ハイスクールDevil×Dragon×Dhuman 作:しにかけ/あかいひと
でも、その代わりに気合い入れて赤域史上最長の1話となっております!
◆◆◆
ああ、
だから
『
◆◆◆
『兵藤一誠』
部長の新しい眷属である松田君と元浜君の友達であり、部長の協力者であり…………今代の赤龍帝。
白い肌、紅と黒のオッドアイというある種の暗い印象を覚える容姿に反した明るい性格で、想定外の権化とも言える存在。今代の赤龍帝であることを加味しても、非常識の塊で…………僕の目には、どんな障害にぶつかっても斬り払って進み、誰彼構わず手を差し伸べられる人間に見えた。もし、たらればを考えるのは趣味じゃないけど…………もし、僕らが殺される現場に彼が居合わせてくれたら、きっとおとぎ話のヒーローの様に助けてくれたことだろう。
そんな、人間らしいのに人間らしさが欠如した、完璧に見えない完璧超人な彼だが…………それは彼の見せる一面に過ぎないことを、簀巻きにされて無理矢理聞かされた昔話で思い知らされた。
正直、荒唐無稽な話だ。厨二病、と呼ばれる人達だってもうちょっと話を捻るだろう。いや、本人はそうは言わなかったけど、彼の話したとある少年の物語の『少年』が、彼であることは容易に想像が付く。でも、自分が異世界出身で、前世の記憶を受け継いでいるなんて、ただのバカではなく、相当なバカなんじゃないかって思うのは、仕方のないことだと思う。あるいは、バカらしい話をすることで上手く丸め込むつもりなのかもしれないとも。
でも、徐々に目の色が変わってくる。より暗く、より澱み…………普段の明るい彼からは絶対に想像できない、腐臭すら漂ってきそうな物へと。演技ではできないだろうその目は、昔の僕と最近の僕はよく目にしていた…………鏡に写った、僕自身だ。
話の真偽はともかく、『先輩』だというのは間違いなさそうだと思ってしまえば、どんどん話に引き摺り込まれていく。
…………彼は復讐鬼に堕ち、転落の一途を辿ってなお、後悔はしていないのだという。復讐を虚しいと感じているのにも関わらず、だ。
『復讐は虚しい。しかし俺は、お前の復讐心を肯定しよう。罪には罰が課せられるべきだ。だが…………だけど…………お前を案ずる者すら斬ってしまえるような復讐鬼にだけは、ならないでくれ』
縋るような目、絶対強者とも言える彼の、弱さを全面に押し出した姿。
でも、そんな彼の言葉だからこそ…………僕は突っぱねることなく聞くことができたのだと思う。
(…………こんな僕でも、心配してくれる人達はいる)
それは僕の命を救ってくれた主人である部長だったり、僕と同じ下僕悪魔である仲間達だったり、この存在そのものが荒唐無稽な『先輩』だったり。
(復讐を完遂することは止めはしない。だってそれは、僕の生きる意味だから)
だけど、こんな僕に、復讐以外の生き方を教えてくれた部長や、こんな僕を仲間だと言ってくれるみんなを、本気で切り捨てることなんて…………できやしない。
(…………悪魔らしく、欲張りに行こうじゃないか)
復讐もする。仲間も大事にする。僕1人だけ生き残った罪悪感はあるけど、彼らの分まで生き抜こうと思えば、なんとかなる気がした。
「…………腹は決まったか?」
「うん。僕は、みんなを殺したエクスカリバーを赦さない。でも、みんなが生きた証を残すためにも僕は生き抜きたいし、僕を案じてくれるみんなを切り捨てたりはしない。…………一応これでも悪魔なんだ。欲張りに、生きてみせる」
「そうか…………よかった」
そう言って、彼はまた語りだす。
「死んだ人間は、怨念を振りまくやつもいるが…………残された人間が幸せに生きてくれたら満足ってやつもいるらしい」
「それも…………実体験かい?」
「さぁてな。俺、生きてるし」
……僕は、本当に恵まれている。こんな、頼りになる『先輩』が助言してくれたのだから。
「
僕は、聞かれぬようにボソリと呟く。
だから、
「
彼の返事なんて、聴こえなかった。
◇◇◇
俺に対してある種の狂信を見せ付けたイリナちゃんを見送ったところで、自分のツノを斬り取る。
どっからどう見てもドラゴンのツノ…………ではない。ツノと言うには、些か刃の様に鋭くて細過ぎた。もしかしたら、本来デューマンてのはツノの生える種族だったのかもしれないな。それが、龍にあてられて発現した、みたいな?
