ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:空の丼
リセット
「サポーターさん、サポーターさん。冒険者を探していませんか?」
「えっ?」
「混乱していますか? でも、今の状況は簡単ですよ? サポーターさんの手を借りたい半人前の冒険者が、自分を売り込みに来ているんです」
「僕と一緒に、ダンジョンへもぐってくれないかな?」
「―――はいっ、リリを連れていってください!」
なんて掛け合いを目の前でされた僕はどうすればいいの?
なんかもう雰囲気的に感動的なラストみたいになってるけど、え? このあと僕の挨拶? 折れるわ~。
「えーっと……前に自己紹介はしたけど、レオっす。今日……はちょっと用事あるから次のダンジョン探索から一緒に潜ることになるから、よろしく」
精一杯の愛想笑いを浮かべて挨拶をする。
うん、やっぱ無理があったよ。リリの目が冷たい。なんで水を差したの?って目で見てくる。しょうがないじゃん。
「……今日からベル様のサポーターを努めさせて頂くリリです。以後お見知りおきを」
ベル様のってところを殊更に強調してくるなぁ。
「ちょ、ちょっとリリ? レオは僕の仲間なんだ。悪い人じゃないから安心していいよ」
「ベル様がそう言うなら……」
そう言いながらも、ベルの影に隠れるような形でこちらを睨んでる……。
まあ、そんな簡単に打ち解けられると思ってないから大丈夫。リリの事情は把握してる。
今まで冒険者に虐げられてきたんだ。
やっぱりベル以外の冒険者をそう簡単に信頼は出来ないと思う。
「そもそも次のダンジョンからってどういうことですか?」
「うん、今日は『青の薬舗』……僕がお手伝いをしているお店にこれから行かなきゃならないんだ」
「じゃあ何でここまで来たんですかっ? 別に今日じゃなくてもよろしいのでは?」
棘があるなぁ。でも前みたいに偽った姿で話されるよりマシなのかな。マシなはずだ。マシだと思おう。
「それはベルが、今日の内に挨拶を交わしておきたいって……」
僕らが彼に視線を向けると、
「だって……せっかくの新しい仲間だから、早く仲良くなった方がいいと思って……」
顔を少し赤くしながら申し訳なさそうに話すベルの姿にリリと顔を見合わせ、破顔する。
「うん、そうだよね。早く仲良くなった方がいいに決まってる」
「それじゃあレオ様、これからよろしくお願いします」
僕は握手をしようと手を差し出す。
リリはまだおっかなびっくりって感じだけど、それでも僕の手を取ってくれた。
さて、所変わって『青の薬舗』。
「レオ、ブルーパピリオの翅取って……」
「はいっ……どうぞ! あれ? ミアハ様、さっき作った試薬の方はどこにあるかわかりますか!?」
「それならこっちにあるから安心してよいぞ。それよりこっちの卵を運ぶのを手伝ってもらえぬか?」
「あっ、わかりました」
僕ら三人は新薬『デュアル・ポーション』の開発に取り組んでいた。
魔物の卵の採取に成功した僕らは、あらかじめクエストで依頼していた他の素材が納品されたことで、早くも新薬の開発に取り掛かることが出来た。
そこまで手伝わせるのは悪いとミアハ様には一度断られたが、乗りかかった船だ。どうせなら最後まで手伝いたい。
しかし『調合』って思った以上に大変だった。いくつもの試験管に溶液を分けて把握してなきゃいけないし、溶液によっては時間経過でダメになる者も多いし、かといって杜撰な調合の仕方をしていたら失敗するし。
こんな世界だから調合も魔女の窯みたいなのに素材を適当に投げ込んでグルグルかき混ぜれば成功するものだと……。
このあたりの調合のやり方は学校の化学の時間にたまにやった実験とかと変わらないのかな。
でもさすが師匠。これだけ複雑な配合をたくさんしているのに動きに淀みがない。
集中力もハンパじゃなく朝からもう3時間以上、手を止めずに調合を繰り返している。
最初の失敗作から始まり徐々に完成品に近づけていっている。
「―――出来たっ!」
「おおっ」
「よっしゃ!」
そして遂に完成した。な、長かった……。
完成したデュアル・ポーションはいつまでも眺めていたいと思うほど鮮やかな濃い青色をしていた。
「これがデュアル・ポーション……」
今までなかった全く新しい商品の完成を目の当たりにして、心が感動に震える。
よかった……今まで頑張ってきて本当に良かった……!
「……さて、ここからもうひと踏ん張りだよ、レオ」
「うむ、気を抜かずにいこう」
僕が一人感動していると、師匠とミアハ様は口を引き締めて立ち上がる。
「え? え? もう完成したのにまだ何かあるんですか?」
「まだ一本しか完成していない……。これから素材が尽きるまで作らなきゃ」
あ、そうか……。これから売り出す商品だし、当たり前か。
「余っている素材の量で考えると……あと20本程度か」
20……!?
気が遠くなりそうな数字に一瞬眩暈を感じる。
ええい! 乗りかかった船だ! 最後まで付き合いますよ!
日が落ち始めてきた頃、やっとデュアル・ポーション製作の全工程が終了した。
「やっと終わった~~~~!!」
「お疲れ、レオ」
本当に疲れた。ただの雑用なのに。とりあえず僕に調合は向いてないや。精神的に参りそうだ。
店の椅子に腰かけてミアハ様が用意してくれた飲み物を飲んでいると師匠がデュアル・ポーションの入った試験管を持ってこっちに来る。
「これ、手伝ってくれたお礼。一本しか余分に作れなかったけど……」
「ありがとうございます。僕は魔法使えないんでベルに渡しますね」
「うん。あともう一つ……。明日からはもう特訓にもバイトにも来なくていい」
「え!?」
まさか破門!? 愛弟子って言ってくれたの嘘だったんですか!?
「勘違いしないで……。レオにはもう弓の基本は教え終わったし、お店の方も充分過ぎるほど助けてもらったから……あとは私たちで頑張ることにしたんだ」
狼狽えていると師匠は口元を綻ばせてそう言った。
「弓の事とか、それ以外でも相談があったらいつでも来て。力になるから」
「はいっ……これからもよろしくお願いします」
コクリと頷く師匠とミアハ様に別れを告げ、僕はホームに帰った。
やっとリリの出番が来ました!
これから大活躍してくれることでしょう。