友達の少ない僕が幼馴染達のお手伝いを頑張る事になった(凍結) 作:なんちゃって提督
「あら? ひょっとして真姫ちゃんじゃない?」
下校中、不意に声をかけられて振り返ると、そこにいたのは幼馴染の母親だった。久しぶりに会った私を後ろ姿だけで分かるなんて凄い、なんて思いながら私は小さく頭を下げた
「お久しぶりです、おば様」
「そんなおば様だなんて呼ばないでよー。真姫ちゃんだったら『お義母様』って呼んでくれてもいいのに!」
ニコニコしながらサラッととんでもない冗談を言い放つ女性に、私は頭を抱えたくなると同時に小さい時の記憶にある人物と変わっていないという懐かしさを覚えた
「ねぇねぇ真姫ちゃん。これから暇ならちょっとウチに寄ってかない?」
「え? でも……」
再会の挨拶もそこそこに、いきなりのお誘い
「これから私は暇でねー。お茶の相手とか欲しかったんだよ。だからさ、どう?」
私はこの人の子供と同じ年だというのにまるで友達を誘うような気軽さだ。確かにこの人の見た目はかなり若いけども。私が久しぶりに会ったというのにすぐに誰か分かったのは昔の記憶と何も変わっていない見た目が原因だ。事情を知らない人が悠くんのお姉さんと言われても納得してしまいそうなぐらいだし
「……あの、悠くんは」
「ああ。あの子ならまだ帰ってきてないわ」
それを聞いてほっとしたような残念なような複雑な気持ちになる。どうしてこんな気持ちになるのかは自分でも分からない
そんな私の気持ちを読み取ったらしい目の前の女性は服のポケットから携帯を取り出して
「どうせだったら悠も呼ぶ?」
「いや、いいですよ。あの人にも予定があるだろうし」
「真姫ちゃんが家に来るってなったら飛んで帰ってくると思うんだけどな~」
色んな意味で、とおば様は意味深に笑った。色々な意味とはどういう事だろうか
「それってどういう意味ですか?」
「悠もあれでお年頃だからね。色々あるのよ」
「はぁ……」
結局意味は分からずじまいだったが、とりあえずここはお言葉に甘えることにした
と、いうのも私の母親に挨拶するように言われていたのを思い出したからだ。家の場所が分からないので大人しく後に着いていく
「すぐそこだから。昔の家よりは大きいのよ」
悠くんもそう言っていたな、なんて感想を抱きながら歩いているとすぐに到着した
……なるほど。確かに昔の家と比べたらかなり大きめの家だ
「今回の家は二階もあるから広くていいのよねー。さ、入って入って」
「お邪魔します」
「そこのソファにでも座ってて。飲み物持ってくるけど、真姫ちゃんコーヒー飲める?」
「はい。ブラックで大丈夫です」
「あら、大人ね。悠なんて砂糖とミルクをたっぷり入れても飲めないのに」
そう言って笑いながらリビングの奥の方へと引っ込んでいった。一人になった途端、急に落ち着かなくなって思わず周囲を見回してしまう
新居である為か、家具はそれほど多くない。必要最低限な物しか置いていないようだ。きっとこれから増えていくんだろうな、と考えていると、あるものに目が留まった
「これって……」
ソファから立ち上がり近くに寄ってよく見てみる
「お待たせー…ってああ。その写真ね。少し古いけど良く撮れてるでしょ」
戻ってきたおば様が説明してくれた通り、昔の写真だった。そこには小学生くらいの男の子と女の子が写っている
「うわぁ……懐かしい」
「でしょ? これは確か小学校五年生の時ね。真姫ちゃんのピアノの発表会の打ち上げを一緒にやった時に撮ったやつだわ」
「そっか。だから私はドレスなんか着ているのね。着替えてからパーティーすれば良かったのに」
「あら? 真姫ちゃん覚えてないの?」
ニヤニヤしながらおば様は私を見て
「悠が真姫ちゃんのドレス可愛いって言ったからーー」
「も、もう良いです! 思い出しましたから!///」
そうだった。あの時、彼にドレスを褒めてもらって嬉しくなった私は一日中ずっと着ていたんだっけ。すっかり忘れてたけど……それだけで舞い上がっちゃうなんてどんだけ単純なのよ、小学五年の私……
「今思えばだけどウチのバカ息子、小さい時の方が積極的だったわね。ほらこの写真なんて仲良く手まで繋いじゃってるし。今だったらあのヘタレには絶対できないわね」