まあ、そんなことはいいんだ。全くもって重要じゃない…………少なくとも、今は。
準備は整った。万全とは言い難いかもしれないが、最低ラインまでは整えられた様に思う。それは偏に、家族とお嬢一味のお陰だ。本当に、頭が上がらない。
さて、感傷に浸る時間はないのでさっさとあいつを呼びに行こう…………
「やぁ、待たせたねイッセー君」
と思ったら、完全に復調したらしい木場が先手を打つかの様に表れた。
さて、ついこの間までは立派な復讐鬼だった彼も、気持ちの整理と打倒すべき仇を見据えたことで精神的に安定を見せ、部活メンバーに迷惑をかけたことを謝罪したことで、その辺りについては完全に元鞘となった。
まあ、復讐を止めたわけでもなければ、周りがそれを止めるわけでもないので、本当の意味で元の鞘に納まるには、木場祐斗はガルパー・ガリレイを倒さなくてはならないが。
「いや、あまり待ってない。呼びに行こうとは思ったが、その手間は省けた」
「はは、なら良かったよ」
「……………………」
実は今回の木場の復讐劇。俺個人としても気になるところがある。
俺は確かに復讐を成し遂げた。しかしそれはある意味では不本意なものであり、それ以前に俺は立ち直っており、復讐を完遂した、という感慨はまるで無かった。…………だってさぁ、仲間が死ぬ死なない瀬戸際だったりDF完全復活目前とか、マジでシャレになってなかったもん。そんなときに終わったことを思い返せるわきゃねーだろ。
だから、木場が復讐を完遂したとき…………どうなるのだろうか? まあ、あまり褒められた内容ではない、野次馬根性の様な疑問だがな。
「……突然だけど、俺らって凄く似てるよな」
「あー……うん、そうだね」
お互いに理不尽に過去を潰され、復讐鬼に堕ち、拾われ、剣の腕を磨いて…………で、こんな感じ。もしかしたら、俺が正しく復讐を完遂した場合の擬似的な答えが得られる…………訳はねぇな。似てるけど、所詮似てる程度。同じ感覚は共有できても、同じ思いは共有できない。それは、仕方のないことだ。それは、本当の意味で他者のことを理解はできないことと似ているな。
…………あーダメだな。どうも思考がどっちらけだ。理由は分かってる、ツノが生えてしまった原因だ。
「とりあえず先達として精一杯サポートしてやっから、頑張ってくれ。とはいえ俺も過去の因縁と向き合うことになりそーだから過剰な期待はNGな?」
「うん。まあ、奴だけはなるべく1人で倒したいところだけど…………無理はしないさ。こんな僕でも心配してくれる人達がいるからね」
「GOOD!」
もうこいつは俺みたいな転落の仕方はしないだろう。羨ましいとは思うが、素直に嬉しい。
「ところで今更だけど、イッセー君って相当ファンタジーな存在だよね。異世界出身で、前世を受け継いで、しかも前世の敵が現れるなんて。何処の小説の主人公だって話だよ」
「悪魔で魔剣士で復讐者な、漫画だとダークヒーロー真っしぐらな設定のお前が言えたことか。ファンタジー色だけで言えばお前だって相当なモンだろ」
