インテリビレッジの座敷童 ~フェイト・ロンダリング~   作:白滝

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2章@菱神舞は不敵に笑う

 

 自分の名前を知っている人間が一体この世に何人いるだろうか、なんて考えた事はあるだろうか?

 これまでの人生で所属してきたコミュニティがどれだけの規模か、って話とも言えるね。

 日常生活を送る善良な一般市民は、どのくらいの数をイメージするのかな?

 実は私は、その想像が上手く浮かばなかったりする。

 それは、私が謳歌する日常が、世間一般から見たら『非日常』であるかららしい。

 妖怪絡みの事件に纏わるヒットマン。

 裏稼業を生業とするフリーランスのエージェント。

 それが私、菱神舞という人間だ。

「はーい、もしもし。元気かいお嬢ちゃん?」

『私は元気ではないですが、あなたが元気なら何よりです。依頼の詳細を説明しても?』

「簡単にお願いね。こんな業界だし、どうせやる事はいつもと同じでしょ」

 広いようでいて、狭い業界。

 業界から消える人数はどんどん増えるけど、逆に業界に踏み入れる人数の少ない事ったらないね。

 だから私は、死人をいちいち覚えていない。それが、例え自分の手で殺した奴だとしても。

 というより、忘れるような脳構造へと順応してしまっている、と表現した方が正しいのかもしれないね。過去に自分の関わった事件をすぐに検索かけて記憶を呼び起こす事ができる。一方で、死んだ人間へ抱いた感情は、どうやら私の海馬にゃバックアップされてないらしい。

 殺された側は地獄で私を呪っているだろうけど、そんなの知った事じゃない。もう会う事なんてないし。そもそも、死んだ人間にいちいち情を揺すぶられる感性が残ってる人間だったら、こんな仕事には向いていないよね。

 だから、今回の事件だって、別段何も思う事はない。いつものように、底辺で均一化されたクソったれな仕事だ。

「それでお嬢ちゃん。結局その犯罪組織……ええと、『黄泉帰り』だっけ?……が使っていた『パッケージ』ってのはがしゃどくろなの?」

『どうやらそのようですね』

 うーむ。

 がしゃどくろ、か……あれ、でも確かこの妖怪って……

 …………

 まぁ、いいか。嫌な予感が当たったらその時に考えよう。

「面倒臭い妖怪を選んだなあ」

『「がしゃどくろ」と言えば、埋葬されなかった死者の怨念が集まった巨大な骸骨の妖怪です。人を襲い、握り潰して喰う致命誘発体でもあります』

「死者の怨念ねえ。大体、この手の特性を持った妖怪を『パッケージ』にアセンブルする連中の狙いは、どれもこれも解かりやすいくらい単純だよねえ」

『死者の怨念の抽出……すなわち、組織名の通り「黄泉帰り」。死者蘇生を夢見る暴徒の集団といった所でしょうか』

「ちょいと昔に、死者の声を聞く『因果応報』なんて組織をぶっ潰した事があるけど、今回の相手はそれとはレベルが違うっぽい」

 なにせ、死者の代弁じゃなくて、死者の魂を直接呼び戻すんだ。頭がプッツンしちゃってる奴らじゃなきゃこの発想は出てこない。リスクを度外視するギャンブルに似た発想。僅か可能性に縋りつく、狂った思想で意志統一されてるタイプの犯罪組織だね。

『できそうですか?』

「やるよ。それが依頼ならね」

 そう言って、手短に言葉を交わして通話を切った。難儀な依頼だけど、お嬢ちゃんを心配させるのは可哀想だし。年上のお姉さんなりの気遣いってやつかな。

「さて、聞いてたでしょすねこすり。さっさと現場へ向かおうか」

「……どうしていつも尾行がバレるのか不思議で仕方がありません」

 何ってそりゃ、アンタの首輪にGPS信号の発信機を仕込んでるからだよ。

 嫌だ嫌だと首を横に振る犬型妖怪の首根っこを引っ掴み、私はダサいレンタカーに飛び乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で病院に来たんですか?」

