IS -Avenger-   作:出川タケヲ

2 / 5
アイン・ツヴァイ

 

「――――ン、起きて。アイン」

 薄暗い室内。抑揚のない声で、ベッドで寝ている俺の身体を揺する誰かが隣にいる。それが誰なのかを、俺はよく知っている。

 

「ああ……ツヴァイか。今、起きたよ」

 俺は寝ていた身体を起こし、隣に立っていた小柄な少女の髪をそっと撫でた。それはとても細くきめ細やかで、まるで水のようにスゥっと俺の指が通って行く。

 

 

「『起きたら第二格納庫に来い』。さっきスコールからメッセージが送られてきた。私も行く」

「格納庫……?」

 そんな所に呼び出して、一体スコールは俺に何をさせる気でいるのだろうか。いつもの事だが、彼女の考えていることはよく分からない。

 

 ――スコール・ミューゼル。亡国機業の大幹部にして俺達の両親の上司だった女性だ。俺とツヴァイから見れば、親代わりのような人である。

 

 

「アインがこんな時間まで寝るなんて、珍しい」

「そうだな……。まあ、こんな日もあるだろう。飯食べたのなら先に行っててくれ。俺は後から追いつく」

 こくん、と無言で小さく頷いた後、ツヴァイは部屋を立ち去った。

 

 

 アイン、ツヴァイ――――ドイツ語で『一』と『二』を表す俺達の名前は、本当の名前ではなく、スコールに付けられたコードネームだ。

 名前なんて、識別するだけの記号でしかない。それは言葉にできるなら、文字で表せられるのならば、何だっていい。

 

 ツヴァイは、俺のたった一人の肉親だ。

 まるでロボットのような無機質な表情と、抑揚のない声。邪魔にならない程度の長さに切り揃えられたショートヘアーの黒髪。雪のように白い肌に、触れたら壊れてしまいそうな華奢な身体。普段からどんな時でも、自己というものを誰にも見せはしない。それが、俺のたった一人の家族であるツヴァイだ。

 

 普段から何を考えているか分からないので、同僚のオータムからは気味悪がられている。一方で、歳の近いエムとはよくいることが多い。特別仲がいい、というわけでも無さそうだが。

 

 エムとは訓練や、その休憩の時に俺も話したりする。不気味な女だが、動物とは違って言葉は通じる。

 

 

 この間、米軍の基地に彼女が殴りこんだ時も、俺が事前に潜入して色々と働いていたのだが、やはりISを持っているだけあってその戦力は俺なんかとは桁違いだ。

 

 本当はツヴァイは、エムやオータム辺りのISを動かせる者と組ませるべきだ。男の俺には、逆立ちしたって動かせないあの兵器を扱える、女と。

 

 

 それは指揮を執っているスコールも重々承知のはずなのに、なぜ俺と組ませるのか。その理由を聞いたことがある。返ってきた答えは、

 

「彼女(ツヴァイ)も、その方がいいって思っているわ」

 と、茶化すように誤魔化されるだけで、その真意は謎のままだ。

 

 

 二段ベッドのすぐ隣にある冷蔵庫からゼリー飲料の容器を手に取り、一気に三つ飲み干した。これで、昼までのエネルギーを補給したことになる。

 

 俺は灰色のズボンに上半身裸の恰好だったので、引き出しの中に何枚も畳んであった黒いタンクトップのシャツを着て、その上に拳銃の入ったホルスターとジャケットを羽織り、コンバットナイフを忍ばせて部屋から出た。

 

 

「よォ、アイン。こんな時間に出てくるなんて珍しいじゃねえか」

 通路を早足で歩いていると、角で『亡国機業』の工作員の一人、オータムと出くわした。

 

「お前には関係ない。それと、俺は今急いでいる。お前の愛しいスコールに呼び出されてな」

「私もそうだ」

(オータムまで……?)

