インテリビレッジの座敷童 ~フェイト・ロンダリング~   作:白滝

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3章@内幕隼は努力する

 

 

「菱神舞が死んだぁ?」

「だってさ、刑事さん。このすねこすりによると」

「し、信じて下さい!!事態は一刻を争うんです!!」

 って言われてもなあ。

 あの化け物女が死ぬなんて、どうもイメージが湧かん。……むしろ、こっちが殺されないかと心配になるくらいだってのに。

 ずずずずーっと、立ち食い蕎麦を啜った。七味をもうちょい入れるか。

「死んだ振りとかじゃねえの?」

「お姉ちゃんならやるかもね」

「違います!舞さんがやられるシーンを目撃しました!きっと、舞さんは誰かに知らせるために私を逃がしてくれたんです!」

「だから協力してくれ、と言われてもなあ。俺は今、別件の事件の捜査中なんだけど……おい推理マニア、こっそり俺の割り箸とお前の箸をすり替えるな」

 冷たいって思われるかもしれないけど、俺はそういう性格の人間だ。

 死人に興味を持てない。

 というより、生きている人のためじゃないと助けようという動機に繋がらないんだ。

 まあ、これまで何だかんだ言って命を助けてもらったり(逆に狙われる事も多かったが)して世話になってるし、見知った顔の奴が死んだと聞かされたのに気持ちが全く波風立たないのは、ちょっと自己嫌悪もある。

 知り合いが死んだんだから、もうちょっと人間らしく悲しめよ、とか。自分は薄情者なんかもしれない、ぐらいの感覚にはなる。

 でもしょうがない。

 舞がやられるような奴らを相手に、一平社員でノンキャリアたる俺が敵う訳ないし、俺は警視庁捜査一課としてまだ生きている人のために頑張りたいというのが本音なのだ。

「お、お願いします!私から『百鬼夜行』の方に申請して、お金は用意します。ですから、舞さんを助けてあげて下さい!!」

「つってもよお……おい推理マニア、お前が舌で舐め回したかき揚げを俺の丼に入れるな」

「またまたぁ、本当は喜んでる癖にぃ!ツンデレは女の子の特権だゾ☆……でも、すねこすり。私達も私達で今は別件の事件で忙しいから、どっちみち手が離せないよ?」

「おい、私『達』って何だよ!?俺だけだよッッ!お前は学校に帰れ!!」

「刑事さん、私財布忘れちゃったから立て替えてもらっていい?」

「ふざけてんの……?」

「体で払うよ」

「ふざけてるんだな、よし」

「あ、私、家出したから今晩は刑事さん家に泊めてくれない?」

「補導してやるッッ!!」

「やだなあ、刑事さん。結婚した後は私がお財布事情を管理するに決まってんじゃん。だから、今から慣れておかないと」

「残念ながら自分の甥より年下のガキに恋愛感情は抱かねえよばーか!!」

「え、でも、私はあと数年で結婚できるよ、刑事さん?確率の低い婚活を重ねて神経すり減らすよりも、既に刑事さんに気を寄せてて、『刑事』って職業に理解のある女を待った方が結婚の勝算高いと思うけど?」

「う、ぐ―――――――ッッ!?そ、それは、……」

「だからデキ婚しても問題ないね、ウェルカムだよ刑事さん!!」

「馬鹿は死ななきゃ治らないみたいだなッッ!!」

「死んでも治らないかもよ?今回の事件の、がしゃどくろの『パッケージ』みたいにさ」

「――――へ?」

 そこで、唐突にすねこすりが口を挟んだ。

「私と舞さんが戦っていた『黄泉帰り』って犯罪組織も、がしゃどくろの『パッケージ』を使ってるんですよ」

「「……へ?」」

 

 …………

 

 これは、きな臭い話になってきたなあ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、昼休憩終えました、内幕です」

 そう言って、警察手帳を出しながらKeepOutと書かれた黄色のテープを潜った。人通りの少ないアパートの一室とはいえ、ここまで警察が大挙してやって来ていれば流石に周辺も騒がしくなる。

「おう、遅かっ――――何故に『菱神』のガキがお前と一緒にいる?」

 課長の顔が豹変した。やっべ!?

