上手く出来てるかな……?
真空の空間と宇宙線で満たされた黒き死の世界、宇宙。そこは、多くの物が漂う混沌とした空間でもある。
宇宙創成の時代から存在する大小様々な大きさを有する小惑星やその塵、人類の宇宙進出によってその数を飛躍的に増したスペースデブリやコロニーなどが代表として挙げられ、細かく挙げていけばその種類は霧が無い。
そして、レイドとリーシャの2人が眼前に見据える巨大な物体もまた、それらの混沌を構成する1つである。
Eエリア統一軍第27資源衛星跡………平均18メートルクラスであるモビルスーツが見上げるほどの巨大な岩の塊は、統一軍がモビルスーツの装甲材等に使用するための原材料である稀少鉱石を岩盤内に有していた、文字通り『資源を有した衛星』の一つである。
現在では衛星内の鉱石は全て発掘し尽くしており、掘り抜かれた岩盤が崩落する危険の無いよう金属製のプレートで場当たり的に補強された部分だけが、この巨大な物質がただの岩の塊ではなかったことを証明していた。
機動戦記ガンダムVERTEX
第2話 モビルスーツ・ガンダム
「目的地発見、と………これまたでか~いシロモノだね~……」
スペースデブリの一つに機体を隠し、遠出からメインカメラを望遠モードに切り替え、リーシャは偵察を行う。
巨大な廃墟同然の資源衛星には、漂うスペースデブリが漂うだけでなく、明らかに己の意思で動き回る、巨大な機械人形が周囲を見回していた。
CESW-104 オルグ―――ラグランジュ戦役時よりも前にコロニー統合軍が配備されていた旧式機であり、頭部のモノアイと呼称されるメインカメラと後ろに伸びる2本の円錐型センサーが特徴的なモビルスーツである。
その名称通り『鬼』を想沸させる外装をしており、直線的なフォルムのブローバックとは対照的な、曲線を多用した独自の姿を持つ。
「でもさぁ、元統一軍系のテログループだってのに運用しているのは連合軍出典のオルグってのは、皮肉なものよね~」
「まぁ、連合軍が接収したリローデッドが手を加えられた上でオルグの後々継モデルのサイロプスⅡと一緒に配備されて、オルグは民間機として卸されてるからな。それがそのまま武装勢力に流れていっても可笑しくはないだろ。ブローバックはなんだかんだで、軍用機のままだからな……」
ぼやくようにそう呟きつつ、レイドは刻一刻と刻み続けるタイマーを脇目に見ながら、リーシャ機とセンサー共有した映像を眺めていく。その言葉を最後に、2人は終始無言で、周囲を徘徊するオルグに注意を払いつつ、ただただその“時”を待つ。
タイマーに刻まれた数字が1つ、2つと減少していくのを静かに待つ。
時を待つのは、シルファリオンに乗るクルー達もであった。
レイド達が隠れるデブリから更に離れた位置にて待機する戦艦の艦橋内では、変わり映えのない資源衛星の映像をクルー達が静かに眺める。
「……両舷、対艦ミサイル準備。AMSEM装填用意」
艦長席に座るメルティナの静かな指令がブリッジ内に響く。その言葉をオペレーション席に座る2人の通信士が無言で受け、作業を手早く迅速に進める。
「目標、Eエリア統一軍第27資源衛星跡。攻撃後、抗ECM電子機雷を散布。MSチームに作戦行動権を譲渡し、本艦はこの場で待機する。各員、キモをくくって頂戴!」
メルティナが檄を飛ばす。その言葉が早いか遅いか、刻まれ続けたタイマーが0を指し示す。
“時”が、その瞬間を迎える―――
「撃てぇぇぇぇ!!!」
その言葉と共に、デブリを縫うように複数のミサイルが資源衛星に向けて飛んでいく。着弾した弾頭が激しい爆発と共に光を放ち、衝撃波が宇宙塵や小さな宇宙ゴミを吹き飛ばす。
『ミサイル?!どこからだ!』
『連合軍の襲撃か!!戦闘要員は全て出ろ、迎撃するぞ!』
突然の襲撃に一瞬戸惑いの声が上がるものの、敵兵は即座に戦闘準備に取り掛かる。だがその刹那、再び敵兵から驚きの声が上がり始める。
『レーダー機能に異常……?!ミサイルにジャマーが……』
『マズ……くざに……りだ……ゅんびを……』
通信機能に妨害が掛かったのか、音声に乱れが生じ始める。センサー機能にもラグが出て、メインカメラの映像にもノイズが奔る。