「あはは…………言われてみればそうだね」
さて、緊張も解れたところで行きますか。
「準備はいいか、
「勿論だとも、
剣を担いで家を出る俺たちの姿は、実に似ていたに違いない。
さあ、復讐劇の始まりだ。
◇◇◇
…………ってな感じで意気揚々と出発したが、少々よろしくない状況に陥っている。
「チィ、ガルディンにパノン、デルセバンにセンディランだと!?」
途中までは気配すら無かったのに、SEEDフォームが急に沸き始めた。準備は無駄にならなかったが、正直複雑なところだ。
ガルディン……小型のSEEDフォーム。他の奴らと違い妙に目的が掴めない中途半端な形態から、純粋なSEEDフォームはここから派生するのではないか、と研究者の間では言われていた。
パノン……小型のSEEDフォーム。不気味な縫いぐるみの様な、出来損ないファンシーな見た目で油断させ、情報を集める目的の個体。自衛能力は多少あるがかなり倒しやすい…………が、放置すると面倒になる為1番最初に潰さないといけない存在である。
デルセバン……兵士型のSEEDフォーム。頭でっかちの複眼に、剣の様な腕、飛び掛かりや逃走に便利な虫の様な脚を持つ、パノンと同じ情報収集タイプでありながら、自衛能力に重きを置いた個体と言えるだろう。結構な距離を跳んで距離を詰め、切り掛かってくるので意外と面倒な手合だ。
センディラン……四足歩行獣タイプのSEEDフォーム。現実の四足歩行獣を参考にしているからなのか、集団で現れて狩りをするという習性があり、攻撃手段は特に変わったところはない。が、やはりSEEDフォームと言うべきか、一撃は現実の四足歩行獣とは比べ物にならないし、下手に攻撃を受けると感染の恐れもあるので厄介なことに変わりはない。
とまあつらつらと脳内でそれぞれの特徴を思い出しながら斬り払っているわけだが、想定していた最悪の二歩手前ぐらいの現状に冷や汗をかきっぱなしだ。
一度波が引いたタイミングで、背中合わせの木場も、焦った様な声を出す。
「…ッ!! 全く、魔物以上に悍ましい存在がいるとはね!!」
「だが対処はある程度は簡単だ!! とにかく聖属性でなくとも光が無駄に効くからよ!!」
「助言感謝するよ、『
第二波があちこちで沸き始め、弾かれた様に俺たちは飛び出す。
「斬ッ!!」
バータ(氷属性魔法の様なもの)を乱射するパノンを斬り、背後より跳び斬りを仕掛けてくるデルセバンを振り向きざまに撃ち抜き、高速回転しながら突撃してくるガルディンを蹴り上げ、センディランの固まる場所にフォトン球を放ち、吹き飛ばす。
今己の手には武器はなく、代わりに武装化フォトンが纏っている。デューマンの固有技能、『インフィニティブラスト』。現状俺が持つSEEDフォームに1番有効であるモノが擬似フォトンである為、使わざるを得ない状況である。
…………それにしても、キリがない。HIVEじゃあるめぇし、なんでこんな大量に?
