ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:空の丼

30 / 36
本腰入れた戦闘描写はまだですが、軽いものでも難しさを感じちゃう作者でした。


弱虫な炎

 前方にインプが2体。ベルに交互に攻撃を仕掛けてくる。

 

 それに対しベルは2体に挟み撃ちをされないよう上手く距離を保ちながら無駄のない動きで攻撃を避ける。

 

「―――フッ!」

 

 そして2体共腕が伸びているタイミングを見計らい、1体のインプの首をナイフで掻っ切る。

 

『ギギャアアアア!』

 

 もう一体のインプが攻撃を仕掛けようとしてきたところをすかさずお腹に回し蹴りを叩きこみ、バランスが崩れたところを畳み掛けるようにしてナイフで一突き。

 

「ベル様っ、インプ来ます!」

 

「分かった!」

 

 倒したのも束の間、再びインプの群れが僕らに襲いかかる。

 

 リリはそれをいち早く察知し、腕につけているボウガンで牽制する。その間にベルが前に出てインプ達を引き付ける。

 

 しかし8体のインプに囲まれるとなるとベル1人では圧倒することは出来ず攻めあぐねる。

 

 しかも運の悪いことに地響きを鳴らせながらオークがこちらへと向かってくる。

 

「……っ、さすがに数が多すぎます。レオ様っ」

 

「了解っ」

 

 リリの合図を受け、僕は【神々の義眼】でインプやオークの視界をシャッフルする。

 

『ガヒェ!?』

 

『グガ!?』

 

 途端に周りの魔物全てが目を抑えフラつき始める。

 

「ハアアアアア!!」

 

 大きな隙が出来た魔物たちをベルがすかさず斬り伏せていく。そして数分もせずに魔物を全て倒し終えた。

 

 

「ふう……。やっぱりインプに囲まれるとまだ僕一人じゃキツイね。助かったよレオ」

 

「いやいや、倒すのはベルにしか出来ないんだからお互い様だよ」

 

 前方から戻ってきたベルとハイタッチを交わしながらお互いを称え合う。そしてベルと入れ替わるようにリリが魔物の死体の方へと歩んでいく。

 

「それじゃここからはリリの仕事ですね。お二人はしばらく休んでいてください」

 

「うん、僕らは周りを警戒しておくよ」

 

 そう言って僕らは近くの岩に腰かけて一息つく。

 

 

 

 僕が魔物を倒せないと分かってから一日が経った。

 

 あの後一旦地上へ戻り今後どうするかを三人で話し合った。

 

 リリとしては戦えなくとも【神々の義眼】があるだけで戦力は大幅に上がるため、僕さえ良いのならこれからもダンジョン探索に参加してほしいとのこと。

 

 さすがに昨日はあれからダンジョンに潜る気にはなれず解散となったけど、一夜明けて今日は潜ることにした。

 

 集合場所にいる僕を見たリリは信じられないものを見たかのような顔をしていたけど。

 

 まあそれも当然か。昨日はあれからずっと半ば呆然としていたから。

 

 でも、そんな僕を立ち直らせてくれたのはヘスティア様だった。

 

 僕は魔石の回収に励むリリを見ながら、昨晩のことを思い返す。

 

 

 

 

 

 

 教会のホームに帰ってきた僕を見てヘスティア様は何かあったのだということをすぐに悟った。

 

「レオ君、何があったか話してもらえないかな?」

 

 隠す必要もないことだし、僕にはこれからどうすればいいか分からなかったから素直にその日ダンジョンであったことを話した。

 

 

「情けないですよね……。ここでなら僕だって闘えるなんて息巻いておきながら、結局は魔物を倒すなんて、出来なかったっ……!」

 

 膝の上に置かれた両の手の平に力がこもる。泣き出しそうになるのを堪えて最後まで喋る。

 

 僕が全て話し終えると、ヘスティア様はしばらく黙考した後口を開いた。

 

「レオ君、魔物を倒せないというのは、そんなに悪いことなのかい?」

 

 ヘスティア様は優しいから責められるとは思っていなかったけど、まさか前提から覆されるとは思っていなかったから目を見張った。

 

「君は自分のことを弱いみたいに語ったけど、そんなことは絶対にない。君は十分に強いよ。魔物を倒せる倒せないの話じゃないんだ。君にはすでに芯の通った強い魂がある」

 

 ヘスティア様は僕を強く見据えていたかと思うと今度は目を伏せて申し訳なさそうに言った。

 

「ごめんよ、何も知らなかった君を冒険者の道に引き入れたのは紛れもなくボクだ。ボクは君の主神なのに、君の苦しみを全く理解してあげられなかった」

 

 初めてヘスティア様とベルに出会った時、僕でも闘えるかという問いに彼女は肯定で返した。そのことを安易だったと彼女は悔いたのだ。

 

「いいかいレオ君。君が今進もうとしている一歩は君が今まで進んできた道とは違う。前に進む一歩ではなく、変わる一歩だ」

 

「変わる、一歩……」

 

 今までとは違う世界に来て、違う日常を過ごした僕に与えられた、もう一つの道。

 

 この世界で一生を終えるわけじゃない。いつか元の世界に帰る時が来る。でもここを進んでしまえば何かが変わる。

 

「別に冒険者の道を無理して選ぶ必要はないんだ。もちろん君がそれでも冒険者としてダンジョンに潜るならボクは全力で君を支える。でもそれ以外の道を選んだとしてもボクは絶対に君を見捨てない。約束する」

 

「僕は……」

 

「すぐに結論を出す必要はないさ。むしろたくさん迷って慎重に答えを出した方がいい。大丈夫、ボクもベル君もついてる」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 結局今も答えは出ていない。

