死なない少年と壊す少女【完結】 作:写楽―しゃらく―
僕はそうでもない。
『不死』なんて、とても詰まらないものだと思う。
人生と言うものに『命懸け』を常に求める者は居ないだろうけど、わざわざ『死にたい』なんて思う奴は居ないだろうけど。
これだけははっきり言える。
『不死』なんて物は詰まらない。とてもとても。
『不変の死』を喪うと言うことは、それは人間であることを喪うと言うことだ。
人である以上、人でありたい。僕はそう思う。
思いたい。
そう考えていた僕はある日、一人の少女と出会う。
「貴方は『壊れちゃう』のかしら?」
それは妙に心に響いたし、何よりも――悲しそうだった。
僕はその日からその女の子と友達になった。
毎日のように共に過ごして、毎日のように共に遊んだ。
彼女のおねえさんからは「好きになさい」と言われた。
彼女のメイドからは「仲良くね」と言われた。
彼女の魔法使いからは「死なないように」と言われた。
彼女の門番からは「よろしくお願いします」と言われた。
僕にはその言葉の意味を理解するだけ、年を取っていなかったから、特に何を思うわけでもなく、その全てに「分かりました」とだけ言ってた。
それでも、女の子は嬉しそうに笑っていた。
「今日はなにしてあそぶ?」
彼女――フランドール・スカーレットは、今日も僕を『壊しながら』、楽しそうに遊んでいた。
多分、これからも、この先も、ずっと、ずっと――。
『悪魔の妹』
「ごめんくださーい」
「いらっしゃい!今日は何してあそぶ!?」
フランドールの性格は、言ってしまえば只の子供だった。
子供らしい一面を覗かせたかと思えば、妙に賢しらな事を言い出したりと、落ち着く様子を見せない。
僕を迎え入れながら、フランドールはキラキラと瞳を輝かせる。
とても495年を生きた吸血鬼とは思えないほど、その精神は幼く、そして脆かった。
「フランドールのやりたいことでいいよ」
僕がそう言うと、フランドールはパアッと明るい表情をして、それからしきりに何で遊ぶかを考え出す。
「んーっとねー。じゃあ!おままごとしたい!」
「いいよ」
「わーい!」
そう言うとフランドールは僕の腕を引っ張って地下室へと連れていった。
地下のフランドールの部屋は、普通に見ると広いのだが、しかし窓が無いためどこか閉塞感が強い印象を受けた。
「えとねー!フランはでぃーぶいの奥さん役でー、貴方はでぃーぶいを受けつつも妻を心のそこから愛する夫役!」
「でぃーぶい?なにそれ」
「えっとね、パチェから聞いたんだけど、なんでも『かていないぼーりょく』とか言うやつみたい!」
「なるほど。面白いんじゃないかな」
「ほんと!?わーい!」
なかなか物騒なお題だけれど、それでもフランドールが楽しめればそれでいいや。
☆
「こ、これは一体……」
フランドール様の部屋に紅茶をお持ちしたのは不肖この私、十六夜咲夜です。
フランドール様たちは仲良く遊んでおいででした。
そこまではいいのです。そこまではいいのですが……これは一体どういう状況なのでしょうか?
「あっははははは!あはははははははは!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!ははははははははははは!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!ははははははははははは!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!はははははははははははははははははははははは!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!ははははははははははは!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!ははははははははははは!」
そこには、あの少年に馬乗りになってその頭部があったで『あろう』場所を、とても可愛らしい笑顔で笑いながら殴打し続けているフランドール様が居られました。
フランドール様の表情はとてもイキイキとしていました。
しかし、その爛漫な表情とは裏腹に、そのお召し物は真っ赤な血に塗れて、床の血の海はパシャりパシャりと血の飛沫を上げています。
両手には少年の欠片であろう物が付着しており、その異常性が際立っていました。
もし私が紅魔館に仕えるメイドでなければ、発狂していたことでしょう。
「あっ!咲夜だ!お菓子持ってきてくれたんだ!ありがとー!!」
「え、えぇ、そうですわ」
何事もなかったかのようにフランドール様は私に気づき、その爛漫な笑顔を私に向けました。
「あぁ、咲夜さん。ありがとうございます」
すると、驚いたことに、フランドール様に馬乗りにされて殴られていた少年が、『まるで何事もなかったかのように』起き上がりました。
本当に何事もなかったかのようで、私が瞬きをした一瞬には既に、バラバラのぐちゃぐちゃにされた体が元に戻っていて、まるで私が夢を見ていたかのような錯覚を覚える程に。
血塗れになっていたフランドール様のお召し物も、いつの間にかすっかり綺麗なお姿に戻っていました。
「紅茶、ありがとうございます。咲夜さんの紅茶美味しいので好きです」
「お、お褒めの言葉、あ、ありがとう、ございます……」
何事もなかったかのように私に感謝の意を述べる少年に、思わず不気味で不快な感情を抱いてしまいました。完全で瀟洒なメイドとして、不覚です。
「……フランドール様。先程は、何をされていたのですか?」
「んー?」
フランドール様はテーブルに並べられた紅茶とお茶菓子を頬張りながら、首を傾げて答えて下さりました。
「むぐむぐ――んっ!んっとね、おままごと!」
「お、おままごと、ですか?それにしては随分と、その」
そこから先は言葉に出来ませんでした。何故か怖くなってしまったからです。
「あー。あれはねー、おままごとの設定でー、私が旦那さん役の彼に『でぃーぶい』をする奥さんっていう役なの!」
「は、はぁ」
フランドール様の言う『でぃーぶい』とやらは恐らく『DV=ドメスティック・バイオレンス』の事でしょう。
『家庭内暴力』の意味だと以前人里の書店の店主に聞いたことがあります。
「フランドール様。いくらおままごととは言え、本当に暴力を振るってはいけませんよ」
「えー!どうしてー!?」
嗜める私の言葉に、フランドール様は何故か疑問を抱いています。いや、どうしてと言われても。
「だって彼、なにしても壊れないんだよ!?だからだいじょーぶ!!」
「何しても……?」
フランドール様の言葉に、私はチラリとその横に座る少年を見ます。
目を瞑って、まるで本当に何事もなかったかのように紅茶を飲む少年がそこには居ました。
もしかしたら、この少年の能力……?
