――俺の両親は、さる大きな組織の研究員をやっていたらしい。
『らしい』というのは、それが当人から直接聞いたのではなく、父母の上司を名乗る若い女性から聞いたことだからだ。
まだ何も知らなかった当時の俺は、父と母が何の研究をしていたのかはその女性に聞こうとはしなかった。尤も、今にして思えば聞いた所で彼女は何も口を割らなかっただろう。
今からおよそ十年前。俺はとある閑静な住宅街で、両親と一つ下の妹の四人で幸せな生活を送っていた。まだ、俺が5歳くらいの話である。
近所には大きな神社があり、毎年、夏ごろには大きな祭りが開かれていた。その神社の娘と、そして彼女と一緒にいた男の子と出会ったのは、確かその頃の話だったと思う。
それ以来、妹と一緒に、俺は彼らと毎日のように遊んでいた。そんなに仲が良かったのに、俺はもうそんな2人の名前すら思い出すことができないというのだから驚きだ。
しかし、彼らとは半年も経たずして別れることとなる。研究所の事故で、両親が亡くなったからだ。
それは奇しくも、携わっていた大きな開発が完了したとして、俺がお願いして父母の務める研究所に妹と見学に行った時だった。
崩れ落ちる天井と壁。その瓦礫から俺達を守ろうと両親は身を盾にし、そして亡くなった。
その直後、前述の父母の上司を名乗る女性が現れ、俺達兄妹を引き取ったため、その二人とは別れの言葉も告げられずに離れ離れになってしまった。
勿論、彼女を恨んだりはしていない。寧ろ、感謝している。頼りになる親戚の宛もなかった俺達に、住む場所と真っ当な教育をさせてくれた恩がある。
『父母を死なせてしまった責任は私にある』と彼女は言っていたが、事故のショックで沈んでいた俺は誰も責めようとは思えなかった。それほどまでに、当時の俺には衝撃が大き過ぎた。
しかし、事故のショックの大きさで言えば妹の方が遥かに大きかった。母の血を体中に浴びて生存した彼女は、心を失ってしまった。別の言い方をするならば、感情が失くなってしまったのだ。
そんな俺達も、今では何とか両親のいた組織の下で、様々な仕事を与えられて生活している。その組織に入った時、両親の上司だった女性に言われた言葉を、俺は恐らく一生忘れないだろう。
『ようこそ、亡国機業へ――――』