放置していました(^^;;;ごめんなさい。これから少しずつでも更新していきます。
「お疲れっした~。」
うだつの町、美馬市脇町にある、うだつの通りのイベントが今日も終わった。タオルで頭を覆った若者が僕を脱いで元気よく言った。午後5時を過ぎようとする時間帯だった。まだまだ明るい時間帯だったりするが、観光客はすでにまばらである。うだつまるの着ぐるみは暑く、重い。それでも美馬市観光協会の若者は、一日交替しながら、ゆるキャラとしての大役を果たした。今日は比較的大きなイベントで、朝からひっきりなしにこの地を訪れたお客様が、うだつの町並みを見て行ってくれた。たくさんの家族連れ、そして子ども達。楽しく華やかなイベントだった。
そう、僕はうだつまる。そう名付けられた。
全国に散らばる、最近はやりのゆるキャラだそうである。美馬市観光協会の若者がこの着ぐるみを脱ぐときに僕の役目は終わる。そうすれば、この着ぐるみから離れて近くの古い神社に帰る。それが僕の日課だ。この地の古老からそう頼まれたのだ。我々の子ども達を見守って欲しいそう言われた。依り代として適当だったので、このうだつまるを借りている。
脇町から美馬市脇町と言われるようになって結構経つ。この町もいろいろ変わってきた・・・。変わらないのは吉野川くらいかな。でもこの川も、北へ南へ流れを変えたな。
そうそう、山から大勢の武者達が降りてきて、一時休んで、そこからまた南の山、西の方へ分かれて落ち延びていったこともあったな。あのときは、僕達も大騒ぎになった。「京」の強い力を持った宝物を携えて貴人が担がれて落ち延びていったのだ。
そんな物を持ち込まれると困るのだ。それを奪わんとする有象無象が攻めてくる。この地を通すことはこの地を開け放つことと同じである。僕達は人間が思うより遙かな過去からこの土地に住まうモノ。人がこの地にやってきて、僕達と契約してくれた。この土地を守る役目を担う代わりに人間達は永代にわたって僕らを祭ると約束した。それから幾星霜。人間達は、依り代としての社も建ててくれたし、毎年春と秋には僕達をもてなしてくれた。
その代わりと言ってはなんだが、僕らは人間達の知らないところで、決死の覚悟で戦った。北の海から良くないモノが攻めてくると言えば、この地を護り、東の古き者どもからも戦い、この地を護った。
そして、人間の尺度で千年と数百年が経った。神社に奉納される酒や食べ物がその糧であったが、人間達の笑顔が一番僕達の強い力になった。人間達の恐れやあきらめ、悲しみは僕らの力を減じてしまう。
時代の流れと共に、ゆっくりと僕らの数は減っていった。良くないモノとの戦いもその原因だったが、人の思いが集まらなくなったのも、その原因かも知れない。でももう良いだろう。良くないモノも同じように力を減じている。僕らの力は表裏一体。この土地に住まう僕も最後の一体だ。他の近所の神社も、もう護る者はいない。人と共に生き、人と共に喜び悲しんだ、ほんの数瞬と思えば気も紛れよう。
白いしっくいを思わせるうだつの町並みを模した、うだつまるの着ぐるみを離れて、神社に帰る。ここも昔はたくさんの人の子ども達が遊びに来ていた。社の階段に腰掛けて空を見上げる。いつの間にか日は落ち、太陽の力が減ると星々の力がよく見える。この宇宙にいくつあるのか僕にはわからない。その星々の力が弱いけれどたくさんシャワーのように降ってきていた。昼間の子ども達の喧噪を思い出して、その降り落ちてくる星の光りを手のひらに乗せてみた。人ではない僕らとは言え、さすがに弱い光を手のひらにとどまらせることは出来ない。しかし、今日は美しい夜空だ。数日前の大雨のせいだろうか。
「・・・うだつまる殿、うだつまる殿はおるかな・・・。」
おや、古い知り合いが来たようだ。西の町の護るモノ。境内の鳥居の向こうから声がする。
「・・・ふん、その役目は今しがた終わったわ。」
「難儀なモノよのぉ。いくら人間に願われたとは言え、そのような役目、適当で良いではないか。」
そう言いながら現れたのは、この美馬より西の地を守護する僕らの仲間だった。
「お主こそ、まだそのかぶり物をとらぬのか?」
人間の世界では非公認らしいが、なにやら東の地のゆるキャラにあこがれる、と言う設定らしい。胸の膨らみから女性らしい。
「ふ、ふん!これなら人に見られても問題ないからの。」
僕はちょっと意地の悪い笑みを浮かべて、その女性の化身を見た。
「・・・いや、夜道でそなたに出会うと怖いと思うぞ。」
ちょっとムッとした雰囲気の後、頭にかぶっていたモノを取り、前髪を掻き上げると、その西の地を護るモノは、長い髪を結わえ、白い着物に赤い袴の美しい巫女の姿になった。
「・・・我らは姿に意味はないはずだが。そっちの方がマシではないか?」
「おぬしがほれ、そのような姿を取るのと同じことじゃよ。意味もないが、話はしやすいからな。」
そう言って、人がそうやるように、ほほほ、と口に手を当てて笑う。僕の腰掛ける社の階段へふわり、ふわりと一歩ずつ歩を進め、歩いてきた。左隣を空けると、そこにそっと腰掛ける。
