ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:空の丼

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オルテ帝国在住、那須与一様リスペクト



レオとエルフの二人組

 

 素朴なデザインでありながらも頑丈さを感じさせるライトアーマーで胸や腰など最低限の箇所を保護し、左腕には緑玉色のプロテクターが輝きを放っている。

 

 今、鏡の前に立っているベルの格好だ。

 

「おー、いいんじゃない? なんていうか、前より冒険者らしくなったと思うよ」

 

「だよねだよね!? しかもこれ凄く動きやすいんだよ。いやー良い買い物したなぁ」

 

 ベルは誕生日プレゼントをもらった子供のように嬉しそうに防具を撫でる。

 

「そのプロテクター、エイナさんが買ってくれたんだっけ? それも似合ってんじゃん」

 

 昨日のデート(本人はデートと認めないが)の内容は昨日のうちに聞いている。なんでも『バベル』の8階に【ヘファイストス・ファミリア】の若手が作製した、僕らでも買える値段の防具が売ってあるらしい。

 

 そこでベルは今つけているライトアーマーをほぼ有り金全部費やして購入し、帰りにエイナさんからプロテクターをプレゼントされたとのこと。

 

 他にもヘスティア様が『バベル』で働いてたとか、「リューさんって何者なんだろう……」とか聞かされた。

 

「レオも今日から特訓なんでしょ? 頑張ってね。……その、お手伝いの方も」

 

 僕のほうの事情、今日からしばらくダンジョンに潜れないことも昨日のうちに話してある。

 エイナさんにはベルの方から伝えてもらうことにした。修業の交換条件なわけでダメと言われることはないだろう。

 

「すぐに戦えるようになって帰ってくるよ。それじゃ、行こうか」

 

「うん。神様、行ってきます!」

 

「う~ん、いってらっしゃぁ~い」

 

 疲労でベッドの沈んでいるヘスティア様に見送られながら、僕らは各々の目的地に向かった。

 

 

 

 西のメインストリートを外れた少し深い路地裏にある【ミアハ・ファミリア】のホーム兼お店、『青の薬舗』。この店の裏に回り、もっと路地の深くまで行くと、人気のない広場に辿りつく。そこが僕がナァーザさんから弓を教えてもらう場所だ。

 

 広さもそこそこで人も寄り付かないため修業にはうってつけの場所だ。かくいうナァーザさんも昔はここで弓の扱いを学んだとか。

 

 

「全然ダメ」

 

 

 とりあえずと、弓を射てみたところ清々しいまでに一刀両断。いや、分かってたんだけど。

 

「まず姿勢がなってない。そんなフラフラしたままで射たって狙いが定まらなくて当たり前。ダンジョンじゃ魔物に囲まれながらの戦闘になるけど、まずはしっかりと構えて的に当てれるようにならないと」

 

 そう言うとナァーザさんは自身の弓を構え、矢を放つ。

 

 矢は広場の真ん中に立てた的代わりの丸太のど真ん中に吸い寄せられるように飛んでいき深々と刺さる。

 

「……こんな感じ。やってみて」

 

「は、はい」

 

 僕はナァーザさんの構え方を見よう見まねで真似する。すると突然制止の声がかかる。

 

「待って。一番大事なことを忘れてた」

 

「なんですか?」

 

「呼び方」

 

「……はい?」

 

 何のことを言っているのかわからず聞き返すとナァーザさんは鋭い眼光で僕を見る。

 

「私のこと。これからは師匠って呼ぶこと」

 

「……」

 

 それが一番大事なことなのか。たしかに教えてくれる人を敬うのは大切なことだけど。

 

「……返事は?」

 

「……ハイ、師匠」

 

 僕が師匠というと尻尾をブンブン振りながら小さくコクリと頷いた。

 

「それともう一つ」

 

「今度は何ですか?」

 

「口を開く前と後にミアハ様バンザイとつけること」

 

「絶対嫌ですミアハ様バンザイ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日からレオには本格的に働いてもらう」

 

 特訓から帰ってきて、開店準備が出来た後、師匠からそう告げられる。店内には師匠とミアハ様、僕の3人。

 

「お手柔らかにお願いします」

 

「早速だけどこれを持って」

 

 カウンターの上にゴトッと音を立てて持ち手のついたケースが置かれる。木製のアタッシュケースみたいな感じだ。箱を開けると中には昨日見せてもらった『青の薬舗』の商品の一部、主にポーションやハイ・ポーションといった回復薬がずらっと並んでいた。

 

「店内は正直私たちで足りてる。というか客なんてレオ達しか来ないから店に居座られても迷惑。だからレオには外を回って商品の売り込みをしてもらう」

 

 なるほど。昨日昼から店番をさせてもらったが確かに客は1人も来なかったし。まずは店の存在を知らしめないとね。

 

