死なない少年と壊す少女【完結】   作:写楽―しゃらく―

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やっと完成。いやぁ疲れた疲れた。

無理矢理感は否めないけど、でも書きたいこと書いたからいいやって感じ。


作者の自慰小説、よければとくとご覧あれ。


【第九話】死なない心と壊れない絆

予想外の展開が、目の前で起きていた。

 

 

「フランッ――!」

 

 

遠くから吸血鬼の視力を以て人里を眺めていた私は、しかしその出来事に衝撃を受けてしまった。

フランが人里の人間の手によって胸を貫かれてしまった。

私たち吸血鬼に、普通の攻撃など無力に等しい。あんな小刀で受けた傷など直ぐに回復出来るだろう。

しかし、『今は状況が悪い』。

フランは現在、自身の力の殆どが封じられている。

吸血鬼としての特性然り、彼女が持つ能力然り。

つまりそれは、彼女が持つ吸血鬼としての再生能力すらをも封じている。

かの歴代最強と謳われた今代博麗の巫女、霊夢が直々に作った特別製の封印術なのだから当然だ。

 

 

「レミィ。貴女この状況は見ていなかったの?」

 

 

横で同じように、しかし魔法を使ってことの様子を眺めていた私の友人であるパチュリーに問い質される。

 

 

「……この運命はかなり複雑に入り組んでいたのよ。一つ一つを正確に把握することも、能力の行使によって変わる運命も、見る暇なんてなかったのよ」

 

 

言い訳がましく聞こえてしまうが、事実なのだから仕方ない。

ただでさえ運命が読みにくい霊夢と、何をするか分からない彼の少年。そして私より吸血鬼としての地力が強いフランの、計三人の運命を同時に見たのだから。

 

 

「……って!そうじゃない!ど、どうしようパチェ!フランが死んじゃう!?」

「落ち着きなさい」

「うー!?」

 

 

ペシッと私の額を軽く小突いて、パチェは言った。

 

 

「あそこには霊夢も居るし、あの子も居るし――強いて言うなら『餌』も沢山居る。なんとかなるでしょ。それよりも、そろそろ準備を始めるわよ」

 

 

そう言ってパチュリーは魔法を唱えて大きな本を取り出すと、呪文の詠唱を始めた。

確かに、ここで焦って事を見誤っては、それこそ目も充てられない。

私は彼女の一言で落ち着きを取り戻すと、静かに、そして傲岸に、不遜に言った。

 

 

「それもそうね……。夜は待たずとも来る。全ては投げられた賽の赴くまま……ね」

 

 

振られた賽子が一体誰に微笑むのか。

それがフランならば、私はそれでいいのだから。

 

 

 

 

 

 

「――ッ!?やめなさい!!」

 

 

迂闊だった。

私が戦っている間、速やかに避難しろとあれほど言っていたのにも関わらず、あそこに居る人間の男は、あろうことかフランに小刀を振り上げていた。

 

そもそも私は、彼を殺す気など更々なかった。

 

それは私の気が乗らないとか、博麗の巫女として、とか、そんな単純な話ではない。

 

『お願い、霊夢』

 

頼まれたからだ。

 

『お願い、霊夢』

 

あの吸血鬼に。

 

『『お願い、霊夢』』

 

二人の吸血鬼に頭を下げられたら、嫌とは言えない。

だから私は、彼女たちに協力したのだ。

全力を以て彼を『退治』する為の、演技を。

 

私が博麗の巫女として彼を、『幻想郷に存在する人里を危ぶめる存在』として『退治』したのであれば、人里の人間はそれ以上の干渉をしてこなくなるし、そもそも『許されなく』なる。

私が――博麗の巫女が執り行う全ての『異変』は『私の』物であり、他者はそれに関与することは許されない。

私が異変として取り扱うのであれば、私にだけに任せるのが通例であり、一部の例外を除いて、それは絶対の掟なのだ。力を持たぬ者が破れば私や、最悪紫からの厳罰が下ることになる。

今回の事件を、私が『異変』として解決するのであれば、今後、誰にも彼を追及することはできなくなる、というのが、私とレミリアが出した落とし所であった――

 

――のだが。

 

 

『ウラァッ!!』

 

 

ここに来てあそこに居る、馬鹿な人間が茶々を入れてきやがった

ふざけるな。ここまでやって、今更おじゃんにする気か!?