「そりゃ、たくさん人が死ぬからよ」

 東京のとある大学附属病院の地下駐車場にレンタカーを停めた。

「うう、頭が痛いし気持ちも悪いです。都会に来るのはもう懲り懲りですよ」

 胸の谷間に小さな身体を埋めているすねこすりが、か細い声で音を上げる。でもまぁ死ぬ訳じゃないんだし、いちいち気を遣ったりしないけど。

「それより、病院に死人が多いから『黄泉帰り』も潜伏してるってのは、考えが単調じゃありませんか?『黄泉帰り』の目的は不明ですが、死人を生き返らせるなら死体のある場所に行く……もしかして、病院の霊安室に侵入して遺体泥棒とかするんでしょうか?」

「そんな訳ないでしょ。それに、すねこすりが思い付く程度の潜伏先なら、他の裏稼業の人間がとっくに特定できるよ」

「…………」

「落ち込んだかにゃーん?まだまだ相棒には程遠いですなあ、ワトソン君。今回はあらかじめ『百鬼夜行』から情報をたくさん貰ってるんだから、この程度は推理できなきゃ」

「でも、組織の構成員も目的も動機も不明じゃないですか。分かってるのは、がしゃどくろの『パッケージ』を使うって事ぐらい」

「それさえ分かれば楽勝でしょ」

 いちいち立ち止まって説明するのは面倒なので、私はさっさと病院内に入って目的の部屋を目指す。

 すねこすりが胸の谷間から這い出ようとしたが、無理矢理身体を押し込んだ。

 我慢しなさーい。裏稼業の人間を相手取る場合は、私の胸の谷間に隠れる方が安全圏だったりするんだぜ?天国じゃん、喜べ喜べ。

「『黄泉帰り』はがしゃどくろを『パッケージ』にアセンブルして、怨念を取り出す事で死者の蘇生を実現しようとしてる。って事は、がしゃどくろを具現化させている怨念を、自分達で整える必要があるでしょ」

「それってつまり、がしゃどくろという妖怪を『あの世から魂を吸い上げる装置』として利用してるって事ですか!?」

「ご名答。じゃあその場合、がしゃどくろ本体はどこにいると思う?」

「少なくとも、ここ、東京にはいないですよね。私達妖怪にとっては最悪な環境ですから」

「おー、やっぱ妖怪目線だと勘が鋭いねえ、すねこすり君。私もそう睨んでる。『黄泉帰り』の実行犯は2つに分かれていて、一つはアジトでがしゃどくろ本体の管理班。死人から怨念を浮かび上がらせる役割ね。で、もう一つは死人の収集班」

「な、なるほど……じゃあ、この病院に潜伏してるのは『黄泉帰り』の死体収集班なんですね」

 エレベーターに乗って、1階のボタンを押した。機械が多いせいか、すねこすりの顔色がどんどん悪くなってくる。私の胸に収まっているという男児の夢のはずなのに、元気が回復していないだとう!?不届き者め!

「……あれ?でもそれって、最初の私の意見が合ってる気がしちゃうんですけども。やっぱり『黄泉帰り』は、遺体泥棒をするために病院に来たって事ですよね?」

「(しっ……ここからはちょい黙ってね)」

 ぴんぽーん、という単調な電子音と共に、私はエレベーターから降りた。一階のロビー、その待合室へ歩いていく。

「(あれ、霊安室へ向かうんじゃないんですか?てっきり遺体泥棒を未然に防ぐため、霊安室に隠れて死体収集班を待ち伏せするのかと)」

「(静かに)」

 もう喋らないように、すねこすりの頭をずぶっと胸の谷間に押し込んだ。すねこすりがむーむー声を上げているが、私以外には聞こえていない。

 コホンと咳払いして、私は目的の人物に話しかけた。

「すみません、ちょっとよろしいでしょうか?」

「はい?」

 待合椅子に座る、生真面目な顔をしたスーツの男性だった。他にも似たような格好のスーツ男が3人いる。ご丁寧に、病院で喪服と間違われないように少し色を紫色に寄せている。

