友達の少ない僕が幼馴染達のお手伝いを頑張る事になった(凍結) 作:なんちゃって提督
長いです(笑)
とは言っても今までの話と比べて、ですが。
今回はA-RISE回です!
それではどうぞー
にこさんと別れ、店の奥のスタッフルームに案内された僕を含めた三人の当選者は、スタッフのお兄さんから説明を受けていた
A-RISEとの座談会とも言うべきこのイベントには当然だがいくつかのルールがある
1、 握手やサインなどを求めるのは不可
2、 写真やビデオ撮影をした場合は即退場
3、A-RISEのメンバーが不快だと感じるような言動をしてはいけない
他にも細かいルールはあるがおおまかに言うとこんな所だ
僕以外の二人は最初に当たった僕より少し年上だと思われる女の人と、最後に当たった中学生風な男の子だ。僕達三人を見るだけでも様々な年齢層がスクールアイドルに興味を持っているのだと分かった
会場には僕よりも遥かに年上だと分かる人達も沢山来ていたし……A-RISEが特別なのかもしれないけど、本当に色々な人が見ているんだなと思った
僕ら三人は知人でも何でもないので当然会話などなく、メンバーが部屋に入って来るのを黙って待っている事となった
「……あの」
はずだったのだが
隣に座っていた女の人が声を発した。僕ともう一人の男の子は彼女の方を向く
「ふ、二人は誰推しなんでしょうか。もちろん三人共好きだとは思うんですけど、特に誰が好きなのか気になってしまって」
推しだなんてあまり考えた事なかったな。僕はA-RISEというグループのファンだから特別誰が好きっていうのはないからね
僕が少しだけ回答に困っていると、先に隣に座っていた男の子が答えた
「俺はあんじゅさん推しです。見た目の可愛さもそうなんですけど、あの柔らかそうな雰囲気……たまりませんよねぇ」
ほぅ、と物憂げに息を吐く少年は正直少しだけ気持ち悪かった。これがアイドルオタクというものか、と僕が圧倒されていると、やや興奮した様子の女の人が
「あんじゅさんも良いですよね! おっとりした雰囲気も声も可愛いですし。でもでも、私はやっぱり英玲奈様が一番なんですよね!」
英玲奈『様』? A-RISEほどのトップクラスのスクールアイドルになるとメンバーを様付けで呼ばなければならない決まりでもあるのだろうか?
「身長高いし綺麗だしカッコイイし! 美しさと凛々しさを兼ね備えたあの感じ……堪らないんですよねぇ……」
こちらの女性もうっとりとした様子で、ほぅ、と息を吐いたのを見て先程の少年と同じ人種なのだと僕は悟った
……こんな濃い人達と一緒だなんて無事に座談会を終える事ができるのかと猛烈に心配になってきました
「それで貴方は誰推しなんですか?」
「ぼ、僕ですか。えっと……」
ついに僕に白羽の矢が立ってしまった。この二人のような歪んだ(?)感情など持ち合わせていない上に、初対面の人間と会話のキャッチボールをしなければならないというダブルパンチだ。僕の胃がキリキリと悲鳴を上げている気がして仕方がない
二人の視線が僕に突き刺さっている。これは下手な事を言える雰囲気ではないと察した僕は必死に言葉を探した
「ぼ、僕はですね、その……綺羅ツバサさんが一番好きですね。顔も可愛いですし笑顔がとても素敵ですし、それに、その…言葉では上手く言い表せられない魅力があると言いますか……」
「ああ分かりますよ! ツバサさんには他のスクールアイドルからは感じられない絶対的なカリスマ性がありますよね!!」
「あんじゅさんや英玲奈様のようなトップクラスのアイドルが傍にいてなお色褪せないその魅力……A-RISEのリーダーは彼女にしか務まらない!」
熱く語りだす二人にすっかり置いて行かれています。この人達コミュ力高すぎです。オタク怖い
その時、扉が開いて女の店員さんが入ってきた。彼女はニコニコしながら喋り始める
「はいはーい、大変お待たせいたしましたー。これからA-RISEのメンバーとの座談会を始めたいと思います。マナーを守って有意義なものにしてくださいね!」
言って、店員さんはすぐに部屋から出て行った。それと同時に別の人間が入れ替わりで入ってきた
それは当然
「三人共初めまして! 私はA-RISEの綺羅ツバサよ。よろしくね」
「私は藤堂英玲奈だ。よろしく頼む」
「優木あんじゅよ。今日は短い間だけどよろしくね♪」
