西阿波伝説   作:かずき屋

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長い長いプロローグですみません(^^;;;。

8歳でこの世を去ったと言われる安徳天皇があまりにも不憫で、いろいろ書き込みたく思います。

安徳天皇は、三好市東祖谷は栗枝渡の地で亡くなり、火葬されたという平らな岩が今も残っていますが、とても小さく当時を想像させます。

もう一つの作品ほどまだ多くを書き込めませんが、気長に待っていてくださいませ(^^;;;。


プロローグ3 戦いの末落ち延びてきたもの

         プロローグ3 戦いの末落ち延びてきた者

 

 「行軍をお待ちくださいませ。君がお泣きになっております。」

讃岐国の屋島の合戦で源氏の追っ手から命からがら逃げ延びて後、もう何度目になろうか。女子どもを連れての逃避行であり、三種の神器を隠し持って逃げ延びなければならぬのは重々承知の上だった。だが・・・。

 「教経よ、そろそろ遅い刻限ともなる。ここらで、一夜の陣を組まぬか?」

平教経(たいらの のりつね)は、知盛(とももり)に忠告され、焦る心を抑えた。讃岐国に落ち延びたが、すぐに追っ手がかかった。水主村といったか、あの村ではたいそうもてなしてくれたが、屋島から近く、源氏の追っ手の目をくらますことはできなかった。

 左右を見渡し、今登ってきた道を見て平教経は、阿波国へ入るか入らぬかのこの美馬の山地なら今しばらくは時間が稼げるか、と自分自身を納得させたようだった。

 「安徳の君に湯をなせ、ここに陣を張るぞ。三種の神器の、古き者どもよりの隠匿器は動いておるか?」

 100名ほどの列の中央部分から、大きく立派な作りの長持ちを担いだ4名が前に進み出てくる。箱の要所要所を確認し、異常なしと報告する。

 「封印をさらに厳とせよ。源氏はもちろんのこと、人ならぬ者、西方の悪しき者どもに手渡すわけにはいかぬ。」

屋島において、大暴れする教経と入れ替わり、後の世でもう一度お目にかかりましょうと、源氏の兵団に切り結んで行った菊王丸。教経は、思い出すたびに悔しさと悲しみが胸に満ち、その場にくずおれてしまいそうになる。そんな自分をもうひとたび奮い立たせた。

 今、陣を張ろうとしているのは、ちょうど阿波国と讃岐国の境、美馬の地に入ったばかりの山頂だった。少し開けた地形である。しかしながら、天候は教経達の味方ではなかったようだった。西の方から暗く白っぽい霧のようなモノを伴った雲が近づいてきていた。間もなく雨になるだろう。草木の臭いを含んだ空気が重く湿ってきていた。遠方では雷の音も聞こえ始めている。

 「・・・くさい、臭うぞ。」

陣を張ろうとする、教経の配下の者が忙しく動いている中、平教経の耳元で男の声がした。刀に手をかけ、瞬時に自らの心の波を凍らせ、四方に気を巡らす教経。

 「これは、イザナミの君の黄泉比良坂(よもつひらざか)の臭いじゃ。生きとし生けるものを死に導く臭いだ。」

教経の周りをぐるぐると回って聞こえてきた。人でない黒い影のようなモノが教経のまわりを回っていた。

 「・・・・・・。」

教経は、静かに祝詞のようなモノを唱え始めた。刀の柄にかけていた手も胸の前でそろえて、周りの喧噪も聞こえている風も無い。そのうち、周りの配下の者達も同様に同じような言葉を唱え始めた。さきほど四人で担いでいた、長持ちの輪郭が、湯気が立ったようにゆらりと揺らめく。

 「古き者よ我らに、一夜の宿をお与えください。明日になれば疾く立ち去りますゆえ。」

教経は、その不思議な祝詞のような言葉のあとに、そう言い、自らの名を名乗った。そして、女官達が楚々と進み出で、酒は瓶子に野菜、米などを三宝に乗せて来た。教経の周りの数名が、手慣れたように簡易な神棚を作り、瓶子や三宝をそこに置いていく。教経の周りを跳ねながら回っていた、その陰はスッと若武者の姿になり、簡易な祭壇を挟んで教経の目の前に立った。

 「いにしえの言葉、確かに聞き届けたぞ。分かり申した。我はこの地を護るヤハタと申す者。美馬の地にそのような危険な物を置かず、疾く立ち去るというのなら文句は無い。」

そう言ってうなずく、ヤハタと名乗る若武者だった。さっそく瓶子に手を伸ばし、三宝にも手を伸ばして、神饌として供えられたものの気を食べているようだった。しかし、なにやら気になったようで教経から視線を外し、後方を振り返る。その視線の先には、西の方の山々を白く雨模様に包み込む黒雲を見ていた。