「ふっふっふう!!私はここの近くに住んでいて、事件当時の犯行の手がかりとなる有用な証言を持っているのですよ、馬頭(めず)さん!」

「それはもう聞き終えただろう……内幕、後で家までちゃんと送れよ?」

 課長にどぎつい目で怒られてしまった。これ、本署に帰ったら説教パターンだなあ。

 推理マニアの登場によって、現場の鑑識さんから一斉に舌打ちされてしまう。

 マジでやめてくれ推理マニア!!

 ただでさえ署内で浮き気味なのに、さらに居場所が無くなるんだよう!!

「で、聞き込み捜査はどうだった?」

 課長の鋭いツッコミ。でも話題の転換のためにはありがたい!!

「あ、えーっと、特にはなかったです。さっき推理マ……菱神艶美(えんび)さんから聞いた事とほとんど一緒ですね」

「『ガチ、ガチ、という何かが打ち合わされる音が響いていた』、か。確かに、妖怪がしゃどくろの特徴と一致している。が、」

「こんな都会に妖怪なんて出てきませんよ。だからこいつは『パッケージ』が使われた証拠なんです。つまり、」

「『大きな犯罪組織』、だな」

 部屋にいた独り暮らしの女性は、身体中を刃物でメッタ刺しにされていた。部屋中にも大量の血が飛び散っているし、おそらく犯人にも返り血が付いているはずなのだが、どういう事か部屋の外にはルミノール反応が一切出てこなかった。

 鑑識さんが頭を悩ませている。

「ここからはもう鑑識に任せるしかないな。内幕、お前はまた聞き込みに回れ。今日はそのまま直帰しても構わん」

「うぃーっす」

 しめた、ラッキー!!

 課長に延々と怒鳴られるよりは、一般市民に「え、警察きたの。メンドクサ」と不満顔をされる方がまだマシだね!!

 そんな訳で、俺は現場の部屋でウロチョロし始めた推理マニアの首根っこを引っ掴み、アパートの一室を飛び出した。

 

 

 

 

「どうでしたか?」

 律儀に現場近くの公園で待っていたすねこすりと合流した。

「特に進展はねえな。独り暮らしの女性が刺殺された。犯人は返り血を浴びたはずだが、現場周辺に一切ルミノール反応は出てねえ。部屋ん中に衣服が焼却された後もねえ」

「それ、犯人は雨合羽みたいな服を着てて、カバンに入れて持ち帰ったんじゃないですか?多分、舞さんならそうしたりするんじゃないかと」

「お姉ちゃんはそんな痕跡残るような事しないよ。それより、さっき現場からくすねてきた物があるんだ。ちょっと見て」

「オイ」

「まあまあ」

 手癖の悪い推理マニアの額をデコピンし、俺は推理マニアの手に握られた物を見た。

 それは、

「白い、透明な……塩?」

「覚せい剤だよ」

 心臓が一拍飛ばしで跳ねるかと思った!!

 すねこすりがうひゃあ!と叫んでひっくり返った。

「おいおいおいおい!!遺体から覚せい剤服用の情報なんて出てこなかったって鑑識さんが……いや、ちょっと待て!!ちょっと待てよ!!おい、推理マニア、何故それが覚せい剤だと分かったんだ!?」

「舐めたからね」

「アウトォォォォォおおおおおおおおおおおおお!!!」

 馬ッ鹿ああああああああああああああああああああああああああああああ!!

 覚せい剤は、試しでも舐めちゃ駄目なんだよ!!

 夫が服用している白い粉を不審に思って実際に舐め、覚せい剤だと気づき通報した妻が過去にいたが、その女性も覚せい剤服用の罪で逮捕されてんだよっっ!!

 ちょっと気軽に、ってレベルの話じゃねえ!?

「時効になるまで黙っててよ刑事さん。未来のお嫁さんのために」

「色々ツッコみたい……ツッコみたいが、我慢してやる。続けろ」

「うん。私はてっきり遺体が生前に服用していたのかと思ったけど、鑑識さんの意見は違うらしいね。じゃあ、これは犯人の手掛かりになるかもしれない」

「覚せい剤の売人、って可能性か……がしゃどくろの『パッケージ』が使用された可能性もあるし、やっぱ『大きな犯罪組織』が動いていそうだな」

「そ、それに関してですが!」

 と言って、すねこすりが足をプルプル言わせながら立ち上がった。

「がしゃどくろの『パッケージ』は、舞さんの事件でも使われてます。もしかしたらセパレート型かもしれません」

「セパレート型……?」

「一つの妖怪から複数の特性を抽出して、それぞれに『パッケージ』を用意するって事です。例えば、私、すねこすりの『パッケージ』を作るとしたら、『旅人のすねをこする』という特性の他に、『ダンディでハードボイルド』って特性でも『パッケージ』を作れるんです」

