斯くして一色いろはは本物を求め始める。   作:あきさん
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※あてにならない記憶とグーグル先生を参考にして書いてますので実際と違ったらごめんなさい。


B#02

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 図書館なんていつ以来だろうか、少し懐かしい気持ちに浸りながら、せんぱいに手を引かれて五叉路を曲がる。

 様々な飲食店が立ち並ぶ細い道を歩いていくと、真正面にはモノレールのレールとその後ろにパルコの看板、右には以前にせんぱいと一緒に訪れたオレンジ色の看板が目印のラーメン屋が見えてきた。

「せんぱい、お昼はここにしませんか?」

 わたしは一度足を止め、オレンジ色の看板を見ながらせんぱいに声をかけた。

「なに、お前ラーメンにハマったの?」

「そういうわけじゃないんですけど、せんぱいとデートするならこういう方向かなーって」

「まぁ、お前がそれでいいならいいけど」

「……らっせの人? でしたっけ? 今日もいるといいですね」

 わたしがくすっと笑いながら言うと、せんぱいは目を丸くした後、少しだけ嬉しそうな表情を浮かべた。

「そんなことまで覚えてたのか、お前」

「それを言うならせんぱいだってそうじゃないですか」

 なにげなく言ったことを覚えていてくれるのは嬉しい。少し前の出来事を思い出すと、自然と笑みがこぼれる。

「……かもな」

 そんなわたしを見て、せんぱいも釣られたようにふっと笑う。

 やがて歩いているうちに、パルコ前の中央公園が見える交差点が見えてきた。そこを左に曲がっても千葉駅に戻るだけなので、まっすぐ進むか、右に曲がるかのどちらかだろう。

 ただ、わたしの知っている図書館は千葉駅の北口から中央の道を進んだ先にある千葉市中央図書館か、県庁駅の少し先にある千葉県立中央図書館しか知らない。

「あの、せんぱい。この辺に図書館ってあるんですか? わたしの知ってる図書館って、ここからじゃちょっと遠い気がするんですけど……」

 どちらの図書館に行くにしても、歩けない距離ではないが少し遠い。右に曲がった先には葭川公園駅があるのでモノレールを利用すれば距離は問題じゃなくなるが、待ち時間まで考えれば歩いていくのとかかる時間は大して変わらないだろう。

「ああ、わざわざそっちまで行かなくても実は一つだけある。ここからも近い。……でも、さすがにちょっと早すぎたな」

 そう言って、せんぱいは申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 もともとはわたしが急に予定を変更したせいなので、何か時間をつぶせそうな場所はないかと辺りを見回すと、中央公園にある大きな噴水が目に留まった。

「……じゃあ、少し寄っていきませんか?」

 わたしが中央公園のほうを指さしながら尋ねると、せんぱいは短く頷いた。

 

****

 

 自販機へ飲み物を買いに行ったせんぱいを大人しくベンチで待っていると、わたしの分も買ってきてくれたようだった。

「これでいいか?」

「ありがとうございますー。あ、いくらでしたか?」

「いや、別にいい」

 わたしが財布を取り出そうとすると、それを遮るようにせんぱいが言った。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 わたしが紅茶の缶を受け取ると、少し離れた位置にせんぱいが腰掛けた。

「せんぱい、ほんとそれ好きですね」

 わたしがせんぱいの手元にあるコーヒーの缶を見ながらそう言うと、せんぱいはにやりとしながら口を開く。

「ああ。マッ缶のない人生なんて死にたくなるくらいに好きだ」

「どんだけ好きなんですか……」

 わたしは呆れたようにため息を吐く。

「……しかしまぁ、お前とこうしてるのはなんだか不思議だな」

 少し遠くを見るような表情を浮かべて、せんぱいがぼそりと呟いた。

「色々、ありましたからね」

 わたしはそう言った後、視線を空に移した。

 初めて奉仕部を訪れた時のこと、海浜総合高校との合同クリスマスパーティーの時のこと、あの一幕のこと、葉山先輩に告白した時のこと、マラソン大会の時のこと、バレンタインイベントの時のこと、わたしを助けてほしいとせんぱいに依頼した時のこと、わたしの誕生日パーティーの時のこと。

