ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:空の丼

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久しぶりのダンジョンです! 最後にダンジョンの描写をしたのが9話なので20話ぶりのダンジョンになります! 自分でもビックリです!


失われる色

 バイトがなくなって2日、やっと僕もダンジョンに潜ることになった。これからは僕とベル、リリの3人でダンジョンに潜る日々が続きそう。

 

 そういうわけで僕ら3人は各自『バベル』の前で集合する約束をしていた。

 

 本当なら僕とベルは同じホームで暮らしているわけだから一緒に『バベル』に向かうのが普通だけど、これから1週間くらいの間は別々に集まることになる。

 

 理由はベルがなんと『剣姫』ことアイズ・ヴァレンシュタインに剣を教えてもらえることになったからだ!

 

 話を聞いたときはびっくりしたよ。ギルドに来た目的も僕のことも忘れてホームに帰っちゃうから何事かと思って問い詰めたら、若干放心状態になりながらアイズさんと話した内容を語ってくれて……まあベルにとっては一大事なワケだから勝手に帰ったことは不問としよう。

 

「で、その膨れ上がった顔とボロボロの体はどうしたん? 強盗にでも襲われた?」

 

「ち、ちがうよ。アイズさんとの特訓で、まあ……いろいろ」

 

 目を逸らしながらつぶやくベル。深くは聞かないでおこう。

 

「お二人とも、お待たせしちゃってすみません! ちょっとお世話になってるお店の手伝いをしてたら遅くなっちゃって……ってその顔どうしたんですかベル様? わっ、よく見たら体もボロボロじゃないですか、誰かに襲われでもしたんですか!?」

 

 遅れてこちらに駆け寄ってきたリリも僕と同じような反応をする。

 

「そんなことないよ、転んだだけ」

 

「どんな転び方したらそんなにボロボロになるんですか!?」

 

 ちなみにベルがアイズさんに修業をつけてもらうことになったのを知っているのは僕だけで、リリにもヘスティア様にも伝えていない。

 

 懇意にしているファミリアならまだしも、ほとんど交流がないどころか、超有名ファミリアの一流冒険者に無名ファミリアの駆け出し冒険者が教えを乞うなんてバレたら大変なことになるからね。

 

「レオ様は何かご存じじゃないんですか?」

 

「さあ、僕が起きた時にはもうベルはこの状態だったから。それより早くダンジョンに行こう」

 

「そ、そうだね。さあ今日も頑張るぞー」

 

 何か言いたそうな顔をしているリリには気付かないふりをしてそそくさとダンジョンに降りる僕らなのであった。

 

 

 

 

 まずは1階層。

 

 パーティの隊列はベルが前衛、僕とリリが後衛。

 

 ちょっとバランスが悪い。せめてもう一人、前で戦える冒険者が欲しいとこ。

 

 リリはもちろん、僕も眼のことを考えると後ろで備えていた方がいいからね。

 

 ちなみにリリには【神々の義眼】の効果についてはすでに話してある。話を聞いたリリは目を丸くして「そんなの反則です!」って言った。

 

「階層ごとの魔物の強さや種類が把握できている今の時代において最も厄介なのは異常事態(イレギュラー)なんです。ダンジョンで命を落とした冒険者の半分以上はこの異常事態(イレギュラー)に対応できなかったことが原因だと言っても過言じゃありません。レオ様の【スキル】はそれだけ危険な異常事態(イレギュラー)での死亡率を限りなく下げることが出来ます。他の神々がその【スキル】のことを知ったら誘拐や脅迫の大騒ぎになるでしょうね」

 

「アハハ、さすがにそこまではないでしょ」

 

「笑い事じゃありません! レオ様が出会ってきた神様や冒険者がどんな方達なのかは知りませんが十分あり得ますっ」

 

「……マジで?」

 

「大マジです」

 

 そっかぁ、そんなに重大なことだったのか。

 