「売り込む価格は基本昨日教えた価格。顧客になってくれそうなら多少の値引きはあり。逆にチョロそうな子がいたら基本以上の価格で売ってもいいよ」

 

 黒い笑みを浮かべる師匠。ミアハ様は冗談として捉えてるみたいだけどコレ本気の目だ……。つか、そんなチョロイ奴今時いないっしょ。

 

 しかしその後わずかに目を薄めて隣を睨みながら、ただしと付け加える。

 

「間違ってもタダで配るような真似はしないで。そんなことしても冒険者は客になんてなってくれないし、ただ損するだけ」

 

 ミアハ様のご尊顔が引きつってらっしゃる。

 

「オーケー?」

 

「了解っす。どのあたりの層に売り込んだ方がいいとかあります?」

 

「ない。売れるならだれでもいい」

 

「了解でーす」

 

「ナ、ナァーザよ、もう少し、こう、信頼の得方などをレオに教えてもいいんじゃないか?」

 

「うちはその信頼が取れてないから客がいない」

 

 そもそも―――、とミアハ様に対する不平をこぼす師匠。これは長くなりそうだからミアハ様には申し訳ないが、さっさと働きに出るか。

 

「それじゃあ、行ってきますねー」

 

「ま、待ってくれレオ。せめて私も連れて行ってく―――」

 

「ミ・ア・ハ・様」

 

「……ハイ」

 

 

 

 

 

 

 

 店を出てまず向かったのは北西のメインストリート、通称『冒険者通り』。この場所なら来る人はほとんど冒険者だから売り込みもし易いはず。

 

 そう思ってたんだけど、

 

「あ? ポーション? いらねぇよ間に合ってる」

 

「……失礼だがどこのファミリアだ? 『ミアハ・ファミリア』? 遠慮しておこう。聞いたことのないファミリアからは買わないようにしている」

 

「うーん、そんな特別な効能があるわけでもないんでしょ? じゃあ要らないわ」

 

 なかなか買ってくれる人はいなかった。

 

 ごった返すほど人がいる大通りに数時間いたのに、スルーする人がほとんど、聞いてくれた人も渋い顔をする人ばかり。買ってくれた人も少しはいたけど、そういう人たちは急ぎの用で買っていったから【ミアハ・ファミリア】という名前を聞かずに立ち去って行くという結果になった。

 

 買ってもらえない原因についてだけど、その多くはもう買った後だということだった。冒険者通りだから、という理由で来たのは良かったが、他の商業系ファミリアの人たちだって同じこと考えてるはずだということを失念していた。

 

「くそー、もっと穴場的な場所探さないと駄目かぁ。……ん?」

 

 ふと、大通りの奥に見たことある人影が。

 

「おーい、レフィーヤさーん」

 

 腕を振りながら近づくとあちらもこちらに気が付く。

 

「ん? あなたは……たしか闘技場にいた、えっと、……糸目クン?」

 

「レオっす」

 

 糸目だけども、ティオナさんはそう呼んでたけども。そっちの呼び方の方が印象強かったか―。

 

「レフィーヤ、彼は?」

 

 レフィーヤさんの隣にいた女性が尋ねる。うおっ、凄い美人さんだ。絶世の美女って呼ぶにふさわしい。

 

「あの子ですよリヴェリア様、ほら……ベートさんが悪酔いした日、酒場で店員さん達と一触即発になってた……」

 

「ああ、あの時の」

 

 リヴェリア様と呼ばれた女性は、レフィーヤの言葉で酒場の一件を思い出したようだ。そしてバツが悪そうな顔をする。

 

「あの時は、我々の軽はずみな言動でキミたちに迷惑をかけた。済まなかった」

 

 頭を下げだすリヴェリアさんを見て僕は焦る。

 

「いやいやっ! 顔をあげてください! 貴方が謝る必要ないですよ!」

 

 そもそもこの女性、一つ一つの所作が綺麗な性で物凄く高貴な人に見えるんだよね。そんな人に頭を下げられると逆にこっちが申し訳なくなる。

 

「そもそもあの一件があったおかげで、もう一人の仲間と打ち解けることが出来たりもしたんで、悪いことばかりじゃなかったし。だからあの時のことはお互い水に流しましょう?」

 

「……そう言ってもらえると助かる」

 

 やっと顔をあげてくれた。

 

「私はアイズやレフィーヤと同じ【ロキ・ファミリア】に所属するリヴェリア・リヨス・アールヴだ」

 

「レオナルド・ウォッチです。レオでいいです」

 

「ああ、よろしく、レオ」

 

「よろしくです。ところでリヴェリアさんとレフィーヤさんはここで何をしてたんですか?」

 