当然、A-RISEの正規メンバー
当たり前なんだけど、本物のA-RISEだぁ……心なしか眩しいオーラのようなものが見える気がする。気を抜くと圧倒されそうだ。ふと、横の二人を見ると卒倒寸前のように見えた
え、この三人ってとんでもない覇気でも纏ってるんです??? 凄むだけで並の人間は意識を保っていられない的な覇気とかやめてください僕如きじゃ耐えられるわけがないじゃないですか
「皆さんそんなに緊張しないでください。今日は気軽に、そうですね……友達と話す感じで私達と接してくれたら嬉しいんですけど」
ツバサさんがそんなことを言っていた気がするけど、僕の心臓の音がうるさすぎてそれどころではなかった
「え、えっと! それじゃあ、質問してもいいですか!?」
「はい、どうぞ。答えられる範囲でなら何でもお答えしますよ」
「そ、それじゃあ……」
アイドルオタクの少年の言葉を皮切りに、座談会というかA-RISEを質問攻めにする会は進んでいった。最初は緊張していた様子だったアイドルオタクの二人も時間が進むにつれて緊張もほぐれていったようで、ガンガン質問をするようになった
え、僕ですか? これまで緊張し過ぎて何も喋れていません。それどころか周りがどんな質問をしてどんな回答をしているのかさえ把握できていません
はるか の めのまえが まっしろに なった!
冗談抜きで今の僕はそういう状態に陥ってしまっている
こんな貴重な、僕の人生で二度と起こらないであろうイベントだというのに。僕は自分の人見知りな性格を呪った。てかこれはもはや人見知りとかのレベルでは無くて病気かもしれない
「ねぇ貴方、緊張しているの?」
「ひゃい!?」
僕の目の前に座っていたツバサさんからそう声をかけられて思わず変な声が出てしまった。しかも「ふふ、変な声ね」 なんて笑われてしまったので凄く恥ずかしい……本当に穴があったら入りたいよ……
「おいツバサ、あまりからかうのはよせ」
「ごめんね、つい面白くって」
小さく笑うツバサさんに呆れたようにしている英玲奈さん。スクールアイドルの頂点である綺羅ツバサにからかわれるというのはある意味凄い事なんじゃないだろうか。少しというかかなり情けなくはあるのだけど
しかしおかげである程度、緊張がほぐれたので会話のネタを探すことにした
「あ、あの僕少し前にあった秋葉原でのライブ観たんですけど」
「やっぱり!!」
「へ?」
何故か大きな声を出して座っていた椅子から身を乗り出しそうになったツバサさんを「ツバサ」と英玲奈さんが手で制した
「えっと……」
困惑する僕を置いて、隣にいたアイドルオタクの二人組が「羨ましい」とか「私も行きたかった」とか言っていた。二人はあまりにも興奮し過ぎていてツバサさんの様子がおかしい事が気になっていないようだった。気づいても良さそうなものだけどね
「それでそれで?」
「は、はい?」
「ライブの感想とか聞かせて欲しいのだけど」
ああ、と僕はツバサさんの言葉の意味を理解して
「素晴らしかった……です。実はあれがスクールアイドルのライブを観たのは初めてだったんですけど、それでもA-RISEが一番だっていう理由が分かった気がしました」
「ふぅん……具体的な理由は教えてもらえる?」
具体的な理由
実はそんなもの僕には分かっていなかった。言葉では言い表せられない何か、穂乃果ちゃん達にも感じる輝きのようなものをA-RISEの魅力であると思っているに過ぎないのだから
しかし僕はそんな恥ずかしい、中二病臭い台詞をこの場で喋る勇気を生憎と持ち合わせていなかった。え、今まで散々言ってきただろうって? それは言わないで欲しいかな……思い出したら恥ずかしいから
とにかく僕が言い淀んでいると
「ごめんなさい、困らせてしまったかしら」
「あ、いや……その、上手く言葉にできなくて」
そう、と小さく言ってツバサさんは他の人との会話に入っていってしまった
結局、僕がツバサさんと、というよりもA-RISEとまともな会話をしたのはこれだけだった。座談会の終わる時間になって僕は少しだけ後悔したけど、それよりも雲の上の人達と一瞬だとしても同じ時間を過ごす事がっできたという満足感で一杯になっていた
今度にこさんと会う機会があったら自慢しよう、なんて思っていたら不意にツバサさんが手を差し出してきた
あれ? 握手は禁止なんじゃなかったっけ?