 ということは僕は今まで相当運が良かったのかな。

 

 初めて出会った神が慈愛の神で、その唯一の眷属も底抜けにお人好しな少年。この眼を見ても利用しようとかそんなことは欠片も考えない人たちだった。

 

 他にもこの眼のことを知っているのは命さんとミアハ様に師匠の3人だけど、あの人たちもスキルじゃなくて僕自身を見てくれている。

 

【ロキ・ファミリア】については怪しいところだけど、皆悪い人ではないみたいだし、誘拐してでも聞き出そうとはしてこない。

 

「いいですか? 地上ではもちろんダンジョンでも目立つ使用は避けてください。緊急の場合は仕方ありませんが、人前で使えば必ず目をつける輩が現れますので」

 

「さすがに誘拐されたら怖いし……うん、これからはより一層気を付けるよ」

 

 誘拐とか拉致の恐怖は身に染みて分かってるし。

 

「でもレオもナァーザさんに特訓してもらって弓も使えるようになったんでしょ? じゃあその眼に頼らなくても戦えるんじゃない?」

 

「もちろん。もうあの時の僕じゃないよ。任せといて」

 

「あまり信用なりませんね……。失礼ですがレオ様は見るからに弱そうですし」

 

 自信満々に二の腕を叩くと、リリが怪訝そうに毒を吐く。

 

「酷いなー。確かにまだ魔物を倒したことはないけどさ、師匠にだって太鼓判押されたんだから大丈夫だよ。それに見た目の話をするならこのパーティって戦えそうな人誰もいないじゃん」

 

「まあそれもそうですね」

 

「……ん? 今さらっと僕のことも貶めなかった?」

 

 

 

 

 

 次に2階層。

 

 1階層では魔物と一体も遭遇しなかった。

 

 とはいえそれは珍しいことじゃない。1階層は魔物の出現頻度は少ないし他の冒険者も多くいるからね。

 

 ただ2階層からはそうもいかない。まだ囲まれるようなことはないけど魔物をちらほらと見るようになる。

 

 その度にベルが瞬殺したけど。

 

「でもリリって魔石を取り出すの本当に上手なんだね。まだリリがいないときは僕とベルの2人で取ってたけど明らかにリリ1人の方が早いんだもん。コツとかあるの?」

 

「あ、それは僕も聞きたいかも」

 

「あったとしても教えません。これはリリにとって唯一と言ってもいい取り柄です。お二人に魔石の回収が上手になられたらリリの存在価値が下がってしまいます」

 

「そんなことない! 魔石の回収以外にもリリにはたくさん助けられてきたんだから。魔石の回収以外にもリリにはたくさん良いところがあるよ!」

 

 自嘲気味なリリを見てベルは怒り気味にまくしたてる。

 

「……ありがとうございます」

 

 リリはまさか怒られるとは思っていなかったのか目を見開いた後、頬を染めて嬉しそうに俯いた。

 

 

 

 

 そして3階層目。

 

 2階層目と魔物の種類も出現頻度もほぼ同じなため依然としてベルの瞬殺が続く。

 

 しかしふとリリが僕に一つ提案をして来た。

 

「そういえばリリはレオ様の弓の腕をまだ見ていませんでした。危なくなってから確かめても遅いですし、ここでどのくらいの精度なのかお見せしてください。これからの参考にしますので」

 

「ん、確かにそうだね」

 

 リリの言うことはもっともだ。パーティメンバーの実力の把握は正確なほど良い。

 

 丁度運よく十数メートル先にゴブリンが一体だけいる。僕は担いでいた弓を取り出しそのゴブリンに狙いを定める。

 

「なんかあの時みたいだね」

 

 ベルの言葉に初めて弓を握った時のことを思い出す。まだ1か月も経ってないのに昔のことのように感じてしまう。

 

 あの時もこんな風に弓がどれくらい使えるか確かめようって話になったんだよね。

 

 そしたらゴブリンが一匹だけでウロウロしてたから丁度良いってなって、そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コツンッ コロコロ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして矢はゴブリンに刺さることなく地面に転がった。

 

 

 

 

 

 

「ぇ……」

 

 その口から漏れ出た小さな声が誰のものだったかは分からない。

 

 

「もう一回。もう一回だけやらせて。さっきのは多分何かの間違いだ」

 

「……分かった」

 

 

 強い既視感。

 

 頭がくらくらする。一体僕は今何をしているんだ?