「お、おう……で、それが舞の事件と何の関係がある?」

「セパレート型の『パッケージ』は、一つ一つの『パッケージ』全てが『パッケージ』の核へと繋がる窓口になっちゃっている……って、舞さんが前に言ってたような気がします。つまり、一つを機能停止させれば他の『パッケージ』もまとめて停止するはずなんです!!」

「俺がこの事件を解決してがしゃどくろの『パッケージ』を止める事が、舞を助ける事にも繋がるってコトね」

 難儀な話だなあ。そもそも舞はもう死んじまってる可能性もあるんだろう。

 だが、

「まあ、菱神舞と同じ世界の人間を相手にするよりは、全然マシだな」

「おおー、刑事さん、やっとエンジンかかったね」

「当然。これでも刑事って仕事は、第一志望とは言わないまでも第二志望ぐらいではあるんだよ。んで、好きな事には命をかけられる」

「ふふっ、言うねえ。でも、具体的にはどうするつもり?まだ、犯人の動機や居場所も目途が全く立ってないけど?」

「覚せい剤、大きな犯罪組織、『パッケージ』……こんだけテンコ盛りに物騒な単語が出てきたら、あいつに頼るのが早そうだ」

「誰?」

 返事は返さず、代わりに俺は携帯電話を取り出した。

 

 

 

 

「よお、内幕だ。元気にしてたか、外堀(そとぼり)?」

 生活安全部の麻薬取締課(マトリ)ではなく、敢えて組織犯罪対策部(ソタイ)の仲間に救援を送った。

 その理由は簡単だ。

 詳しい経緯を話すと、意外にも外堀の野郎は話に喰い付いてきた。

『がしゃどくろの「パッケージ」……?なるほど、合点がいったぜ』

 組織犯罪対策部の重戦車こと、外堀岳は獰猛な笑みを浮かべてそう言った。

「どうだ?マトリじゃなく、ソタイ向きの話だろ?」

『ああ。うちの課でも、最近は違法入国者を売人の駒として使ってるヤクザを追っててな。だが、何故か売人の痕跡が綺麗サッパリ隠滅されるから中々物証を得られなかったんだよ』

「ん?それが、俺の殺人事件とお前のヤクザの件とどう関係あるんだ?」

『がしゃどくろの「パッケージ」って点だろ。がしゃどくろは、夜中に骨を打ち鳴らす奇怪な音を発しながら、人を握り潰して跡形も無く喰うらしい』

「……俺の殺人事件での証言じゃあ、事件当時に近隣へ『ガチ、ガチ、と音が響いていた』って話があったな」

『俺のヤクザ絡みの件じゃあ、「覚せい剤の売人やってた違法入国者がパッタリ消える」なんて摩訶不思議な神隠しも報告されてる。そのせいで今まではヤクザの元まで証拠に手が届かなかった』

「まさか、がしゃどくろの人喰い『パッケージ』を使って、警察にバレそうになった違法入国者をヤクザ共が消し去ってた……とか?」

『もしそうなら、全てが矛盾なく説明できる。お前の事件のアパートの住人ってのも、もしかしたら覚せい剤の購入者だったんじゃねえか?』

「……だろうな。で、ヤクザに雇われてた違法入国者の密売人とトラブっちまって、アパートで殺された。それを知って『警察にバレる』と考えたヤクザ共が、がしゃどくろの人喰い『パッケージ』を使って、雇っていた密売人ごとこの世から葬り去った、ってオチだろう」

