インテリビレッジの座敷童 ~フェイト・ロンダリング~ 作:白滝
(陣内忍@5分前)
「忍、その妖精は魔法デバフが一切効かないって言ったでしょ。インテリ戦法気取るぐらいなら、ちゃんと部位破壊を狙いなさいよ」
「うるせー!つーか、ヒーラー役のお前が攻撃してるのおかしいだろ!!しかも、さっきから俺の優先順位低くね!?……ほら、今!!なんで他の味方を回復したの!!ここは俺でしょ!!」
ケータイのゲームで座敷童とオンラインの協力プレイで遊んでいた。
各役職ごとに取り得る戦法や役割があらかた決まっているのだが、座敷童はセオリー無視で自由奔放にプレイしやがる。
おかげでチームはボロボロだ。
「きちんと役職通り働けよ!!……妖怪って性質とか伝承とかの型にハマる存在だろ。ゲームでも役割とか守れよ!!」
「クレアいきまーす」
「せめて合図出せ!!」
まぁ、巨乳の座敷童って時点で、こいつに「型にハマった動きをしろ」なんて無茶な要求かもしれんが。
その時だった。
ぴんぽーん、と玄関のチャイムが鳴る音が聞こえた。む、今はゲームで手が離せない。
「ばあちゃーん。出てー」
「はいはい、ちょいと待ってねえ」
全体的にこじまんりとしたばあちゃんが、玄関へ向かう。
数拍置いて、ばあちゃんが縁側に戻ってきた。
「忍―、お客さんだよー」
「えー、誰―?」
「なんか、若い女の人だったけどねえ。ちょっと一緒に散歩したいんだって」
――――ッッ!?
「……クラスの子じゃない?お姉さん系?」
「二十歳過ぎたばかりくらいの、べっぴんさんだったよお」
「!?……座敷童、悪いが急用ができた。今回のイベントは諦めてくれ」
「ちょ、ちょっと忍!!ふざけないで!これは私の役職には必須の騎士なの。これを逃したら手に入らないわ」
なんて言う座敷童の泣き言をスルーし、俺は胸を高鳴らせながら玄関へ向かう。
インテリビレッジは意図的に人口の過疎を整えているから、美人お姉さんなんて中々見かけないのだ。
そりゃあ、思春期真っ盛りの男子高校生ならドキドキしたってしょうがない訳ですよ!!
ウキウキとスキップしながら玄関へ向かう。扉を開けながら、
「はーい、お待たせしました!!貴方の陣内忍です!!」
「待ってたよー、愛しの陣内忍君。ここに来るのはオーストラリアの魔女の件以r―――」
ビタリッッッ!!と超高速で玄関を締めた。
「出たああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
ひ、菱神舞ィぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!??
全速力で回れ右して、縁側へ駆け戻る。
無理無理無理無理ィ!!
あの女絡みの話はホント無理だってえ!!いやよもう!!部屋に引き籠って寝るう!!
しかし、慌てて縁側に戻ったものの、
「酷いなぁ、陣内忍君。乙女のハートを傷付けられて、つい思わず殺しちゃいそうだったぜ?」
「先回りしてやがる――――ッッ!?」
もう庭に侵入されていた!?
助け舟を探して家の中を見回したが、座敷童はとっくに姿を消していた。危機察知能力の高い奴だった。
この人でなしィ!!人じゃないけども!!
「お、俺見捨てやがった……家人くらい守りやがれー!!」
「座敷童にそんな特性ないでしょ。でもまぁ、これから『始まる』かもしれないけど」
「な、何がだよ……?」
「うんにゃ、意味通りだよ。座敷童の新たなる『特性』が始まるかも、っつってんの」
恐る恐る菱神舞の顔を除くと、ニヤニヤという笑いを返してきやがった。
……もうホント、こいつ絡みの事件は勘弁願う。
だが、それでもどこに地雷があるのかくらいは知っておきたい。別に勇気なんて微塵もなけど、『部屋でじっとせず何もしない』のが最悪のケースだったら嫌だしな。
ただの高校生で何とかできる範囲で、とりあえず俺に被害が届かないような方法ぐらいはこの女から聞いておきたい。
すげえ関わりたくないんだけど、死にたくないし話を聞くしかねえか……
「で、今回はどんなスプラッタな話なの?」
「なーに、慣れ親しんだいつも通りの絶対絶命さ。百鬼夜行の残党が、座敷童を再改造しにやってくるよん」
は―――――?