 一つ一つの出来事が繋がっていって、どうでもいいと思っていた人が誰よりも大切で、特別な人になっていった。あの時はと思い出を振り返るたびに浮かんでくるのはせんぱいの顔、仕草、温かさ、優しさばかりになった。

 せんぱいと出会えたから、人と向き合うことがどんなことかわかるようになった。人を大切に思う気持ちが理解できるようになった。そして、人を本当に好きになることができた。

 だから――。

「……だからこそ、わたしはせんぱいと出会えてよかったなーって思います」

 空を眺めたまま、懐かしむように、素直な気持ちをわたしは口にした。

 今こうして過ごしている時間も、空を流れていく雲のようにいつかは思い出として流れていってしまうけど。

 いつまでも、なんて絵空事を抱いたまま手を伸ばして、掴めないまま、思い出として流れていってしまったとしても。

 ――それでも、置いていかれないように歩き続けることは、わたしにもできるから。

「……出会えてよかった、か」

 そう呟いた後、せんぱいは少しだけ愁いを帯びたような表情を浮かべながらも、微笑んだ。

「せんぱいは、どうですか?」

「……まぁ、その、俺もそんな感じがしなくもないこともないな、うん」

 わたしが尋ねると曖昧な言葉で、照れくさそうにせんぱいはそう言った。それでもきっと、わたしの心の中にある気持ちとそうかけ離れていないと思えた。

「言い方がちょっと気になりますけど、せんぱいもそう思ってくれてるなら嬉しいです」

「……おう」

 それからしばらくの間、心地よい静寂が訪れた後にことりと缶を置いた音が響いた。

「なぁ、一色」

「なんですか?」

「知りたい、知っていきたいってお前は言ったな。じゃあ、知った後はどうするんだ?」

 そう言われ、もう一度空を眺めながら考える。

 誰かを知りたい、知っていきたいと思うことは簡単だけど、誰かを知るということは難しい。誰かを知る、知っていくということは、誰かを理解する、理解していくことと同じだと思うから。

「……もっと知りたい、知っていきたいって思います。それと、わたしのことももっと知ってほしい、知っていってほしいとも思います。……でも、そう思うこと自体がきっとわたしのわがままなんでしょうね」

「まぁ、そうだろうな。相手の意思を無視してそれを押し付けるのは、ただのわがままだ」

「それでも、わたしはそう思い続けます。だってわたし、わがままですもん」

 わたしがさらっと当たり前のようにそう言うと、せんぱいは苦笑しながらも、どこか安心したような表情を浮かべた。

「呆れるくらいお前らしい理由だな」

「だから、覚悟してくださいねって言ったんですよ」

「そうだな。お前は俺が思っていた以上にめんどくさいやつだってことがよくわかった」

「なんですかそれ。せんぱいには言われたくないです」

 お互いに皮肉を言い合いながら、くすくすと笑いあった。

「せんぱい」

「あ?」

「こんなめんどくさいわたしですけど、これからも、よろしくです」

 わたしがぴしっと敬礼してふざけたまま言うと、せんぱいは短く息を吐く。

「ほんとにめんどくせぇやつだな、お前……」

 

 そして、温かい眼差しでわたしを見つめながら、せんぱいは静かに笑った――。

 

 

 

 

 




図書館デートじゃなくて公園デートを書いていたでござるの巻。
というのも、モデルにした図書館の営業時間がですね、はい。
なので、導入部分として急遽ぶっこんだ形にしました。なので、もうちょっと続きます。

私の中での話の区切りの目安は大体3500~4000文字くらいになるように書いていってるんですけど、今回は全然足りませんでした。
うーん、やっぱりセリフメインにしたのが原因かなぁ。

それでは、ここまでお読みくださりありがとうございました。


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