斯くして、一色いろはは本物を求め始める。   作:あきさん

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  *  *  *

 

 作戦会議が始まってから二時間は経っただろうか。時刻は正午を過ぎていた。休憩も兼ねて、一度話した内容を整理するには丁度いいタイミングといえる。

「お昼、どうしましょうか?」

「……そうだな」

 噂の悪化を避けるために、小町ちゃんがわたしを迎えに来たのだから、当然外食という選択肢は除外される。つまり、せんぱいの家で何かを作る、もしくは誰かが買いに行くということになる。

「一色、簡単なものでいいなら俺が……」

「ダメ。お兄ちゃんめんどくさがってろくなもの作らないでしょ」

「うぐっ……」

 せんぱい料理できたんですか? とわたしが聞く前に小町ちゃんからNGが出されていた。

 即座にせんぱいの考えていることを理解できる小町ちゃんが羨ましい……。さすが兄妹、といったところなのかな? これが普通なのかはわかんないけど。

「小町だけならいいけど、今はいろはさんもいるんだよ? ちょっとは考えなよ」

「えっと、わたしは別にそれでもいいよー?」

「ほら小町、一色もこう言ってることだし……」

「小町がそれは許しません」

「……はぁ、じゃあどうすんだよ? 何か買ってくるか?」

「いろはさんは、食べたいものありますか?」

「んー……」

 こういった質問に「なんでもいい」と返すのはちょっとアレかなと思ったので少し考える。

「特にないなら、小町が何か作りますけどそれでもいいですか?」

「あ、うん。わたしはそれでいいよー」

 言い淀んでいると察してくれたのか、小町ちゃんが何か作ると言ってくれた。特に食べたいものが浮かばなかったのは事実なので、お任せすることにしよう。

「ちょっと小町ちゃん? お兄ちゃんを無視しないでほしいんだけど?」

 不満げに呟くせんぱいを無視して、作ってきまーすと小町ちゃんはキッチンへ向かっていく。

「せんぱい、家でもそういう扱いなんですね……」

「まぁ、小町は言い出したら俺が何言っても聞かんからな」

 わたしが同情を込めてそう言うと、せんぱいはいつものことだとばかりに返してきた。

「それより、さっき話した内容を踏まえた上でどうするか考えるぞ」

 その言葉に頷き、昼食ができあがるまで、改めて考えをまとめることにする。

 

  *  *  *

 

 最初にしたことは認識のすり合わせだった。実際に流れている噂と耳にした噂の内容に相違がないかどうかを確認した。

 せんぱいは、葉山先輩に「いろはと付き合っているのか?」と聞かれて、そこで噂と朝から刺さる視線の意味を知ったそうだ。

 葉山先輩自体は、知人と世間話をしている最中に、それとない噂を聞かされたと言っていたらしい。そして、結衣先輩も同様にそこで知ったということが推測できた。

 小町ちゃんは、クラスのトップカーストに属する人間に「生徒会長さんとお兄さん、付き合ってたんだ?」と聞かれて噂を知ったらしい。

 どちらも共通点として、噂について知ったのはトップカーストに属する人間から聞かされた、ということ。

 先日、わたしとせんぱいが一緒にいたことを目撃した人間がトップカーストに属する人間かどうかまではわからなかったが、わたしの学年が一番悪化していることから察するに、他の学年は先輩と後輩という縦の繋がりを通して広がっているだけに過ぎない。

 つまりは、目撃者及び噂を広めた人間が属するのは、わたしの学年にいる可能性が高い。

 そして、各学年のトップカーストを中心に広まっていったことから、噂の拡散速度を上げたのはわたしの学年のトップカーストに属する人間の可能性が高く、少なからずわたしに対して敵意を抱いている可能性があるということ。

 あくまで憶測に過ぎないが、その可能性が大きいことを再認識し、せんぱいと小町ちゃんと認識を共有した。話の途中、せんぱいが「お前、敵作りすぎだろ……」と言いながら苦い顔をしていたので「てへっ」と適当に誤魔化しておいた。それに、せんぱいは人のこと言えないと思います。

 そうして、次に現状維持や放置は効果がないどころか、逆効果の可能性があることを説明した。実際に放置した結果、悪意のあるひそひそ話をされたということと、別の対策もいくつか考えたがどれも現実的ではなかったことも併せて説明しておいた。

 ――ただ、わたしは一つだけ嘘をついた。

 それは、結衣先輩とのことと、その後にわたしが実行する予定だった考え。

 わたしがやろうとしたことは、せんぱいが今まで独りでやってきたことと何も変わらない。それなのに、手を差し伸べてもらったら、手のひらを返して甘えようとしている。

 ちょっとずるいくらいなら、まだ可愛げがあったのになぁ……。おっといけない、そんなことを考えるより今は対策、対策っと……。

 せんぱいは何か浮かんだのだろうか? 気になったのでせんぱいのほうを向くと、何かを手繰り寄せるような――そんな表情をしていたので思わず声をかけてしまった。

「せんぱい、何か引っかかることでもありました?」

「あぁ、いや、そうじゃない。なんだか前提が間違ってる気がしたんでな」

「前提……ですか?」

「まぁ、もう少し考えるから待ってくれ」

「そうですか」

 

 それを聞いて、わたしは再びこれからどうするべきか考える。だが、結局小町ちゃんが昼食を作り終えても具体的な対策は何も浮かんでこなかった――。

 

 

 

 

 




短いですが投稿しておきます。
第一章の某話数みたく地の文が長かったりするとああなってしまうので
地の文が多いときは全体的に短めにしてみようと思ったのですが、どうでしょうか。

章をわける以上このほうが読みやすいですかね?
他にも地の文が読みづらいだとか区切りが読みづらいとかあれば改善します。

※行間とか色々今の雰囲気に近づけました。

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