ハイスクールDevil×Dragon×Dhuman 作:しにかけ/あかいひと
原作ゲーム的には、第1章終盤。主人公がエミリア(ヒロインという名のもう1人の主人公)を、スヴァルタス(ロボットみてーな敵)の攻撃から身を挺して守ったことで死に、なんやかんやで生き返ることなり、そこを弱小民間軍事会社に拾われて…………というところから始まります。
◆◆◆
(…………誰かの話し声が聞こえる)
(なんだろう…………聞き慣れた様な気もするけど)
(さて、俺にそんな人間が居たっけな…………)
◆◆◆
「……気が付いたか」
「…………んあ?」
「あ、間違えた…………気が付いたネー!」
今、この一瞬だけ凄く聞き慣れた声だった様な…………いや、それよりもだ。
一体、どうなってる? デューマンへと変質した自分の体は無駄に脆く、新型とはいえスタティリアの一撃ですら沈んでしまう。あのとき、出血量、内臓の損傷具合で死を覚悟したのだが。それよりも、俺が庇ったエミリアは無事なのか。
何はともあれ情報を得なければ。ベンチの様な物に寝かされた俺は、少し痛む身体を無視して起き上がる。
「すみません、どうも未開のレリクスで気絶してしまって…………助けてくれたのは、貴女なのでしょうか?」
「チガウワヨー。デモ、ウチのシャッチョサンが助けたのは、その通りヨ」
妙なイントネーションで、でも感情がフルに込められてる様な、キャストらしからぬ声音で、キャストらしからぬボディパーツ(もろ人間に見えるキャバ嬢みたいなソレ)の女性キャストが、そう教えてくれた。
「そうなのですか、ありがとうございます。申し遅れました、僕はこういうものです」
名が売れ始めた頃に、偶に仕事を仲介してくれる情報屋の助言で、俺は名刺を作ることになった。出番はほとんどなかったそれだが、この場面ではこれ以上なく便利だった。
「…………やはり、ショウ・ウォーカー」
「あれ、ご存知でしたか」
「傭兵に関わる仕事をしてて、アナタを知らないのは、新人かモグリヨー。依頼達成率99.9%の『伝説の傭兵』、ミラージュブラストに新たな可能性を吹き込んだ『幻想召喚師』、ドンナ原生生物も一太刀の元に斬り伏せる『剣聖』…………二つ名を上げていけば、キリがないワ」
名が売れるのも考え物だな…………いやまぁ、そのお陰で食い扶持には困ってないけどね。前科持ちなのに、いいんだろうか…………。
「それで、貴女は?」
「オウ、ゴメンナサイ! ワタシ、チェルシー。ヨロシクね!」
「…………ッ!!」
「ド、ドウしたノ?」
偶然…………いや、偶然だ。偶然だけど、その名前は俺にとって、特別な意味を持った…………。
「いえ、なんでもありません。ただ、凄い偶然があるものだと」
「というと?」
「僕の大恩人の名前が、『チェルシー』さんだったんです。事情があって会うことはできないんですが…………」
「ソウ…………」
元気にしているだろうか…………何も告げずに去った俺のことなんて心配してないだろうか…………名前は広がってしまったけど、存在しないものだとして処理してくれていたら、気が楽なんだけど。
「あ、ごめんなさい、つい湿っぽい話を。ところで、此処は?」
「ン。ここは民間軍事会社『リトルウィング』のオフィスヨ」
『リトルウィング』…………確か、犯罪紛いの依頼でも熟すという触れ込みで始まった傭兵斡旋メインの新興民間軍事会社だったか。そして本社がリゾート型コロニーにして大企業『スカイクラッド』の第6支社『クラッド6』の中にあったと記憶している。
「アラ、詳しいノネ」
「スカイクラッド社の社長から、直々に話を持ちかけられたのですよ、専属SPにならないかと。束縛されるのが嫌なら、リトルウィングに所属する形でもいいとか。…………正直、どこかの組織に属してる自分が想像できなかったんで、蹴ったんですけどね」
「アラアラ〜、ソウいえばそんな話もあったわネ」
「ま、それとは別に依頼で来たこともありますし…………そのときには『リトルウィング』は無かったと思いますけど」
本当は、そんなことをしたら生活できない様に圧力を掛けられるんだけど…………無駄に力をつけ過ぎたのか、物理的にも社会的にも電脳社会的にも一個人で大企業すら相手にできる俺だ、敵に回すなんてとんでもない、ということなのだろう。
「まぁ、所詮そんな価値もない人間ですよ…………まさか未開のレリクスで気絶とか…………危機管理能力…………」
ああ、これは鍛え直しだなぁ…………今ここで生きているということは、あのスタティリアの一撃も夢だったのだろうし。くそ、こんなところチェルシー師匠に見られたらぶっ飛ばされる。
