ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:空の丼

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親の愛というのは本当に素晴らしいものだと『バケモノの子』を見て再確認しました(ステマ)


おかあさんの唄

 

 僕がダンジョンに再び潜りだしてから、そしてベルがアイズさんに特訓をつけてもらうようになってから4日が過ぎた。

 

 今日はリリから下宿先での仕事を手伝わないといけなくてダンジョン探索に同伴出来ないと連絡があり、僕らのダンジョン探索は1日休みとなった。

 

 リリ程ではないがサポーター業も板についてきた僕もいるので潜っても問題はないのだけど、このチャンスを活かしてアイズさんに1日稽古をつけてもらえるよう交渉するとベルが言うのでそれじゃあということだ。

 

 僕は事情を知ってるからいつでも融通が利くけど、アイズさんに特訓をつけてもらうからダンジョン探索を休みたいなんてリリには言えないからね。リリの方から今日は来れないと連絡があればベルも期待しちゃうわけですよ。

 

 そんなわけで、別に特訓について行く気のなかった僕はホームの一室で暇を持て余しているところをヘスティア様に声をかけられ、じゃが丸くん屋さんの手伝いをすることになった。

 

「今日はお手伝いに来てくれてありがとねぇレオちゃん。今日は人手が足りなかったから助かるわ~」

 

 一度打ち上げの時に顔を合わせた恰幅の良い獣人のおばちゃんが僕の顔を見て喜ぶ。

 

「いえ、お構いなく。今日は暇してましたし」

 

「そうだとも。どうせボクが誘わなかったら今日一日部屋でゴロゴロすることになってたんだろうからね。まだ若いのにそんなのはダメさ」

 

 ヘスティア様はそう言って胸を張る。まあ確かにその通りなんですけどね。

 

 獣人のおばちゃんからエプロンを受け取り早速ヘスティア様とじゃが丸くんを売る準備を始める。

 

「レオ君、魔石点火装置(ひのもと)の扱い方は分かるかい? 分からないことがあったらボクに何でも聞きなよ!」

 

「天災とか祟りとか言われておいてよくそこまで自信満々に胸を張れますね……」

 

「ぐぬっ!? 言うじゃないかレオ君……。いや、むしろ身を持って魔石点火装置(ひのもと)の危険性を知ったボクほどコレに詳しいものはいないとも言えるんじゃないかい!?」

 

「どっちにしろこっちに来てからこの装置は何度か扱ったことありますから大丈夫です」

 

『豊饒の女主人』で料理を作った時にたくさん使ったし。そもそも魔石点火装置(ひのもと)に限らずこの世界の魔石装置ってエネルギーが電力か魔石かの違いくらいで基本的に扱い方は変わらないんだよね。

 

 

 準備を終えじゃが丸くんを売り始めると、噂通りヘスティア様のマスコット効果のおかげか、この屋台の客入りは良い方でヘスティア様の頭を撫でたいおば様たちがこの通りに足を運んでくる。

 

 しかしさすがに列ができるほど並んだりもしないので話をするくらいの余裕はあった。

 

「しかし良かったよ。もっと悩んでるかと思ったけど、もう吹っ切れてるみたいで」

 

 そう言われて、ここまで引っ張ってきたのも僕を元気づけるためだったことに気付いた。

 

「ヘスティア様のおかげですよ。貴女がどんな僕でも受け入れるって言ってくれたから、こうやって笑うことが出来るんです。感謝してます」

 

「そっか……それは良かった」

 

 ヘスティア様は僕の言葉に少し寂しそうな顔をする。そしてすぐに頬を膨らませる。

 

「全く、君はベル君とは別の意味で危なっかしくて見てられないよっ。いつも一人で抱え込んで……先週だってミアハが何か言ってくれたみたいだからいいけど、あの時の君は本当に壊れてしまいそうな顔をしていたし……もっと君はボクらに甘えていいんだよ」

 

 最後の言葉だけ目を伏せて、小さな声で。

 

「そんな……十分僕は助けてもらってます」

 

 するとヘスティア様は今度は真剣な顔つきで、言う。

 

「レオ君、頼ることと甘えることは同じじゃないんだ。君は自分に出来ることと出来ないことを見極めて出来ないことを仲間に頼る、ということに関しては理解がある。でもそれは甘えるというのとは違う。君はもう少し自分に我儘になるべきだ」

 

 ヘスティア様が寂しそうな顔をした意味が分かったような気がする。神様たちは僕ら人間のことを「子供」と表現する。

 

 それは神にとってみれば人間が幼い存在であるという意味もあるだろう。

 

 でもそれだけじゃなくて、少なくともヘスティア様は本当に僕らのことを我が子のように思っているからこそそんな風に言うのだろう。

 

 子はいつか親の元を離れていく。でも親はいつだって子の帰る場所になってくれる。それなのにずっと帰らなかったら、それは寂しいものだろう。

 

「……分かりました。善処します」

 

「善処って……まあいい、頼んだからねっ」

 

 

 話がちょうど一段落したところで次のお客さんが現れる。若い男女の二人組で片方は白い髪に紅い瞳の少年、もう片方は金髪金眼の少女。

 

 ―――あっ。

 

「いらっしゃいまぁ……せ、ぇ?」

 

 ヘスティア様はその二人の存在を認めると表情ごと動きが止まる。ついでに言うと白髪の少年、というかベルはすでに顔面蒼白で動きを止めている。

 

「……」

 

「……」

 

「ジャガ丸くんの小豆クリーム味、2つください」

 

 ベルとヘスティア様が固まる横で、アイズさん何も気づかず淡々と注文する。

 

 仕方ないので注文されたジャガ丸くんを、僕が包装しアイズさんに渡す。

 

「80ヴァリスになります」

 