「そうですか? 手を繋ぐのはともかくあまり変わっていないような気がするんですけど」
「あの子も色々あったからね~…ってそれは一旦置いておいて、お茶にしましょ!」
再びソファに座って目の前のテーブルに置かれたコーヒーに口をつける
「真姫ちゃんのお母さんは元気かしら?」
「はい、おかげさまで。ママ……じゃなかった。母も久しぶりに会いたいと言っていました」
「本当に? それじゃあ今度遊びに行っちゃおーっと」
「それならこれ、母の連絡先です」
「いいの!? やったー! これで私のお茶相手が一人増えるわー」
連絡先を教えたら凄く嬉しそうにしている
「……失礼ですけど、普段暇なんですか?」
「うん」
失礼な事を聞いたというのに彼女は不快そうな表情などしない。それどころかどこか楽しそうに見える
「たま~に昔のツテで仕事したりするけど基本的には暇してる。真姫ちゃんのお母さんと違ってね」
「母も最近は落ち着いてきたみたいだからそれほど忙しくはないですよ。パパ……父の方は相変わらずですけど」
「真姫ちゃん、いつも通りに喋って良いのに。私相手に何を遠慮しているの?」
「べ、別に遠慮しているわけじゃないですけど……」
「まぁ、それはそのうち直してもらうとして……最近、どう?」
「どう、ですか?」
「うん。新しい学校、楽しい?」
「……はい。それなりには」
「入学したばかりだと何をしていいか分からないでしょ。高校は中学と何か違うからね。雰囲気とか色々と」
「まあ、そうですね」
「いいなー、女子高生。卒業したら分かると思うけど、あれは一種のブランドよ。卒業しても進学すれば学生はできるけど高校は本当に掛け替えのない期間なのよね~…」
おば様はどこか遠くを見つめながらそう言った。きっと自分の高校時代でも思い出しているんだろう
「……ってこんな年寄り臭い話は今度真姫ちゃんのお母さんとしなきゃね。ごめんごめん」
「でもおば様の高校時代の話はちょっと興味あります。ママが一度話してくれたんですけど」
「ちょっと真里ちゃんってば勝手に人の黒歴史を喋っちゃったわけ?」
「黒歴史だなんて……純粋に凄いと思いましたけど」
「なんか私ってあの辺りの世代で半ば伝説っぽくなっちゃっててさ。特に真里ちゃん達の代より下は私が卒業してからの子達だから噂に尾ひれがついちゃってるのよ」
なるほど。ママはおば様と入れ違いだったのか。通りで話の中に憧れのようなものが含まれていたわけだ
……ん? おば様と入れ違いでママが入学したということはママとおば様は三歳違い? ということはおば様の年齢はーー
「真姫ちゃん」
呼びかけに思わずビクッ! と震えた。おば様はニコニコしている。にも関わらず、有無を言わせないような威圧感も放っている
「それ以上考えない方がいいわ。私、真姫ちゃんと仲良くしたいもの」
「は、はい!」
圧力に負けて反射的に返事をしてしまった
……あれ? 私はおば様の年齢の話など全く口にしていないというのに。どうして私の考えている事が分かったんだろう
「おば様ってエスパーなんですか?」
「そういうわけじゃない。ただ会話の流れで真姫ちゃんの考えてそうな事を予想しただけ」
言いながら目の前に置かれていたコーヒーを飲んだ。おば様のコーヒーにはミルクと砂糖が入っている
「おば様」
「ん?」
「一つだけ聞きたい事があるんですけど」
「なになに? 悠が隠してるつもりの恥ずかしい本の隠し場所とか?」
「……それはとても興味深い話ですけど、そうじゃなくて」
何故かイラッとしたが、それについては今度悠くんに直接問い詰めるとしよう
「私、悩んでいるんです。このままでいいのかなって」
主語はない。何の話かさっぱり分からないだろうにおば様は先を促さない。静かにコーヒーを啜っている
「中学校の時も、その、友達付き合いがあまり上手くなくて。卒業するまでには仲良い子も何人かできたんですけど。その人達とも高校では別々になって」
こんな話は家では絶対に話せない。理由は単純に両親が心配するから