 横で通話を盗み聞ぎしてた推理マニアは、みるみるテンションが下がっていっている。ミステリーに妖怪が絡むと本当に気落ちする奴だ。

『っつー事は、今回の件は「パッケージ」を差し押えないと話にならねぇな。ヤクザの事務所に、普通にがしゃどくろの「パッケージ」を置いておくと思うか?』

「さあな。でも、事務所に突撃するしか手がかりはねえだろ?別件の令状(アカガミ)でも引っ提げて押し入るしかないぞ」

『かもな。だが、そっちじゃ覚せい剤の件はまだ正式に鑑識を通ってない証拠なんだろ?しばらく鑑定に時間がかかりそうだな』

「個人的にあんまり時間をかけられない理由がある。ソタイの連中を連れて行けないか?」

『無理だろうな。うちと捜査一課、どっちの指揮で動くか会議を挟まなきゃいけねえだろう』

「その時間すら惜しかったりする訳だが」

『……なんでそんなに焦る?まあ、俺と同じで署内で浮いた噂持ってるお前の頼みなら断れねえな。昔、俺を守ってくれた警察官のオッサンもそんな人だったぜ』

「昔話はいいよ。とにかく、協力してくれるんだろ?」

『しょうがねえ、乗ってやる。準備ができたら連絡する――――ヤクザの事務所に潜入だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜を見計らって、ヤクザの事務所に押し入った。腹が空いたが、仕方がない。ヤクザの事務所前で外堀の部下らしき男達二人と合流した。たった四人での捜査だった。

「警察だ、動くな!!」

 事務所の中には、七、八人くらいの男達がいた。どうやら事務所内で宴会をしていたらしく、デスクを事務所の端に寄せて片づけ、ヤクザ共が鍋を囲っていた。

 こんな場所にいなければ、ヤクザだなんて気が付かないほど一般人みたいな呑気な事をしている。俺には見分けがつかないが、外堀の野郎には、ヤクザ特有の雰囲気などが分かるのだろうか?

「これはこれは刑事さん。こちとら宴会の最中だってのに、物騒な事はやめて下さいよぉ。夕飯時ですよぉ?せめて、令状とか持って来てくれないと困りますってぇ。違法捜査なんじゃないですかぁ?」 

 俺達の突然の訪問にざわめき立ってはいるが、予想外にうろたえる者はいない。

「令状はある。家宅捜査だ!!」

 当然、今回とは別件のテキトーな令状だ。相手のヤクザもそれに気づいているのか、ニヤニヤと笑みを浮かべて動揺など一切していない。

 くそ……もうちょい慌てて、咄嗟に物を隠す素振りでも見せれば分かりやすかったのに!!

 だが、この事務所のどこかに、がしゃどくろの人喰いの性質を利用した死体処理『パッケージ』があるはずなんだ!!

 それさえ見つけちまえば、こんなヤクザの事務所なんてオサラバしていい。

 それさえ押収しちまえば、このヤクザ共の証拠隠滅手段だって失われるはずなんだ。

 そうなれば、正規の捜査で逮捕まで持ち込める。俺の所属する捜査一課と、外堀の所属する組織犯罪対策部は、絶対にこいつらを追い詰める。

 しかし、

「ったく、刑事さん達は相変わらずプライバシーのないお方ですねえ。探し物が見つからなければ、とっとと帰って下さいねえ」

 金の挿し歯をしている男が、ニヤニヤしながらそう話す。

「隼、お前はそっちを探せ!俺はデスク付近を洗う!!里中と前嶋は奥の部屋を探せ!!」

 外堀の手馴れた指示に従い、事務所を片っ端から捜索する。

 だが、見つからない。

 そもそも、がしゃどくろの『パッケージ』がどんな形をしているかも知らないのだ。

(突然家宅捜索すれば、慌ててボロを出すと思ったんが……)

 全く手がかりは見つからない。

 ありきたりな資料と、ありきたりな事務所の風景。

 こちらの捜索など気にも介さず、ヤクザ共は鍋を囲んで食事すらする始末だった。

 違和感のある不思議な物など何もない。

 10分、30分と、成果のないまま時間が経過していく。

「刑事さーん、いつまで事務所を散らかすつもりですかぁ?見つからなかったんなら早く帰って下さいよぉ。これ以上は違法捜査だって訴えますよぉ?プライバシーへの配慮はないんですかぁ?」

 金の挿し歯の男が、俺の背後で煽り始めた。

 とっくにヤクザ共も食事を取り終え、やる事もなくなりイライラし始める。

 呑気すぎて腹が立つが、懸命に堪える。

 そもそも、どうしてこいつらはこんなに余裕なんだ?