と、リアクションを返す時間はなかった。
直後。
俺の部屋から、バタリと誰かが倒れる音が聞こえた。
(内幕隼@1日前)
「オヤジさん、白滝おかわり」
仕事帰りに、屋台でおでん。ビール飲みながら食うおでんは、やっぱ沁みるねえ。
これをオッサン臭いと世のコーコーセー諸君は馬鹿にする訳だが、やっぱこの歳になると分かるよね。これがないとストレスで死んじゃうよ、俺。
と、そんな俺の憩いの時間を邪魔する事が起きた。
……非通知で電話がかかってきやがった。
俺の至福の一時を邪魔しやがってえ!!
こんな事をする奴なんて、アイツしかいない。
「推理マニア。こっちは仕事終わりで疲れてるんだから、どうでもいい話だったらすぐ切るぞ」
『残念、おっぱい大きい方の舞ちゃんでs――――』
ブチッッ!!と超速攻で通話を切った。
「あ、危ねえ……聞いてはいけない事件を聞いてしまった哀れな一般人になるところだったぜ……」
「刑事さーん、爪が甘いよん」
「!?」
ガバッ!!と後ろを振り返ると、タンクトップとホットパンツの女、菱神舞の俺の後ろに立っていた。
「に、逃げる時間すらなかった、だと……!?」
「逃げたら気絶させて、その間に妹を連れてきて既成事実作らせるぞコラ?」
そう言って、菱神舞は俺の隣の椅子に腰をかけた。
俺が注文したばかりの日本酒をグビっと一杯煽る様が豪快すぎる。
「つかお前、この間は死にかけた、って話じゃなかったっけ?ピンピンしてるじゃん」
「1週間もあれば、私にとって重症だって回復するよ。まぁ、あの時は逃げ続けるだけで精一杯だったけどね。これでも刑事さんにはすごーく感謝してるんだぜ。妹がいなかったら惚れてたよ?」
そう言って俺の頬をぷにぷに突いてくるが、もはや死神みたいな女に好かれたって全然嬉しくない。
こんな所でモテ期が到来しても、寿命を引き換えにしてる気しかしねえ!!
「んで、用件は?」
「おおう、話が早いじゃん刑事さん。私の命を救ってくれたお礼に、1回くらいエッチなお願い聞いてあげてもいいよ。もちろん、イケナイ事は妹に譲らせてもらうがね!」
「お前は日本の警察を舐めてんだろッッ!!」
ケラケラ笑ってるが、不気味で不気味でしょうがない。否応なしに酔いが吹っ飛ぶ。
なんかもう早く家に帰りたくなってきた……
「安心しなよ、刑事さん。今回はちょいとばかし情報を仕入れて欲しいだけだからさ」
「……なんの?」
「まずは、1週間前のがしゃどくろの事件を整理しよう。すねこすりからも聞いたけど、がしゃどくろの『パッケージ』を破壊した時に、本来の伝承と違うエピソードが使われていたんだよね?」
うげ、やっぱ『大きな犯罪組織』絡みかよ。
「ああ。俺はそっち方面の知識はよく知らないが、妖怪の特性が歪んでいたのは間違いないらしい」
「なるほど……やっぱ『妖怪の改造』ができるのは間違いないのか……となると……いや、そうだとしたら……私だったら……」
「お、おい、何だよ。結局なんなんだよ。俺が関わったがしゃどくろの事件と関係あるのか?」
「あるね。でも、私が対処するから気にしなくていいよ。それよか、刑事さんには別件について調査して欲しいんだけど」
「あん?」
「ここ1週間以内に、妖怪の特性が歪むような事件とか起きてないかな?」
「東京で妖怪絡みの事件なんて早々ねえよ……ん、あ……でも、署内で噂になってる事があったな」
「ふむふむ、何でも教えて」
「確か3日前くらいに、インテリビレッジ納骨村で『コックリさん』が暴れる騒動があったとかなかった、とか。俺の甥が被害に遭っちまったらしくてさ。まぁ、あいつは昔から妖怪に好かれるからトラブルに巻き込まれ易いヤツなんだが。ちょうど昨日、美島みしま警視長が特別に『君の身内だから教えてあげるよ』っつって話を教えてくれたんだよなぁ」
「ほーう……確か、刑事さんの実家って座敷童がいたよね?」
「いるけど……なんだ、急に真剣な顔になって」
「ふむ……妖怪の改造技術に、昔々に百鬼夜行に改造を受けてた座敷童、そして死者の復活。こりゃ、ちょっとヤバイねえ」
「だから、一体何が起きてるってんだ?まさか、また『パッケージ』を使う組織でも現れたのか!?」