将来はパパと同じ、医者にならなければならない私は必然的に普通の人よりも勉強しなければならない。勉強なんてどこでもできると思ったから、母の希望通りに音乃木坂に進学して
周囲が部活やら友人関係やらでコミュニティを形成しているのに、私だけ取り残されてる気がして
それで良いと思っていたけど、悠くんに「それでいいのか」と喫茶店で言われてから余計な事を考えるようになってしまった
「ふむ、どうしてそれを私に?」
「それはママがおば様の事を『何でも答えを知っている人』だって言ってたから」
私がママから聞いたおば様の逸話の一つ
この人は正真正銘の天才だということ
勉強ができるという意味での天才、だけではなく場面において最適な『答え』を知っているのだと
だから本当に頭が良いのだと、ママが興奮気味に語っていたのを思い出したからだ
「まぁ確かに私は天才だよ。これは冗談でもなんでもなく」
手に持っていたコーヒーカップを置いてからおば様は簡単に言い放った。その口調には先程までのおどけた感じなど全く感じられない。自分で心の底からそう思っているのだと分かった
「だから私は何だって教えてあげられる。真姫ちゃんが望む答えを。それどころか真姫ちゃんの人生そのものを最適なものに導いてあげることだって不可能じゃない」
……なんだかスケールが壮大になってきた。自分が天才だと言ってもそこまで言うだろうか
「でもね真姫ちゃん」
おば様は真面目な、見る人によっては怖いと感じる表情から一変、優しく微笑んだ
「最適な答え=幸せな答え、とは限らないのよ。これは私が最適な答えを選んできた上で得た結論」
言い切った。しかし私としては最適な答えを選んでいたら勝手に幸せになっていけそうだなと思うけど
「いいえ、そうじゃないの。最適な答えを選べるのは確かに大事なんだけど時には間違っていると分かっていても、その選択肢を選ばないといけない時もある。こんな簡単な事に私は長い間気づけなかったんだけど……真姫ちゃんは大丈夫そうね」
言葉の意味が分からなかった私は思わず首を傾げた。大丈夫じゃないから相談に乗ってもらおうと思っていたというのに
「だって最初に言ってたじゃない。このままでいいのかって」
「あ……」
「このままじゃいけないと思うから私に話をしてくれたんでしょ。だったらまずやってみよう。自分がやりたい事を。お母さんやお父さんが望むことじゃなくて真姫ちゃん自身が望んでいる事をさ」
「私が望んでいる事……」
少しだけ、考えた。私は高校生になって何がしたいのだろう
「高校生活は始まったばっかりだし、ゆっくり探していけばいいんじゃないかな。でも高校三年間なんてあっという間に終わっちゃうんだからおばさんの口から言えるのは後悔しないように、ってだけね」
おば様はそこで置いていたコーヒーに再び口をつけた。この人はやはり悠くんのお母さんだなって思った。だって話をしている時の顔が彼とそっくりなんだもの
「? 何かおかしかったかしら」
「いえ、何でもないです。それよりありがとうございました」
「私は何にもしてないよーん。それにしても、若い子のお悩みを聞いてあげる相談室ってのは良いねぇ。この為に歳を取ってるんだなって思うわ」
おば様はケラケラと笑った。それにつられて私も笑う
「ま、頑張ってみてよ真姫ちゃん。どうしても駄目だったらまた相談して。それと……お母さんにもこういう話してあげて。貴女としては心配をかけたくないかもしれないけど可愛い子供に頼られて悪い気のする親はいないんだから」
「……はい」
「うん! 真姫ちゃんは素直で可愛いなぁ! ……うちの子もこれぐらい素直になれば良いのに」
最後の方の声は小さすぎてこの距離なのに上手く聞き取る事ができなかった
「あの、何か?」
「ううん、何でもない。それよりもう少しで悠が帰ってくると思うからアイツの部屋で待っててよ」
「へ、部屋で!?」
「うん! 悠のビックリする顔……ママ見たいなぁ♪」
「ちょ、ちょっとおば様!」
悪戯っ子のような顔をするおば様にほとんど無理矢理連行されるような形で悠くんの部屋に私は押し込まれた
「それじゃあちょっとだけ待っててね!」