そう思い至り、しかし私はそれだけに留めます。
これ以上は聞いてはいけないような気がしてならなかったのです。
なので私はそのまま一礼して、フランドール様たちの居る部屋から出ていったのでした。
☆
「ねーねー。次は何してあそぶ?」
「そうだなあ。フランドールは何がしたい?」
僕は紅茶を啜りながら、無邪気にキャッキャと笑うフランドールの笑顔を眺めていた。
「んー。今度は貴方が考えていいよ」
「そうだなあ」
僕はそう言って顎に手を当てて考え込む。どうしよう。本当に何も思い浮かばないぞ。
僕にはこう言うときに、何を提案していいのかと言う、知識がない。同年代の友達が居なかったことも大きな要員だろう。
部屋を見回し、何かないかと物色すると、サイドテーブルの上に無造作に置かれたトランプが見つかった。
「そうだ。七並べなんてどうかな?」
「しちならべ?」
首を傾げるフランドールに、僕はざっくりとルールを説明する。
フランドールは見た目の割りには賢しらな女の子で、僕の拙い説明でも直ぐに理解した。
「おもしろそう!やろうやろう!」
はしゃぐフランドールを見るだけで、何だが僕の心はほっこりするのだった。
☆
「あら、お帰りなさい、咲夜」
「……ただいま戻りました」
暗い顔をした自分の従者に、私は内心でため息を吐きながら呆れる。
「だから言ったでしょう?『アレ』は見ない方がいいと」
「えぇ……。お嬢様の言う通りでしたわ」
顔を青ざめさせて、咲夜は軽く項垂れる。
この紅魔館で仕事をする以上、咲夜も『人間』を加工することがある。
だが、それでもあの光景は相当にクる物があったのだろう。
「私でさえ気分が悪くなるほどに、あの光景は『狂いきって』いるわ。貴女も常人ではないとは言え、人間に耐えられる物ではないわよ」
「……肝に命じておきます」
私もあの光景を初めて見たときは、食事が喉を通らなくなった。
無惨に散ったあの少年を見たからではない。その程度では吸血鬼の精神は揺るがない。
問題なのは、『まるで何事もなかったかのように振る舞うフランと、同じく、まるで何事もなかったかのように振る舞う少年』の方。
お互いがお互いに、それぞれをとても大切に思い思われながら、壊し壊され、殺し殺されている。
そうして最後には、何事もなかったかのようにいつも通りに次の遊びを考える。
――狂っている――
500年を生きて、大抵の事には驚かなくなった私でさえ、そう思ってしまうのだ。
ただの人間の咲夜に耐えられるはずもなく、このように顔色を悪くさせている。この分だと当分は肉どころか食事も喉を通らないだろう。
「当分はあの子達には近づかない方がいいわ。美鈴にも、あの少年が来ている時には地下のフランドールの部屋には行かないようにさせなさい。彼女には、きっと堪えるだろうから」
「畏まりました」
言って、咲夜はその場から姿を消した。恐らくは美鈴の所だろう。
「本当に、本当にあの少年には――困ったものだわ」
一人残された部屋で、私は寂しく紅茶を啜るのだった。
☆オワリ
「じゃーねー!また明日ー!」
「また明日」
僕はそう言って紅魔館を後にする。
既に時間は夕暮れを過ぎ、僅かながらに星が輝き始めている。
「今日も楽しかったなぁ」
僕は一人で今日の出来事を思い返す。
たくさん殺されたなぁ。たくさん殺してくれたなぁ。
明日はどんな殺され方するんだろう。楽しみだなぁ。
僕は日暮れの道無き道を行く。
「いつ僕を『殺してくれる』かなぁ」
いつか殺される日を夢見て、僕は一人で歩いて帰った。
如何でしたでしょうか?
ハッキリ言いましょう。
どうしてこうなった!
まぁ悔やんでいても仕方ありません。
始めたからには、たとえいくら亀投稿だったとしても完結を目指したいと思います。
ではまた。