私は考えるよりも先に弾けるようにフランの元へと飛び出す。

 

それは彼も同じだった。

 

 

『フランドォォォォォォォォォォル!!』

 

 

悲痛なまでの叫び声を上げ、彼はフランの元へと駆けていく。

が、しかし距離が遠かった。

無情にも降り下ろされた小刀は、そのまま勢いを殺すことなく、フランの胸に迫る。

 

 

『――――――』

 

 

フランの唇が動いた気がしたが、私には聞こえなかった。

しかし、何故か私より後に飛び出した筈なのに、既に私の前を走っていた彼には聞こえたようで、彼は声にならない悲鳴を上げた。

 

 

「――――――――!!」

 

 

そして、無情にもその時はやって来た。

 

 

 

 

真っ赤だった。

真っ赤で、真っ赤で、真っ赤だった。

鮮血が散り、飛散し、そして僕の顔へとかかる。

人間は既に居ない。フランに小刀を刺した瞬間、一足遅く辿り着いた僕が、その人間の体を中心から真横に薙いだからだ。

 

 

「フラン……、フラン……っ!」

 

 

小刀を抜いて、ドクドクと流れる鮮血を傷口を押さえてなんとか止めようとするが、しかしそんな行為は無意味だと言わんばかりに血は止まらず、直ぐに僕の両手を真っ赤に染める。

すると、椅子の拘束から逃れて両手が自由になったフランが、自分で目隠しを外しながら僕を見て、言った。

 

 

「…………あは、は。……や、っと、会えた、ね……」

 

 

既に大量の血を失い顔を真っ青にさせるフランが、僕に向かって微笑んだ。

 

 

「……もう、会えないかと……思っ――ゲホッ」

「フラン!もう喋るな!今……今すぐなんとか――!?」

 

 

狼狽える僕の唇に、フランの小さな指が触れる。

流れる血によって、既に手を上げる力も出ないはずなのに、フランは柔らかな微笑みを浮かべて、まるで何時ものように笑って言った。

 

 

「貴方は……壊れちゃうかしら……」

 

 

それは、初めて会ったときの言葉。

あの時僕が答えることが出来なかった、最初の言葉。

僕はフランの手を握って、あの時答えられなかった『答え』を告げる。

 

 

「壊れないよ……。君と一緒なら、いつまでも」

 

 

最初は『殺してくれる』と期待した。

いつか『壊してくれる』と期待した。

期待は、しかし直ぐに消えて、新たな期待が胸に宿った。

明日は『何があるのか』と期待して。

来月は『どうなるのか』と期待して。

期待は別の期待に、想いは新たな感情に変わっていった。

彼女は確かに、最初の期待に応えてくれた。

僕のそれまでの人生を『殺してくれた』。

僕の詰まらない毎日を『壊してくれた』。

彼女と言う存在が、僕の全てを『壊して』くれた。

彼女の本質、壊すことしか出来ない能力。

僕と言う存在全てを壊して、そして新たに『生み出した』、僕を救ってくれた小さな女の子。

 

 

「そっか……」

 

 

フランは、まるで何時ものように笑っていた。

心の底から幸せそうに。

 

 

「大好き……だよ……」

「僕も――大好きだよ、フランドール」

 

 

言って、僕は微笑む彼女に唇を重ねる。

フランは、それをただ静かに受け入れた。

フランの牙が僕の唇に刺さるけれど、そんなことは、気にしていなかった。

 

 

 

 

変化は直ぐに起きた。

呆然と佇む私の前で唇を重ね合わせた二人から、突如として膨大な力の奔流が巻き起こった。

 

 

「――!?何だってのよ!!」

 

 

辛うじてその場に押しとどまるが、しかし本当に凄まじい力だ。気を抜いたら直ぐにでも吹き飛ばされそうになる。

 

 

