ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:空の丼

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レオ君が仲良くなったベル君らを連れてH・Lを案内している光景を見たいです。



友達の唄

 

「ベル君、今日は口頭で【ステイタス】の内容を伝えていいかい?」

 

「あ、はい。僕は構いませんけど……」

 

 ベル君のステータス更新中ずっと難しい顔をしていたヘスティア様は覚悟を決めた顔をする。

 その様子じゃきっとベル君の【ステイタス】がまた大幅に上がったのだろう。

 

 聞いていると、合計で二百以上も上がったらしい。予想以上だった。

 

 その後ベル君の到達階層更新にヘスティア様はしばらく説教。

 そりゃあ防具も着けずに6階層まで潜ったのだ。怒られるに決まってる。

 

 小さくなっていくベル君がチラチラと僕に視線で助けを求めてくるけど当然スルー。

 

「今の君は理由ははっきりしないけど、恐ろしく成長する速度が早い。どこまで続くかはわからないけど、言っちゃえば成長期だ」

 

「は、はいっ」

 

『レアスキル』についてはやっぱり伏せることにしたようだ。

 

 僕もそれがいいと思う。

 

 他の神様たちにばれたら不味いというのもあるけど、このスキルを彼が知った時どうなるかも分からない。

 

 彼の心は今揺れ動いてる。今まで平和に暮らしていた少年がここ数日で、死への恐怖、強い憧憬、大きな挫折と多くの経験をした。少なくともこの経験が彼の糧となり、大抵のことではぶれない心を手に入れるまでは隠していた方がいいだろう。

 

 なんて、歳もそんなに離れてない僕が言うのもおかしいかな。

 

「約束してほしい、無理はしないって。この間のような真似はもうしないと、誓ってくれ」

 

「強くなりたいっていう君の意志をボクは反対しない。尊重もする。応援も、手伝いも、力も貸そう。……だから」

 

「……お願いだから、僕の前から居なくならないでくれ」

 

 ヘスティアの願いにベル君はしばしの沈黙の後、顔をあげる。

 

「……はいっ」

 

 その顔はどこか吹っ切れたような顔をしていた。

 

 敵わないなぁと、思う。僕じゃあベル君の心に絡みついた鎖をちゃんと解いてあげることが出来なかった。

 説得は出来たけど、その顔はまだ苦しそうにしてたから。

 

 いつか僕もうつむいている人を正しい道に引き戻すことが出来るのだろうか。

 

 ……出来るようになりたいな。

 

 

 話が終わるとヘスティア様はパタパタと出かける支度を始める。

 

「ベル君、レオ君、僕は今日の夜……いや何日か部屋を留守にするよっ。構わないかなっ?」

 

「えっ? あ、わかりました、バイトですか?」

 

「いや、行く気はなかったんだけど、友人の開くパーティーに顔を出そうかと思ってね。久しぶりにみんなの顔を見たくなったんだ」

 

 僕らはそれを笑って了承する。

 

「キミたちは今日もダンジョンに行くのかい?」

 

 ドアに手をかけたところでこちらに振り向く。

 

「そのつもりなんですけど……やっぱり、ダメですか?」

 

「ううん、いいよ、行ってきな。ただし引き際は考えるんだよ? レオ君もサポートをよろしく頼む」

 

「はい、ありがとうございますっ」

 

「は」

 

 各々了承の返事をするとヘスティア様はえくぼを作り、部屋を後にした。

 

「……さて、まずは―――」

 

「はい、わかってます」

 

 僕らはダンジョンに潜る準備を済ませると教会を出た。

 

 

 

「ベルさんっ!」

 

 僕らは女将さんとシルさんに約束したとおり、『豊饒の女主人』に向かった。

 

 すると酒場の前に立っていたシルさんがこちらに気付き近づいてくる。

 

「一昨日は、すみませんでした。お金も払わずに、勝手に……」

 

「いえ、大丈夫ですから。こうして戻ってきてもらえて、私は嬉しいです」

 

 いつかのように微笑むシルさん。良かった、風邪とかひいてないみたいだ。

 

「レオナルドさんも、ありがとうございます」

 

「いや、僕は別に何も」

 

 と言いつつも、お礼を言われるとやはり嬉しくて照れてしまう。

 

 ベル君はポーチに入れていたお金をシルさんに渡す。

 

「これ、払えなかった分です。足りないって言うなら、色を付けてお返しします」

 

「私の口からはそんなこと言えません。そのお気持ちだけ十分です……私の方こそ、ごめんなさい」

 

 シルさんがポツリと謝罪する。それに対してベル君は大慌てで罪悪感を抱く必要はないということを身振り手振りで伝える。

 

 そんな彼の姿に元気づけられたようでシルさんもクスクスと笑みをこぼした。

 

 その後シルさんは「少し待っててください」と残して店の中に消える。

 

 そして大きめのバスケットを抱えて戻ってきた。

 

「ダンジョンへ行かれるんですよね? よろしかったら、もらっていただけませんか?」

 

「えっ?」

 

「今日は私たちのシェフが作った賄い料理なので、味は折り紙つきです。その、私が手を付けたものも少々あるんですけど……」

 

 シルさんは少しモジモジしながらベル君にバスケットを渡す。おっとこれは、もしかしなくてもシルさんはベル君にホに字らしい。ベル君もなかなかスミに置けないじゃないか。

 

 ニヤニヤと隣を見るが、肝心のベル君はキョトンとした顔をしている。

 

「いえ、でも、何で……」

 

「差し上げたくなったから、では駄目でしょうか?」

 

「……すいません。じゃあ、いただきます」

 