それだけ言っておば様は部屋から出て行ってしまった。先程までコーヒーを飲みながら話をしていたというのに、あの人の突発的な行動にはついていけそうにない。普段から悠くんが振り回されるのが目に浮かぶ
それにしても
「ここが悠くんの部屋……」
部屋の中身を軽く見回す
置かれているものといえば、勉強机に本棚がいくつか、衣服が入っていそうなタンス、それからベッド。余計なものは余り置かれていないようだった
他人の部屋を見回すというのはあまり行儀の良い事ではないが、もう一度だけ見渡してみた
昔の悠くんの部屋にはあったヴァイオリン関連のものは一つもなかった。ヴァイオリンも、あんなに沢山あったコンクールの表彰状も
ヴァイオリンをどうして辞めたのか、当時も再会してからも聞いてみたが上手い事はぐらかされていた
近くにあったベッドに腰を下ろす
何回聞いても「自分には才能がなかった」としか答えてくれない
「……私は好きだったんだけどな」
だからヴァイオリンを辞めたと聞いた時はショックだった。どうして、と彼に詰め寄ったりしたっけ
悠くんはずるい。私の考えている大抵の事は見抜いてくるくせに自分の事は何も教えてくれない
いつか、話してくれるのかな。ひょっとして私って意外と彼からの信用がないのかも
そんな事を考えていたら少しだけ憂鬱な気分になってしまって私はベッドに倒れこんだ
「……悠くんの、匂いがする」
普段、彼が寝ているベッドだから当たり前なんだけど。特別良い匂いとは言わないが何故か安心する気がした……ってこれじゃ私、変態っぽいかしら……?
で、でももう少しだけ。もう少しだけ横になってるくらいは良いわよね! だってベッドなんだもの寝る為の道具だもん
そんな言い訳にもなっていない理由でベッドから起き上がる事を拒絶した私は、そのままの体勢で彼が帰ってくるのを待つことにしたのだった
――――
「ただいまー」
「あ、やっと帰ってきたわね。随分と遅かったじゃない」
「ちょっと鬼教官にしごかれててね……」
「それは良いわね。アンタあまりにも貧弱だからそれぐらいが丁度いいわよ」
普通息子に向かった貧弱とか言うか? 今更だから気にもしないけど
「とにかく早く着替えてご飯の支度してー。私なんだかお腹減っちゃった!」
そう。母上は夕食を作らない。それは中学校の途中から僕の仕事になったからだ
「たまには作ろうって気にはならないの?」
「ならなーい。だって悠くんのご飯の方が美味しいんだもん」
「全く……」
半ば呆れながらも、これも今更なので何も言わない。とりあえず汗をかいたから先にお風呂と考えていたけど予定を変更しよう。先に夕食の支度だ
冷蔵庫の中身を思い出しながら自分の部屋の扉を開いた
「……は?」
思わず間抜けな声を出してしまったがそれも仕方がないと思う。部屋の中に広がる光景が信じられずに僕はそっと扉を閉めた
「園田さんのきつい練習で疲れてるのかな。うん、そうに違いないね」
今日もトレーニングはきつかったし、きっと幻覚でも見たのだろう
自分に言い聞かせてもう一度扉を開ける。部屋にあるベッドの上に見覚えのありすぎる制服を着た女の子が横たわっているのが目に入った
「……なんで真姫が僕のベッドで寝てるの?」
近くに寄ってその正体を確認してみると幻覚なんかではなく、確かに幼馴染である西木野真姫だった。何故、僕の部屋に彼女が寝ているのか。そもそもどうして我が家に彼女がいるのか。全く見当もつかない
それにしても、と僕はすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てている彼女の顔を覗き込んだ
「爆睡してる……」
軽く頬を叩いてみたが起きる気配は全くない。真姫が一度寝たらなかなか起きないのは知っていたけれど。僕の枕を大事そうに抱きしめているのを見るに、真姫の自宅のベッドにはまだ抱き枕代わりの巨大なクマのぬいぐるみが置いてありそうだ
しかし、そんな事よりもこれはあまりに
「無防備過ぎじゃない?」
僕はベッドに手をつき、彼女に覆い被さるような体勢になった。ベッドのスプリングが重みに耐えかねて大きめの音を立てるがここまでしても真姫は起きない