AMSEM………正式名称『Anti Mobile Suit Electronic burst Missile』、簡潔に言えばモビルスーツのセンサーやレーダーを狂わせるジャマーが詰まった撹乱兵器である。現状の軍用モビルスーツでは既に対処が施された、今の時代では早くも年代モノと化した兵器であるが、旧式ばかりのテロリストのモビルスーツの電子兵装相手ならば敵はただの鉄の塊と化す。
混乱している間に即座に叩きのめす……分かる限りの事前情報から組み立てた、実にシンプルな戦略プランである。
電子機器に異常が生じ、モビルスーツ同士はモチロン、ジャマーの影響が少ない資源衛星内への通信をも封じられ、オルグが戸惑うように宙を漂う。
次の瞬間、宇宙空間に一筋の光が奔る。その光に胴体を貫かれ、オルグが1機、虚空の宇宙を爆散する。
レイドとリーシャ、2人の駆るブローバックが混乱の隙を突いて攻撃を始めたのだった。
「時間ピッタリだな!流石は我らが艦長と愉快な下僕(なかま)たち!」
「それ、他のみんなが聞いたら後でボコられるよレイド」
などと言葉を発しつつ、レイド機が右手に持ったビームカービンをオルグ1機1機を精確にロックオンしながら撃ち抜いていく。リーシャ機は背部のマシンキャノンを掃射しつつ、前方に弾幕を形成しレイド機のサポートに入る。
『ブローバック……!モデルはPMCカスタム……統合政府の犬どもか!』
電子機器の混乱が収まり始め、視覚に入り込む機影を目にしたテロリストの1人が憎々しげにそう言葉を吐き捨てる。
かつて敵対していた勢力の下にて仕事を引き受ける民間軍事企業が多い世の中である。そこに起因する憎しみが、統合軍へ向けられるベクトルから自分らに向けてズレこむのも仕方が無いことかもしれない…………そこまで考え、レイドは馬鹿馬鹿しげにため息をつく。
(俺らが犬なら、お前らはなんなんだっての………馬鹿野郎どもが)
そのような考えが敵の知る由もなく、オルグは両手に携えた110mmマシンライフルをブローバック目掛けて撃ち放つ。しかしリーシャ機が形成した弾幕を回避しながらの攻撃は2機を上手く捉えられず、その横を僅かに通り過ぎる。
「運が悪いわね!今の攻撃であたしらを落とせないってのは……」
リーシャ機が、攻撃してくるオルグを囲むように円を描く動きでマシンキャノンを掃射する。弾丸はオルグの装甲を掠めて装甲を削るのみだが、直後に右手に携えた98mmサブマシンガンが火を噴く。今度の弾丸は精確にオルグの胴体に複数の穴を開けていき、直後綺麗な爆炎を形成した。
「あんたらが馬鹿にする奴らの方が、上手だって証拠なんだよ!!」
皮肉交じりに言葉を発するレイドの操縦により、レイド機はシールドを片手に携えマシンライフルの雨を物ともせずにただただひたすらに加速する。ビームカービンを腰の武装ラックに仕舞うと、レイド機は袖部分に仕舞われていた筒状の物体を手に取る。
その刹那、先端部よりビーム刃が形成され、ビームサーベルが起動する。オルグ目掛けて突撃するレイド機はその機体が敵に触れる瞬間に軌道をずらし、真横を通り過ぎる。直後、レイド機により横一閃にビームサーベルが振るわれ、オルグを上半身と下半身へと溶断する。
「どうだ?あんたらが言う犬だって、鋭く磨いた牙があればそいつで獲物を仕留めるんだぜ?……って、言ってもムダか」
ニヤリと口角を歪ませ、レイドはそう言葉を綴る。先ほどの強襲で資源衛星外を身回りしていたオルグは全て撃破することに成功した。
しかし衛星内に敵がまだ潜んでいるとも限らない。今回の仕事の本筋たる謎の機体の製造パーツの件もあることから、まだ隠し玉があるだろう……レイドとリーシャは気を引き締め直し、眼前に見える資源衛星内へと続くトンネルへと機体を動かす。
資源が採掘され終え、穴をあけただけの狭い空間を鉄板等を張り付けて固定させた歪なトンネルの中を2機のブローバックが進んでいく。無論、いつ攻撃を受けるとも分からない為、前方を加速性能に優れたレイド機が警戒し、後方を支援性能と火力で固めたリーシャ機が守る形で前へ前へと進んでいく。
3分くらい経っただろうか……道なりに進んでいく2機のブローバックに向けて、突如弾薬の雨が豪雨のごとく降り注がれる。外で警戒に当たっていたオルグの壊滅を察知して、待ち伏せしていた残存戦力による攻撃である。
「やっぱ外にいるのが全部じゃないか……まっ、予想はしてたけどよ」