 ベル君は何やら納得した顔でバスケットを受け取る。

 

 しかし、ヘスティア様とシルさんに惚れられ彼自身はアイズさんに惚れている、と。

 

 まあキミは心が清い子だから大丈夫だとは思うけど、

 

「背中には気を付けてね」

 

「怖いですよ!? どういう意味ですか!?」

 

 女性絡みで数えるのを止めてしまったほど何度も病院送りになる某SS先輩のことを思い出しながら忠告する。

 

「坊主たちが来てるって?」

 

 店の入り口から女将さんがぬぅ、と姿を現す。

 

「おはようございます女将さん。今まで待って頂いてありがとうございました」

 

「約束は守ったんだ。問題ないよ」

 

 女将さんは豪傑な笑みを浮かべて礼を言う僕の頭をバシバシ叩く。

 

「シル、アンタはもう引っ込んでな。仕事ほっぽり出して来たんだろう?」

 

「あ、はい。分かりました」

 

 シルさんはお辞儀をするとお店の中に戻っていった。

 

「……聞いているかもしれないけど、アンタが出て行った後こっちの坊主がうちに来てね、ウチの連中が殺気のこもった眼で見てる中必死に頭を下げたんだ。アタシたちがこうして大人しく待ってたのはコイツのおかげさ。感謝しとくんだよ」

 

 ベル君の方を向いた女将さんは僕の頭をグリグリしながら一昨日のことを話す。

 

 色々あって、詳しく話してなかったためベル君は目を見開いてこっちを見る。

 

「そうだったんだ……。ありがとうございます、レオさん」

 

「いいんだ。仲間だろ? 助けるのは当然だよ」

 

 大体、僕一人の力じゃない。タケミカヅチ様と命さんの存在が大きい。

 

「……坊主、冒険者なんてカッコつけるだけ無駄な職業さ。最初の内は生きることだけに必死になってくれればいい。背伸びしてみたって碌なことは起きないんだからね」

 

「最後まで二本の足で立ってたヤツが一番なのさ。みじめだろうが何だろうがね。すりゃあ、帰ってきたソイツにアタシが盛大に酒を振る舞ってやる。ほら、勝ち組だろ?」

 

 ベル君はその言葉に心を打たれたのか女将さんを感動した眼差しで見つめる。

 

 女将さんは次に僕の方を見た。

 

「アンタには、どうやら道を示してくれた人たちがいるみたいだね」

 

「……はいっ」

 

「ソイツらが教えてくれたことを忘れるんじゃないよ。きっとアンタをいい方向へ導いてくれるはずさ。それでもくじけそうになった時はウチに来な。背中くらいは押してやるさ」

 

「はい……!」

 

「そら、アンタ達はもう店の準備の邪魔だ、行った行った」

 

 女将さんに背中を押され僕らは『バベル』に向かって歩き出す。

 

 

 

「……レオ」

 

 

 

「ん?」

 

 女将さんに見送られた後、ベル君に名前を呼ばれる。

 

「ありがとう」

 

「さっきも言ったけど別にいいって」

 

「いや、言わせてほしいんだ。僕は自分のことでいっぱいになってたのに、レオはその間、ずっと僕の心配をしてくれて、いろんなところを駆けまわってくれた。こんなこと言うのもなんだけどさ、それがすごく嬉しかったんだ。だからさ、いつか、この恩は返すよ」

 

 彼は照れ臭そうに言う。ふと、今まで堅かった口調が変わっていることに気が付く。

 

 

「……分かった。待ってるよ、ベル」

 

 

 二人、頷き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……レオ?」

 

 ジトーっとした目で見てくるベル。

 

 階層は1階層。ついに僕も冒険者デビューということで運よく一体だけでうろうろしていたゴブリンを僕が倒すことになった。

 

 なったのだが……

 

「もう一回。もう一回だけやらせて。さっきのは多分何かの間違いだ」

 

「……分かった」

 

 僕は再びゴブリンに向かって弓を引く。限界まで引き絞り、ゴブリンの頭に狙いを定め、矢を放つ!

 放たれた矢はゴブリンの頭に向かって真っすぐ飛んでいきそして狙った場所から寸分のズレもなく命中!

 

 

 コツンッ コロコロ

 

 

 そしてゴブリンに刺さることなく地面に転がる……。

 

 

「「……」」

 

『……』

 

 辺りに気まずい雰囲気が流れる。こころなしかゴブリンまでもが気まずそうにしている。

 

 え? なにこれ? 僕が悪いの?

 

『ギャ、ギャー』

 

 冷や汗を流していると、ゴブリンがぎこちない動きで頭を押さえながら痛がるふりをしている。

 

 あれ? コイツすげーイイヤツじゃん。魔物って問答無用で人間襲うとか言ってたけど全然そんなことないじゃん。もしかして僕が異世界からきた人間だからとか? まあ理由は何でもいいけど、このゴブリンとはきっと友達になれるに違いない! よしそうと決まれば名前を付けてあげないと! 今日からお前はボブだ! よろしくな、ボブ――――――

 

「ていっ!」

 

『ギシャアアアアアア!?』

 

 ボ、ボブぅぅぅぅうううううううう!?

 

「いやいやいやいや、ボブじゃないから!? ただのゴブリンだから!! 目を覚ましてレオ―!?」

 

 こうして僕とボブの友情物語は幕を下ろした。

 





はい、ということで感想の方でも度々疑問視されていたレオ君の戦闘についてですが、彼が戦えるようになるのはまだまだ先のようです。もしかしたら最後まで魔物を倒さずに終わるかもしれませんね。

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