ハイスクールDevil×Dragon×Dhuman 作:しにかけ/あかいひと
「ふう……自分から勝手でたとはいえ、予想通りか」
拳にはめた鉤爪グローブみたいなものをガチガチと鳴らしながらため息を吐くのは、リアス・グレモリーの『兵士』松田圭太。
今回の舞台である彼らの学び舎『駒王学園』は、旧校舎と新校舎があり、それぞれの端にリアスとライザーの拠点、オカルト研究部室と生徒会室がある。
部室側には、それなりに広い森がある。襲撃してくる敵……特に『昇格』狙いの本陣に攻め込んでくる『兵士』を誘い込んで潰すという使い方が可能。
対して、生徒会室側は侵攻してくる敵を見渡しやすく、襲撃に対処しやすい本陣。
それぞれを行き来するためのルートは3つ。新旧校舎それぞれに隣接している体育館のルート、新校舎から丸見えになる校庭を通るルート、裏側の運動場からのルート。
『レーティングゲーム』はチェスを模したゲームなだけあって、序盤の戦い方は『兵士』の潰し合いである。故に彼は、集中砲火の危険がある校庭で、敵の兵士を潰してくる…………と、立候補して目立つ様に歩き、あわよくば敵本陣で『昇格』しようと歩いていた彼を、3つの影が囲んだ。
「ふうん? まさか兵士が一気に3人も来るたぁ、思わなかった」
「誘っておいてよくもぬけぬけと。少ない兵士とはいえ、プロモーションされると面倒だから、容赦無く潰させてもらうわ」
3人のリーダー格の女性がそう宣言し、圭太に向けて各々の得物を突きつける。
「…………なあ、おかしいとは思わねーか?」
「何が、よ?」
圭太の纏う空気が変わり、爽やかなスポーツ青年顏とも称されるその顔が、獰猛な笑みを形作る。
「俺はお前達が来るのを分かっていた…………気配も読んでいた。なぁ…………あまりに悠長に構え過ぎだと、思わないのか?」
「はん! 負け惜しみもここまで来ると────」
瞬間、圭太の姿が掻き消えた。
「…………え?」
そう、声を漏らしたその時。
「あ──────」
事切れる声と、血の噴き出す音。
リーダー格の女性は、視界の端で、仲間が裂傷と共に鮮血を撒き散らす瞬間を見た。
「マ、マリオン!!?」
何が起こったのかも分からない表情で倒れ込む彼女を、リーダー格の女性は走って駆け寄り抱きとめる。
しかし無情にも、リタイアを告げる放送と共に彼女は光に包まれて、消えた。
「この…………よくもマリオンを─────」
「うあ──────」
またも響く、骨肉を裂く音と液体が噴き出す音。今度は彼女の背後で、もう1人の仲間が切り刻まれていた。
彼女の顔には、先ほどの女性とは違い明確な恐怖…………姿の見えない切り裂き魔に対する恐怖が。
「そ、そんな、ビュレントまで…………い、嫌ァァアアアッ!!!?」
立て続けに起こった、姿見えなき凶行に、彼女は耐えきれなくなり…………その場を離れようと走り出す。
そして辿り着いた新校舎の側。逃げる事は悪い手段ではない。勝てないと思った相手から逃げ切ることは、重要なことである。
しかし、
逃げ切ったと思った彼女の背後から、金属を擦り合わせるような音が響く。
「(ひィッ!!? そ、そんな…………これだけ走ったのに──────)」
「み ぃ つ け た」
彼女の意識は、そこでノイズが途切れるように落ちた。
◇◇◇
現在この俺兵藤一誠、両家の当主とご婦人に加え、魔王サーゼクス・ルシファーのいる、すっごい胃に悪い空間にいた。
まあそれもそのはず、今回の話を大いに拗らせた元凶であり、冥界衰退の原因を作った悪名高き赤き龍の帝王ですもの。睨まない筈がないわよね。コレがお嬢の眷属にでもなれていたら話は違ったんだろうが。
なお、サーゼクス・ルシファーからはすっごい笑顔で見られて、そっちでも凄く居心地が悪い。悪意の見え隠れする笑顔ならば、逆に底意地悪い笑顔浮かべて対抗できるのだが…………まあ、少なくともこのヒトだけは気持ちコッチ側の味方になり得る存在だからまだ耐えられるけど。
そんな感じで凄く胃がキリキリと痛む俺だったが、
「おお、やるぅ」
我らがハゲの、鮮烈な先制攻撃に、観覧席の空気は凍りつき、それが逆に俺の胃の痛みを和らげた。
「敵の視線に入らない体さばきに、観測機器で追いきれない程の瞬発速度、それらを活かす狩りを彷彿とさせる一撃…………うん、パーフェクト」
鋼拳に鉤爪つけてくれって言われた時は焦ったけど、悪くない提案だったな。
でも、あの恐怖を煽る動きは、相手の戦意を挫く意味を含めたとしても、いささかやり過ぎではなかろうか? まあヒトのことは言えんがな。
「彼は確か…………リアスの新しい眷属の1人だったか。兵藤君、彼は一体何者だい?」
おおっと、その端正な顔に苦笑を浮かべちゃってまー。まあ、親友が評価されてるようで俺は嬉しいが。
「何者と言われましても、俺の親友としか答えられませんね」
まあ、赤龍帝の友ってだけでこの場の皆からすれば恐怖以外の何物でもなさそうだけど。
「しかし、とてもそれだけには思えないんだが……」
「これで驚いてたらキリがないですよ? ついでに言うなら俺の親友はもう1人いますし…………何より、今回のゲームにあたってみんな鍛えましたから」
ほら、今度は体育館の方で動きがあるみたいですよ?
