ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:空の丼

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どんなに美しいものでも、それが人を狂わせるほどのものなら恐怖の対象になることもあると思います。特に『外側』から見るのであれば。


レオナルドは見た!

レオナルド・ウォッチ

 

Lv・1

 

力 :I 0

耐久:I 0

器用:I 0

敏捷:I 0

魔力:I 0

《魔法》

【】

《スキル》

【神々の義眼】

・あらゆる生物の視界支配。

・視覚に及ぼす幻惑の類の一切を無効。

 

 

 

 

 

「これは……」

 

僕に【神の恩恵(ファルナ)】を刻み終わったヘスティア様は【ステイタス】を書いた紙を見て難しい顔をする。

 

「え?レオさん最初からスキル持ちなんですか? いいなー羨ましい!」

 

どうやら神々の義眼はこの世界ではスキルとなって現れるらしい。ベル君はスキルを持ってないみたいで僕のことを羨ましがる。

 

「ううん、この目はそんなにいいものなんかじゃないんだ」

 

僕は糸目を最大まで開く。そこに現れた淡く機械的に輝く眼球を見てベル君もヘスティア様も息をのむ。

 

「この目は妹の視力を犠牲に手に入れたものなんだ」

 

「え……?」

 

もう1年以上も前にソイツは、リガ=エル=メヌヒュトは僕と妹の前に現れた。ソイツは世界を見届けるのはどちらかと、言外に見届けぬものにその視力は必要ないと言った。そして、立ち竦み動けなかった僕を庇うように、妹がその視力を差し出した。

 

「……まあ、便利なことに変わりはないんだけどね」

 

僕は自嘲気味に笑う。

 

「すみませんレオさん……羨ましいなんて言って」

 

「謝る必要なんてないよ。あの時動けなかった僕が弱かっただけ。……でも、そんな僕を必要としてくれる人たちがいたんだ。誇りに思うって言ってくれた人がいるんだ。だから僕も、諦めずに戦う」

 

「……キミには、キミを支えてくれる良き友人がいるんだね」

 

弱気な顔から一転してしっかり前を見据える僕に、ヘスティア様は目を細め微笑みベル君も笑顔を浮かべる。

 

「あ、そうだレオ君。分かってるとは思うけどその眼のことは他人には話しちゃいけないよ」

 

「分かってますよ」

 

「それならいい。さて、次はベル君だよ。【ステイタス】更新を済ませてしまおう」

 

「はい、神様」

 

ベルは上半身裸になりベッドに横になる。その上にヘスティア様が馬乗りになり自分の血を背中に一滴垂らし【ステイタス】の更新を始める。

 

「そういえばベル君、帰って来たとき死にかけたって言ってたけど、一体何があったんだい?」

 

「ちょっと長くなるんですけど……」

 

彼の今日のダンジョンでの出来事を僕もまだ余っているじゃが丸くんを食べながら耳を傾ける。

 

曰く、彼は今日異常事態(イレギュラー)によって本来遭遇することのない強い魔物(ミノタウロス)に襲われ、そこをアイズ・ヴァレンシュタインという人に助けられたらしい。そしてベルはその剣姫様に惚れ込んでしまったとのこと。

 

……殺されかけた話をしたかと思ったら、いつの間にか恋の話になった時はじゃが丸くんをむせるかと思ったよ。

結構、繊細そうな見た目の割には肝が据わってるんだねベル君。

 

でもヘスティア様はベル君が剣姫様の話を始めたあたりから機嫌が悪い。これは剣姫様とヘスティア様が実は不仲だったりするのか、はたまたヘスティア様は彼に好意を抱いているのか。

 

「はいっ、終わり!まあそんな女のことなんて忘れて、すぐ近くに転がっている出会いってやつを探してみなよ」

 

「……酷いよ神様」

 

「ほら、君の新しい【ステイタス】」

 

ヘスティア様からベルに【ステイタス】が書かれた紙が手渡される。僕もそれを覗き込む。

 

なるほどなるほど、ベル君は確か半月前に冒険者になったって言ってたけど、半月で大体このくらい伸びるのかぁ。

 

(・・・・・・ん?)