「どうも……あれ? 何で君が働いてるの……?」

 

 終始ジャガ丸くんに目が釘付けだった彼女は、ここでようやく僕のことに気付き疑問を口にする。

 

「実はうちの神様がこの屋台で働いてまして、今はその手伝いをしてるんです」

 

「そうなんだ。……じゃあ君のファミリアの神様は……」

 

 アイズさんは僕の隣で固まっているマスコット少女に目を向ける。その少女はおよそマスコットキャラがしちゃいけない能面のような顔をしており、僕とアイズさんは一歩距離をとってしまう。

 

「―――何をやっているんだ君はぁああああああああああああああああああああああっ!?」

 

「ごごごごごごごごごめんなさいぃっっっ!?」

 

 そして露店の裏を回ってベル君の前で大噴火する神様、泣き叫ぶようにして謝罪するベル。

 

 まあアイズさんとの特訓についてはヘスティア様には内緒にしてたからね。なんせ大好きなベルが想い人と仲良くなるわけだし、反対されるのは分かってたからね。

 

「よりにもよって【剣姫】と一緒にいるなんて、一体どういうことだベル君!?」

 

「そ、それがっ、これには深いわけがあって……っ!?」

 

「ご託はいい、早く説明するんだ! ……っ、ええい、離れろ、離れるんだ!」

 

 ヘスティア様は敵意のこもった眼でアイズさんを睨みながら、ベルと彼女の間に割って入る。

 

「それで、どうして【剣姫】と一緒にいるってぇ……?」

 

「え、えっと、たっ、たまたま、すぐそこで出会って……!?」

 

「……神の前では嘘はつけーんッ!!」

 

 ヘスティア様のツインテールがぐにゃあっと蠢き、誤魔化そうとしたベルの頭をべしっべしっと叩く。

 

「まあまあヘスティア様、落ち着きましょう?」

 

「……っ、君はこのことを知っていたな……!?」

 

 怒り狂う主神様をどうどうと宥めにかかると、こっちにも飛び火した。

 

「……ほら、子供は親に隠れていたずらするもんじゃないですか。僕なりの我儘ですよ、ハハハ」

 

「さっきの話を曲解してるんじゃなーい!!」

 

 落ち着かせるつもりがもっと酷いことになっただけだった。

 

「あの……私が、戦い方を教えています」

 

 今まで困った顔をしていたアイズさんがベルを庇うように正直にやっていることを打ち明ける。

 

 するとヘスティア様は、はっと肩を揺り動かした。

 

「ベル君、まさかこの子に【ステイタス】を見せたんじゃないだろうな!?」

 

「み、見せませんよ、見せる筈ないじゃないですかっ?」

 

「ということは、まさか、例の成長速度に目をつけられた……!?」

 

 ヘスティア様は【】のことを感づかれたのではないかと危惧する。そしてそれを探るために特訓をつけているんじゃないかと。

 

 うーん、そこのところはどうなんだろう? アイズさんってあんまり表情が動かないから何考えてるのかよく分からないんだよね。悪意はないと思うけど。

 

 あ、でも膝枕している時の彼女は幸せそうな顔をしてたなー。これ言ったらもっと騒ぎが大きくなるだろうから言わないけど。

 

「ボクのベル君に唾をつけておこうとしたって、そうはいかないぞ! 何て言ったってボクの方が先だからな!」

 

「神様っっ、何をやっているんですか!?」

 

「えっ……うわぁああああああああ!? べ、ベル君っ、何て大胆な真似を!?」

 

 言っていることといい、やっていることといい、大分錯乱してらっしゃるヘスティア様。

 

 するとさすがに見かねた店員のおばちゃんが眉を下げながら注意をする。

 

「ヘスティアちゃーん、お店の邪魔だから、痴話喧嘩なら他所でやっておくれよー」

 

「す、すまない、おばちゃん! 君達、こっちへ来るんだ!」

 

 ヘスティア様はベルの手を引っ張って細道のほうへ向かい、その後ろをアイズさんがついて行く。

 

 僕? もちろんバイトの方を続けるよ。

 

 建物の陰にベル達が消えていって、露店は幾分か静けさを取り戻した。

 

「ヘスティアちゃんも少しは大人になったと思ったけど……まだまだ子供ねぇ」

 

 おばちゃんは頬に片手を当てて嬉しそうに目を細める。

 

「おばちゃん、彼女、僕らより長生きしてますからね、一応言っておきますけど」

 

「あらやだ、歳なんて関係ないわよ。レオちゃん達の前では背伸びしてるかもしれないけど、私たちにとってみればあの子はかわいい子供よ」

 

 そういうものなのだろうかと思う反面、納得もする。

 

 ヘスティア様は神様だ。僕たちが迷っていたらいつだって手を差し伸べてくる。でもヘスティア様だって恋をする。嫉妬をする。わがままだって言う。

 

 そんな彼女におばちゃん達も惹かれたんだろう。

 

「ってことは僕にとっておばちゃんはおばあちゃんということにぃ痛ててててててててててっすみません、すみませんでしたぁあああああああああああ!!」

 

 ヘスティア様たちが話をつけて帰ってきたのと同時に、おばちゃんのアイアンクローが炸裂し路地に悲鳴が上がった。

 

 

 

 その後、どうしてもということでヘスティア様はバイトを早退し、午後の特訓を見るためにベル達について行った。

 

 僕は一度見たことがあるしこれ以上人が減ると露店も大変だろうからという理由でバイトを続けることにした。

 




レオ君はベル君達について行っていないため、帰り道でフレイヤ様がちょっかいを出したことも知らずに終わりました。
バベルの最上階からなら壁の上の修業を見れることも気づかなかったり、今回はフレイヤ様とのフラグが全然立ちませんね……。

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