「木場、一旦デカイのぶちかますから跳べッ!!」
「ッ!!」
肯定の意思を受け取ったところでチャージの体勢へ。手のひらにフォトンを…………自身の体内と、周囲に満ちるSEEDフォームから漏れ出たフォトンを吸い込むと同時に、その吸引力を利用してSEEDフォームを引き寄せていく。
甲高い音と共に、手のひらの圧縮フォトン球がはじける様な光を放つ。
「
圧縮フォトンの解放。俺を中心に、爆発するかの如くフォトンが広がり、無理矢理周囲に集められたSEEDフォームを吹き飛ばし、消していく。
「…………ガフッ」
……喀血。周囲のSEEDを一掃できたのはいいが、死にそうになってちゃ世話ねぇよな。全く、デューマンの雑魚さは半端ねぇな。
「無事かい、イッセー君!?」
「慌てんな、反動が来ただけだ。…………正直、自分の虚弱さを舐めてた」
別に自分の技で自爆したわけじゃないが…………ま、気にしちゃ負けだな。
それよりも、である。
「流石だ…………流石、
本命、登場。
◇◇◇
『バルパー・ガリレイ』
俺の知り得る情報から、人の犠牲を屁とも思わないマッド研究者であり、聖剣に入れ込みすぎた男だということは知っている。
俺たちの目の前に現れた、司教の様な服を纏ったその男が、バルパーであることは間違いないだろう。
だが、この男から放たれる強烈な違和感。
まず、既に『人で無し』だ。間違いなくSEEDフォームに堕ちてやがる。
次に、装備している3本の剣が…………聖剣、それもエクスカリバーだということ。SEEDで聖属性に耐性を持つ個体は、片手で数えられる程度だということを踏まえると、弱点が突けない。
最後に、俺に向けて放った『英雄』という言葉。何を意図して口にしたのか。『
「バルパー・ガリレイ……『皆殺しの大司教』…………『聖剣計画』の責任者…………僕の、僕達の、仇…………ッ!!!」
そんな違和感に頭を悩ませていると、木場が押し殺した怨嗟の声を口に出す。
「……ほう? まさか、あの計画の生き残りなのか。…………数奇なことだ、聖剣使いを人為的に生み出す計画の生き残りが、よもや悪魔に転生し、魔剣使いとして私の前に立ちはだかるとは。つくづく、都合のいい」
「…………ッ!!!」
ギリギリと、歯をくいしばる音がする。無理もない、まるで怒りを煽る様な奴の台詞。むしろ怒りを抑えられていることに感動すら覚える。
「何の……何のためにッ!!」
「それは、計画の被験者を全て殺した理由か? それとも、コカビエルと共にこの町に来た理由か? …………いいだろう、全てを知った上で死ぬのもいいだろう」
まるで、自分は負けないとでも言わんばかりの自信をその顔に乗せた男は、ニタリと妙な笑顔で語り始めた。
「私はな。聖剣が好きなのだよ。それこそ、夢にまで見るほどに。英雄譚の英雄の様に、聖剣に選ばれ、悪を打ち倒す夢想に溺れたのだ。…………だからこそ、自分に聖剣使いの適性が無いと知った時…………世界が滅びる様な錯覚を覚える程、絶望したのだ」
……確か、聖剣を扱うには因子が必要だったか。それらは生まれ持った資質がモノを言うと聞く。
「だからこそ、私は思ったのだ…………どんな手を使ってでも、聖剣使いになってやろう、と。必然、聖剣使いを人為的に生み出す研究に没頭することになった」
「そんな、そんなことの為に!!」
「フン、結果的に聖剣使いは人為的に作れる様になったのだから、褒められこそすれ、断罪される謂れは…………あるな、まあいい。教会にとって、よいアドバンテージとなったことだろう」
…………待て、なんて言ったこいつ。
『聖剣計画』では、誰1人として適合することができずに、みんな処分という形で殺された筈だ…………いや、木場は生き残ってしまったけれど。
失敗、失敗なのだ…………でも、まるで聖剣使いを作るという面においては、成功している様な口ぶりだ。
「ああ、不思議な顔をしているな。表向きの理由、『聖剣使いを人為的に作る』という点に関しては、聖剣計画は成功していたのだ。この国には、『塵も積もれば山となる』ということわざがあるだろう? つまりはそういうことだ」
「「…………ッ!!」」