 こんだけ隅から隅まで捜索されたら、冷や汗の一つくらい見せてもいいだろう。

(――――いや、待てよ……)

 『パッケージ』なんていう大仰な犯罪装置だから、つい日常風景から浮いた違和感のある物を探していた。

 でも、逆だったら?

 もし、日常風景と全く違和感のない……むしろ、日用品ががしゃどくろの『パッケージ』の正体なら、俺達は一生発見できないんじゃないか?

 もしそうなら、ヤクザ共の余裕な態度も納得がいく。

「チッ……今回は諦めるか」

 外堀が小声でそう呟いた。

「待ってくれ、もうちょい粘ろう」

「無理だ。流石にこれ以上時間をかけたら、俺らの捜査方法も糾弾される」

「待ってくれ!あと少し……あと少しなんだ!!」

 日常風景に違和感のない日用品。

 それでいて、がしゃどくろの『人喰い』という性質に関係する物。

(なんだ……考えろ、考えろ!!)

 発想が浮かばない。

「刑事さんいい加減にして下さいよぉ?」

 思考が止まる。

「これ以上の捜索はプライバシー侵害じゃないんですかぁ?」

 時間はない。

「弁護士を呼んでもいいんだぞ、オイ?警察だからって何でも許されると思ってんじゃねえぞ?」

(こうなったら――――)

 ヤクザの罵詈雑言も、外堀の撤収の合図も無視して、俺は携帯電話を取り出し、ある番号へ連絡する。

 その相手は――――

 

 

「――――助けてくれ、推理マニア」

『遅いよ、待ち詫びたぜ刑事さん』

 

 ビキニ姿のツインテールの中学生、菱神艶美は、初めからこうなる事を知っていたように軽やかに答えた。

 そうだ。

 足りない頭は補えばいい。

 名探偵なんてこの世にはいないけど。

 足で地道に探す俺とは真逆の、頭脳派気取りの胡散臭い推理マニアなら、いつだって俺の傍について来る!!

 もはや鬱陶しいくらいに、いつでもな!!

「準備がいいな。この状況も推理してたのか?」

『まっさかー。単純に夫婦の絆でしょ?』

「悪いがジョークに付き合ってる時間はない」

『手がかり言って』

「日用品、ヤクザ、事務所、がしゃどくろ、人喰い、死体処理、覚せい剤、密入国者、これらで推理できる事はねえか?」

『…………』

 艶美が黙る。思考を回す。

 しかし、その時間さえ惜しいように、ヤクザ共がついに俺の背中を押し始めた。

「刑事さん、出てって下さいよぉ!マジで訴えんぞ、あァ?」

「おい、隼!!さすがにこれ以上は無理だ、帰るぞ!!」

 ヤクザに背を押され、外堀に手を引かれながらも、懸命に携帯電話に耳を傾ける。

 艶美の唾を呑む音が聞こえる。

(くっそ……ッッ!?時間切れか!!せめて、時間を少しでも稼がなねえと!!)

「誤った捜査で、大変ご迷惑をおかけしました。我々の勘違いかもしれません。申し訳ないですし、せめて事務所を片付けるのくらいのお手伝いはさせて下さい。あ、鍋とか片付けましょうか?」

「いいですよぉ、刑事さん。いいからはよ帰って下さい」

「いいですっていいですって。あ、まだタケノコが鍋に残ってるじゃないですか!残り物なら、私の方で残飯処理でもしましょうか?」

 その時だった。

 

 

『…………たけ、のこ……?そ、それだ!!』

 

「何だって!?」

『タケノコだ!!知らないの、刑事さん!?』

 推理マニアが、早口で説明を始める。

『これはオリジナルの伝承とは違うんだけど、近年になってがしゃどくろと関連付けられた逸話の1つに、タケノコに関するお話があるんだ』

「どういう話だ?」

『とある男が夜の野原で「目が痛い」と不気味な呻き声を聞き、次の朝にそこで髑髏を発見した。で、その目の穴の部分からタケノコが突き出ていたんだ。それを取り朝飯を供えたところ、「がしゃどくろ」から恩返しと受けたと言われてる』