「あの握手は禁止なんじゃ……」
僕と同じ事を考えたらしい少年がそう訊ねたところ、あんじゅさんが笑顔で
「せっかくの機会だもの。握手ぐらいで罰は当たらないと思うわ。いいでしょ、英玲奈?」
「……まぁ、そうだな」
あんじゅさんが意味深な視線と言葉を英玲奈さんに投げかけると、彼女はどこか諦めたように小さく肯定の言葉を発した
ファンからすれば歓喜のサプライズに、僕の隣に座っている二人はかなり喜んでいるようだった。僕からしてもかなり嬉しいんだけど。天下のA-RISEはファンサービスも凄いみたいだ
そして僕ら三人は順にA-RISEと握手と同時に一言を交わしていく。その内容は「これからも応援してます」とか「頑張ってください」とかありきたりのものばかりだったけど急な展開だったので仕方ないね
僕はあんじゅさん、英玲奈さん、ツバサさんの順に握手をしてもらった
あんじゅさんからは何故か逆に「頑張ってね」と言われ、英玲奈さんには何故か無言でガン見された。意味が分からなかったのでとりあえず彼女には、頑張ってくださいと言っておいた
そして最後のツバサさんに至っては
「……ん?」
「しっ」
握手した際に何かを握らされたのだ。それを尋ねようとしたら喋るなというジェスチャーをされた。手触り的に小さな紙のようだったが確認していないのでまだ分からない
最後にウインクをしてツバサさんは僕から離れていった……何だったんだろう今のは
最初にA-RISEが部屋から出て行って、入れ替わりで店員さんが入って来てこの座談会は終了したという説明を受けて僕達も解散という事になった
まだ夢見心地といった感じのアイドルオタク×2と適当に挨拶をして別れて、僕は掌の中にあるものを確認した
ツバサさんが僕に握らせたのは小さく折りたたまれた紙だった。それを開いてみるとメモのようで、綺麗な字で短くこう書いてあった
――お店の裏で待ってる
「……oh」
これはあれですか、トップアイドルである綺羅ツバサと冴えない男子高校生である僕と の禁断の恋愛の始まりですか。運命の出会いか何かですか。期待しちゃっていいんですかてかこのシュチュエーションは嫌でも期待しますよ???
