斯くして一色いろはは本物を求め始める。   作:あきさん
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 雪ノ下先輩と別れた後、わたしはさっさと帰路につく。そうして自宅に戻ると夕食は既にできあがっていたので、着替えを済ませ、すぐに夕食をとった。

 日課を一通り済ませた後、ベッドに寝転がり、わたしは考え始める。

 わたしが間違い始めたきっかけはいつだろう? 頭の中でひたすら時間を遡った。すると、思い当たることが一つだけ浮かんだ。間違いなく、きっかけはここなのだと思う。

 それは、以前に総武高校受験者の合格発表があった日。小町ちゃんの合格記念パーティーを奉仕部でやるとのことで、当日わたしにも結衣先輩からお誘いがあったのだが、わたしは断った。

 奉仕部というあの三人が作り上げた特別な空間にわたしも含まれていると思うと、もちろん嬉しくはあったが、わたしは奉仕部の一員でもなく、結局はそれに近しい存在に過ぎない。だから、わたしが胸を張ってあの人たちに並べる存在になるまではと、変な意地を張っていた。

 実際に結衣先輩から話を聞いた後は、この時の選択はやっぱり間違ってなかったと思っていた。ほんの少しの綻びで、瓦解しかねない空間に戻ってしまった時期にわたしがいたところで、何もできずに立ち尽くすか、綻びを大きくすることしかできないと思っていたから。

 でも、それがそもそもの間違いだった。

 じゃあわたしは本当はどうしたかったのか――次にそれを考えた。わたしはせんぱいの居場所になりたかった、それは嘘じゃない。

 でも、違う。

 わたしはわたしの奥底にある、わたししか知らない汚い部分を見せるのが嫌で、何かを建前にして、理由にして、諦めようとして、それでも諦めきれなくて、都合のいい時だけ甘え続けた結果、わたしは今、中途半端な状態になっている。

 そんなものはいらない――わたしはそう願った。でも、今のわたしは結果的に嫌っているそんなものに成り下がってしまっている。

 だからこそ、平塚先生の言うとおり、わたしには傷つく覚悟も、傷つける覚悟も何もかもが足りていない。あの時、簡単に揺らいだ決意こそがその証明だった。

 そうしてわたしはせんぱいにまた助けてほしいと願った。それはわたしの本音だ。今にして思えば、誰かに感情の奔流をぶつけたのは『一色いろは』という存在が確立してからは、初めてな気がした。

 でも、せんぱいはきっと勘違いをしている。だから、間違って食い違った。

 せんぱいが土曜日に言っていた「前提が間違っている気がする」という言葉は、あっているようで実際には間違っている。だって、わたしの心の中にある前提と呼べるものとはすれ違っているから。現に、わたしはそれを肯定してしまっていたし、それでいいと思っていた。

 だからこそ、まずはそこから問い直さなくてはいけない。『一色いろは』という存在は肯定し続けることで、きっと救われる。でも、心の中で咽び泣くわたしは救われないままだから。

 きっとそれを理解した上で、葉山先輩は私に問いかけたのだろう。

 ――本当に、それだけでいいのか? と。

 答えは、否だ。わたしはもっと欲しいものがある。

 

 なら、わたしが本当に望んだものは?

 ――わたしが本当に欲しいものは、最初から何も変わっていなかった。

 

****

 

 翌日――というよりは、時計の長針が三、四周ほどした後、わたしは重い体を起こして自室の窓から外を覗く。

 すると、雨が降っていた。どうやらわたしは天気に恵まれているようだ。

 わたしは身支度を整えた後、挨拶を済ませ、自宅を出て学校へ向かう。

 雨に少しばかり制服を濡らしながらも学校に辿り着くと、相変わらずわたしをちらちらと見てくる生徒はいたが、悪意のある視線というよりは、ばつの悪そうな――そんな視線だった。