「いや、『パッケージ』はもう終わったよ。だから、これから起こる事は、その先だよ。奴ら『黄泉帰り』……いや、違うのか。敢えて犯人を呼ぶとするなら、――――」
(菱神舞@0秒前)
人の倒れる音と同時に、私は土足でからぶき屋根の家へ侵入した。
呆ける陣内忍君を置き去りにし、全速力で音源のした部屋へ向かう。
引き戸を開ける、なんて面倒な真似はしない。
「ふッ――――」
短く息を吐いた後、引き戸を蹴破って部屋に侵入する。
勉強机や本棚がある事から、どうやらここは陣内忍君の部屋っぽい。
が、部屋の壁にもたれかかる座敷童は、異様なオーラを放っていた。
「チッ!!もう始めやがったか!!」
考える時間が惜しい。
部屋の壁にもたれかかる座敷童へ目がけて、私は一直線に飛び込んだ。
最短距離を最速で。
右手を手刀の形に。突き出す腕は槍の如く。
人であったら心臓があるであろう胸のド真ん中を、ブチ抜く。
肉を突き破る感触がまとわりついた。
あまりの速さに、音すらなかっただろう。
座敷童の心臓を中指で突き刺し、血をぶち撒けながら、座敷童を一撃で絶命させる。
これが、私、菱神舞。
銃で撃っても新幹線に撥ねられても傷一つない妖怪を、その身一つで殺せるよう人体を作り変えた殺し屋さ。
腕にまとわりつく血のような感触が気持ち悪く、私はその手を座敷童の心臓を貫くために最短最速で右手を手刀の形に――――――
「―――――――――――あれ?」
気が付けば、
私は引き戸を蹴り開けたばかりで、座敷童へ突進している最中だったのだ。
座敷童を、攻撃する前だった。
おかしい、気がする。
私の認識が、どこかからおかしい。私は座敷童を殺していた気がする。その心臓を右手でブチ抜いていたような気がしていたはずだと思わなくもない。
何かがおかしい。
でも、疑問に対処する暇なんてない。
私の右手は、座敷童の胸へ突き進んでしまっている。
座敷童は、それを予知できていたかのような挙動でひらりと回避した。
私が手を引っ込める余裕なんてなかった。
勢いよく突き出した私の右手は、部屋の壁に激突させてしまう。
「ぃっ痛――――」
一瞬怯んでしまった。
その隙を予知でもしていたかのように、既に座敷童は攻撃のモーションに入っていた。
その手に握られていたのは、勉強机の上にあったハサミだった。
「ヤバ、既に改造が終わって―――――」
慌てて身体を動かす。
『痛み』という条件反射に硬直する身体を、無理矢理に駆動させる。
神経を引きずり回す。上半身を横へ動かし、座敷童の振り下ろしたハサミをギリギリで躱して何とか一歩下がり頭がハサミで抉られ―――――
「―――――――――――は?」
気付けば、私の頭にハサミが突き立てられていた。
避けたと思ったが、避けていなかった。おかしい、何かがおかしい。
左半分しか見えない。それ気付いて、ようやく右目が完全にひしゃげている事に気付いた。
ドサリと畳へ倒れる音が、自分の身体が響いた。
まずい。
全身から力が抜け落ちる。
座敷童が、ゆっくりと歩んでくる。
まずい。
この事実を、陣内忍君へ、知らせないと。
時間が、
なかったから、伝え、
そびれたけど、全てを、説明しないと、
座敷童は、止まらない、今のままじゃ、情報が、
少なすぎる、どうにか、して、陣内、忍君へ、事件の、詳細を、いし、きが、
(座敷童@5秒前)
身体の芯に、針金が通るような奇妙な感覚が突き抜けた。
それは、激痛であったような気もするし、心地よさを感じたような気もする。
直後に気付く。
『それ』は、元々私にあったものだ。
壊れていた『それ』が、復元されたと言ってもいい。
百鬼夜行に埋め込まれた『それ』が、私の体内で熟れて―――――
「……いや、違う」
違和感に気付く。
完全に元に戻った訳ではない。
割れたガラスを接着剤で完全に修復できないように。接着剤となる何かの部分が、『それ』を本来あるべき形と違う別の形に仕立てあげる。
『座敷童』としての私が、変質する。
私が私でなくなる。
私の意識が、完全に引き剥がされる。
「こ、れ、は……!?」
別の何かに、『座敷童』が乗っ取られる。
ま、ずい……
だとすると、改竄される。
『私が疑問を持った』という現象自体を、改竄される――――乗っ取られる!?