前方からマシンガンによる攻撃を行う3機のオルグを機体のシールドを掲げながら、レイドはぼやきと共に現状行える行動を模索する。数秒考えを巡らせ、脇目で機体コンディションを確認する。被弾率、シールドの摩耗度、武装のエネルギー残量……それらを一通り流すように見て―――
「んじゃま、支援ヨロシク」
「了~解。リーシャちゃんにまかせなさいって!」
リーシャとそう一言ずつ交わすと、レイドは先ほどの襲撃と同様の手順でシールドを前方に構え、機体を加速させていく。それを支援するように、サブマシンガンと背部の大型マシンキャノンによる支援攻撃がリーシャによって行われる。
背部のメインブースターと姿勢制御用の追加スラスターの向きを調整したお手軽サブブースターをフル可動させ、レイドの駆るグリズリーカラーのブローバックがオルグに向けて突貫する。
左手に構えたシールドは降り注ぐ弾薬により徐々に表面がへこみ始め、縁から順に穴があき始める。それでも前に進むレイドの思考に『後退』の一文字はない。
即座にビームサーベルを引き抜くと、瞬く間に前方左に陣取っていたオルグ1機を切り伏せるとボロボロになったシールドを手放し、すぐ近くにいて今まさにこちらへと振り向こうとする別のオルグに向け、腰部の武装ラックに懸けていたビームカービンを引き抜く。
トリガーが2、3回引かれ、オルグの胸と腰に赤く焼けた弾痕が形成され、即座にレイド機が後方へと飛び退く。狭い空間内に2機のオルグの爆発が衝撃波と共に辺りを赤く包み込む。
爆煙が立ち込める中、後方にて攻撃を行っていたオルグが急加速し、立ち込める煙を突き抜けてレイド機へと肉迫する。両手に携えた110mmマシンライフルを捨て、腰にぶら下げた近接戦闘武器ヒートソードを引き抜き、今まさにブローバック目掛けて指し貫こうと構える。
だが右手で引き抜いたヒートソードを左手で支えようとするコンマ単位での隙をリーシャが突く。即座にシールドを持った左手を前に突きだすと、裏面に搭載したグレネードランチャーが火を噴き、射出した爆裂手甲弾がオルグを押しのけるように爆散。
結果、瞬く間に3機のオルグが鉄屑へと変わり果てた。
「前方の障害はこれにて排除完了っと……リーシャ、敵の保有戦力はあといくつだ?」
「情報通りなら、保有するオルグは12機のハズだからあと5機ってとこかな?あと1、2分したところで広い採掘場に出る予定だからそこに戦力が集中してる可能性が高いよ」
「だな……思ってたより弾薬やエネルギーの消耗を大きいし、少し慎重になって先進むぞ」
「はいは~い」
現状の確認も込みでそう会話のやり取りをすると、投げ捨てたシールドを拾い直し、再び先へと進み始める。奥へと進むにつれ、より人工物による補填が岩盤に施された形跡が見られるようになる。情報通り、この先が資源衛星内の採掘場跡なのだろう……2人はそう頭の片隅で感じていた。
「しかし、あいつらが作ろうとしてる機体ってのは一体何なんだ?ロクなもんじゃないってのは確かだが……そこらへんの情報がまったくないってのは、チト不気味だぜ?」
「そう?まぁ、元統一軍系だっていうからその気になれば引き出しは色々あるでしょ。軍としての地球圏統一国家軍が事実上解体して、そこで研究されていたモビルスーツやらなんやらのデータの多くが今も行方不明だって話だし、ゴトウィンのおじさまだってそこらへんを掴めていないってのが事実なんじゃないの?」
「あの喰えないオッサンがねぇ…………」
厳つい風貌のゴトウィン少佐の考え込む様子を頭に浮かべながら、疑うようにそう言葉を漏らすレイド。
ローグ・ゴトウィン少佐―――2年前のラグランジュ戦役時は統合軍の現地作戦参謀として名を馳せた名将の一人であり、戦力比率において劣勢を強いられたコロニー統合軍の勝利に幾つも貢献してきた戦争の英雄である。
とかく情報戦においては彼の右に出るものはいないと言われ、今でこそ本国の防衛要員として後方へと引っ込んだものの、戦争時は情報収集の為に地球圏統一国家軍の軍事施設に(当時尉官クラスだったとはいえ)身一つでスニーキングミッションを行ったとも統一国家内の戦争反対派・穏健派を焚きつけ、統一国家内の連携に楔を穿ったなどとの根も葉もない―――しかし全てが嘘だとも言い切れない噂を幾つも持った、まさに『喰えない男』である。
そのような男が、『よく分からない』試作機の奪還・破壊を依頼するのだろうか?
