斯くして一色いろはは本物を求め始める。   作:あきさん
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 今のわたしに言えることは、少しばかり捻くれてしまったことだ。誰の影響かは言うまでもないし、寧ろ影響されすぎなまである。

 それまでのわたしは、わたしはわたしを振りまくために、わたしを満たすためだけにわたしらしく存在していた。

 ただ今のわたしは少し違う。わたしがそうしたいから、という点では同じであるが、行動に至る根幹の部分が変わったように思う。

 ――これ以上踏み込むつもりはないし、踏み込ませるつもりもない。

 そうして、暗に警告してきた。わたしが満たされるために、わたしを確立するために、確実にそう刷り込んでいたはずだ。

 傍から見ればただの性悪女にしか見えないだろう。ただ、それがわたしなのだ。そうして同じことを繰り返して、作り上げていく。きっとこの恵まれたといえる顔や、さまになっている仕草も、その過程で磨かれたものだろう。

 そんな自分は身勝手なわたしだということは、わたし自身が一番理解している。

 わたしは、わたしのためにある。他の人のことは気にせずに、わたしはわたしを作り上げるだけだ。

 だからこそ、そんな期待や不安の裏側に見える独善的な、利己的なおぞましい何かを貼り付けた顔でわたしを見ないでほしい。わたしをわたしと見ていいのは、わたしだけだから。

 わたしの何が欲しいと思っているのか。わたしの何を理解しているというのか。意図的に隠されたものを覗いただけで、背筋が冷たくなるような嫌な何かが走る。

 あなたが欲しいと思っているものはそこらじゅうに、吐いて捨てるほど、過去にも未来にもに転がっている。

 そんなわたしだからこそ、あの光景はとても綺麗に見えたのかもしれない。

 独善的な、利己的な一方的に押し付けることはそれと変わらない。だが、おぞましさに裏打ちされた何かを諦観するような、それでも求めるような――。

 

 ――そんなもの、あるかどうかもわからないのに。

 

 ただ、わたしは目を背けることはできなかった。おぞましい何かには違いないのに、それは酷く綺麗だった。

 

 ――その時、わたしの中で積み上げた何かが音を立てて崩れた気がした。

 

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 春といえば、新たなスタートを切るに相応しい季節と呼べる。

 たとえば学生なら、卒業式や入学式、始業式などを終え、在校生の生徒は残りある高校生活に彩りをつけようと奮起したり、様々な人生の通過点にそれぞれが喜び、悩み、時には悲しんだりと忙しい。また、新入生の生徒もこれからの環境や起こりえる出来事に、期待に胸を膨らませたり、どこか落胆や憂鬱を感じるような表情を見せたりと、こちらも同様である。

 そんなわたしはというと、青春の一ページなんてゴミ箱に破り捨てるだけの腐った目をした捻くれ者のせんぱいと似たような日常を過ごしている。つまりは仕事に追われ続け、奉仕部に入り浸ることもなく、ただ日常を消化するだけということだ。

 ただ、そんな中少しでもせんぱいとの距離を近づけようと色々画策してきてはいたが、効果は感じられずに「あざとい」と一蹴され、そもそも相手にもされていないように思える。

 こればかりはそうやって接してきた以上、どうにもならない点ではあるのだが――というより、葉山先輩をダシにし続けるわたしもいい加減にしたほうがいいかもしれないが、そうでもしないと近づくことすらできないから仕方ないことだと割り切ることにしよう。

 理由もなく近づくことが許される雪ノ下先輩や、結衣先輩、そして戸塚先輩が羨ましい。や、戸塚先輩はちょっと違うか。

 そして収穫と呼べるかは微妙なところだが、せんぱいに近づくことができる正当な理由である各行事と、わたしと奉仕部で企画したバレンタインイベントを経てわかったことが一つある。

 それは、葉山先輩とせんぱいの関係性についてだった。

 数少ない友人だと言い張る戸塚先輩はともかく、せんぱいと葉山先輩は真逆のベクトルの人間なので話が合うとはとても思えないが、どうにもあの二人、意味深な会話をする時が多々あるように見える。

 言葉であって言葉じゃない皮肉めいた心の裏を探り合うような――ただ、それなのにどこか通じていて、お互いを認識し理解しているような雰囲気がある。仲がいいのか悪いのかはわたしにはわからない。

 

 けど、それはまるで――。

 

 生徒会室で仕事を放棄して、手にしたペンをくるくると回しながら全力で思考の堂々巡りをしていると、横から悩ましげな声が聞こえてきた。

「……会長、仕事しろ」

「あ、はい」

 そんなに長い時間呆けていたのだろうか。ごもっともだ。とりあえず今はこの目の前の紙屑、もとい書類の山を片付けてしまおう。

 