私でない何者かが、私を乗っ取って、
じゃあ、こいつらは、一体、何をしたかっ
(陣内忍@SSK羽o !, 5廓Hc・経過)
慌てて俺の部屋に駆けていった菱神舞を追いかける。
戸を蹴破る音が響いた。クッソ、人の家で好き放題暴れやがって!!
だけど、廊下を曲がった瞬間に、ザクリ、という肉が裂かれるような音が聞こえた。
ギクリと身体が硬直した。
殺した、ってのか……?
あの部屋には、座敷童がいたはずだ。そして、菱神舞が慌てて駆け込んでいった。その後に、肉が削られた。
そ、想像するな。違う!!別の可能性を考えろ。違う。絶対に違う。死んでない!!死んでたら困るんだ!!
大丈夫、違う。落ち着け、冷静になれ。
さっき、菱神舞は「百鬼夜行の残党が、座敷童を改造しに来る」とか言ってやがったはずだ。
そうだ、きっと菱神舞がその残党とやらをやっつけてくれたんだ。
そうだ、そうに違いない。
だって、そうでないと困る。
安心していいんだ、俺。菱神舞が解決してくれる。
俺は安心していい。座敷童は死んじゃいない。落ち着け、冷静になれ。
深呼吸をして、落ち着く。
ゆっくりと、俺の部屋に向かった。
顔を出して、中を覗く。
そこには、血に塗れた菱神舞が頭にハサミを突き刺されて失神していてなぜそんな事が起きたか俺には訳が分からなくてその菱神舞を殺せる奴がいたのかと絶望してでも部屋に座敷童が血でずぶ濡れでじゃあ菱神舞を殺したのは誰なんだこの部屋には2人しかいないはずでじゃあ結論なんか出て偉そうにふんぞり返っている。
音楽が恋しいのか、また人のスマホ勝手に使ってるし。真っ赤な浴衣が似合う黒髪の美人だからって調子に乗っているのかもしれん。そもそも童と呼ぶにはグラマラス過ぎるし、何故か座敷童なのに散策好きなのだ。ある意味最悪の組み合わせじゃねえか。駄菓子屋へのお散歩で我が家を滅ぼす気かね妖怪さん。
「知ってるよ住んでんだから。田舎の高級ブランド化だろ。三ツ星ホテルや百貨店が提唱して広告代理店が喧伝。おかげで国土の三分一が再開発され、――――――
―――――――――あれ?」
なんか、おかしい気がする。
「どうしたの、忍。アイスが溶けるわよ?」
「え……あぁ、そうだな」
何か。おかしい。
何かがおかしい気がしていた。
頭痛とは少し違うが、一瞬、眩暈がしたような気が……
頭をぶんぶん振ってみて、現状を再確認してみる。
俺は、
なのに、俺は今、別の場面に出くわしていなかったか……?
思い出せない……のか?いや、そもそも勘違いなのか?
何かがおかしいような。
何もおかしくなかったような。
「具合でも悪いの、忍?体調が優れないなら、私がアイスを食べてあげてもいいのよ?」
「あ?ふざけんなこの野郎。第一、妖怪は飯食わなかくたって死なねえだろ!これは俺の栄養としてありがたく食べさせて頂きますう!!」
まぁ、気のせいだろ。
暑さで頭でもやられたのかな。
「じゃあ、もうパシりは済んだろ。ちょっとサナトリウムまで出かけて来るわ」
「あぁ、惑歌の面倒を引き受けたんだっけ?忍も物好きね」
「そう思うんならついて来てもいいんだぜ」
「クーラーかけてゲームしてるわ」
だろうと思ったよ。
まぁ、分かってたっつーの、このグータラ妖怪め!!
さーってと、天才変態美少女の惑歌ちゃんに会いにいきますかあ。
女の子と二人きり!
何だかんだで、これも青春な気もするしな!!
人生は一回しか経験できないんだし楽しまなきゃ損ってもんだぜ!!