死なない少年と壊す少女【完結】   作:写楽―しゃらく―

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今回少し短めです。

話数も既に折り返しの第六話となり、起承転結で言えば『転機』の部分に当たります。

かなり無茶な話の流れとなってしまいました。正直、どうしてこうなったのか……。



相変わらすの突貫。
それでも『構わん。やれ』と言う片は、どうぞ。


【第六話】崩れる幸せ/訪れる別れ

『居たぞ!あそこだ!』

『化け物め……!これでもくらえ!!』

『死ね!死にやがれ!!』

『ぶち殺せ!八つ裂きにしろ!』

 

 

逃げる。

逃げる。

走って、走って、逃げ続ける。

息も切れ、足は重く、体中が痛みを訴える。

 

――ああ、僕はどうして――

 

それでも、僕は逃げる。

いつか訪れるかもしれない、『僕にとっての幸せ』を夢見て。

 

――僕はどうして、死ねないのだろう――

 

意識は途切れ、僕は――

 

__________________________

 

 

「……ぇ……、て………!………ねぇってば!」

「うわぁ!?」

 

 

大声で名前を呼ばれて、僕は微睡みから目覚める。

体中にぐっしょりとした嫌な汗を掻いて、僕は息を荒げながら体を起こす。

 

 

「どうしたの?随分魘されていたけど……」

 

 

心配そうに僕の顔を覗き込むフラン。その瞳はとても優しく、僕を安心させてくれる。

 

 

「ん……。ちょっと嫌な夢を見てただけだから大丈夫」

 

 

心配するフランを余所に、僕はウソを吐いた。

フランはそれでも心配そうではあったが、それ以上言及することはなくなった。

僕が語らないと言うことを、彼女は分かっているのだろう。

 

 

「本当に大丈夫だよ。それより寝ちゃってゴメンよ?」

「それならいいけど。寝ちゃってたことは大丈夫よ。貴方の寝顔見てたら退屈しなかったし」

 

 

にぱーっと笑うフランの笑顔に、僕は心底安心を得るのだった。

 

 

☆

 

 

「人里の人間の殺傷事件、ねぇ……」

 

 

私は自室で紅茶を啜りながら新聞を眺めていた。

大きな見開きを以て語られるその事件を見て、ため息を吐く。

 

 

「どうして、同じ種族同士で殺しあったりするのかしら。本当に愚かな生き物よね」

「全く以てその通りですわね」

 

 

私の言葉に返事を返したのは、私の自慢の従者、十六夜咲夜だ。

彼女も種族で言えば人間であるが、その身に余る強大な能力のせいで他者から疎まれたという過去がある。だから私の人間を侮る言葉にも同意するのだった。

 

 

「それにしても……人間同士の争いじゃ、霊夢は動かないでしょうね。あの巫女が動くときは妖怪が起こした『異変』だけに留まるから」

 

 

代々、幻想郷を守護してきた博麗の巫女は、立場的には中立で、人間、妖怪共に与しない。

今代の博麗の巫女である博麗霊夢はそれが特に顕著で、たとえ異変が起きても直ぐに動こうとはしない。

それが怠慢に依るものなのかどうかは別として。

 

 

「そうですね。それに今回は私たちには関係がない事件のようですし、傍観の姿勢で構わないかと」

「………………」

 

 

咲夜の言葉に、私は特に答えない。

そもそも、普段新聞を読まない私がなぜ、今この事件に注目したのか。

それにはある『運命』が絡んでいたからだ。

具体的には、フランの『運命』が、だ。

それを私は咲夜に伝えない。

これはフランにとっての転機となりうる。

彼女がより精神的な成長を遂げる為の。

その為に――

 

 

「ま、どうなるかは見物ね」

 

 

――あの少年には、『贄』となって貰うとしよう。

 

 

☆

 

 

僕は今、紅魔館から帰路に着いていた。

時刻は既に夕暮れを過ぎて、烏が遠くで鳴いている。

 

 

「…………」

 

 

嫌な景色で、嫌いな光景だった。

さっき見た夢にも起因しているのだろう。

あの夢は、定期的な間隔で見る悪夢だ。

あの夢を見るときはいつも、僕にとって『嫌なこと』が起きる。

ここ数年は見ていなかったのだが、しかしそれでもその悪印象は掻き消せない。

そうしているうちに、僕は自宅へと辿り着いた。

辿り着いた、の、だけれ、ど……。

 

 

「家が……ない……」

 

 

僕の家は、見事な迄にバラバラに倒壊されていた。

元々が不格好な掘っ立て小屋のようだったから、耐久性で言うならそこまで強度は高くないのだが、しかし、自然に倒壊したという考えは思い浮かばなかった。

僕の家が『あったであろう』近くには、様々な大工道具を持った、しかし確実に大工ではない大人の人たちがいたからだ。

 

 

「漸く帰って来やがったな……化け物!」

 

 

先頭に立っていた男の人が、僕に怒鳴るようにして叫ぶと、他の人たちも口々に僕を罵倒し始める。

 

 

 

「クソヤロウが……俺の弟を殺しやがって「オイコラ化け物!てめぇ覚悟しろや!「てめえなんざ生かして置くわけにゃいかねえんだよ!「死ね化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「化け物「死ね化け物」

 

 

 

頭が、ぐらぐら揺れる。

次々に告げられる僕に対する『悪意』を受けとめ切れず、僕の足元がフラついた。

 

心が、黒く染まる感覚。

心が、静かに眠る感覚。

夢みたいに望んでいた夢のような日々から起きる感覚。

 