先程の座談会とは比べものにならない程気分が高揚している僕は周囲から見ればさぞかし気持ち悪いだろう。しかし今の僕にとってそんなものなど気にもならない。柄にもなく鼻歌でも歌いたい気分だ
手渡された紙を握り締め、ツバサさんが待っているというアイドルショップの裏へと向かった
ーーーー
指定された場所に到着した僕だったけど
「……誰もいない」
人気のないアイドルショップの裏手で僕は一人でポツンと立ち尽くしていた。そこには待ち人である綺羅ツバサなど存在しておらず、通りかかった猫が僕を憐れむように気怠そうに鳴いているだけだった
少し待ってみたけれど、誰かが来そうな様子はない
「やっぱりからかわれたのかな……?」
そう考えるのが妥当だろう。僕と何の接点もない彼女が突然呼び出して何らかの話があるなど、普通に考えてあり得ない
……もう少しだけ待ってみよう。どうせ今日は帰ってする事もないんだし
え、お前いつも暇してるなwww だって? うるさいなぁ放っておいてよ
にゃー、と鳴き声のした方向へと目を落とすといつの間にか僕の足元に先程の猫が近づいて来ていた。僕の足に顔をすりすりとこすりつけてくる事から判断すると、エサでも欲しいのかもしれない
僕はこの世渡りが上手そうな猫と視線を合わせるようにしゃがみ込む
「お腹減ってるの?」
聞いても猫語しか喋れない彼(彼女かもしれないがそれはそれとして)の鳴き声の意味は分からない。そういえば前にあった星空さんは猫属性を持っていそうな感じだったのでひょっとしたらこの子と会話とかできたりして……なんてね、それは流石にないか
しかしあれだ。何だかこの猫が可愛く見えてきたので背負っていた鞄の中に何かないかと漁ってみる
「……ごめんね、今は水しかないや」
残念ながら鞄の中には飲みかけのミネラルウオーターしか入っていなかった。僕はそれを買った時にもらったビニール袋を器にするように少しだけ入れてやった
猫は「え、水だけ?」と言わんばかりに僕を見上げてくる。ふてぶてしい猫だな、と思いながらも僕は彼の顎を撫でるように軽く触ってやった
それで気を許したのか、水を少しずつ舐めるように飲み始めた。ふふふ、やっぱり猫は可愛いなぁ。今度は頭を優しく撫でてやった
その時、突然僕の横に凄い速さで何かがやって来た
「あ、可愛い猫!」
「わひゃぁ!?」
「さっきも思ったのだけどその凄い声、貴方のどこからそんな声が出ているの?」
突然の声に驚いて本日何度目かの変な声が出てしまった。僕の声に驚いた猫がビクッ! と大きく震えた。うう、申し訳ないことをしたな……ともかく、僕はいきなり現れた声の主の方を向いた
「やっほ、お待たせ」
同じようにしゃがみながら僕に小さく手を振ってくれているのは、待ち人であった綺羅ツバサさんだった
「ミーティングが思っていたよりも長引いちゃって……待たせちゃってごめんなさい」
「あ、いえ。僕も今来た所なんで……」
「座談会が終わったのが三十分も前なのに今来たの? それじゃ逆にキミが遅刻じゃないかしら」
「や、それは」
「ふふ、冗談よ」
それだけ言うと綺羅さんは猫とじゃれ合い始めた。どうやら僕の恋愛に関する僅かな知識にあった『別に今来たから気にしないで』作戦はこの人には通じなかったようだ。それでもあの場はああ言う以外なかったので、気にしない事にしよう
それにしても僕を呼び出しておいてどうして猫と戯れているんだろうか、なんて思ったけどそんな事より……おい猫さんや、僕が撫でている時よりもご機嫌なのはどうしてなんだ。さてはお前オスだな? 現金な奴め……う、羨ましいなんて思ってないんだからね!!
「あ、あの~…」
「ん? ああ、この子が可愛かったものだからつい夢中になっちゃったわ」
猫との戯れを一頻り堪能したらしい綺羅さんは立ち上がった。僕もそれに合わせて立ち上がる
彼女は笑顔で手を差し出して
「改めて初めまして、綺羅ツバサよ」
「あ、初めまして。林堂悠です」
「悠くん……良い名前ね」
ニッコリ笑ってそう言われたら嫌でも照れてしまう。お世辞だと分かっていてもくすぐったい
「それで悠くんを呼び出した理由なんだけど、単刀直入に言うわね?」
ゴクッ……と思わず息を吞む
さて、何だろう? 僕からすれば綺羅さんとの接点など無いに等しいので理由など想像もできない
「悠くんに興味があったからよ」
「きょ、興味ですか?」
どうして、と聞くより早く綺羅さんが言葉を紡ぐ
「実は私ね、悠くんの事を知っていたの」
「そ、そうなんですか!?」
彼女の口からあっさりと放たれたその言葉に僕は驚いた。ひょっとしてどこで会っていたのだろうか? 小学校か中学校時代の同級生だったとか?