 

 ますますスコールの考えていることが分からなくなった。

 

 

 移動中、俺はオータムのスコールとの惚気話やエムへの愚痴やらを延々と聞かされていた。本当にこいつは、どうしようもない。

 

 

 オータムがIS学園の文化祭に潜入した際、彼女の脱出を手助けするために俺も同行していた。

 その時、俺は男性で唯一ISを起動させられる高校生、織斑一夏との会話を盗み聞きしていたのだが、彼女は自分と所属する組織を、『悪の組織』などといった表現で織斑一夏に言い放ったのだ。

 

 要するに、彼女は自分の行いが悪だと思っているのに胸を張って堂々と悪事をやっていますとアピールしたということだ。情緒が中学生くらいで止まっているのではないだろうか。

 

 まあ、それを今の世界に対する痛烈な皮肉で言っているのならば俺は評価するが、オータムの頭ではそんな事はちっとも考えていないだろう。

 

 

 そんなオータムの軽はずみな所が、俺は嫌いだ。

 

 

 

「おいアイン。呼び出されたのは第一格納庫だろ?」

「いや、俺は第二格納庫だと聞いた」

「どういうことだ、そりゃ……?」

「さあな。まあ、行ってみれば分かるだろ」

「それもそうだな。じゃあな、アイン」

 

 オータムはそれだけ言って、第一格納庫に入っていった。そして俺も、その先にある第二格納庫の扉を開ける。

 

「――遅かったわね、アイン」

 薄暗い格納庫の奥に進むと、そこにはスコールとツヴァイが立っていた。

 

「スコール、今回は何の用があって呼び出した? 仕事じゃないようだが」

「見せたい物があるの。それと、あなたの両親についての話も。まずは、後者の方から話しましょうか」

 

 そう言って、スコールは近くにあったパイプ椅子に腰掛ける。少し、長い話になるのだろう。

 

 

「あなたの両親の死因は、不慮の事故じゃない。人為的に引き起こされた、人災よ」

「………………」

 

 静かに、俺とツヴァイはスコールの話に耳を傾ける。

 

 

「あなたの両親は、ある女子中学生を中心に結成された開発チームの責任者だったわ。その時、開発していたのが――――現代最強のパワードスーツ、『インフィニット・ストラトス』とその兵装。その女子中学生というのが、天災と呼ばれた天才、篠ノ之束よ」

 

 ここで、スコールが一度話を切って俺の顔色を窺う。その俺も、ツヴァイの顔を見て、何も変化がないことを確認した。

 

 

「……続けろ」

「ISが完成した直後、篠ノ之束は組織を裏切った。開発に関する全てのデータを闇に葬って。だから、今のISは一機目の白騎士を解体して得られた情報が基礎なのよ。そして、その研究開発に関わっていた者も、一緒に殺されたのよ」

「何の目的でそんなことを?」

「理由なんて、どんな時も些細なものよ。明確には判らないけれど、利益や地位の独占じゃないかしら?」

「……ッハ」

 

 俺は彼女の話に失笑した。

 

 自分からどこかへ飛んで、消息を絶つような人間が、地位や資産に目が眩むとは思えないのだが。

 嘘ならばもう少し信憑性のある話を作れなかったのだろうかと呆れざるを得ない。シナリオライターはスコールではないだろう。

 

 

「あまり驚かなかったわね。眉一つ動かさなかったのは、意外だったわ。ひょっとして、あなた……」

「その通りだ。俺も、きっとツヴァイも、とっくに気づいていた。俺の諜報能力は、お前だってよく知っているだろう?」

「ええ……。なら、聞き直すわ。あなた、復讐したいと思う? 篠ノ之束に」

「どういうことだ?」

「向こうを見なさい」

 

 そう言われ、俺はスコールが指さした方に歩を進める。そして、スコールが俺に見せたかったものの正体を、俺はこの目で目撃した。

 

「……おい、スコール。こいつは何の冗談だ?」

 背後からコツ、コツ、とハイヒールが床に当たる音が耳に入ってくる。そしてそのまま、スコールは俺の隣に立った。

 

 

「冗談に思えるかしら?」

「…………」

 俺は何も言えなかった。スコールがこんな冗談をいうためにわざわざ俺を呼んだとは到底思えないのだが、目の前にあるこれを見る限り、冗談にしか考えられないのだから。

 

 

「アイン。あなたには、この〈カラミティ〉に乗ってもらうわ」

 

 

 俺の眼前に鎮座していたのは――――黒い、全身装甲のISだった……!

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。