 「・・・ふむ、すでに悪しき者どもに見つかったようだぞ・・・。やれやれ、やっかいなモノを持ち込んでくれたものだ。」

そのヤハタと名乗った若武者は、瓶子の中身をラッパ飲みし、トンッと右足を地面に打ち付けると、ふわりと飛び上がり、身を翻して教経達一行を護るがごとき方向を向く。木立の枝が切れるほどまで上昇して、胸の前で右手を指先までまっすぐ伸ばし、身体の横まで回し、左手も同じように身体の横まで回す。両腕を開いた状態から胸の前で両手のひらを勢いよく打ち付けた。軽やかな柏手の音が当たりに響く。

 西から天候が悪くなってきていたが、それは天候のせいばかりではなかったようだ。上空の黒雲の一部は意思を持ったかのように、さしわたし5、6mはあろうかという巨大なな筒状になって、ヤハタと名乗る若武者を飲み込もうとした。しかし、透明な何らかの壁に当たって、ヤハタには届かない。黒雲は上下左右に分かれその透明な壁のこちら側に回り込もうとしていた。ヤハタはその黒雲をにらむ。わずかに髪が青く光ったようだった。黒雲よりも遙か上空から雷光が走った。赤だの緑だの普通には見ることのできない光を発し、その黒雲は燃え上がる。黒雲は、魑魅魍魎と言えるおぞましい生き物の姿を現した。

 「・・・我も見くびられたものよ。」

ヤハタは、歌のような、言葉のような、いや、何かと集中すれば風の音のようにも聞こえる声を短く唱え、右手を手刀にして軽くなぎ払う仕草をした。魑魅魍魎のおぞましい黒雲は、斜め袈裟切りに切られ、さらに落雷に焼かれた。黒雲が一瞬にして消え、あたりには、白い霧が立ちこめてきた。じっとりと湿気を含む、山間の空気に戻っていた。ヤハタは、静かに教経の前に降り立った。それを待っていたかのように霧は雨に変わった。

 「美馬の地を出るまでは、我が護ろう。この地に、この力ある物を安置できるような場所は無いだろうが、もう1つ2つ山を越えたところなら、あるいは・・・。」

そこまで言って、三宝に供えられた野菜や乾物などをわしわしと大口で食べ、もう一本の甁子の酒を飲んだ。見ていて気持ちの良い食べっぷりだった。教経も思わず笑みがこぼれていた。

 「兄様・・・。」

稚児の声にヤハタが、食べる手を止め下を向いた。

 「あれ、君、なりませぬ!お戻りください。」

女官の慌てた声がした。いつの間にやら、その若武者の格好をしているヤハタの、袖口をそっとつまんで持つ、まだ10歳にもならぬであろう稚児がいた。その稚児は雅な唐衣のような着物を着て、絹の袴を履いていた。

 「ほう、安徳の君か。人の世は移ろい激しいが、本来この様な場所であいまみえるものでも無かったろうになぁ・・・。」

ヤハタは、その稚児をふわりと抱き上げた。まるで見知った親戚の子どもを抱くように。そして、小さな手をそっと握る。ふと、その表情が曇った。先ほど魑魅魍魎を屠った右手の人差し指で、その稚児の眉間を軽く擦った。稚児はとても嬉しそうに、笑い声を上げていた。ヤハタは、その擦った人差し指を力を入れて拳に握り、何かを潰すような仕草をした。

 「おいたわしや・・・。わたくしがあのようにお喜びの声を聞いたのは、徳子様に抱かれていたあのとき以来です・・・。」

そう言って、安徳天皇のお付きの女官が袖で涙を拭っていた。

 「・・・人の世に関わると、ろくなことが無い。」

ヤハタはそう言い、優しく安徳の君と言われた稚児をその場に降ろした。安徳の君は、とてとてと駆けていって、両手を伸ばして女官に抱いてもらった。

 「平教経とやら、礼を言うぞ。」

簡潔にそれだけ言い残し、ヤハタは姿を消した。陣はあらかたできており、雨を避け100人ほどの落人達は、教経の号令の元、暖をとり、腹を満たし傷の手当てをした。この地の神との逢瀬を祝い酒を飲んだ。

 その後、美馬の地から、今で言う三好の土地に入りしばらく留まり、ヤハタの山を越えよとの言をもとに、山を2つ越え、他とは違う気に満ちた土地に教経達は下り立った。落ち合った場所だから落合と名付け、川沿いにさらに東進した。

 「この立派な栗の木を倒し、橋にして、この川を渡ろうぞ。」

今に伝わる、栗枝渡の地名はこうして付いた。

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