 しかし、わたしにとってはそんなもの既にどうでもよくなっていて、わたしはそれらを全て無視して自分の席へ着き時間がただ過ぎるのを待った。

 そうして昼休みを終え、午後の授業を乗り切ったわたしは職員室に向かい、中にいた平塚先生に声をかけた。

「先生、今日の校外清掃は雨で休みってことにしちゃっていいんですかねー?」

「そうだな。仕方あるまい」

「わかりましたー。それと、生徒会室の鍵、お借りしていいですかー?」

「……何か残っている仕事でもあるのか?」

「はい。わたしだけ……ですけど」

「そうか……」

 平塚先生はふっと笑いながら、生徒会室の鍵をわたしに渡してくれた。職権乱用もいいところだが、きっとこの人はわたしが何をしたいのか理解した上でそうしてくれたのだろう。こんな素敵な人なのになんで結婚できないのかなー……。男前すぎて女子力が足りなすぎるのかなー……。

 わたしは職員室を後にして、生徒会役員に『今日の生徒会活動は休みにします』という業務連絡をメールで済ませた後、一人生徒会室へ向かった。

 生徒会室の鍵を開け、中に入った後わたしは一通のメールを送った。そして椅子に腰掛けることもせずに、立ったまま窓の外を眺め続けた。

 しばらくすると、無遠慮に開かれた扉からわたしが呼び出した人物が姿を現す。

「あ、せんぱい。お待ちしてましたー」

「おう。……そんで、話したいことってのはなんだ」

 わたしは『依頼のことについて話がしたい』という理由で、せんぱいを呼び出した。そうでなければ、きっと来てくれないと思ったから。

「……色々と、すいませんでした」

 わたしはぺこりと頭を下げる。

「……一色、熱でもあるのか? お前がそんな態度とるとか後が怖いんだけど……」

「……せんぱい、わたしだって傷つくことくらい、あるんですよ?」

「あ、いや……。……その、悪かった」

「まぁ、それについてはせんぱいに後で慰めてもらうことにしますね」

「ちょっと待て、なんでそうなる」

「まぁまぁ、いいじゃないですかー」

「いや、ちっともよくねぇから……」

 わたしへ抗議の視線を向けるせんぱいを無視して、わたしは咳払いをした後、本題に入る。

「……せんぱい、全部説明してもらえますか? どうして葉山先輩たちなんですか?」

「……あいつら余計なことまでお前に言いやがったな」

「そういうの今はいらないんでいいから早くです、早く」

 ――わたしが何も伝えないまま時間切れなんて、絶対に嫌だ。

「何をそんなに焦ってんだよ……」

「だーかーらー」

「わかったわかった。……平塚先生の言うとおり、あれだけじゃ決め手に欠ける。だから、他にできることはないか考えた。そんな時、お前が言っていた別の案のことを思い出した」

「あー……現実的じゃないやつですか」

「そうだ。そこで葉山本人が噂されなくても、葉山のブランドイメージだけをうまく使う方法がないかを考えた。そこで、お前とどう結びつけるかという別の問題が出てきたわけだが、トップカーストを中心に広がってるってのを利用すれば簡単に答えは出た。三浦はそういうのが大嫌いだし、葉山は自分が同じ目にあったからいい気はしてないと思った。だから、正直聞いてくれるかどうかは賭けだったが……頼むことにした」

「ふむふむ」

「だから、お前は二人と話を合わせておけば後は周りが勝手に判断してくれる。『葉山と三浦はお前を気にかけている』ってな。そうすりゃ噂は終息までいかなくとも、直接的な被害が出る前に牽制くらいにはなる。それに、お前にとっても葉山に近づく口実ができた上に、アピールするチャンスにもなるだろうしな。……三浦に関しては頑張れとしか言えないが、まぁ、そんなんいまさらだし大丈夫だろ」

「……なるほど」

 ――やっぱり、そうなんですね。

「理由はわかりました」

「んじゃ、もういいか?」

「まだです」

「えぇ、まだ何かあんの……」

「……はい。今度は、わたしの話、です」

 

 わたしは一度、大きく息を吸い込み、吐き出した後、真剣な眼差しをせんぱいへ向けた――。

 

 

 

 

 




文章まとめる力なくて本当嫌になりますねー(白目)
すみません、文字数は大したことないんですが分割します。
三章はどうなることやら……げふ。

とりあえず、出来た分投稿しておきます。


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