 

「神様、このスキルのスロットはどうしたんですか?何か消した後があるような・・・…」

 

「……ん、ああ、ちょっと手元が狂ってね。いつも通り空欄だから、安心して」

 

「ですよねー……」

 

―――嘘だ。

 

僕のこの眼は消した文字くらい見えてしまう。

 

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

・早熟する。

・懸想が続く限り効果持続。

・懸想の丈により効果向上。

 

―――憧憬?

 

ベル君は若干落ち込みながら夕飯の片付けのために台所に向かう。

その隙にヘスティア様に小さな声で話しかける

 

「【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】。彼、スキル発現してますよね」

 

「っ!? ……君の眼はそんなところまで見えてしまうのか」

 

「……すみません」

 

「いや、構わないよ。君のせいじゃない。ただ、このスキルのことはベル君には内緒にしててほしいんだ。ベル君はあの通り隠し事が出来ない子だからね。詰問されたらすぐに明るみになるだろう。だったらスキルそのものを知らない方がいい」

 

「分かりました」

 

「……それにヴァレン何某への思いなんちゃらだなんて、絶対に言いたくないっ」

 

あっ(察し)

 

 

 

――――――午前五時

 

「よし、それじゃあ行きましょうレオさん」

 

「うん、いやー緊張するなぁ」

 

「大丈夫ですよ、僕もついてるし!」

 

昨日の晩のうちに今日は僕の冒険者登録とダンジョンでのちょっとした手解きをするということを決め、なんとなく焦ってるベル君に時間ピッタリに起こされ僕らは教会をあとにした。

 

ベル君の装備は黒のインナー、上に茶色いコートを羽織ってその上からライトアーマー。そして腰にナイフ。

ライトアーマーとナイフは初期にギルドから支給されたものとのこと。んで武器についてはナイフ以外にも剣とか槍とか選べるらしい。なんかモンハンみたいだ。

 

「う~ん武器か~。スタン警棒ぐらいしか持ったことないんだよなぁ。しかも持っただけだし」

 

「スタ……?」

 

「あ、えっと、なんていうのかな……軽い棍棒的な……?」

 

「棍棒なら選べたと思いますけど、軽そうじゃなかったかな。ドワーフ御用達って感じでしたし」

 

「だよねー」

 

そうやって二人で話していると隣からくるくるとお腹が鳴る音が聞こえてくる。

 

「……そういえば朝ご飯食べてませんね」

 

「えっ、ベル君が支度を急かしてきたからてっきり途中で食べるもんとばかり……」

 

「あ、あはははは。すみません、忘れてました。そうですね、どこかで食べま……っ!?」

 

不意にキョロキョロしだすベル君。

 

「どうしたん?」

 

「……今誰かに視られて……、いや、なんでもないです」

 

そう言いながらもベル君は周りを見渡す。

誰かに視られたっていってたよね。彼の表情を見る限る気持ちのいい視線じゃないっぽい。

 

―――視てみるか

 

僕は彼に向けられている視線の元を探ろうとする。その時、

 

「あの……」

 

「「!」」

 

僕らは同時に振り向く。って、ベル君警戒し過ぎじゃないかな。

 

―――それだけ嫌な視線だったんだろうか?

 

「ご、ごめんなさいっ! ちょっとびっくりしちゃって……!」

 

「い、いえ、こちらこそ驚かせてしまって……」

 

ベル君と彼と同じくらいの歳の少女が二人して頭を下げあう。

それを一瞥した後、僕はベル君に絡みつく視線の元を辿る。

 

それは好奇心と警戒心から。

 

辿った先は今僕たちが向かっているダンジョン、その上に経つ『バベル』と呼ばれる塔の一番上の階に繋がっていた。

そして僕は目線の人物を視る。

いや、視てしまった。

 

 

―――あまりにも……あまりにも、美しい

 

 

言葉では言い表せないほどの『美』を持った女神が、そこにいた。

 

呼吸が止まる。こんな遠くから見ただけで分かってしまう。これ以上の『美』は存在しないであろうことを。

心臓がバクバクと音を鳴らし手が震える。目が離せない。

時間が止まったような感覚に陥る。もう何時間も見ているような感覚。

 

そして、その『美』の女神はこちらに目を向け―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レオさん? 大丈夫ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

目が合うギリギリ直前で僕は我に返り視線を切る。

 

「―――ッハ、ッハ……ッハァ、ハァッ……」

 

下を向き目を瞑る。

 

あ、危なかった! もしベル君が声をかけてくれなかったら、きっと『何か』が変わっていた!