(統一軍…………試作……モビルスーツ……)
思考が埋没し、音と光が遠く彼方へ追いやられる……辺りに闇が生まれ、思考の海へと深く、深く沈んでいく…………その先に浮かぶ姿は―――
双眼に光を宿す、白い悪魔――――――
血塗られた、鋼鉄の右腕――――――
「―――イド。レイド!ちょっと、なにボーッとしてるの!!」
思考の海に沈み行く己自身を引き上げるかのように、リーシャの言葉がコクピットの中へと響き渡る。思わずハッとなるレイド。目的地である旧資源採掘跡は、もう目と鼻の先である。
「……わりぃ、ちょっと考え事してた」
「もぅ……まだ敵が潜んでるってのに、しゅーちゅーりょく切らしてたらあっという間にドカン!だよ?」
「だから、わりぃって言っただろ?心配すんな……もう呆けたりしねーよ」
敵敷地内で集中を切らしていたことを咎められ、自分自身でも反省しながらも、いつも通りの自身を取り戻すレイド。通信モニターにて少し頬を膨らませたリーシャを脇目で見つつ、集中力を取り戻すべく軽く深呼吸を始める。息を吸い、肺に生命装置より生み出される酸素を充満させ、溜まった二酸化炭素を静かに吐き出す。
精神のコンディションは通常通り……戦場において重要な集中力を、再び取り戻す。そして再び前へと視線を向ける。
目的地は、もうすぐそこだ――――――
視界が、狭い坑道から開けた空間へと変貌する。
そこは、かつて稀少鉱石を採掘するべく足場を作り、大型の機械を運用するべく人工的に生み出された作業現場―――その名残を残す場所だ。
かつて用いられていた数々の作業機械はその姿を消し、固定用に建造された足場のみが一部取り残されている。
代わりにあったのは、廃棄されたであろう戦艦の一部……正確には、モビルスーツの整備現場等で見られるハンガーが数台、不気味に佇んでいる。
周りの古ぼけた作業用の足場とは対照的に、少し前まで使われていたかのような真新しい汚れが付いている。
「ビンゴ……だね」
リーシャの言葉に、レイドは無言でうなずく。間違いなく先ほどのテロリスト達が、自身の機体を整備するために運び入れた代物であろう。
しかし突入前は大きく感じたこの第27資源衛星跡は、実はそこまで大きな衛星ではない。
大きな資源衛星であればこのような作業現場が数個設けられ、それを運搬する輸送艦が停められる専用のドッグが作られるということもザラではない。それに今居る地点はデータ上資源衛星内の座標では丁度真ん中に値するところであり、他は物資運搬用に開けられた坑道や作業員用の住居スペースなどがあるだけである。
モビルスーツはおろかパーツ1つですら仕舞って置けるスペースなど、どこにもない。
なら、ここにあるハズのターゲットはどこに行ったのだろうか?