 

 状況が分からない。でも師匠に鍛えられた身体は僕の意識を離れ自然と弓を引き絞る。

 

 引き絞って―――それで?

 

 

 

 

 

 

 

 気付いた時には既にゴブリンの前には2本の矢が転がっていた。

 

 

 

 

 

 

「……レオ?」

 

 ベル……そんな心配そうな目で見ないでくれ。僕にも何でこうなってるのか分からないんだ。

 

 

 そ、そうだ!

 

 あのゴブリンはきっとあの時のゴブリンなんだ。ボブなんだよきっと!

 

 だから狙えないのは当たり前。だって友達なんだから。友達を殺すなんてそんなこと出来るわけが―――

 

 

「フッ!」

 

『ギシャアアアアアア!?』

 

 

 出来るわけが……。

 

 

 

 

 

 

 

 何だこれは?

 

 

 何を訳の分からないことを言っているレオナルド・ウォッチ?

 

 友達なわけないだろ。魔物に理性なんてない、ただ襲ってくるだけだ。

 

 じゃあ何で殺せない? もしかしてあの十字架が原因?

 

 でもあの十字架は今日はホームに置いてきている。万が一のことを考えて。いや、もしかしたら呪いのように染み付いているのだろうか。距離を置いた程度じゃ意味をなさないとか。

 

 

「……レオ様」

 

 

 頭上からリリの声が聞こえる。

 

「……ごめん、僕にも何が何だか分からない」

 

 

 

「……いいえ、リリにはレオ様が魔物を倒せなかった原因の見当がついてます」

 

「え!?」

 

 見上げるとリリは浮かない顔をしている。

 

「レオ様は先程、魔物を倒したことがないと仰いましたよね」

 

「それが、どうしたの……?」

 

「リリにも経験があるんです。まだサポーター専門になる前、初めて魔物と戦った時……違いますね、初めて魔物にとどめを刺そうとした時です。その時までリリは魔物が恐ろしい存在にしか感じておらず、ただ魔石をとることだけに躍起になってました」

 

 

 …………。

 

 

「でも……ナイフを突き立てる瞬間、リリはためらってしまったのです」

 

 

 止めてくれ。

 

 

「レオ様はお優しい性格をなさっています。魔物とは違うようですが、似たような存在のソニックとも仲良しです」

 

 

 違う。そんなことはない……!

 

 

「レオ様は……」

 

 

 頼むからその先は言わないでくれ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――魔物を殺すことが怖いんじゃないでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 多分、分かっていた。

 

 分かっていて分からないふりをしていたんだ。

 

 

 思えば最初からそうだった。

 

 あの時、弓を使いこなせないと分かった時……僕の腰には護身用のナイフがあった。

 

 弓が使えないならそのナイフを使えばよかったのに、全部ベルに投げたんだ。

 

 

 いや、その前に、使いこなせるかも分からない弓を選んだ時点で間違っていたのかもしれない。

 

 

 何が一歩ずつ歩んでいけばいい、だ。

 

 何が自分のペースで進めばいい、だ。

 

 

 

 

 僕は最初から一歩も進んでなんかいなかった。

 

 

 




前に感想の方で予告したことがあるんですが、やっとレオの覚悟の話に入りました!

レオ君が苦しんでるのを書くのって本当に辛いんですけどね、何故か筆が乗る不思議。

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