あぁ、まただ。

 

最近はなかったから、落ち着いていたのに。

 

どうして。どうして。

 

どうして、僕を『起こす』んだよ。

 

目から溢れた涙が頬を伝い、唇を優しく撫でた。

 

 

☆

 

 

今日、彼は紅魔館に訪れなかった。

私は何時ものように自室で待っていたのに、彼は来なかった。

何かあったのだろうか。

私は居ても立ってもいられず、皆に聞いて回った。

でも、パチュリーも、咲夜も、小悪魔も美鈴も、お姉さまも。

誰も彼の所在を知らなかった。

 

私はその足で日傘を持って紅魔館の外へと飛び出した。

雨が降りそうにない曇り空だったのが幸いなのか、それとも更に胸騒ぎを掻き立てるだけなのかは、分からなかった。

 

 

まず最初に向かったのは彼の家だった。

何時ものようにいつもの場所に降り立った私は、そこで目を見開いて絶句した。

 

彼の家が、ものの見事に倒壊してなくなっていたからだ。

 

 

「――ッ!!」

 

 

もしかしたら、あの下には彼が下敷きになっているかもしれないと思い、私は日傘を投げ捨てて崩れた家の破片を押し退けていく。

吸血鬼の怪力を持ってすれば、どうということはない。直ぐに見慣れた囲炉裏まで辿り着く。

しかし、見つかったのは囲炉裏だけで、彼は何処にも居なかった。

下敷きになっていなかった安心感に、私はほっと胸を撫でる。

 

 

「一体どこに――!?」

 

 

と、そこで漸く気がついた。

倒壊していた家にばかり注目していたから分からなかったのだけど、家の裏に目を遣ると、そこには

 

 

「……死、体……?人の……?」

 

 

そこには山となって積み上げられた、大なり小なりに分断された人間の死体が積み重ねられていた。

その中に彼が居るかもとも思ったが、しかし彼の『匂い』はしなかった。

 

 

「一体、なにが――」

「あれ?フラン?」

 

 

私が一人で倒壊した家屋に腰かけて居たときだ。

後ろからかけられた声に、私は反応してそちらを向いた。

そこには、昨日までと寸部違わない姿の彼の姿があった。

 

 

「――っ」

「フランどうし――うわぁ!?」

 

 

ガバァッと彼に抱きつく。

この感触。この匂い。この声。全て私の知る彼のものだった。

 

 

「よかった……、無事、だった……」

「……心配してくれてありがとう、フラン」

 

 

 

☆

 

 

「落ち着いた?」

「……うん。ありがとう」

 

 

僕の無事を確認して抱きついてきたフランを宥めて五分程経った。

漸くフランは心を落ち着けたようで、流した涙を指で拭い、笑顔を向けてきた。

 

 

「本当に無事でよかった」

「ありがとう、フラン」

 

 

 

お互いに微笑み合う。しかしフランは僕に聞きたいことがあったようだ。

 

 

「ねぇ……、裏の『アレ』は一体どうしたの?」

「あぁ、『アレ』……」

 

 

僕は簡素に説明した。

 

 

「『どうやら妖怪を追って来た人間がここで戦って、その拍子に僕の家が巻き込まれた』らしいんだよね」

「へぇー。大変だったね」

 

 

その説明でフランは納得してくれた。

全てが全て、真っ赤な嘘だと言うのに、純粋そうな顔で。

その表情を見て、少しだけ罪悪感が芽生えた。

 

 

「それで、一晩中森の中で角材を集めてたんだ。元通りにするには何週間かかることやら……」

「それなら私が美鈴に頼んで手伝ってもらうよ!私も手伝うし!」

「……大丈夫だよ。フラン」

「え……?」

 

 

僕はフランの申し出を、優しく拒否した。

 

 

「『これ』は僕の問題だから。僕の――だから。君を巻き込む訳にはいかない」

「え……、だって……」

 

 

悲しそうな表情をするフランを見て、僕は顔を背けた。

その顔には、何の感情も浮かんでは居なかった。

 

 

 

☆★☆★

 

 

【里の住人に通達――

前日、霧の湖の近くの森で再び惨事が起きた。

化け物討伐に名乗りを挙げた数名の若い男たちが皆、見るも無惨な姿で発見された。

この痛ましい事件が起きてもなお、博麗の巫女は動こうとはせずに、『傍観の姿勢』を貫いている。

――しかし、我らはただ飼われるだけの畜生ではない。

ここに、かの化け物を退治するための討伐隊を結成する。

 

殺された者の為、正義の為、そして何より我らの為に戦う有志をここに募る。

 

詳しい説明は村長宅にて明後日行う。

腕に自信があるものは、共に人里を守ろう――!】

 

 

☆★☆★

 

 

 

彼と出会って、早数年が経った。

彼の背はもう既に私が見上げるほどに高く、私もまた、それに合わせるように背が伸びていた。

彼はいつものように笑って言った。

 

 

『大丈夫だよ。フラン』

 

 

優しく囁くような声と、私の頭を撫でる心地よい手。

大好きだったそれらは、その日を境に、私の前から姿を消した――

 

 

 

いくら彼の名を呼んでも、返事はなかった。

 

 




如何でしたでしょうか?

正直、なんじゃこりゃ、という気持ちで一杯です。

これまでの幸せだった日常が、一瞬にして最悪の日常へと変わってしまった少年のこれからは、どうなるのでしょうかねぇ(棒読み)

ま、なるようになるでしょう。

それではまた。
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