今の、今の発言で真相まで辿り着いてしまった。…………くそッ、人間ってのは何処までも屑になれるってのか。
「聖剣を扱うには、生まれ持った資質が…………生まれた時に体内にある因子が必要だ。各々のソレにはどれ程の聖剣ならば扱えるかの適性がある。それを数値化し、被験者達のデータを見れば、因子自体はあるものの…………揃いも揃ってエクスカリバーを扱うには程遠い。ならば…………それらを束ねてしまえばいい。そう思うことは、自然な流れだろう?」
言ってることは理解できる。無いものを掻き集めるのは割とよくあることだ。ただ、実行に移すかどうかは別の話なのだ。
「…………それで殺したのか、絞りかすとなった僕らを」
「正確には逆だな。当時は、殺さねば因子を摘出できなかったのだ。まあ、大差はない。どちらにしろ、処分はしていただろうからな。どちらにせよ、君達には感謝している…………私の夢の一歩に貢献してくれたのだから」
そう言って、バルパーは木場に向かって何かを投げてよこす。…………光り輝く球体、迸る聖なるオーラ。説明はされずとも、それが聖剣適性因子の結晶であること……それも、木場と仲間達のソレだということは理解させられた。
「…………そんな、皆」
「もう、因子結晶の量産体制は整っているため、副作用のある初期型は必要無い、くれてやる。…………とまあ、計画は成功したが、被験体を殺したのが不味かったのだろうな。私は教会に断罪されて追われることになった。まあこの辺りはどうでもいい。一応は聖剣使いになることができた私だが…………いくらエクスカリバーで悪魔を切っても、違和感に苛まれることになってしまった。当然だ、私は『聖剣使いの英雄』。聖剣使いになることは過程でしかなく、悪を打ち倒す『英雄』になりたかったのだ」
「…………英雄にしちゃ、大分ド外道だけどな。早速道踏み外してんぜアンタ」
蹲る木場から、興味をなくした様に俺へと視線を向けるガルパー。その顔は嘲笑と情景に溢れたなんとも言えない表情だった。
「『ショウ・ウォーカー』だった貴様が言えたことか。立場が、抱える正義が違えば『英雄』は『大量殺人鬼』だろう。SEEDの側から見れば、立派な外道だ」
「……………………」
…………こいつその為にSEEDフォームに堕ちたのか。
SEEDとなることですべてを敵に回し、たくさんの
「止めるか、『英雄』? こちらとしては好都合だ。貴様を殺せば、英雄に近付ける」
「……………………」
何も答えずに、俺は後ろに引いて、木場を見る。
木場は、泣いていた。己の仲間達の成れの果てを、愛おしそうに、撫でていた。
『(…………相棒)』
「(…………そうだな)」
グローブを嵌めて、杖を出す。
空気を読んで、音声を出すことなく倍加を始めた軍手に、少し苦笑しながら、20秒。
「
『Transfer』
譲渡先は、適性因子。
力を与えられたことで因子はそのオーラを増し…………解ける様に、解放されていく。
解放されたオーラは、徐々に人の形を取り始め、目を見開いた木場に寄り添っていく。
「皆………ごめんよ、僕だけが…………」
彼ら彼女らは、木場の仲間達の魂だろう。一応研究者の端くれとして大凡何故こうなったかの推論はできるが…………無粋だな。
木場の後悔と、彼らの後悔を、おせっかいなドラゴンが解消しようとした。それでいい。
『僕らのために、涙を流してくれてありがとう』
『死んでしまっても、私たちのことを忘れないでくれてありがとう』
「そんなの、当たり前じゃないか!! みんなのことを忘れるなんて………!!」
…………ダメだな、見てられない。ぐじゃぐじゃに泣く木場も、それを慰める彼らも。少し視界が歪んでら。
「ずっと、ずっと思ってたんだ!! どうして僕が、僕だけが!! 僕よりも夢を持ってた子がいた!! 僕よりも生きたかった子がいた!! どうして、僕だけが…………ッ!!!」
『…………ごめんね、独りにさせて』
『大丈夫。私達の為だけに生きるなんて望んでなどいないわ』
『君が、僕らの分まで幸せに生きてくれる。それだけで充分、報われる』
「皆…………」
過去の仲間達から肯定される。それが、今の木場にとってどれだけの救いなのだろうか。
もう我慢が出来ずに自分の目から涙をボロボロとこぼしてしまう。