「そう、人の姿をすることに何の意味もないな。まあこの姿が気に入っている、と言えばそうだな。」
僕は、遠い遠い昔、共に戦った若武者の姿を借りている。人の世は短い。敵に討たれ、今まさに死のうとした若者は、僕と共に在らんと欲した。僕はその若者の魂をなぞり僕の姿として、その若者の魂は輪廻の大海に離してやった。永久の時を生きるには人はまだ弱すぎる。その若武者の姿に、着ているものは、今の若者のような無地のTシャツとハーフパンツ。こざっぱりと刈った頭髪。あまり目だつ格好ではない。ごくまれに、僕らの姿が見える者に出会っても人混みに紛れれば、正体を隠しおおせる。
「どれ、久しぶりに尋ねてきてくれたのだ、中で一杯やらぬか。」
もしも僕らの姿が見える者がいたら不思議だろう。巫女の姿をした若い女と、古くさい口をきく若い男が隣り合って話をしているのだから。今言うデートのように見えるだろうか。
「いや、じつはな、我らの地の山向こうが何やら騒がしくての・・・。それでな、ほれ・・・。」
そう言って、西を護る者、ややこしいからその者が姿を借りている、ゆるキャラの名前で呼ぼう。オカザエンヌは懐から人型の護符のような物を取りだした。
「・・・ほおお、久しぶりに見たな。我らの連絡用式神ではないか。」
前の大戦からすでに70年あまり。それ以降大事もなく、人は都会に出て行き、この国の金回りも良くなって僕らの出番は大きく減った。静かで良いと思っていたが、何やらもめ事でも起ころうというのか。
「山向こうの、ほれ、830年ほど前にお主もここを通したであろう。京の都から落ち延びてきた一団がおったじゃろう?」
「あの、いにしえからの宝物を持った一団か?」
もうあれから830年にもなるのか。僕らが生まれるか、もしかしたら生まれていなかったかも知れない時代の宝物を持って、この地を通り、オカザエンヌ達の護る地にしばしとどまり、そのあと西南の山向こう、祖谷と言われる地に落ち延びていった。
「そうじゃ。あのあと、良からぬモノを引き寄せて大変だったなぁ。」
それほどの力を持つ宝物だった。気が遠くなるほどの昔、巨大な海洋国家があったと聞くが、そこで作られた宝剣と鏡、曲玉の形を取っているというと聞いた。
「・・・そうであったな。西洋の魔物はもちろん、異世界からも結界を破ろうとしていたな・・・。だが、その一団が落ち延びた先で一柱の神の力と、現人神の力を持って封印したと聞いたが?。」
「そうじゃ。我らの仲間も力を貸して封印したはずじゃ。」
オカザエンヌは、ふ~っと、その連絡用式神に息を吹きかけた。ひらひら、と風もないのに境内の真ん中ほどまで飛び、足を下にして立った。五つの大きな気配が現れる。実体ではない向こうが透けて見えている。
「×○△□殿、・・・そう、今はうだつまるというのか?久しいな。」
最初の呼びかけは、僕の本当に名前。人には発音できない真言で呼ばれた。仲間には教えてある。後ろに大きな羽のようなモノを背負った陰がそう口火を切った。
「このような形で、話をすることをお許し願いたい。我らの力も弱まってしまった。手短に言おう。我らが護る地に封印したあの宝物だが、もう我らの力では押さえられなくなってしまった・・・。そのため、我らの力を一つに結集し、我らを祀ってきた人の一族の最後の者に預けようと思う・・・。」
本来、この式神を使ったこの術は鮮明な絵が見られるはずだが、祖谷の山の神々の力が弱まっているのだろう、陰しか見えなかった。
「しかも、この宝物は、年々力を溜め、力を弱めてしまった我らでは、この夏が終わるまで持たないだろう。しかも、我らも歳を取ってしまったのだ。地や風に還る時が来てしまった・・・。」
その陰はわずかに頭を垂れた。そうか・・・。すでにそんなことになっていたのか。僕らにだって寿命はある。それは、人と比べるべくもないくらい長い時だが、確実に存在が消える時もやってくる。祖谷の神々は、その時が来た、そういうことなのだろう。
「うだつまる殿、オカザエンヌ殿、お主らはまだ若い。人から預かったのだから人に返すのが筋とは言え、あの宝物はあまりにも力が強い。未だに迷うことも多い人だ。この地を、星を護るためにもどうか力をしてくれまいか。」
五つの陰はそう言って、頭を垂れた。あの強き力を誇った祖谷の山の神々もすでに力は衰えてしまった。830年前は、6柱の神々がおり、落ち延びてきた一団とともに、力に引き寄せられた良くない者どもを蹴散らしたのだ。一柱の神はその折に自らの命と引き替えに、人の力を借りてあの宝物を封印したと聞いている。そこまで陰達はしゃべると、揺らめいて消えた。すぐに人型の式神は、青とも緑とも言えない炎を発して燃えてしまった。
「・・・われらは、自らの護るべき土地に引きこもり過ぎたのかも知れぬのぉ。」
「何も起こらぬこと、静かなことは幸せなことだったのかも知れないな。」
本殿の階段に腰掛けて、僕らはどちらともなくつぶやいていた。
「明日にでもゆくか?」
「うむ、ゆこう。」