り払い。一刻も早く治療必要だとそう思い拙いながらも少年の肩を担ぐ。

 

「と、とにかく一緒に一刻も早くここを――――」

 

「ッッ危ない!!」

 

 少女が少年の肩を貸し移動しようとした刹那。少女は少年に突き飛ばされた。

 

「な……なにが……ッッユーキ!!!!」

 

 少女の悲痛な叫びが響く。何かが少年を貫いていた。

 

 少年は咄嗟に防ごうと剣を掲げたが剣が真っ二つにされそのまま少年を貫くまでに至っていた。

 

「フッフッフ。まさか、ここまでダトハナ。ッハハハハハ。この我がこの姿になろうとは」

 

 炎が不自然にモーゼの如く二つに割れた。その中から先ほどの悪魔は姿を現す。

 

 人間並の大きさだったはずだが、今は3メートルはある化け物に変貌していた。背中にある翼がばさり、とはためき二つから六つへと増え、よりどす黒く黒から暗黒の翼へと昇華しより禍々しさが増大していた。

 

 なにより異常なのは魔力。尋常じゃない魔力に風が吹き上げ靡く。その様子はまるで空気が、風が、その魔力に当てられ悲鳴をあげているようであった。

 

 ゆらゆらと蠢くように視認出来る程の膨大な魔力が少女と少年を絶望へ誘う風。

 

 体から煙をはっしていてダメージを受けた後があったがそんなもの塵にも等しい希望にもならない。

 

 常軌を逸している存在。

 

 悪魔すら生ぬるい災禍そのもの。

 

 圧倒的な存在。

 

 その悪魔の一指し指から伸びる黒い魔力が少年を無慈悲にも一突きに突き刺していた。

 

「ッッ!!」

 

 それを引き抜くと少年は言葉にならない声を漏らし血飛沫を撒き散らしながら膝を着きそのまま倒れ伏した。

 

「ユーキ!!」

 

「効いたぞ少年。まさかココマデダッタトハ。まさか、その年でオリジナル魔法―――それも古代呪文並みの威力。その小さき魔力でとは……感服したゾ。それもその剣が原因だな……相当な魔具でダナ。魔力を込めれば魔法威力を数倍高めるだけではなく、魔法の融合をも可能とは……切れ味といい、耐久性といい、あの少ない魔力量であの威力。相当上位な魔具だったが残念ダッタナ、相手が悪い。最上級悪魔たる我にはタオシウルニハナラナカッタナ」

 

「……くそっ、た、れ」

 

 立とうと力を入れるが最早ピクリとも体が動かなかった。指一本さえも動きもしない。

 

 血が地面を紅く濡らす。紛れもなく瀕死の状態。

 

 力の差がそもそも違いすぎた。存在が別次元。分かりきったまでの戦力差であり、これが現実だと雄弁に語っていた。

 

 殺し合いにおいて多勢を決する要素は常に出力、速度、防御力。

 

 すなわち純然たる能力値であり、大が小を圧倒するなど子供でも分かる方程式。

 

 鼠は猫に噛みつけたとして、獅子を前には死を悟る。その現実がそこにはあった。

 

「遊びはコレマデダ」

 

 悪魔がゆっくりと命を刈り取るべく腕を振り下ろした。魔力を纏った爪の刃が飛来する。それに対して少女は手を広げ倒れ伏す少年の前に立つ。

 

 殺させはしない。その一心で少女から迸る魔力渦。発現するのは彼女の使える最大の守りの盾。

 

「ユーキは殺させないわ……カイ・アイ・イフリス・ストラック・慈悲の女神。天使の加護。全てを包む鳳盾。天よ。汝の力を我に与えたまえ――――絶対守護(ホーリーアイギス)」

 

 鋭い視線のままに両手を前に突き出す。

 

 出現せしはすべてを包む慈悲を感じさせる聖盾。それが無数の如く障壁として現れ、それが重なり合い出来た光輝に輝く。

 

 家を豆腐のように切り刻んだ魔力爪が少女の盾を前に激しく火花を散らしながら攻撃を通さず完璧に防いでいた。

 

「……フム。なかなかの障壁ダナ……ならば我も本気を出そう」

 

「なに、これ……」

 

 少女の目に映るはさらに爆発的に上がる悪魔の魔力。先ほどのが全力ではなかった証拠であった。

 

「デモンズスラッシュ」

 

 紡がれる言葉と共に振り下ろされる爪。

 

 少女の魔法が容易く引き裂かれ始める。何重もの重なりあった障壁が蹂躙されていく。 

 

「ッッ!おね、がい。もって……!!」

 

 最後の一枚まで障壁を削られそれでも少女は耐える。

 

(駄目!ユーキは殺させないっ!!)

 

 少年を守るべく少女は奮闘する。

 

 奮闘空しく破壊は止まらない。障壁がガラス音と共に罅割れていく。残るは一枚。己の魔力をすべてをその一枚にそそぎ込む。それも一瞬の均衡の末、最後の障壁が呆気なく罅割れた。

 

「う、そ……」

 

 残酷なまでの結果に少女は呆然と虚脱する。 

 

「惜しいサイノウダナ。我に遇わなければ相当の使い手にナレタハズ。なんとも運が悪い」

 

 勿体無いなと嗤いながら、最後の障壁を容易く破った悪魔は少女の首を掴み持ち上げる。抵抗空しく少女の体は宙にゆっくりと浮く。

 

「アァ……ッッ」

 

「やめ……ろ!!コロス、その、手をはな、せ!」

 