 

美しすぎる存在……これはただの直感、確信はないけど……あれは理性を壊す、人の人生を狂わせる!

 

「ほ、本当に大丈夫ですか!? 具合悪いなら今日は休んだ方がいいですよ!?」

 

ベル君が心配そうにこちらを見て慌ててる。

 

「ハァ、ハァ、ッ……、大丈夫……。心配ないよ」

 

「そうは見えなかったんだけど……」

 

「大丈夫だって! ホラ、顔色も別に悪くないっしょ?」

 

「……レオさんがそう言うならいいんですけど、体調悪かったら正直に言ってくださいよ?」

 

「分かってる分かってる」

 

実際はまだ動機も激しく、今にも震えが止まらなくなりそうだけど、努めて普段通りを装う。

ベル君に心配はかけたくなかったし、何よりもあの女神に僕が見ていたことを悟られたくはなかった。

 

「……、そういえば、さっきの女の子は?」

 

ようやく周りを見渡す余裕が出来た僕は、さっきの少女がいなくなっていることに気付く。

 

「さあ? 今さっきカフェテラスの方へ走ってったんですけど」

 

ベル君がそう言うや否や、先程の少女が戻ってきた。

 

「これをよかったら……。二人で食べるには物足りないでしょうけど……」

 

「ええっ!? そんな、悪いですよ! それにこれって、貴方の朝ご飯じゃあっ……?」

 

「このまま見過ごしてしまうと、私の良心が痛んでしまいそうなんです。だから冒険者さん、どうか受け取ってくれませんか?」

 

「ず、ずるいっ……」

 

「冒険者さん、これは利害の一致です。わたしもちょっと損をしますけど、冒険者さん達はここで腹ごしらえができる代わりに……」

 

「か、代わりに……?」

 

「……今日の夜、私の働くあの酒場で、晩ご飯を召し上がって頂かなければいけません」

 

「もう……本当にずるいなぁ」

 

「うふふ、ささっ、もらってください。私の今日のお給金は、高くなること間違いなしなんですから。遠慮することはありません」

 

「……それじゃあ、今日の夜に伺わせてもらいますっ」

 

「はい。お待ちしております」

 

「僕、ベル・クラネルって言います」

 

「……僕は、レオナルド・ウォッチ、です」

 

「貴方の名前は?」

 

「シル・フローヴァです。ベルさん、レオナルドさん」

 

 

 

名前を交わし合い、僕らは再びダンジョンへと歩き出す。

シルさんはいい人だなという印象を受けた。

ただ、ベルに絡みつく『視線』は未だにベル君に絡みついていた。

僕は絶対にバベルの頂上を見ないようにしながら歩く。

 

(……これは、帰ったらヘスティア様に相談した方がいいかな……)

 

 

 

 

 

 

――――――同時刻、『バベル』最上階

 

 

(あの子……、今、私を『視てた』?)

 

『美』の女神、フレイヤは怪訝な顔を浮かべていた。

 

フレイヤが不躾な視線を放っていたことは確かだ。事実、ベル・クラネルは何者かに視られていることを感じ取ることが出来た。

 

しかし、何故、その隣にいた少年―フレイヤが全く見ていなかった方の少年がフレイヤの存在に気付くことが出来たのか。

 

(―――厄介ね)

 

フレイヤは黒髪の少年を見る。

 

「別にあの子も嫌な色をしてるわけじゃないわ。寧ろ、普段だったら強引に口説いているくらいに、綺麗」

 

でも、とフレイヤ。

 

「今はそれどころじゃないのよ」

 

再度、白髪の少年に熱い視線を絡ませる。

 

「オッタル」

 

「はっ」

 

フレイヤは2Mを超す、猪耳を生やした大男の名を呼ぶ。

 

「あの黒髪の方の少年に……釘を刺しておいてくれる?」

 

「―――仰せのままに」

 

 

 

 




今回レオ君は神々の義眼を通して+かなりの遠距離から見たということで、魅了されずに『美』を知ったということにしました。
やっぱりフレイヤ様とオッタルはラスボス感あっていいですよね!

フレイヤ様とシルさんがどのような関係なのかはまだ明らかになってないのでレオ君がフレイヤ様を見た後シルさんを見て何を思ったのか、レオ君のみぞ知るという形にしました。

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