 病院でそんな風に気遣う集団って言ったら、アレしか思い浮かばない。

「葬儀屋さん、ですよね?ちょっと私の義父も近々『お世話』になりそうなので、少しお話を伺いたいんですが……」

「あ、ええ、構いませんよ……ただ、ここではちょっと。不謹慎ですので」

 そりゃそうだ。

 葬儀屋が遺体の搬送をスムーズに行うため、病院に待機しているのは結構有名な話だよね。

「(客を装って、葬儀屋さんから近々亡くなりそうな患者さんの情報を聞き出すんですか?……た、確かに、それなら近々『黄泉帰り』に狙われる患者さんを事前に護る事が――――)」

「(おっぱい口封じの術)」

「(もが、息が、むごご!?)」

 葬儀屋の男達の後について、屋上に出る。

 ちょうど真昼間の食事時だからか、病人もいないし看護師もいない。

「すみません。職業柄、あまり名前を出すと不謹慎なものでして……」

「いえいえ、お気になさらずに」

 言って、私達は円形のプラスチックのテーブルへと着いた。葬儀屋の男達は、鞄からノートパソコンやらプラン概要書のパンフレットやらボールペンなどを取り出した。

「一応、この場で私達から簡単にプランの説明と、予算の目途などお聞きしてよろしいでしょうか?それと、お名前とご住所の方もお願い致します」

 まあ、こう来るよね。

 さて、始めますか。

「あ、えっと、それは少し不味いと言いますか……実は義父は病気になるまでに浮気をしておりまして、旦那とは仲が上手くいってなかったんです」

 その場で即興で嘘をついた。

 オドオドした演技も加えてみる。目指す路線は眼鏡っ子の図書委員!

「あぁ、なるほど……」

「それで、その、私はそれでもお義父さんの葬式をしたいのですが、旦那は反対しておりまして、ですから……」

「ご安心下さい。この手の話は親戚の間でのトラブルになりやすいですからね。実はそういったご相談のケースも多いんですよ。個人情報の管理はしっかり行っていますし、具体的なプランが決まるまでは旦那様にもこの件を内密にしておきます」

「で、でも……その、旦那はクレーマーな気質がありまして、例え借り手続きでも書類に名前を残してしまうと、私は怒られてしまいそうで……下手したら訴えられちゃうかも」

 涙目でうるうる。

 おお、マジでちょっと涙出たぞ!やるじゃん私!来世は女優やろう。

 ハンカチを取り出して、涙を拭う振りをしながら顔を覆ってみる。

 だけど、葬儀屋の男達は四人とも慌てた様子はない。この手の相談には慣れてんのかな?

「ご安心下さい。ご相談内容はこのパソコンに保存してありますので、担当である私共の方で申請はまだ止めておきます。さすがに正規の契約書を記入する際には、旦那様にもご同伴して頂く形になりますが」

「あ、じゃあ、パソコンに全データが入ってるって事ですか?」

「そうです。正規の手続はまだ行いません」

 

 

 

 

「――――――そう。じゃあそのパソコンぶっ壊せば私の勝ちだな」

 

 ハンカチに隠していた毒針を二本、それぞれ右手と左手で引き抜いて両脇の男達の首筋に突き立てる。

 さらに、ひらひらと空を舞うハンカチをキャッチし、くるくる捩じって縄のようにする。唖然とした葬儀屋の男が状況を理解するより先に、手首のスナップを利かせてハンカチの鞭で男の目を打ち抜いた。

「ぎ、――――!?」

 ぁぁああ、と、その後に悲鳴なんて続かせたりしない。

 残りは二人。たった今目潰しした奴と、茫然としてる奴。

 毒針を刺され心臓麻痺を起こしている方の二人から、それぞれ毒針を引き抜く。ハンカチで目潰した方の男へ、その内の一本を突き立てた。

「くそっ!?お前も『こっち側』の人間か!?」

 最後に生き残った四人目の男が、テーブルからパソコンを拾い上げる。私が投げ放った毒針が、パソコンに弾かれて床を転がった。

 そのまま男はパソコンを持って、屋上の出入口の扉へ駆け出そうとした。

 だけど遅いね。

 私から走って逃げ出したいなら、せめてスポーツカーでも用意してきなよ。

 葬儀屋の男を後ろから捕まえ、パソコンを奪い取る。パソコンは壊れてしまわないような強さで床に投げ置き、一方で、流れるような動作で男の顎を打ち上げて口を塞ぐ。そのまま、屋上の落下防止用フェンスまで突進した。

