斯くして、一色いろはは本物を求め始める。   作:あきさん

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第二章:そうして、彼女は間違いを問い直し、問い続ける。
2#01


  *  *  *

 

『ん、なんとかしてやる』

 あの後、少しばかり話をして、いつ、誰が、どこで見ているかわからない上に、何かあった時に連絡がとれないのは困るということで、せんぱいと連絡先を交換することにした。

 これはわたしにとって嬉しい誤算ではあるが、今は進展は期待できないことが悔やまれる。まずは噂をなんとかしないといけない。

 生徒会室を出る直前、せんぱいに明日の予定の有無を聞かれた。おそらく、詳細を詰めたいということなのだろう。

 鞄から手帳を引っ張り出して予定を確認すると空白、つまりは大丈夫なのでそれを伝え、別々に帰路につく。時間と場所はのちほどメールで教えるとのことだった。

 職員室に残っていた先生に生徒会室の鍵を渡した後、そのまま学校を出て駅までの道のりを一人歩いていると、やけに長く感じる距離に寂寥感を覚える。せんぱいが隣にいないからだろうか。

 ……もしかしたら、せんぱいの後をついていくことすらできなくなってしまうのではないだろうか、などと考えてしまう。どうやらわたしは思っていたより傷ついていたらしい。それとも思いっきり泣いたからなのか、または甘えてしまったからだろうか。

 結論が出ないまま、駅に辿り着き、電車に乗り込む。

 そしてモノレールに乗り換え、降りたあたりでポケットの中で携帯が震えた。確認するとメールを受信したという通知があり、送信者はさっき連絡先を交換したばかりのせんぱいからだった。

『明日10時に千葉駅で』

 イメージどおり過ぎる簡易な用件だけの本文に思わず笑ってしまう。わたしは『わかりました』と打ち込んだメールを返信し、再び歩き出した。

 帰路の途中、暗がりの中ぽつぽつと周りを照らす街灯の明かりは、まるでわたしの心の中に存在するかすかな希望を映したような印象を受けた。

 

  *  *  *

 

 翌日の土曜日。

 千葉駅に着いたので辺りを見回してみたものの、見知った顔はいなかった。携帯を取り出し時刻を確認すると、予定より少し早く着いてしまったようだ。

「あのー」

 どうしたものか考えていると、横から声をかけられたのでそちらへ視線を移す。すると、そこには一昨日奉仕部の部室で見かけた女の子が立っていた。

「一色いろはさん、ですね?」

「え、あ、はい、そうですけど……」

「兄がいつもお世話になっております、妹の小町です! 一度奉仕部でお会いしてますよね?」

 なんで妹さんがと不思議に思いつつも、目先の言葉にこくりと頷く。

「うん、いまさらになっちゃうけど、一色いろはです。それで、えっと……小町ちゃんって呼べばいいのかな? よろしくねっ!」

「こちらこそです! 兄から事情は聞いてるので迎えに来ました!」

 ……なるほど。理由を聞いて疑問が結論へと昇華した。

 わたしと二人きり、つまりデートだと勘違いされないように、わたしの迎えを小町ちゃんにお願いしたのだろう。

「あ、でもわたし、どこ行くか聞いてないんだけど……」

「とりあえず、ついてきてもらっていいですかー?」

「りょーかいでーす」

 とりあえず、今はついていくしか選択肢はなさそうだ。

 

 ――そうして、案内されるがままついていくこと約二十分。

 千葉駅から総武線に揺られた後に到着した幕張駅から、少し歩いたくらいのところにある見知らぬ一軒家の前。そこまで来た時、小町ちゃんがふと足を止めた。

 ……え、ここって、も、もももしかしてせんぱいのおうち?

「小町ちゃん、もしかして……」

「ささ、どぞどぞ!」

 こちらの声を無視して小町ちゃんは早く早くというそぶりを見せてくる。強引なあたり、やっぱりわたしと似ているかもしれない。

 立ち往生してても仕方がないので覚悟しつつ。

「お、お邪魔しまーす……」

 中に入ると、リビングで寝巻きのままだらけきっているせんぱいの姿。

「よお」

 そして、わたしに気づくとその体勢のまま軽く手を上げ、声をかけてきた。

「せんぱい、どういうことですか? いきなり自宅デートとか下心ありすぎてキモいです」

「ばっかちげぇよ。……いきなりだったのは謝るが、説明くらいさせてくれ」

「……で、なんですか?」

「まず話をしようにも長くなるからメールは面倒だ。電話は金がかかりすぎる」

「はぁ、確かにそうですけど……」

「前提として俺が一緒にいる時点でアウトだ。だから外だとまた誰かに見られる可能性が高いから駄目だ。一色の家に行くわけにも行かないし、かといって俺が迎えに行く訳にもいかない。つまり消去法でこうなったわけだ」

 やっぱり、わたしの想像どおりだった。

「まぁ、小町ちゃんが迎えに来た時点でなんとなくわかってましたけどねー」

「じゃあなんでキモいって言う必要あったんだよ……」

「それよりお兄ちゃん、せめて着替えてきてよ」

「あ? 話をするだけだから別にいいだろ」

「ほんとこのゴミいちゃんは……。いいから早く着替えてきて」

「……へいへい。悪い一色、ちょっと着替えてくるわ」

「あ、おかまいなくー」

 せんぱいが着替えるために二階へ上がっていった直後、小町ちゃんの目がキラリと光った。

「で? で? いろはさんはお兄ちゃんとはどういった関係で?」

「えっ、どういった、と言われても……?」

「そうじゃなくてほら! いろいろあるじゃないですかー!」

「う、うーん……」

 何この子、豹変っぷりが怖い……。

 返答に困っていると、階段を下りる音が聞こえてせんぱいが戻ってくる。せんぱいの私服、すごいラフだなー。

「おい、小町。そういう話は後だ」

「ちぇっ。じゃあ小町、自分の部屋に戻ってるねー」

「待て、お前も協力しろ」

「ほぇ?」

 小町ちゃんは察したのかてててっと戻ろうとしたが、せんぱいがそれを引き止める。

「事情は昨日ある程度話したろ」

「そうだけど小町、役に立てるかわかんないよ?」

「俺がろくでもないこと言い出したら止めてくれ」

「あー、そういうこと……。っていうか小町気になってたんだけど、雪乃さんと結衣さんに内緒なのはなんで?」

「……これは奉仕部への正式な依頼じゃねえ。俺への個人的な依頼だからだ」

「……ま、そういうことにしといたげる」

「……どうにもならなくなったらあいつらにも相談する。一色もそれでいいな?」

「わたしはそれで大丈夫ですよー」

 せんぱいはどこかで自分の責任も感じていて、極力巻き込まないようにしているのだと思う。また、結衣先輩の言っていた出来事もあって、多少の気まずさも感じている部分もあるのだと思う。

 そして、わたしにも気を使って、内緒にしてくれているのだろう。ただ、海浜総合高校との合同クリスマスパーティーの時みたいにならないといいんだけど。

「……んじゃま、始めますかね」

 

 そうして、わたしとせんぱい、小町ちゃんの三人での対策会議が始まった――。

 

 

 

 

 




とりあえず出来た分、投稿だけしておきます。

書き溜め? 知らんな。
つまりはそういう状態なので気長にお待ち頂けると幸いでございます。

※行間とか色々今の雰囲気に近づけました。

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