ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:空の丼
「ちょっとちょっとそこの冒険者さん。ダンジョンに潜る前にアイテムの確認はちゃんとしましたか? ポーション足りてますか? 武器は装備しないと意味がないですよ?」
「…………あ、足りてる? 装備してる? そうですか、ミアハ印の回復薬が買いたくなったら西の区画の『青の薬舗』へどうぞお越しください!」
「ふぅ……。あっ、そこのお兄さーん!」
今日はバベルの入り口付近に待機して売り込むことにした。
今日の特訓は今までで一番ハードだった。理由はもちろん昨日二日酔いだなんて理由で休んだからだ。2日分鍛えるって言ってたけどあれ絶対バイト休んだ腹いせも含まれてたな、うん。
酔ってて覚えてなかったんだけど、どうやらミアハ様にもっと師匠と一緒に居てやれとかアドバイスしてたらしくて、それがなかったらもっと扱かれてたかも。ナイス昨日の僕。
それはそうともう小一時間ほどここにいるけど、何が驚いたって冒険者の量だよね。そりゃあこの時間は元いた世界で言う通勤ラッシュの時間帯だけど、冒険者って曲がりなりにもいつ死んでもおかしくない職業でしょ?
それを二十歳にもなってない様な人たちだって構わずたくさんダンジョンに挑んでるんだから……凄いなぁって。
「レオー」
「お、そろそろ来るころだと思ってたよ、ベル」
今日は僕の方が早く出たから、多分ベルより先に『バベル』に着くだろうなと思っていたが見事予想は的中した。
手を振ってくる相方にこちらも手を振りかえしていると、隣に大きなバックパックを背負った小さな女の子がいることに気が付く。
「こんにちは。あなたがレオ様ですね。ベル様からお話は伺っております。お仕事ご苦労様です。リリはベル様のサポーターを努めさせて頂いてますリリルカ・アーデと申します」
「うん、僕もベルから話は聞いてるよ。よろしくね、リリ」
ペコリと頭を下げるフードをかぶった女の子にこちらもペコリ。リリルカ・アーデ、ベルからは物凄く優秀なサポーターだって聞いてる。
あと、さん付けは駄目などの変わった持論も持ってることも。なので気兼ねなく最初から呼び捨てで挨拶させてもらう。
しかし、聞いていたとはいえショックが隠せない。
こんな小さな子がダンジョンに潜ってるなんて。しかもベルから聞いた話じゃファミリアでもあまり良い扱いを受けてないとか。
……ん? この子……?
「リリ、ちょっと失礼だけど歳、いくつか聞いていい?」
僕の質問に二人は揃って怪訝な顔をする。
「本当に失礼ですねレオ様。女の子の年齢なんて聞いては駄目ですよ?」
「どうしたのレオ?」
「うん? いや、ちょっとね……」
年齢を聞いた理由は簡単。この子がだから見た目で判断できなかったため。もしかしたら年上とかいう可能性もあるしね。
でも、反応とか舌足らずなしゃべり方とかを聞くに年相応っぽい。
……ていうか何で魔法かスキルまで使って変装してるんだ? もしかして変装しないといけないほど過酷な環境で日々を生きてるとか……?
こんな小さな子がそんな苦労をして孤独に生きなければならないとか、もしかしたらこの世界は実はヘルサレムズ・ロットより残酷なのかもしれない。
「リリ、ポーションあげるよ」
「ふぇ? な、何でですか……?」
まぁただの自分勝手な同情なんだけど。そんなこと言ったらやっぱりこの子も怒るだろうなぁ。
「んー、初回サービスかな? それにいつもベルがお世話になってるみたいだしそのお礼も兼ねて」
同情もあるけど言ったことも嘘じゃない。
「……ありがとうございます」
さっきまでの溌剌とした口調がこの時だけは小さくなった。
「どういたしまして。はい、ベルも」
「え、いいの? ありがとー!」
「ん、500ヴァリスね」
「うえぇぇえ!? なんで僕からはお金とるのさ!?」
全く疑ったりせず飛びついて来たウサギに師匠譲りの黒い笑みを浮かべて代金を請求する。
「さっき言ったじゃん。リリは初回サービスだし、あと小学生以下無料ってよくあるじゃん?」
「僕だってレオから買うの初めてだし、後半意味わからないんだけど」
「ベル風に言ったら……、女の子だから?」
「……なら仕方がないね」
「ぷっ、アハハハハ、何ですかソレ? 理由になってませんよ?」
渋々という形で何故か納得するベルに、それを見てコロコロと笑うリリ。うん、やっぱりそうやって笑ってる方が年相応な感じがしていいね。
「ベル様、そろそろダンジョンへ向かいましょう。探索の時間が無くなってしまいますよ?」
「そうだね。じゃあレオ、またあとでねっ」
「おー、またー」
しばらく二人の後ろ姿を見送る。リリはなんとなく訳ありっぽいけど悪い子じゃなさそうかな。
さて、と呟き僕も気を引き締める。今日は師匠からたくさん稼いで来いと厳命されてるからね、どんどん行くぞー!
いつもみたいな年相応なリリも好きです。