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 注意を受けてからはペンを正しく使い、一つずつ書類を片付けていく。手を止めない代わりに、長ったるいとか回りくどいとか心の中でぶつくさ文句を言いながら。

 そうして、ときどき小休止を入れつつペンを走らせていると、再び横から声をかけられる。

「そういえば会長」

「なんですか?」

「しばらくサッカー部に顔を出してないようだけど、大丈夫なのか?」

「……そ、それは」

 うっ、痛いところをつかれた。

「まぁ、最近こっちが忙しかったから仕方ないが顔は出しておいたほうがいいと思う」

「……はい。そうします」

 正直に言えば、葉山先輩という目的が今は別のものにすり替わってしまった以上、どうでもいいのだが、わたしはこれでも生徒会長なのだ。

 ――できるわ。あなたを推した人がいるのだから、それを信じていいと思う。

 こうわたしに以前告げた雪ノ下先輩の言葉を心の中で思い出す。そう、こんなわたしを推してくれた人がいるのだ。正しくはせんぱいに「乗せられた」のだが、あの時と心持ちはだいぶ違うので訂正はしない。

 責任責任と何か事あるごとにせんぱいに言っているわたしだが、せんぱいにはわたしを生徒会長に推した責任を感じて欲しくはない。できない生徒会長などと言われてしまってはあわせる顔がない。ましてやもう二年生なのだ。一年生だからという言い訳はもう通用しない。だからやらなくてはいけないのだ。

 ――わたしがきっかけで、瓦解しかけた奉仕部のためにも。

 

 そのためにも、まずは残っている忌々しいゴミ……もとい書類の山を片付けよう。わたしは動きを止めかかっていたペンを再び動かし始めた。

 

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「ふぅ」

 最終下校時刻になり、疲労感を感じながらも生徒会室の鍵を返却するために職員室へ向かい、挨拶を済ませる。そのまま重い足取りで下駄箱に辿り着き、靴を履き替えようと中を覗く。

 すると、一枚の綺麗な便箋が目に留まった。それは女の子が好むような可愛い便箋ではなく、男子が好みそうなやけにシンプルな一枚のメモ用紙ともとれる便箋。

 ――いや、まさかね。

 中身を見ようと、手を伸ばし便箋を取り出す。ただ、その時点でわたしの直感がそう告げる。ただの連絡事項を書いたメモ用紙ならどれほどよかったか。

 だが、そういったものなら教室で直接わたしに渡せば済む話だ。放課後になってからの用件であれば、生徒会室を訪れてくれればいい。

 そのどちらでもないのなら――心が否定しようとしても、これはそういう類のものなのだと確信してしまう。正直ご勘弁願いたい。

 これが意味することとは、他人には聞かれてはいけない用件なのだ。わたしにしか聞かれてはいけない用件なのだ。

 よくもまぁこんな古臭い手法を、と密かに嘲笑する。そもそもわたしの下駄箱の場所を知っている時点で気味が悪い。

 最近はなりを潜めていた、おぞましい何か。それが再び顔を覗かせた時、わたしの顔は酷く歪んだように思う。

 きっとわたしはまた晒されるのだ。見たくもない、おぞましい何かを向けられることに。わたしにとっては邪魔でしかないその何かに。また踏み躙らなくてはいけない。そうしたところで、わたしに向けられるものは似たようなものに変わりはない。

 結局のところ、わたしがどうしたところで周りには関係がない、何の意味も成さないのだ。おぞましい何かを向けられるという事実は変わらない。そのことに蓋をして見ないようにしていた。見て見ないふりをした。

 結局は、理由をつけて正当化しているに過ぎない。逃げだといわれればそうかもしれないが、今のわたしにはそうする術しか知らない。だからそうした、ただそれだけのことだ。

 ――どこで間違えたのだろうか?

 それでもわたしらしく、うまく立ち回ったつもりだ。それがわたしなのだから。そもそも間違えたかどうかもわからないし、知る術も持たない。

 もしかしたら、その認識自体が間違っているのかも知れない。ただ、わたしはいまさらそれを変えるつもりはない。

 だってそれがわたしなのだから。わたしをわたしと認めてくれた人がそう肯定するのならわたしは――。

 作り上げたわたしが心の中で囁く。そんなものは自己満足であって、結局は何も変わらないのだと。

「……ちょっとは変わったと思ったのになぁ」

 

 口から漏れ出たため息交じりの言葉は、そのまま夕の空に消えていった――。

 

 

 

 




実はこういったものを書く、という事自体生まれて始めてだったりします。
加減がイマイチ掴めずゆるすぎず硬すぎずを考えましたが、どうにも地の文を挟むとこうなっちゃうんですよね私の場合。

経験不足故に技量が足りず書きたいものを上手く如何に伝えられるか、というのはなかなか難しいものですね。

※行間とか色々今の雰囲気に近づけました。あと、ちょっと加筆しました。


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