 ガシャンという音を響かせ、男の上半身がフェンスから乗り出す。あと少しでも私が押せば、この男は頭から地面へ転落する事になる。

 攻撃開始からここまで約2秒。ちょっと遅かったかな。

「ご、が――――ッッ!?」

「ぜーんぶパソコンでデータ管理なんて、便利な時代になったもんだね。でも、その便利さは敵にも利用されるって事に気付いた方がよかったかもね。拷問もいらないし、手間が省けて助かったよ」

 すねこすりが胸の谷間から顔を出して悲鳴を上げる。

「ちょ、ちょっと待って下さい!?何してるんですか!!この葬儀屋さん達から近々亡くなる入院患者の方の情報を聞き出すだけですよね!?」

「葬儀屋に話を聞くなんて一言も説明してないけど」

「で、でも!!何も殺す事ないじゃないですか!?」

 すねこすりが白目を剥いて絶叫した。男を助けようとして私の胸に噛みついているが、ここが都会で機械が溢れているせいか力が全然出ていない。何て言うか、甘噛みされてる気分になって興奮する。

「ひ、ひどすぎる……一般人にまで手をかけるなんて……」

「ハハッ……()()()()()()()()()

 その声に、すねこすりがきょとんとした表情になった。

「冷静に考えようよすねこすりちゃん。いくら『死体の収集』なんて言ったって、遺体泥棒なんて大掛かりな事する訳ないでしょ。そんなあからさまな犯罪起こしたら、警察が黙ってないよ。そんな派手に騒いだら、すぐに警察に足が着く」

「で、ですけど……」

「『死体の収集』は、何も遺体そのものを利用する訳じゃない」

 その言葉に、男がギクリと身を震わせた。死ぬ気で抵抗し始める。両手でフェンスにしがみつき、足で私を押し返そうともがく。

 図星かにゃーん?

 ま、だろうね。もしも私ががしゃどくろの『パッケージ』を利用する側だったら、きっと同じ事を考えただろうし。

「ど、どういう事ですか?」

「実際に死体を集めても、がしゃどくろの『パッケージ』に使えるだろうさ。だけど、それ以外にも遺体として利用できる物がある……葬式の契約書のデータだよ」

 その言葉に、葬儀屋の男が一層ぶるりと身体を震わせた。

「がしゃどくろが具現化させるのは、死者の怨霊だ。そして、怨霊なんてのは死者へと集う生者の想いの集合体でしかない。『この人は死んでやり切れない想いだろうなあ』とか『まだお子さんがいるし、あの世で泣いてるかも』なんて言う、生者が一方的に押し付ける想像上の無念や後悔。だから、そういった生者が死者へ募る想いを一点に集める『偶像』があれば死体なんか要らないよ。葬式という儀礼でも代替できる」

「つ、つまり……」

「そう、こいつらの持ってるノートパソコン。より正確には、その中に入ってる数々の『葬儀の契約内容のデータ』……それががしゃどくろの『パッケージ』の正体だ」

「じゃ、じゃあ、犯人ってのは、まさか……」

「言うまでもないでしょ。葬儀屋であるこいつらこそが、『黄泉帰り』の死体回収班ね」

 観念したように、もがいていた男の体から力が抜けた。

 目論見が露見した事で、諦めたのかな?

