IS -Avenger-   作:出川タケヲ

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カラミティ VS シュヴァルツェ・ハーゼ

 

 

 

 飛行機に乗ってドイツに到着した俺は、ミュンヘンの南東に位置するキーム湖を訪れ、作戦開始時刻まで息を潜めていた。

 日付が変わるまで真っ暗な夜の湖の近くでじっとしているのは、特に苦とも思わなかった。過去にもこれ以上に過酷な環境で息を潜めていた経験があったからだろうか。

 

 そんな事を思い返していると、時間はあっという間に過ぎ――

 

 

 

 ――そして、作戦開始時刻の0時を迎える。

 

 右手に意識を集中させ、リンクする。そしてそのままカラミティを起動し、身に纏うように装甲を展開させた。

 

 

 

(ミッション、スタートだ……ッ!)

 

 

 PICにより空中に浮遊している俺は、ビームカノンのエネルギーを充填し、それを南西の国境近くにある巨大な山に向かって発射した。

 二筋の熱線が大地を焼き、抉る。通常のISとは比較にならないほどの出力だと、あまり詳しくない俺にさえ理解できるほどそれは圧倒的だった。なるほど、オータムがあんな顔をするわけだ。

 

 

『アイン、ドイツのIS部隊が後方から接近してる。そのままそこで待機して。それから、迎撃のためにエネルギーの充填を』

「了解」

 

 回線からツヴァイの抑揚のない無機質な声が入ってきた。俺は短い言葉で返答し、再度ビームカノンのエネルギーを充填し始める。

 

 

 

 そしてそのすぐ後、遠くの空にドイツのIS部隊をハイパーセンサーが補足した。

 数は三機。どれもが黒を基調とした、手強そうな外見をしている。

 

『そこの所属不明のIS! 無駄な抵抗はせず、我々に同行しろ!』

 回線から入ってくる、強気な女の声。だが俺はそれに返事をすることはしないし、何より俺の目的は時間稼ぎだ。無駄な抵抗をすることが目的で、ここに来ているのだ。

 

 

 俺は両腕を突き出して、ビームカノンを同時に射出した。桃色の光線が夜の闇を引き裂き、三機のISに襲いかかる。

 

 だが、訓練を積んできたプロフェッショナルとだけあって、一切の無駄な動きもなくそれを回避し三方向から同時に攻めてくる。一機は後方からの射撃で、残りはレーザーか何かで刃を構成された近接系の装備で、俺を制圧しようと迫る。

 

 

「やれるもんなら、やってみやがれッ!!」

 

 迎え撃つように、俺は硬く握りしめた拳を振りかざした――――!

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ドイツの首都、ベルリンにある軍の会議室に、クラリッサ・ハルフォーフ大尉はいた。

 

 日本の文化にかなり独特な偏見を持っている彼女も、いざ護国のための重要な会議とあらばその表情は凛々しく引き締まる。大尉の位は伊達ではないというところか。

 

 

 隊を率いるラウラ・ボーデヴィッヒがIS学園にいる間、IS特殊部隊〈シュバルツェ・ハーゼ〉を纏めているのは副隊長の彼女であり、この会議にもラウラの代理として副官を連れて出席していた。

 

 そんな時、会議室にある一報が届く。

 

 突如現れた所属不明のISが、高出力ビーム砲で地形を変えてしまったというのだ。

 

 

「なっ…………!」

 流石のクラリッサも、これには耳を疑った。明らかに常軌を逸した出力で、にわかには信じがたい。だが、かと言ってそんな大変な事態を引き起こしたISを野放しにしておくわけには行かない。

 

 

 クラリッサは途中で会議を抜け、シュバルツェ・ハーゼの本部に通信を入れる。超高火力兵器を持っている敵に対し、数で攻めても被害を増やすだけと判断した彼女は、精鋭三人を先に件のISの下へと急行させ自らも専用機である〈シュバルツェア・ツヴァイク〉を駆り現場へと飛んだ。

 

 

 しかし、到着までには数分間の時間が掛かる。いくらISでも、高機動パッケージがなければベルリンからミュンヘンまではすぐとはいかないのだ。

 

 

 それまでの間、何度もプライベート・チャンネルで先に向かった隊員に呼びかけるクラリッサだが、隊員たちからは応答がない。どうやら、カーム湖周辺に強力なジャミングが発生しているようだ。

 

 

(どうか、無事でいてくれ……!)

 

 切実にそう願うクラリッサは、焦りながらドイツの空を飛行していた。

 

 

 

 

 

 ――そして、現場に遅れて到着したクラリッサは驚愕し、目を見開いた。

 

 

 先に送り込んだ精鋭の一人が、湖の辺に倒れていた。纏っていたISは深刻な損傷を負い、強制解除されている。周囲にそれをやった敵の機体は見えず、既に逃げ去った後だった。

 

 さらに、報告通り南西方向にあるドイツ最高峰の山であるツークシュピッツェは抉れ、形が僅かに変わってしまっていた。

 

 その惨状から、これをやったのは悪魔――いや、【厄災】そのものだと、クラリッサは感じた。

 

 

「う、うぅ……」

「――ッ!」

 

 クラリッサはまだ意識がある隊員の下に降り立った。ぐったりしている少女の体を抱き、「大丈夫か!?」と声をかける。

 

「副、隊長……もうし、わけ……ありま、せん……逃がして、しまい…ました……」

「謝らなくていい。他の二人は?」

「二人は……向こうの島に、墜ちました……。まだ、息はあると思い、ます……」

 

 途切れ途切れに言葉を発しながら、隊員は湖の向こう側に見える島を指さした。

 

 

「救急隊を呼んだ。彼らの到着まで、ここで何とか堪えてくれ……!」

「あ、ありがとう……ございます……」

 

 クラリッサは隊員の身体を地面にそっと寝かせ、湖に孤立している小さめの島に飛んだ。その先で気絶していた二人の隊員を抱きかかえ、岸に降りたのと同時に救急隊が現場に駆け付け、三人の隊員は近くの病院へ搬送されていった。

 

 

 

 ――後日、三人の乗っていたISの戦闘記録を閲覧しようとしたクラリッサだが、映像が不鮮明で何が起こっているのか全く分からなくなっていた。機体の損傷が、メモリー部分まで及んでいたからだと推測される。

 

 幸いにも、撃墜された三人の隊員は命に別条はなかったが、検査のためもう暫く入院することを余儀なくされている。

 

 

 敵は現行ISの比ではない、破格の攻撃力を誇っている。それに対しドイツ軍は、現在進めている新兵器の研究開発を急ぎ、年内に試験運用に至るレベルまで完成させることを決定した。

 

 その新兵器が未知の敵に対して効果を発揮することができるのか、クラリッサは些か疑問を抱いたが、それよりも彼女は、近頃世界中で起きているISに関係する事件に違和感を感じていた。

 

 まるで、一連の事件が誰かの意思によって意図的に仕組まれているような……。

 

 

 

 その真相を彼女が目の当りにするのは、そう遠くない先の話である。

 

 

 

 

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