「違うわ、そういうのじゃなくて前に見た事があって」
「……見た事があるぐらいで僕の事を覚えていてくれたんですか」
それはとても光栄というか、嬉しいというか。
「実はその事で謝りたい事があったの」
その事で謝りたい事だって? 見た事があるぐらいで何を謝るというんだろうか。先程から綺羅さんの言葉の意味がイマイチ分からない
「私はあの日、私達が秋葉原でゲリラライブをした日にキミが不良に絡まれているのを見ていたの」
え!? あのボコボコにされていたみっともない姿を見られていたというのか。驚いて目を見開く僕から綺羅さんは視線を外すことなく言葉を続けた
「ライブの後のミーティングが終わったら私は気分を切り替える為によく近くを散歩したりするんだけど」
もちろん軽く変装をしてね、と悪戯っぽく笑う彼女の服装は先程までのステージ衣装とは違って普通の女の子らしい服だった。その頭にはサングラスまで乗っている。綺羅さんぐらいの有名人となると、少しコンビニに買い物に行く事も大変そうだ
「でね、その時に何人かの男に絡まれている女の子たちを見かけたの。すぐに飛び出そうと思ったんだけど私が飛び出したところで逆にやられそうだったから警察に連絡して陰から様子を見ていたの……情けないんだけどね」
「情けないだなんて……そんな事ないですよ」
「ふふ、ありがと。でもその女の子達を助ける為に飛び出して行ったキミが言っても説得力ないんだけど?」
「いや、僕は大した事はしてないですよ」
現に僕がした事は星空さんと小泉さんの代わりにボコボコにされたぐらいだし。漫画や小説の主人公の様に格好良く悪人を撃退するなんて真似はできなかったのだから
「ううん、そんな事ないよ」
しかし綺羅さんは僕の言葉を即座に否定した
「あの時間、あの場所で私を含めた沢山の人間がいたのにも関わらず飛び出して行ったのはキミだけだった。これがどれだけ凄い事か分かるでしょ?」
「で、でも女の子が殴られそうになっているのを見たら誰だって」
「そうね。私も流石に間に割って入ろうと思ったわ。だけど実際に間に割って入ったのは貴方だったの……ねぇ、教えて。どうしてあの時飛び出す事ができたのかを」
「どうしてって……」
「何か理由があるはずよ。貴方はきっとケンカが極端に強いわけじゃない。きっとあの女の子達と仲が良かったわけじゃない。なのにどうして?」
綺羅さんはやはり僕から目を逸らさない。どうしてそんな事に拘るのかは分からないけど、これは下手に言葉を濁して逃げられる空気ではないという事は僕にも分かった
「破滅願望でもあるの? それとも女の子達を助けたヒーローにでもなりたかったの?」
そういう理由であの時飛び出したわけじゃない
僕には当然だが破滅願望などない。破滅どころか普通に痛いのは嫌いだし
もちろんヒーローになった自分に酔いたいわけでもない。それどころかあれはヒーローなどではなく小泉さん達の身代わり人形になったようなものだったのだから
しかし何かを言わなければ綺羅さんは退いてくれそうにない
「お願い、教えてもらえないかしら」
僕の心の動きを見透かしているかのような綺羅さんの瞳
僕は何と答えたら良いのか悩んだ。あの時、僕はどうして飛び出して行ったんだっけ……
「えっと」
悩んだ末に僕は短い言葉を発した
「僕はあの時……」
ーーーー
ツバサside
最近、練習中に集中できていないのが悩みだ
今のところ、ライブのステージに支障が出るほどではないが集中力が散漫になってしまっている。英玲奈には『弛んでいる』と怒られてしまったし、あんじゅには『倦怠期かしらね』と茶化される始末。私も何とか改善したいとは思っているが原因が分からない以上どうしようもない
「僕はあの時」
だけど私の目の前に、あの日の少年がいる
自分の身を顧みず、他人の文字通り盾となったあの少年が
私はずっと知りたかった。この人があの場面で飛び込んで行く事が出来た理由を
他の誰にもできなかった事をやってのけた彼にどうしても話を聞いてみたかったのだ
それを聞くことができたのなら、私の中にあるモヤモヤも少しは晴れる……気がする
「僕は」
彼の言葉を待った。真っ直ぐ見つめる私の視線に耐えられなかったのか目を逸らされていたが、意を決したように彼もまた真っ直ぐに私を見つめ返してきた
そして返ってきたその答えは私の予想と全く違うものだった
「……何も、考えていなかったと思います」
彼は、よく覚えていないんですけど、と困ったように小さく笑いながらそう言った
何も考えていない?