◇◇◇
「全く、序盤から派手にやり散らかすものだあのハゲは」
「派手なのは、トーヤ先輩も同じなのでは?」
「……知ってはいたが、小猫ちゃんは存外毒舌なのだな」
「思ったままのことを口にしただけです」
軽い口調で体育館に入ってきたのは、眼鏡をかけた『兵士』元浜塔矢に『戦車』塔城小猫。割と行動を共にすることが多いのと、前衛と後衛の役割がはっきりとしているこの2人が、今回の最重要拠点である体育館に差し向けられた。
そして、堂々と正面玄関から入ってきた2人を待ち受けていたのは、
「思った以上に、堂々と入ってきたわね…………まあ、そっちの方が都合がいいのだけどッ!!」
チャイナドレス姿の『戦車』の女性、双子でそれぞれチェーンソーを得物としている『兵士』、棍を得物としている『兵士』の少女。計4名の悪魔だった。
「ふむ。小猫ちゃん、『戦車』を頼む」
「分かりました。トーヤ先輩は『兵士』を」
それぞれがそれぞれの敵を見定めて戦闘が始まる。
悠々と己の武器である2丁拳銃を構えた塔矢。傍目には隙だらけと思われたのだろう。
「「解体しまーす♪」」
双子の兵士が、チェーンソーに火を入れながら、塔矢の左右を挟み込む形で振り被る。
才能がある者ならば、ここで華麗にギリギリで躱し、その隙を撃てばいいものであるが。
「……まあまあ速いな」
近接戦闘の才能がない塔矢は、それを堅実に躱し続け、カチカチと空撃ちし続けるしかない。
「「バラバラバラバラ!」」
「くっ、思った以上に厄介な」
さらに、
「そこっ!!」
「おっと」
彼の敵は双子だけでない。棍使いの兵士が、双子の隙を埋める形で鋭く突きを放つ。
さらに空撃ちを続けるながら、彼は3人の兵士から距離をとる。
「成る程、把握した。双子の諸君。君らは太刀筋から察するに得物を振り回す能力はボチボチといったところだが、代わりにそのコンビネーションが厄介の様だ」
「余裕ぶっちゃって!」
「むかつく!」
「更に、そちらの棍使いの君は、地味でありながら堅実なその動きが素晴らしい。堅実と言うのは、戦場における確実性が高い。実に厄介だ」
「…………時間稼ぎですか? 無駄ですよ、どう見ても貴方は前衛ではない以上、私達が攻撃し続けたら─────」
その時、塔矢の眼鏡の奥のその眼が、蒼い炎を灯す。
「ああ、時間稼ぎだ。君たちは選択を誤った。『Set up』」
その合言葉と共に、3人の兵士達の周りに数多の文様が現れる。
空撃ちに見せかけたセットによって仕掛けられた、魔法陣である。
「こっ、これは!!?」
「敗因は相手を侮り、攻撃の手を緩めたことだな。『Burst』」
拳銃のトリガーが引かれると共に、魔法陣からは極太の光線が放たれる。
ただの光と侮るなかれ。此れは魔術の深淵に足を踏み入れた魔女より伝えられし『滅魔の光』。対悪魔用の戦略兵器とも言うべき大魔術。魔弾に落とし込むため多少効果を落としているとはいえ、その威力は推して知るべし。
全方位から放たれたそれは、眩い檻を形作り、相手に断末魔を叫ばせることなく焼き尽くした。
『ライザー様の『兵士』3名、『戦車』1名リタイア』
「……先輩、当たりそうだったのですが」
ほぼ同時に相手を落としたらしい小猫が、ジト目で塔矢を睨む。
「なに、その辺りは計算している。どう動いても当たらない様に配置したのだから問題あるまい」
「私やみんなであれば大丈夫ですが……普通は慌てますからね」
「信用しているからさ」
入ってきた時の様に軽い会話を交わす2人。
圧倒的、という言葉すら生温い、ただただ一方的な蹂躙だった。
松田くんは獣なイメージ。
元浜くんは『ロマノフⅠ世』なイメージ。
…………どっちもロクでもねぇ。