 

 でも、リリが言ったように魔物を倒せなくとも僕には僕の出来ることがある。ならせめてそれくらいは投げ出さずにやっておこうと思った。

 

「魔石の回収、終わりました」

 

 リリが帰ってきたことで思考を打ち切る。

 

「うん、いつもありがとね。それじゃあそろそろ地上に戻ろうか」

 

 気が付くとかなりの魔石がたまっていることにリリのバックパックを見て気が付く。

 

 未だベルしか魔物を倒せる人員がいないとはいえ、リリは効率のいい指揮を執って魔石も素早く回収出来るし、魔物に囲まれれば【神々の義眼】で難なく乗り切ることが出来る。ベルが一人の時より格段に回転は良くなっている。

 

 僕とリリはベルの言葉に頷き、地上に上がることにした。

 

 

 

「ねえ、リリ。リリはこれから【ステイタス】を更新できないんだよね?」

 

「どういうことですか?」

 

 ダンジョンを上がる途中、三人で歩いているとベルがふと思い出したようにリリに尋ねる。

 

「……ほら、【ソーマ・ファミリア】には近寄れないからさ、神様にも会えないじゃない?」

 

 ベルは一応のことを考えてかリリの耳元に寄って声をひそめる。

 

 そういえばその通りだ。

 

 今のリリは【ソーマ・ファミリア】では死んだという扱いだ。必然、主神のソーマ様にも会えないし【ステイタス】も更新できない。

 

 いくらサポーターとは言えさすがにそれはキツイんじゃないか?

 

「実を言うと、それに関してはリリも多少思うところがあるんですが……でも、恐らく大丈夫ですよ。少なくとも今はまだ」

 

「そ、そうなの?」

 

「はい、何とかやっていけると思います。モンスターのあしらい方ならリリは得意ですし……証拠に、ここ半年近く、リリは【ステイタス】を一度も更新せずにやってきました」

 

「「は、半年!?」」

 

 リリの言葉に僕とベルは二人そろって仰天する。

 

【ステイタス】の更新って害はなかったはずだよね。更新しないことで得することなんてないはずだ。……ないよね?

 

 僕らが唖然としていると、リリは苦笑いしながら説明してくれた。

 

 なんでも、ソーマ様は趣味に没頭したいのに毎日のように押しかける構成員の【ステイタス】更新で中々没頭できず、更新を煩わしく思っていたらしい。

 

 そこでソーマ様がファミリアに設けた制度が、ノルマを達成したら【ステイタス】を更新するというもの。

 

 つまりノルマを達成できなければ半年だろうが一年だろうが【ステイタス】はそのままだということらしい。

 

「じゃあ、リリはノルマを稼げなかったから【ステイタス】が更新できなかったの?」

 

「それがちょっと違うんです。リリはあまり目立ちたくなかったので」

 

「目立つ?」

 

「ノルマを達成できるということは、それなりに実入りが良いということです。戦えないリリは、周囲から見ればそれこそ恰好の餌になってしまいます」

 

 なるほど。リリにとってみれば、敵はなにも魔物だけじゃなかった。ファミリアの冒険者さえも敵だった。

 

 しかもその敵たちが自分より強いなら一番の対策は目立たないこと。【ステイタス】を更新できないというデメリットよりも周りの目を欺けるメリットのほうが大きかったわけだ。

 

 

「そういえばリリって僕より【ステイタス】高かったりするのかな。専門職のサポーターといってももう何年もダンジョンに潜ってるんだよね」

 

「そうですね、冒険者になって20日程度のレオ様よりかは力以外は上だと思いますよ? あくまで普通の伸びならですが……」

 

 僕の質問に、ベルをチラッと見ながら答えるリリ。もちろん僕には【ステイタス】の上昇に加速をかけるようなスキルはないわけだし、そもそも20日のうちのほとんどをダンジョンに潜らず過ごしてたんだからリリの言うことは正しいのだろう。

 

「しかし……そっかぁ、リリより低いのか……。これは魔物倒せたとしてもあんまり変わんなかったのかな」

 

「…………いえ、今でこそリリの方が高いですが、冒険者の才能のなかったリリとレオ様では成長速度が違います。……きっとすぐに追いつきますよ」

 

リリは僕の呟きに顔を伏せながらそう答えた。

 

 

 

 

 

 

「レオ様……レオ様も、サポーターになってみてはいかがでしょうか」

 

 7階層を抜け、魔物の危険も一段落したところでリリは僕に提案した。

 

「でも、サポーター二人ってバランスおかしくない?」

 

「確かに今は冒険者一人にサポーター二人なんてデコボコもいいとこですが、いずれ【ヘスティア・ファミリア】も人が増えてリリ一人では手が回らなくなる時が来るでしょう。将来的には悪い選択肢ではないと思います」

 

 サポーターか。

 

 現状一番堅実な選択肢ではある。ライブラでの役割もこっちで言えばサポーターに近いものがあったし、【神々の義眼】を一番活かせる位置はここだろう。

 

「……出来ることは増やしておきたいかな。リリ、魔石の取り出しのコツ……教えてくれるかな」

 

「……しょうがないですね」

 

 リリは昨日とは違い、了承する。口では渋々と言った声色を絞り出しているが表情を見る限る満更でもないようだ。

 

 それから地上に上がるまでの間、リリの指導のもと僕が魔石を取り出すことになった。

 




例え魔物を殺せるようになってもそれが「成長」かと言われれば安易に頷くことは出来ないですよね。
この問題の解決はまだまだ先になりそうな予感。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。