「タケノコを食べる事で、『恩返し』って記号でがしゃどくろを操作してたって事か!?」

『これなら辻褄が合うよ!「パッケージ」の正体は、「タケノコ料理を入れた鍋」そのものだよ!それが妖怪を操るコントローラーになってるんだ!!』

「でかした、推理マニア!!今度キスしてやるぜ」

『ッッ!?え、ちょ、あ、け、刑事さ――――』

 最後まで聞かずに通話を切った。

 後ろを振り返った。

 金の挿し歯をしたヤクザの男がダラダラと汗をかいてた。

 端から見ても分かる、異様な焦り方だった。

「け、刑事さん、早く帰って下さいよ……」

「はいはい、もちろんです。でもその前に……アナタ、顔色悪いですね。具合が悪いようですので、やっぱり食器の片付けぐらいお手伝いしましょう。事務所を荒らしたのは、我々の責任でもありますから」

「いや、ホントもういいですから!!自分達でやりますから!!」

「いや、いいですっていいですって!!」

 俺はヤクザの手を払い、鍋を両手で抱える。

 事務所内にいたヤクザ共の皆に緊張が走るのが分かった。

 でも、もう遅い。

 俺は事務所の給水室へ鍋を運ぶを振りをして、盛大にわざと躓いた。

 ガシャン!!と、鍋が真っ二つに割れた。

「ぁ、――――――!!」

 ヤクザ共の口から、微かに声が漏れた。

 でも、聞こえない振りをする。

「あー、すんません。すんません。俺、おっちょこちょいなんです!本当にすみません!!」

 そう言って、ヤクザ共にニタニタ笑いを返してやった。

 『鍋』っていうがしゃどくろのコントローラーを失えば、こいつらはもうがしゃどくろを操る事はできない。死体の完全処理による証拠隠滅も不可能だ。

 ブチブチとこめかみをひくつかせて顔を真っ赤にし始めたヤクザ共に背を向け、俺は外堀達と共に事務所を出る。

 殺してやりたい、なんていうヤクザ共の殺意が背中に突き刺さるが、知った事じゃない。

 警官殺しなんてしてみろ、地獄を見るのはお前らヤクザの方だ。

「俺の勝ちだ、あばよクズ共」

 そう言い捨て、俺は事務所を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、ヤクザは逮捕された。結局、外堀の野郎がとっ捕まえたらしい。

 テレビの中では、アナウンサーがさっきから同じ情報を速報だ速報だと喧しく繰り返し告げている。朝のニュースなんだから、もうちょい明るい事を報道して欲しいもんだ。

 ぼけーっとアホ面で朝飯を食べていた時に、携帯電話に着信があった。

 推理マニアだった。

 面倒だから二、三言でスルーしようとしたが、ついニュースの件に話に花を咲かせて話し込んでしまった。

 推理マニアはすねこすりとも連絡を取れたようで、どうやらあの後、菱神舞の関わる事件の方のがしゃどくろの『パッケージ』も停止したらしい。セパレート型とかいう『パッケージ』の仕組みはよく分からないが、すねこすり曰はく、舞も一命は取り留めたらしい。

 舞の奴が追いつめられるなんて、一体どんな奴らなんだ……あいつの世界には絶対に近づきたくねえな。

「一件落着だな。まぁ、がしゃどくろの死体処理『パッケージ』で証拠隠滅できなくなったんだから、ヤクザ共が捕まるのは時間の問題だったけどよ」

『け、刑事さん。それよりも、ほら……何か忘れてない?』

「は?……あぁ、がしゃどくろの特性が不自然だったって事か?」

『ちっがーーーーーーーうッッ!!確かに、がしゃどくろとタケノコに関する逸話は、本来の伝承とはかけ離れた話だったよ!!元々は奈良時代に作られた、因果応報を説く仏教の話だったらしいしね』

「それを、どういう訳か近年になってがしゃどくろの話と勘違いした奴がいたって事か」

『そうそう、でもそんな事はどうでもいいんだよ刑事さん!!ほら、忘れてる事ない!?甘酸っぱい系の!!具体的には、艶美ちゃんへのご褒美的な!!』

「……でもさぁ、妖怪の性質ってそんな簡単に歪むか?たかがその程度の創作で上書きされるもんなのか……?『妖怪の存在の上書き』なんて、そんな簡単に……」

『おーい、聞いてるのか刑事さーん!!キッス!!キッスしてくれるって言ったよね!!ね?ね?おーい、聞いてるのか刑事さーん!!おーーーーいッッ!!』

 

 

 

 

 

 

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