「ありがとうみんな…………ずっと、ずっと忘れない…………!! これからだって、みんなのことは忘れない…………!! 殺されたみんなの分まで、みんなの想いも背負って僕は生きるって決めた!! だから、これからの僕を、見守ってくれるかい…………?」
『『『もちろん』』』
魂が、青白い光を放つ。その光は徐々に一つとなり…………木場を包んでいく。
『『『我らの心は、イザイヤと共に…………』』』
視界がホワイトアウトする程の光量。しかしそれは徐々に収束し、木場の中に吸い込まれていく。
文字通り、憑き物が落ちた顔。
ヤツを縛っていた鎖は、もう砕け散った。
「ああ、いつだって僕らの心は一つだ─────」
次の瞬間、二つの力が吹き荒れた。
神々しい、触れるだけで心が洗われそうな聖なるオーラ。
禍々しい、触れるだけで心が腐り落ちそうな邪なるオーラ。
相反する筈のそれらは、徐々に一つの形に収束していく。
それは『剣』。彼らの想いを詰め込んだ…………理を超えた証たる一振りの剣。
『想いが、常識を超えた。ならば、神器もまた、理を超え、至る。『
ドライグの台詞が終わるタイミングで、その剣は完成した。
聖なる輝き、邪なるオーラを放つ…………本来なら混じることのない聖と魔を体現した剣。
「『
聖魔剣が、一つになっていた聖と魔が、再び裂け始める。
右手に、膨大な聖なるオーラと、ほんの少しの邪のオーラ。
左手に、膨大な邪なるオーラと、ほんの少しの聖のオーラ。
分離した力は、もう一度剣の形を取る。
…………それは、偶然なのか必然なのか、俺も目にしたことがある双剣だった。それも、前世で。
「『
右手には『聖剣エルシディオン』、又の名を『エターナルディメンション』。
左手には『魔剣レーヴァテイン』、又の名を『デモンズディザスター』。
俺の知る、最高峰の聖剣と魔剣が、この世界にて現れた。
◇◇◇
「交わる筈のない聖と魔が混ざる。それぞれのパワーバランスを司る者がいなければ、それも起こりうるか」
ボソリと呟かれた言葉。だが、今はそれは置いておこう。
「バルパー・ガリレイ……第二、第三の僕達を生み出さない為にも、ここで貴方を、斬り捨てさせてもらう!!」
「フン、研究に犠牲はつきものだと昔から言うではないか。犠牲がなければ、さらなる発展は望めんというのに」
「だろうな。でもその言葉は…………避けようのなかった犠牲を悼み、それを無駄にしてはならないという戒めの言葉だ。無くせる犠牲を回避せず、悼むどころか蔑んだお前はやっぱり…………研究者としても、聖剣使いとしても終わってるよ」
バルパーの発言に、イッセー君が反論し、そして僕に目配せをして、退がる。
イッセー君だって、この男に思うところはあるだろう。だって、こいつからは先程の魔物よりも悍ましい何かと同じ気配がする。つまり、彼の因縁の相手でもあるわけだ。それでも退いてくれたのは…………気遣ってくれたのだろう。本当に、僕は先達に恵まれたんだな。
「そうか、否定はせんよ。どちらが正しいのかなど…………勝者が決めるのだから」
そう言ってヤツは3本のエクスカリバーを…………いや、腕に巻きついていた紐が4本目となり、それらを地面に突き刺して、何事かを唱えた。
すると、4本のエクスカリバーが…………一つに収束していき、一振りのエクスカリバーとなる。
…………最後の4本目は、あの変わり者シスターの『擬態の聖剣』だった筈だ。イッセー君もそれに気が付き、顔を青ざめさせている。
「気になるか? 先程、コカビエルから送られてきたのだよ。生憎、持ち主には逃げられてしまった様だが、随分と気に入っておった様だ」
「…………倒す理由が、増えたね」
構えを取る。凛と空気を切る音が、僕を落ち着かせてくれる。
対してヤツも、その統合されたエクスカリバーを、僕に向けて構えた。
「『英雄』を相手にする前哨戦としてなら悪くない。このエクスカリバーの錆としてくれようぞ」
「イッセー君が出るまでもない…………因縁は、僕らの手で断ち切ってみせるッ!!!」
地を蹴り、一気に距離を詰めつつ、両の手に収まる剣を振りかぶり、斜めに斬り下ろす。
ギャィィィイイインッ!!!