スカートからスラリと伸びる長い脚。身長は僕とそれほど変わらないのに間違いなく僕よりも狭い肩幅。綺麗で何故か良い匂いがする真っ赤の髪。彼女の何もかもが僕の中の黒い衝動を煽ってくる
当たり前の事だがこんなに近くで真姫を見たのは初めてだった。思わず、ゴクリと息を吞んだところで
「……なにやってんだろ」
我に返った僕は未だに眠っている真姫から離れて静かにベッドから降りた
先程まで頭を支配していた最低な思考を頭を振って吹き飛ばす。寝込みを襲おうだなんて只の変態だよ……ほんと、何やってるんだか
しかし真姫も真姫だと思う。幼馴染とは言え、勝手に人の部屋に上がり込んで人のベッドで勝手に寝るだなんて。僕も仮にも男だというのに無防備ではないだろうか
……裏を返せばそれだけ信頼してくれている、のかもしれない。それだったら嬉しいんだけどな
男として見られていない可能性も大いにあり得るがそれは考えない事にした。もしもそうだったら僕はもう立ち直れない
僕は部屋を出てこの状況を楽しんでいるであろう人物に文句を言おうと下に降りた
「母さん」
「そんな怖い顔してどうしたの? 何かあった?」
「何かあった、じゃないよ全く! どうして真姫が僕のベッドで寝てるのさ!」
「あら。真姫ちゃんってば寝てたんだ。道理で静かだと思ったわ~」
「それだけ? 息子の部屋に女の子を送り込んでおいてそれだけなの?」
「久しぶりなんだからいいじゃない。私としては二人がより仲良くなる為のお膳立てのつもりだったんだよ? どうせ悠の事だから真姫ちゃんに手を出すなんて真似はできないだろうし」
酷い言われようだけどその通りです。しかし母上様、僕の親としてそれでいいんですか。息子と幼馴染が一線超えたらどうするんですか
「万が一そうなったら純粋に嬉しいわ。真姫ちゃん良い子だからむしろ悠をもらってくれてありがとうって感じ?」
まさか高校生になって母さんに泣かされそうになるとは思わなかった。僕は沈んだ気持ちのまま夕食の支度をすべくキッチンへと向かった
「ついでだから真姫ちゃんの分も作ってあげて。お母さんには連絡しておいたから」
準備の良い事で。というか真姫のお母さんの連絡先知ってたんだ
「真姫の分も作るのは良いんだけど、それならトマトソースのパスタでも良い?」
リビングの方から了承の返事がしたので早速取りかかる。真姫はトマトが大好物なのだ。喜んでくれると良いな
パスタなので完成までにそれほど時間はかからない。慣れた手つきで皿に盛りつける
「母さん、もう少しでできるから真姫を起こしてきてくれない?」
「いんや、私が準備しておいてあげるからアンタが起こしに行ってあげて」
「はぁ?」
「悠が起こしてくれた方が真姫ちゃんも嬉しいってもんでしょ。本当に乙女心が分かってないんだから」
そんなものなのだろうか。どこかズレてると思ったけど既にテーブルに皿を並べ始めている母さんを見て諦めた僕は真姫を起こしに行くことにした
「真姫、入るよ?」
返事はない。まだ眠っているみたい
仕方がないので部屋に入って起こす事にした。未だに真姫は気持ちよさそうに眠っている……冷静に見たら僕の枕を抱きしめて寝ているのって結構恥ずかしい気がするな、うん
「真姫、起きて。ご飯作ったから一緒に食べよう?」
「んー…」
とにかく、起こそうと声をかけてみても寝返りをしただけで起きない。頬を叩いたら嫌そうな顔をする。ふふ、可愛いじゃないですか西木野さん
「って、遊んでる場合じゃないか。真姫、起きて!」
「うぇ……?」
体を強く揺すってやったらようやく目を覚ましてくれた。未だに半分は夢の世界にいるであろう瞳が僕を捉えた
「おはよ「きゃああああぁぁぁぁぁぁ!?」がふっ!? な、なんでパンチ……?」
絶叫と共に放たれた真姫の寝起き渾身のストレートが僕の鳩尾にヒット。僕はこの日、母さんの言う乙女心は全く理解できないと悟ったのだった
いかがだったでしょうか?
前の話で真姫ちゃんが主人公が純粋だと言って渋った理由はどこかに隠している恥ずかしい本のせいです、というフラグを回収する為の話でした
次の話は家庭教師かな?
トップアイドルとのデートかな?
ご期待ください(笑)
……読者の皆さん、たまにはやらしい大人の話も見たくないですか?