 ぐいっと押し込み、フェンスから男の体を投げ捨てた。ひぃっ、とすねこすりが目を瞑った。

 空中に放り捨てられたというのに、男が手足をバタつかせる真似はしなかった。驚いた事に、落下しながらもケータイを取り出して何やら操作している。

「私は死ぬだろう!だが!ここでお前も道ずれにしてやる!!」

 威勢がいいなあ。

 でも結末なんて呆気ないものだ。

 男が地面へ墜落し、肉が潰れる嫌な音が響いた。死ぬ寸前までケータイをいじっていた。アジトの連中に救援でも求めたのかもしれない。

 空から落ちながら負け惜しみが言えるなんて、インテリに見えて意外に度胸ある奴だったな。そこだけは評価してもいい。

「人殺しを止める余裕すらなかった……」

「甘ったれた事言ってる時間もないぞ?さて、これで騒ぎが大きくなる。間もなく屋上にも誰かがやって来るし、急いでパソコンのデータを洗おう」

 そう思って、さっき男から奪い、床に落としたパソコンへ視線を移した。

 その瞬間だった。

 

 私の視界の隅で、

 

 毒針を刺して心臓麻痺で死んでいたはずの男達が、突然3人ともゆらりと起き上がった。

 

 

「――――――は?」

 

 

 パキパキと皮膚が剥がれ、

 

 いや、服装さえも剥がれていく。

 

 まるで蛇が脱皮するように。

 

 死者が転生したかのように。

 

 『葬儀屋の男』という皮が剥がれ、新しい何かへと変貌していく。

 

 それは、

 

 

「再び会えたねえ。いやぁ、久方振りで腕は訛っているかもしれないけど、それでも、僕の画廊は満杯だ」

 かつて、北条統次と呼ばれていた妖怪画家で、

 

「どうやら死した当時の状況まで再現されるようじゃな。微少ではあるが、『当廟(とうびょう)』のパッケージの名残が残っておる」

 かつて、川端愛と呼ばれていた全滅村の生き残りで、

 

「くっ、くかはははっはははははははははっははは――――――――ッッ!!こりゃあいい。そのクソ犬とまとめて、あの日の復讐をやってやる!!」

 かつて、自分と敵対した名を明かさぬ冷徹で狡猾な影武者で、

 

 皆、自分が殺したはずの裏稼業の人間達のはずだった。

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………なるほど」

 ブーツに忍ばせた拳銃を意識する――――なんていうレベルは既に超えて。

 気付けば、式神である『死出の竜姫』へ手を伸ばしていた。

 マズイな。

「……『黄泉帰り』は、あらかじめパソコンに裏稼業の様々な人間のデータを入れておいたのね。で、さっきの男がケータイで死に際に『菱神舞へ怨念を持つ死者』をキーワードに自動検索をかけ、復讐したい奴らの怨念をピックアップした、と」

「そのようだねえ」

「じゃが、もはや細かな理屈はどうでもいい。既にそんな段階の話ではない」

「そうだ。私達の目的はただ一つ」

 まずい。

 これは、まずい。

 

「「「――――菱神舞を殺せれば何でもいい」」」

 

 右手でブーツから拳銃を引き抜き、左手でポーチバックから木札を取り出す。

 牽制のつもりで放った銃弾が、北条の取り出した巻物に弾かれた。弾かれた銃弾が、奴が巻物と一緒にばら撒いた心霊写真をも引き裂いてしまう。

「――――チッ!!」

 突如として、全身に異様な負荷がかかる。妖怪画の呪いか、くそ!!

 身体の芯から力が抜け落ち、ふらふらと膝を床に付けてしまう。逃げられない。

 慌てて木札から式神『死出の竜姫』を召喚し、私の前に仁王立ちさせる。妖怪は銃で撃たれても新幹線に撥ねられたって死なない。なんとか肉壁になってもらう。

 が、川端愛がどこからか取り出した一振りの剣によって、一撃で霧散してしまった。

 攻撃も防御も対応されてる。まずい。まずい!!

 ヤバイ。

 これはマジでヤバイ!?

「ガラ空きだなァ!!」

 もはや自力で立つ力さえ残らない私の眼前へ、少女が突進してきた。彼女が装着している膠と鋼でできた鎧が、数十倍に膨れ上がる。

 その腕が、みるみる内に巨大な腕へと変化する。ギリギリと筋肉を引き絞る巨大な腕が、私へ目がけて振り下ろされる。

「――――ッ、すねこすり!!」

 私は胸の谷間からすねこすりを引っこ抜き、病院の外へ向けて、体に残る全ての力を使って遠くへ投げ飛ばした。

 直後だった。

 巨大な拳が、私を叩――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

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