「――っ、ぐっ……!」

 

 

両手で巻き起こる砂嵐のような塵風に耐えながら、私はそれが収まるのを待った。

 

案外すぐにその力の奔流は止まった。

砂埃が舞い落ち、そして晴れていく。

 

 

「……あれは――」

 

 

そこには、二人の人影が見えた。

一人はよく見たあの青年のものだったが、先程までとは少し様子がおかしい。

服装が赤と黒を基調とした洋装になっており、髪色も真っ黒な黒髪に所々鮮やかな銀髪が混じり、毛先が金色になっていた。

そしてもう一つの人影の方――こちらは、一瞬誰だか分からなかった。

常識的に考えればフランだろうが、しかしその背は先程までとはうってかわって伸びており、青年の肩ほどまである。

 

 

「フ、ラン……?」

 

 

私の口を突いたのは、そんな感じの疑問だった。

先程までとは全く違う様子を見て、私はますます混乱した。

 

 

『漸く成ったようね!!』

 

 

と、どこからか声が響く。

直ぐ様上から聞こえてきたと理解し、私がそちらを見遣ると、そこからレミリアが凄まじい速度で降ってきた。

 

ボッゴォォォォォォン!!

 

着地したその勢いで一瞬地面が膨れ上がったと思うと、次の瞬間には地面が放射状に割れる。

オイコラ、この地面どうする気だ?と内心文句を言ってやるが、そんなレミリアはどこ吹く風でフランたちを見つめていた。

 

 

「お姉さま……これ……」

「あー。なにも言わないでいいわ、フラン」

 

 

いまだに目をぱちくりとさせているフランの言葉を遮って、レミリアは声高に一人の名前を呼ぶ。

 

 

「パチェ!!お願い!!」

「畏まりました、レミリアお嬢様」

 

 

再び空を見上げると、そこには紫色の魔法使い、パチュリーが宙に浮かびながらなにやら呪文を詠唱していた。

即座に身構える私を、レミリアが制する。

 

 

「大丈夫よ霊夢。全ては予定通りだから」

「予定通りって――」

 

 

言いかけたところでパチュリーの詠唱が終わったらしく、人里を包み込む程に大きな魔方陣が展開された。

 

そこのタイミングでレミリアは再び宙に浮かび、そして魔方陣に手を触れながら、言った。

 

 

『幻想郷に住む人間たちよ!!心して聞け!!』

 

 

それは、宣言だった。

予め私と二人で考えていた物とは、別の『策』であり、恐らくはレミリアにとっての『本命』。

 

 

『今ここに、お前たちが疎み、苛み、虐げて来た彼の少年が、我が妹、フランドール・スカーレットの眷族となった!!これにより、私は彼を我が一族に迎え入れることをここに宣言する!』

 

 

レミリアの宣言に、一番驚いているのは恐らく彼の青年だ。目を大きく見開いている。

その魔法は恐らく、空気中に漂う霊子を直接振動させて、広範囲に音を伝播させるための装置。

今レミリアが話している言葉は、この幻想郷の全土に響いているのだろう。

 

 

『これまでのように彼を殺そうとするのなら、それは構わない!だが、それは私たちに対する宣戦布告と見なし、これに全力を以て対処する!心せよ!!』

 

 

レミリアの言葉が魔方陣に乗り、ビリビリと大気を震わせる。

なるほど、これがレミリアの『策』だったというわけか。

あくまでも妹の――フランの為、彼の最後の『人としての心』を棄てさせて、フランの手によって眷族にする。

私ですらも利用した、完全なるマッチポンプ。我ながら見事としか言いようがないほどに鮮やかな手際。

やはり腐っても500年を生きた吸血鬼。老獪さで言えば私など比べるべくもない、か。全くムカつくわね。

 

 

レミリアは言いたいことを言い終えたのか、再びフランたちの前へと降り立って、彼に言う。

 

 

「ざで……ゲホッ。……さで、な”にかいいたいこどはあるがじら?」

 

 

大声を張り上げたせいか、声をガラガラにしたレミリアだった。

 

 

 

 