 地面に這いつくばる少年の姿に悪魔は口角を上げ歓喜する。

 

「その目だ、憎悪。その奥には絶望。強い意志を持つものが抱く絶望!!希望から落ちる絶望!!自分の無能さを理解し、闇に落ちる瞬間!!!!コレガミタカッタ!!」 

 

 少年を見下し嘲笑うかのように高笑いを上げ高揚する悪魔。

 

 絶望こそが自分の生き甲斐とでもいうべく悪魔はたからかに笑い声を響かせる。

 

 これが、これこそが欲しかったのだと悪魔は叫ぶ。

 

 たいして少年は必死に己を奮い立たせようとするが、動かない。今までの限界を越えた戦闘のツケが回ってきていた。

 

「うご……け。うごけぇぇぇ!!」

 

「ふむ。タダ石化するのだけでは面白くない。この我がこの手で裁いてやろう」

 

 必死に足掻こうとする少年を余所に悪魔は最後の絶望と言う名のフィナーレを飾るために手に漆黒の剣を具現化する。

 

「さぁ、最後の絶望を見せろ。この少女を我自らこの手で裁こう……」

 

 愉悦の笑みでその顔を醜く歪ませる。

 

 もっと餌という名の絶望を遣せと目が語る。

 

「……ゆ…………き……」

 

 ――――ヤメロ

 

 苦しそうに手を伸ばす少女に悪魔は少年に見せるようゆっくりと剣を振り上げる。

 

 その瞬間を這いつくばって見ることしか出来ない。どれだけ願おうともどれだけ必死になろうとも体が動かず手を伸ばすのが精一杯であった。

 

 少年の顔が絶望に染まる。

 

 ――――ヤメテクレ

 

 それだけはやめろ。やめてくれと少年は願う。

 

 視界が滲む。心が痛い。

 

(誰でもいい、自分が死んだっていい、地獄に堕ちたっていい、だから誰か……神様助けてくれ)

 

 信じてもいない神すらにも悲哀を籠めて慈悲を乞う――――だが

 

 そんな都合のいいことなど起こるはずもなく。

 

「自分の弱さを呪え!少年!」

 

 少年の思いは、祈りは虚しく。漆黒の剣は意図もたやすく残酷なまでに少女を貫いた――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤメロロロォォオ!!……ハァハァ、夢か……」

 

 苦しそうに胸を押さえながら青年はしばらく息を整えることに集中する。

 

 瞬く落ち着いた頃には先ほどのが夢だと気がついた。

 

 気分は最悪で、汗の不快感がよりそれを増徴させる。ベットから起き上がり喉を潤すために机に置いてあるペットボトルの水を飲みほし喉を潤す。カーテンを開けば小鳥が鳴き、さんさんと輝く太陽が目に入り思わず眼を細める。

 

 心の不快感が薄まり落ち着きを取り戻す。

 

「ここずっと見なかったんだがな……まだ乗り越えてない証拠か」

 

 もうずっと昔になる忌々しい過去。今でも簡単に思い出せる。村を燃やす燃え盛る炎、人々に襲い掛かる悪魔達や石化する人間。

 

 その過去の傷跡はそうそう忘れられる筈も無い。

 

 自身の無力さ、弱さ、愚かさ。それが招いた悲しい結末。自身の大切な存在の少女を失ったという事実。

 それが青年の心をずっと嬲る如く蝕んでいた。

 

 知らずに内に自然と力が入っていたらしい。握ったペットボトルがピキピキと悲鳴をあげやがて耐え切れず一瞬にして潰された。

 

「……しまったな、あれから――――年か……いや、7年か……」

 

 潰したペットボトルをゴミ箱に捨て立てかけてあった黒いコートを羽織る。そしてベットの横にある写真立てを見てもうこんな時が経ったのかと青年はしみじみと思う。

 

 そこにはまだ青年が小さかった頃の少年の姿。

 

 無愛想な顔の少年と隣で笑う少女の姿が映っていた。

 

「行ってくるよ。――――哀」

 

 最後に仕事道具を持ち、青年は扉を閉めた。

 

 ばたりと閉められた部屋には太陽の光が輝き、少年と少女が写る写真を優しく照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界は魔法に満ち溢れている。一般で言う架空の存在の魔法使いと言う人物が実際に存在する世界。青年ことユーキもその魔法使いがいる魔法世界で生まれた。もちろん地球にも魔法使いが存在するが、地球に住む人からして見れば魔法使いの存在を知るものは少ない。全員が魔法を使え魔法が公になっている魔法世界とは違い、地球は魔法やらが一般的に架空のものとされているため、魔法世界と比べると魔法使いの数も当然少なかった。

 

 そんな魔法世界とは違い、秘匿されている地球の日本にあるとある場所。人通りが数多く、辺りは人で埋め尽くされていた。活気に溢れ喧騒的。周囲にある木は人を祝福するかのように桜が舞い散っていた。

 

 麻帆良学園都市。そこに一人の青年、ユーキが立派に聳え立つ学園を見上げていた。

 

 ここ麻帆良学園は小・中・高・大のエスカレータ式であり、どの建物も他と比べる訳もなく、凄まじい程の大きさと広さを兼ねそろえ、とても普通の学校には見えない建築物である。現にユーキもこの学園都市を見て少しの驚きとやりすぎだろうと呆れが入った表情を浮かべていた。

 

「ここか……こんな所に依頼を遣すとは一体何を考えているんだか、まぁ下らん依頼なら直接制裁を下せばいいか」

 

 物騒な言葉を吐いてユーキは桜が万遍なく散る桜道を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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