直線的な動きだったとはいえ、人間の目には追い切れないスピードだった筈。なにせ、僕の中にある『
だから、勝敗を分けるのは
エクスカリバーは、分裂したとは言え強力な聖剣だ。それが4本も束ねられたら…………実に恐ろしい武器となる。本来ならば。
右の聖剣が、僕を護る結界を張ると同時に押し込もうとしてくるエクスカリバーを止め、左の魔剣が、バルパーを襲う破滅のオーラを放つと同時にエクスカリバーにヒビを入れていく。
「ッ!! エクスカリバーが押されるだと!? 所詮量産型でしかないその聖剣と魔剣に!?」
「例えそれが真のエクスカリバーだとしても、僕らの意志の結晶には届くまいッ!!」
「クソッ!!」
焦ったバルパーがエクスカリバーを光らせ、視界が歪む。その隙に一瞬力を入れられて押し返され、ヤツはかなりの速度で後ろに下がった。
…………『夢幻』と『天閃』か。厄介だけど、種が割れたらもう大丈夫だ。
「エクスカリバーは、エクスカリバーは最高の聖剣だッ!! あんな出来損ない如きにィィイイイッッッ!!!」
突き出され、伸びる聖剣。これはおそらく『擬態』の能力。弾くのは容易。
しかし右の聖剣が教えてくれる、それは幻影だと! そして左の魔剣が伝えてくれる、壊すべき敵は背後にいると!
振り向く勢いで、横薙ぎに左の魔剣を振るう。
ギィィインッ!!
甲高い音が、刃を弾いたことを伝えてくれる。見えないのは即ち『透過』で刃を見えなくしているからなのだろう。
幻影が晴れ、呆然としているバルパーに、もう一度踏み込んで双の剣で斬りこむ。
またも防がれるが、動揺からか軸がブレ、なんとか耐えられているといった様子だ。
「何故だ、何故だ何故だ何故だッ!!! 何故攻撃が通らん!!? 私は英雄への道を一歩踏み出したのだ!!! それなのに何故、悪魔の聖魔剣使いに遅れをとっている!!!?」
悲痛な叫び声。まるで、夢を壊されかけている子供の様な。
「前提が間違っていた、それだけだろう!!!」
「し、知った様に…………ただのモルモットがァァァァァアアアアアアアッッッ!!!」
もう一度距離を離され、その位置から突きが放たれる。
刀身は見えず、分裂しているのかも、どんな速度で僕に向かっているのかも、普通なら分からなかっただろう。幾ら殺気を追っても限度はある。
だが、僕には見えていた。柄から放たれた刃は幾重にも分かれ、四方八方から僕を突き刺そうとしている様を、脳裏に描いていた。
…………見えてきた、この双剣の能力。
右の聖剣は、護りに重きを置いた剣。結界を張るなどもそうだが、持ち主に未来を見せるという究極の防護能力を持っている。
どの順番で、どのルートを辿ればいいのかを、一瞬で教えてくれた。
降り注ぐ刃の雨。時に避け、時に斬りはらい、僕は追い詰めていく。
「クソ、クソクソクソ、クソッタレ!!! まるで、まるで私のしてきたことは──────」
左の魔剣は、攻撃に重きを置いた剣。敵の気配を追い、障害を喰らい、全てを斬り砕く、破壊の権化。
振り下ろした魔剣は、防ごうとバルパーが構えたエクスカリバーを、いとも容易く砕け散らせた。
「これで、終わりだッ!!!」
聖剣に、明日への希望を!!
魔剣に、今までの復讐を!!
「嗚呼、何故─────────」
…………見ていてくれたかい、皆。
「僕らは、エクスカリバーを超えた」
感想、批評、ダメ出し、よろしくお願いします