「おーう、気が付いたか」
そんな風に落ち込んでいると、背後からおっさんの声が聞こえてきた。
振り返ると、顔が毛だらけのビーストのおっさんが。…………あれ、確かこの人。
「ア、シャッチョサン」
「あ、エミリアの保護者さん」
「アン? 誰があんな我儘娘の保護者なんぞ」
「ソンナこと言わないノ! シャッチョサンは確かにエミリアの保護者デショ?」
「あーあーうるせー!」
…………ん、どこかで見たことある様な。いや、レリクスでという意味ではなく、その前に。ま、いいけど。
「と、とにかくストップで! とりあえず、貴方が気絶した僕を運んでくれた様で…………救助、感謝します」
「気にすんな。こっちだって下心バリバリだからよ」
「?」
と、言うにはそういう風には見えないけど…………気にしちゃ負けか。
「因みに、その…………あの子は」
「……なんかわけのわからん事言いながら引きこもってるけどよ、とりあえずは無事だ」
「そう、ですか…………」
ほぅ、と安堵の息をつく。アレが夢だとしても、俺が気絶した中でさぞかし彼女も苦労したに違いない。何事もなくて、本当に良かった。
「あ、申し遅れました。僕は、こういうもので…………」
「あー、そのお前さんの身元確認できるものがないか調べた流れで、既に持ってんだ。悪いなショウ・ウォーカーさん」
「あ、そうですか」
まあ、そうだよなぁ。
「俺はクラウチ・ミュラー。一応、この民間軍事会社『リトルウィング』を取り仕切ってるモンだ」
「…………ああ、なるほど。下心とはつまり」
「察しが良くて助かるぜ。一応、好待遇で迎え入れる準備は────」
「いいですよ、宜しくお願いしますミュラー社長」
「─────できてるんだが…………ってオイ、せめて最後まで言わせろよ」
ははは、悪いとは思うが俺は謝らん!
「ソ、ソンナ簡単に決めてイイノ!? シャッチョサンも、どうして」
「ん? 珍しく反論するじゃねぇかチェルシー。いいじゃねぇか、本人がその気なら」
「そうですよチェルシーさん。僕をここまで持ってくるのに全く費用がかからなかったとは思えませんし、こういう形で良いのなら、恩返しもしておきたいところなので」
しかし、チェルシーさんはちょっと迷った素振りを見せつつも、これ以上は何も言えないと、肩を落とした。一体、どうしたのだろう。俺に落ち度があったのかな?
「とりあえず、アイツ呼んでくるわ。その間に、入社手続きを進めておいてくれ。チェルシー、頼むな」
「ウ、ウン、わかったワ」
そう言ってミュラー社長は、この部屋の奥の方に行き、ビジフォンを操作し始めた。
「あの、ではチェルシーさん」
「チョ、チョト待ってて。…………本当にイイノ?」
「あははは、気にし過ぎですよ」
そりゃ、昔ならこうやって組織に属する事を拒んだだろうけど。ある意味では、これは転機かも、と思うのだ。
「…………もしかしたら、昔の過ちを別の形で紛らわせたいだけなのかもしれませんが」
「…………エ?」
「僕、さっき言っていた大恩人の方のチェルシーさんから逃げる様に去ってしまったんですよ。それが、何よりも心残りで」
「……………………」
「当時、僕はどうしても成し遂げたい事があって、でもそのチェルシーさんの下ではその覚悟が鈍りそうで…………あれだけ、僕の事を案じてくれたあの人を、僕は裏切ってしまった」
「……………………」
「間違いに気付けてからも、そういう事があったから、どこか誰かと一緒にいるのが怖くて…………でも、これは変わらなければならないという、星霊のお導きなのかも、しれませんね」
もう大丈夫、とは胸を張って言えないけど。
でも、あの時と同じ間違いは絶対に起こさないことは、言える。
「あ、ああごめんなさい。初対面の方にこんな話」
「いや、別に構わない……ワー」
…………ん? 今独特のイントネーションがなかった様な。最後のも無理矢理付け足した様な。
「そういうコトなら、喜んで! 改めて、ヨロシクネ♪ ワタシは、受付嬢として働いてるカラ、困った事があったらいつでもココに来るといいワ」
「ええ、宜しくお願いしますチェルシーさん」
「ジャ、資料持ってクルネー」
そう言って彼女が席を立ち、彼女のデスクに向かうと思いきや、暫く止まり。
「その師匠に、いつか逢えるといいワネ」
「…………はいっ!」
あれちょっと待って、俺このチェルシーさんに教導官の方のチェルシーさんが俺の師匠だってこと、言ったっけ?
ま、いいか。