何も考えずにあの状況の中に飛び込んで行ったというのか?
「……本当に?」
「はい」
「飛び込んで行ったら自分があの連中に絡まれることが分かっていたのに?」
「はい」
全部即答。私は彼の真意が分からずに少しだけ困惑していた。そんな私の考えを読み取ったのか、少しだけ気恥ずかしそうに頬を掻きながら
「恥ずかしいんですけど僕も最初は綺羅さんと同じで警察に電話だけしてあの場所から離れようとしました。僕にはあの人達に勝てる腕力どころか飛び込んで行く勇気もなかったので……」
「で、でも実際にキミは」
「はい。だから多分、何も考えていなかったんです」
……ああ、なるほど
そこで私はようやく彼の言葉を理解し始めた
「警察に電話を掛けようとした時に、ちょうど男の人が女の子に掴みかかっているのを見ちゃって……そこからは無我夢中でした」
助けを呼ぶツールだった携帯電話をポケットに突っ込んで、全速力で女の子と不良の間に割り込んで
そんな事、簡単にできる事じゃないでしょ……
「そ、そうですかね?」
私の思考が口に出ていたのか、彼は反応した。私はこの際だから聞きたい事をぶつける事にした
「だって、他人を助けた結果としてキミが危ない目に遭ったのよ? ましてや見ず知らずの他人相手に」
「それじゃ綺羅さんは、人を助けるのに理由がいると思うんですか?」
「あ……」
私の言葉に被せるように放たれた彼からの質問に、今度こそ私は納得してしまった
……そうか
「よくマンガとかアニメの主人公は『他人を助けるのに理由はいるのか』みたいな事言うんですけど、僕もそう思うんです。綺麗事だって思われるかもしれないんですけど、そう思うんです……あと、それから僕の友達が『やるったらやる』って言葉をよく言うんですけど、時と場合によって考える前に動く、動ける事が大事なんじゃないかなーって僕は思うんですよね」
「そっか……」
私の中のモヤモヤが晴れていくのが分かる
こんな簡単な事だったんだ
「き、綺羅さん? どうかしました「ありがとう!」へっ!?」
私は嬉しさの余り、悠くんの手を取った。彼が驚いて目を真ん丸にしているが、そんなものお構いなしだ
「そうよね。何かをするのに理由なんていらないわよね。私がやりたい事をやりたいようにやれば良いのよね! そっかそっか! こんなに簡単な事で悩んでいたなんて馬鹿な話はないわ!」
一人で納得してしまっていた私は、目の前で呆然としている悠くんにようやく気がついた。いけないいけない、つい舞い上がっちゃったわ
「取り乱しちゃってごめんなさい。みっともない姿見せちゃったわね」
「あ、いや、そんな事はないですけど。どうかしたんですか?」
「ちょっと悩んでいる事があったんだけど、キミのおかげで解決しちゃった! だから改めて言わせて」
「へ? いや僕は別に何もしてないですけど……」
「ううん、そんな事ないわ。訳が分からないと思うけど。とにかく悠くんのおかげなの」
「は、はぁ……」
「何かお礼がしたいんだけど……今日はもう時間も遅いしまた今度何かお礼をするわ」
「え」
「だから連絡先交換しましょ。LAMEやってる?」
「え? あ、はい」
「だったらIDを教えるから登録しておいて」
「は、はい?」
「……これでよし、と。それじゃ私はもう行かなくちゃ。今日は本当にありがとう」