刹那、機体上方から熱源反応が感知されると共に、センサーからアラート音が甲高く鳴り響く。レイドとリーシャ、2人は電気が奔ったかのように即座に機体を後方へとバックさせる。次の瞬間、それまでブローバックが居た地点にビームが通り過ぎる。
フト上を見ると、そこにはオルグとは異なるフォルムを持った機体が2機、右腕に持った銃をレイド達に向けていた。
「おいおい……どこから調達しやがったんだ?」
「リローデッド……!?」
直線的なフォルムに背部ユニットから伸びた武装懸架用アームに備えられた専用のシールド、右手に携えた現行モデルの量産型ビームライフル、そしてブローバックから引き継がれたゴーグル上の頭部を持ったモビルスーツ。その盾には、地球圏統一国家軍所属を意味する『地球に十字型の剣が2本組み合わさった』所属マークが刻まれている。
EUM-09 リローデッド―――ブローバックの後継機であり、コロニー連合軍においては、地球との軍事的な『併合』を意識し本来地球圏統一国家軍が製造するハズだった機体を接収した上で、CESW-110Ⅱ サイロプスⅡと共に量産化されたモビルスーツである。
まだ製造されたばかりの新型といって差し支えのない機体のハズであるが、それが何故一テログループに流れているのか…………2人は戸惑いを感じていた。
更に驚くことに、2体のリローデットの背後からはレイド達の駆るブローバックよりもスリムな風貌をした、同じ容姿の機体が2機佇んでいる。
PMCカスタムのベースとなった、通常仕様のブローバックである。こちらもリローデッド同様のマークが左肩へと刻印されており、同じ所属の機体であることを誇示している。
「ブローバックまで……一体何なの、こいつら?!」
「大方どこかの基地を襲撃して手に入れたってトコだろうが……ブローバックはともかくリローデッドなんざ、まだ主要の軍事施設にしか配備が進んでないレアもんだぜ……何がどうなってやが―――」
そう言葉を紡ぎかけたその時、レイドの背に悪寒が迸る。まるで蛇睨まれた蛙のように、強大な力を見せつけられたその感覚…………心臓を鷲掴まれたかのような息苦しさに、レイドは覚えがあった。
視線をリローデッド、ブローバックから更に先へと進める。
心臓の鼓動が高まり、動悸は激しくなる。急に喉が渇き出し、目の奥熱く、火花が散るかのように痛みにも似た感覚が生まれ始める。
機体を望遠モードに切り替え、視線の先にあるものを確かめる。そこに居たのは―――
双眼に光を宿した、白い悪魔―――
「ガ…………」
額から伸びる2本の角と、より人に近い印象を与える特徴的な頭部。ブローバックにも似た直線的なフォルムながら、それらとは異なる一種の芸術品にも似た容貌をしたモビルスーツ―――
「ガン……ダム…………!!」
あの日自身が乗り込み、戦い……戦わされ、強いられ……そして壊した、仲間たちの骸を内包した悪魔―――
「ガンダムゥゥゥゥゥ!!!!」
突如、レイドは吠えるように激昂し、躊躇い無くビームカービンを引き抜き、『ガンダム』に向けその引き金を引く。その瞳には、作戦前から今まで見えていた余裕も戦士としての覚悟も消え失せている。
あるのは、眼前に見える『悪魔』に対する、怒りにも、怯えにも、憎悪にも、哀れみにも似た―――畏怖の念のみ。
レイド機より放たれたビームは真っ直ぐ『ガンダム』へと向かうが、その間にリローデッドが割り込み、背部のアームユニットと接続された専用シールドで受け止める。
だがそんなことは物ともせず―――ただただレイドはビームカービンのトリガーを引いて引いて、引きまくる。
まるで悪夢を振り払うかのように幾度も幾度も行おうとするその行為に、リーシャは何か言葉を掛けねばと思うが――――その言葉が出ない。
『…………眼前の脅威にただただ怯える駄犬などがここまで来るとは……外でやられた奴らも浮かばれんな……』
『ガンダム』から声が聞こえる。低音の、落ち着いた印象を与える男の声だ。
仲間たちを想ってのやるせなさが言葉端に滲み出た声…………その声を合図に、ブローバックとリローデッドが携行するビームライフルを構え、レイド機・リーシャ機に向けてその引き金を引き始める。
穿たれるであろうビームの嵐を予測し、リーシャは即座にその場から回避しようと機体を動かそうとする。
しかしレイドだけは、その場から回避しようとはしない。『ガンダム』に向けた銃口が僅かに揺れるだけで、一歩も動こうとはしない―――否、動けなかった。
「その声……まさか…………!!?」
「レイドォォォォ!!」
「……………………ッ!!!」