「ざで……ゲホッ。……さで、な”にかいいたいこどはあるがじら?」

 

 

僕に向かって、レミリアさんはガラガラの声で訊ねてきた。

先程のレミリアさんの話が本当ならば、僕は今、吸血鬼になったとのこと。

フランの眷族として。

不思議と気分は悪くはない。むしろ、今までに無いくらいに高揚している。

だが、だからこそ、僕はここで冷静さを失ってはいけない。

ここで誤れば、僕は本当に間違いを犯してしまうだろう。

 

 

「…………」

「大丈夫だよ」

 

 

不安がる僕を察してか、フランが手を握ってきた。

フランの身長は先程よりも更に伸び、僕の肩くらいまで伸びていた。

すでにレミリアさんの身長など飛び越している。

 

 

「あなたには私が居るし、私にはあなたがいる。――ね?まだ怖い?」

「……フラン……」

 

 

妖艶であり、また酷く純粋な子供のような表情で、フランは僕の心を落ち着かせる。

……うん。大丈夫だ、きっと、上手くいく。

 

 

「大丈夫だよ。君と一緒なら、多分、僕は大丈夫だ」

「……そ。良かったわ」

 

 

今までの子供のような笑みから、一気に見た目相応の大人びた微笑みを浮かべて、フランは僕の背を押した。

 

 

「いってらっしゃい。頑張ってね」

「いってきます。頑張るよ」

 

 

フワリと、初めてにしては自然な動作で空へと浮かび、魔方陣に触れる。

 

眼下に人里を眺め、思い出す。

 

――あそこは、僕が石を投げられた広場だ。

――あそこは、僕が知らない人に蹴られた路地だ。

――あそこは、僕が引き摺られた通りだ。

――あそこは、僕が初めて殺された家だ。

――あそこが、僕の両親が住んでいる家だ。

 

短く、そして良い思い出など全くない人里だったけど、それでも僅かながらに思うところがあるのは、望郷の念なのか、それとも違うのか。

僕には分からない。だからこそ、僕は言った。

 

 

『あなたたちは、僕を許さなくて良い』

 

 

静かに、だけど魔方陣のお陰で小声でも届く声で、確かに。

 

 

『あなたたちの大切な人を、僕は確かに奪ったかもしれない。だから、あなたたちは僕を許さないで欲しい』

 

 

でも、と付け加え、僕は言う。

 

 

『僕も、あなたたちに謝る気も、償う気もない』

 

 

人里が、僅かながらにざわめくのを感じた。

 

 

『人間として生まれて、でも、ヒトとしては扱われずに今まで生きてきた僕は、あなたたちに謝らない。恨んでいるわけではない。だけど、今まで他人を気にして生きてきた僕は、もう、あなたたちを顧みない。もし――僕のこれからを邪魔しようとするのなら、その時こそ僕は、あなたたちの”敵”になろう。再び僕の大切な彼女を傷つけようものならば、その時こそ僕は、あなたたちを”殺し尽くそう”』

 

 

悪者でも構わない。人間の敵でも構わない。

だから、僕が選んだこの人生には、誰にも文句は言わせない。

 

 

『僕のことは、もう放っておいて、あなたたちは自分の人生を生きてください』

 

 

それだけです。

それだけ言って僕は地面へと降り立った。

 

 

「お疲れ様」

 

 

地面で待っていたフランが、優しく僕を抱き留めた。

やっとここに来れた。

僕の人生の、最初で最後の宝物の前に。

僕は言った。

かつては僕を『壊して』くれ、

そして今では僕を『愛して』くれる、大切な大切な女の子。

僕は彼女の肩を掴み、お互いに顔を向かわせて。

ずっと言いたかった、けれど今まで言う相手が居なかった言葉を。

本当の意味での、僕と彼女の始まりの言葉を。

 

 

「ただいま、フラン」

「おかえりなさい」

 

 




くぅ疲。

初めての小説投稿でいろいろ不安はありましたが、意外に見てくださる人いるんだなと思いました。

取り合えず、今作品は残り一話。
最後まで無駄に早く上げたいと思っております。

それでは、また。
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