「い、いや別に良いですけどってかホントに何もしてないよな僕……それより連絡先は」
「ああ、勝手に他の人に教えたりしたら駄目よ。こんな私でも一応有名人なんだから」
かなり押し付けるように連絡先を交換したから、悠くんは困っているようだ。あれ、そう言えば
「私ってずっと女子校だったから男の子の連絡先は悠くんが初めてだわ。ふふ、何だかそうやって考えたらドキドキするわね」
「いぃ!? ぼ、僕なんかに教えちゃって良かったんですか!?」
「いいのいいの。キミの事信頼してるから」
そこで手に握っていた私の携帯が震えた。相手は見なくても分かってる、英玲奈だ。ミーティングを半ば無理矢理切り上げて抜け出した私に怒っているんだろう。これはそろそろ戻らないとマズい
「それじゃまたね!」
「あ、はい……また?」
彼に別れを告げると全速力で走り出す。すぐさま携帯を取り出して英玲奈に折り返しの電話をかけた
『もしもし』
一回呼び出し音が鳴っただけで英玲奈は出てくれた
「もしもし英玲奈? ごめんなさい。ちょっと手が離せなくて」
英玲奈は明らかに不機嫌そうだ。それもそうか、理由も説明せずにミーティングを抜けだしてきてしまったのだから
「戻ったらちゃんと説明するわ」
『……はぁ。いや、その必要はない』
「え、なんでよ」
『お前の悩み、解決したんだろう?』
その言葉に私は走るのを止めた
「それはそうなのだけど……どうして分かったのよ。英玲奈にそんな超能力あったっけ?」
『馬鹿な事を言うな。これでもそれなりの付き合いなんだ。それぐらい分かるさ』
それはそうかもしれないが、電話越しの声だけで判断できてしまうなんてある意味超能力なのではないだろうか?
「英玲奈、帰ったら言いたい事があるの。あんじゅにもなんだけど」
『……了解した。気をつけて帰ってくるんだぞ』
通話を終えて、携帯をポケットに突っ込むと再び走り出す
思えば私は少し焦っていた
A-RISEという強豪スクールアイドルのリーダーを任され、今年はスクールアイドルの頂点を決めるラブライブでも優勝を確実視され、そのプレッシャーから自分の方向性を見失ってしまっていたみたいだ
しかし、そんなものはもう関係ない
余計な事を考えずに私がやりたい事を、やりたいようにやればいいのだ
そんな当たり前の事に自分で気がつけないなんて余裕なさすぎでしょ、と自嘲する
私は彼には感謝しなければならない。きっと私はーー私達はまだまだ上に行けるのだから。後で改めて悠くんにお礼を言っておかなければならないわね。それから『やるったらやる」という単純だけど難しい事をやってのけて見せるという彼の友人にもお礼を言いたいな
……とにかく、次に会えるのが楽しみね、林堂悠くん
A-RISE回というよりも綺羅さん回になってしまいましたが、いかがだったでしょうか?
この人は自分的に特に好きなキャラの一人なのでなるべく絡ませて行けたらいいなと思っています
相変わらず沢山の方が見てくれているようで嬉しいです! それから何人の方から感想まで頂いてしまってとても嬉しいです。これからものんびり頑張って行くので応援よろしくお願いします!
次回は一年生ズが加入する回にする予定です
…そのうち主人公の過去編もちょいちょい書いてフラグを回収していきたい