リーシャの叫びにも似た声に、眼前の悪魔へと囚われていた思考が再度戻る。敵モビルスーツが向ける長銃に光が収束し、今にも己を指し貫こうとしている……それを意識するより早く、体が動いた。
即座に機体を加速、後退ではなく離脱速度を考慮しあえて『前』へと進む。リーシャ機と距離が開いてしまうものの、まともに貫かれて鉄屑確実のコースを辿るよりは遥かにマシである。加えて肩部に装備したミサイル迎撃用のバルカンポッドを強制排除し、排除による衝撃を利用しビームが降り注がれるであろう射線上にそれを投げ込む。弾薬の爆発を利用し、少しでも射線をズラすことが目的である。
刹那、ビームの嵐が2機に向けて放たれ始める。リーシャ機は事前に回避行動を取り、採掘所跡に入る時に使った坑道へと逃げ込むことで被弾もなく逃げ切ることに成功したが、レイド機は回避が遅れた為、まさに雨の中を濡れないように走り去るかのように慌ただしく機体が動き回る。
まともに着弾すればごっそりと装甲を持っていかれる光の雨に晒され、左腕や右腕、バックパックの一部装甲が削ぎ落とされる。ビームカービンやシールドに関しては被弾による爆発を考慮しその場で手放した。無論、手放した直後にそれは被弾し、激しい爆発と共に失われたのだが……
それでもなんとか取る事の出来た行動により最も被弾して欲しくないスラスター系統やコクピット周りにだけは被弾することなく、リーシャ機とは正反対の坑道へと身を隠すことには成功した。
だがこれにより、こちら側に残された武器はリーシャ機のものとビームサーベルが1本のみと心元ないものばかり…………
レイドは後悔した。己の浅はかな行動がこのような結果を招いたという事実に…………
最悪この場からの撤退も考えに入れ敵の出方を伺うが、敵はビームライフルによる牽制こそするが直接攻撃に出てこない。
よく敵機を観察すると、ブローバックもリローデッドも脚部や腕部の一部に装甲の欠損や動力ケーブルの収納忘れが見受けられる。それも戦闘で失われたというよりは、建造の最中に無理に動かした為とも言える欠損である。
おそらくこれらの機体は製造途中のパーツをなんらかの方法で入手し、それを組み上げて製造を行っていた最中だったのであろう。それがレイド達の襲撃により無理に起動させることを強いられた結果がこの欠損した機体達……そうレイドとリーシャは推測した。
ともかく、戦略的に厳しいのは敵も同様―――そこに隙が生じる……そう考えていた。
しかしその考えを再度『ガンダム』が遮る。その手に携えた、大型のモビルスーツ用バズーカ砲を掲げて―――
『貴様らの雇い主に伝えておけ…………我らの怨念は、貴様らを滅ぼしてもなお潰えることはない、とな』
男の言葉と共にバズーカ砲から光が放たれ、弾薬が撃ちだされる。高速で射出されたバズーカ弾はモビルスーツハンガーに直撃すると激しく爆発が引き起こされる。それと共に立ち込める黒煙と炎、それらが採掘場跡を瞬く間に蹂躙していく。
「待て!お前に聞きたいことが……ッ!!」
レイドが何か言葉を言い掛けるものの、全ては爆発音がかき消してしまう。無理に肉迫しようとも、今の機体状況ではまず撃墜は確実である。
何も出来ず、その場に縫いつけられるように2機はその場に止まる。やがて爆音が止まり、炎が揺らめく音と足場の崩れる音のみが空間を支配し始める。
『ガンダム』の姿は、最早どこにもなかった。
「お前だっていうのか…………ヴァンス・シェルアノール……」
呟くように漏れるレイドの言葉に、答えを求める者は既にいない。テロリスト、新型機、ガンダム、そして―――
グルグルと考えは纏まらず、それでいて体には無駄に力が入る。
今はただ、早くシルファリオンに帰りたい―――レイドはそう静かに思っていた。
「とりあえずメルたちの所に帰ろ。色々と報告しなきゃなんないし……おじさまにも話を聞かないと」
「…………だな。あのオッサンからは、聞きたいことが山ほどある」
機体をリーシャ機に向け、レイドは今だ炎が立ち込める採掘場跡から静かに立ち退く。モニター越しから見えるリーシャの柔らかい笑みから、彼女が自身を心配してくれていることを感じ取り、レイドはただ苦笑いを浮かべるしかなかった。
「…………らしくねぇ……ホント……俺らしくねぇ…………」
それは誰に向かって言ったのか、自分自身に言ったのか……レイドの言葉はただただコクピットの中を漂い、そして消える。
ただそこに、かつての戸惑いと己への皮肉だけを残して――――――
EPISODE2 END
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