 二人に質問する。もちろん、『青の薬舗』のバイトとして。

 これで二人がこれからダンジョンに潜る予定ならポーションを買ってくれるかもしれない。

 一応知り合いだし。

 

「私たち、さっきダンジョンから帰って来たところなんです。本当はあと数日は潜り続ける予定だったんですけど……」

 

「少々アクシデントに見舞われてな。一旦ホームに帰ることになったのだ」

 

 あ~、帰ってきたばかりかぁ……。じゃあ期待は薄いかなぁ。

 

「今ポーションを売ってるんですけど、買ったりしません……?」

 

 でもダメ元で聞いてみる。

 

 二人はそれを見て苦笑いを浮かべた。

 

「あー、済まないな、レオ。今は買う必要がない」

 

 ガクッ

 

「ですよねー。はい、そんな気はしてました。ここ数時間こんなんばっかですし」

 

 肩を下げて、退散の準備を始める。しかしそこでレフィーヤさんが目を光らせる。

 

「買ってもいいですよ」

 

「え!? ホントですか!?」

 

「はい。ただし条件があります」

 

「な、何でしょうか……?」

 

 レフィーヤさんはその可愛らしい顔に微笑みを浮かべ、僕の顔にグッと近づけてくる。

 

「ティオネさん達にお願いされてたんです。もし貴方に会う機会があったらスキルについて聞きだしておいて、と」

 

「つ、つまり……?」

 

「貴方のスキルを教えてくれたら何本でも買いましょう」

 

「……」

 

 この子は闘技場の時もそんなにグイグイ来ることは無かったし、その性格は天使的なアレだと思ってたけど、とんだ小悪魔じゃないかっ!

 いや、レフィーヤさんにお願いしたらしい痴女的な二人組が狡猾なのか……?

 

「はぁ、止めろレフィーヤ。はしたないぞ。レオも困っている」

 

 天使はここにいた。

 いや、リヴェリアさんの見た目からしたら女神か。とにかくリヴェリアさんナイスです!

 

 レフィーヤさんリヴェリアさんには逆らえないらしく、咎められたことで体を丸くする。でも表情は諦めてはいないようだ。

 

「ううぅ。で、でも、リヴェリア様も気になりませんか……? 酔っ払ってたとは言えベートさんをどうやって転ばせたのか。スキルを使ったということはもう分かってますし」

 

「確かに気にはなる。だがそれは他派閥のファミリアの【ステイタス】を聞いていい理由にはならんだろう」

 

「……はい。分かりました」

 

 僕の中で【ロキ・ファミリア】への好感度がアップする。

 

 アイズさんを除いて僕が知ってる【ロキ・ファミリア】の人って、ベルを笑い者にしたベートさん、グイグイ迫ってくるティオネさんティオナさんレフィーヤさん。

 

 なんかこう、有名な冒険者って強引な人ばかりなのかと思ってたよ。

 

 

 その後お二人には少しアドバイスをもらった。

 この北西の区画には大手の医療系ファミリア【ディアンケヒト・ファミリア】が店を構えているらしく、回復薬系を求める冒険者は全てそっちに流れてしまうらしい。

 

 他にもリーテイルという道具屋もあり、そこでもポーション程度なら売っているらしい。

 そんなに大きい売り場が2つもあるならそりゃあ僕みたいなよく分からない人から買ったりはしないよなぁ。

 

「話しかけるなら駆け出しの冒険者がいいだろう。新人はまだ右も左も分からない状態でスタートをする。当然ポーションの良し悪しも分からないだろうから、色々教えてあげると良い」

 

「なるほど」

 

「あ、何も知らないからって騙そうとかしちゃいけませんよ?」

 

「しませんよそんなこと」

 

 ナァーザさんはやれって言ってたけど。

 本来より高い価格で売るのも上手く商いをするためには必要なんだろうけど、それはお客さんがいて初めてできることだろうし。ミアハ様も言ってたけど今の『青の薬舗』に必要なのは信頼だ。それを失うようなことは出来ない。

 

「それじゃあ私たちはこれで失礼する」

 

「売り込み頑張ってください」

 

「ありがとうございます。リヴェリアさんもレフィーヤさんも、頑張ってください。そして怪我をしたら『青の薬舗』をよろしくお願いします」

 

「……商魂たくましいな」

 

 2人と別れて昼食を食べた後、今度はギルドに近い位置で新米っぽい人たちを狙って話しかけ続けた。

 

 そして冒険者から苦情が出ていると、駆け付けたエイナさんに絞られた。

 師匠にはよくやったと報告した際に褒められたけど。

 

 





弓のことなんて語れませんし、特訓部分はほとんどカットです。
基本レオが色んな人と話をするだけの第2章です。

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