こちらヒーホー探偵事務所   作:あろろ

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間が開きすぎてあきまへんね、申し訳ございません。


その3. 少女、探偵と共に依頼をこなす

 

 

 

 某住宅街の異界。その異界で今まさに怒涛の追走劇が始まっていた。

 逃げるは魔獣、ネコマタと呼ばれる年老いた猫が成ると言われている悪魔だ。

 ネコマタはしきりに背後を覗き見ながらも全速力で駆け抜ける。その速度は野良猫の全力疾走の比ではない。

 そんな速度で走る彼女が何を恐れているかと言えば……。

 

「スパルナ、一気に詰め寄って!」

『了解、マイマスター!』

 

 その声を聞けばネコマタは再び背後に目を向ける。

 するとそこには王冠を被り青い鬣を生やした黄金の鳥、インド神話に伝わる風を自在に起こすと云われる霊鳥だ。スパルナが背に何かを乗せてネコマタを上回る速度で追いかけているではないか。

 そして背に乗せる何かはその手にするハンディタブレットを操作すれば――、

 

-SUMMON OK?-

 

 ―、無機質な音声と共に背に乗る少女の眼前に魔法陣が展開される。

 召喚手順の代行、召喚時のマグネタイト消費を専用にカスタマイズされたタブレットの内蔵マグネタイトタンクより消費、そして最後に召喚決定を決めるYes/Noのアイコンが出れば少女は迷うことなくYesをタッチ、それと同時に呼び出す仲魔の名を呼ぶ。

 

「お願い、ジャックフロスト! マカラ!」

『ヒホッ! 任せるホ!』

 

 出てきたのは青い帽子を被った雪だるまの様な悪魔、イングランドの民間伝承に出る霜の妖精。それに鹿の様な角と頭を持ち、胴部は鱗の生えたアザラシの様なインド神話の怪魚だ。

 妖精は可愛げのある語尾をつけて、龍神は唸り声を上げれば召喚者の意思通りに動く。それはもちろん前方を全力疾走するネコマタを捕縛することだ。

 ソレに対し魔獣は即座に振り返って迫り来る妖精と龍神を睨みつけて。

 

『さぁ、もう悪さをやめておとなしくするヒホ!』

『ケッ! あんたみたいなヒホヒホ五月蝿い奴なんかこうだよ! アギラオ!』

『ヒホッ?!』

 

 咆哮と同時に魔法を唱えて放つ。それは炎の魔法で威力はそこまで高い訳ではない、しかし霜の妖精であるジャックフロストには触れれば死ぬと言っても過言ではない。

 当然飛んできた炎に身構えるジャックフロスト、身構えていてもその一撃に耐えれるかどうか怪しいが……しかし。

 

「マカラ、庇ってあげて!」

 

 ジャックフロストと並走していたマカラは咄嗟に炎とジャックフロストの間に割って入る。すると不思議な事に炎はマカラの身を焼き焦がす事はなく、自然と鎮火していくではないか。

 と言うのもマカラには生まれついての炎に対する強い耐性、害ある炎を無効にするほどの強力な耐性を持つ。無論、少女はそれを知って龍神にとっさに庇うように指示を出したのは言うまでもない。

 庇われた所で追跡の片方だけでも潰せれば、と言うつもりで魔法を放ったネコマタは思わず己の失態に悪態をつく。そして、その隙を逃す少女ではなく……!

 

『しまった?!』

「ジャックフロスト! ブフーラ!」

『了解ヒホ!』

 

 少女の指示に従い妖精はその手から吹雪の如く氷雪を魔獣へと叩きつける。魔獣は更なる悪態を内心でつく。

 何故ならば氷雪系の攻撃を魔獣は得手とせず、寧ろ不得手な上に弱点なのだから……!

 

『キャァーッ!?』

 

 可愛げのある悲鳴を上げながら氷雪の魔法を受けて地面を転がり、最後には住宅街のコンクリートの壁に身をぶつけて動きを止めるネコマタ。

 動きを止めたネコマタの瞳は渦を巻いており、意識もうつろと言っても良い状態だ。

 その様子に少女は安堵の息を一つ吐きながらその側へ霊鳥と共に降り立ち、背から降りて先まで乗っていた霊鳥の背を撫でる。。

 

「ふぅ……。 これで、よし、かな? ありがとう、スパルナ」

『ヒホッ! マスター、ナイス指揮だホ!』

『及第点と言った所だな、マイマスター。 まずあそこで逃げられぬ様にするのが上策だったであろう』

『ヒホッ、スパルナ! そんな言い方することないホ!』

「良いのジャックフロスト、先生は言ってたもの。 “悪魔は何をするか分からないから最大限気をつけろ”、って」

 

 悪態をつく同輩に噛み付く妖精を窘める主。その様子を見ればスパルナもフッ、と笑む様に嘴の端を持ち上げて。

 

『それで良い。 筋は良いのだ、容易く死なれては私としても面白く無い……マイマスター、そろそろ帰還したいが良いかな?』

「あ、うん大丈夫」

 

 そう言うと彼女はタブレットを取り出し操作していく。

 

-RETURN-

 

 タブレットに表示されればスパルナは肉体をマグネタイトへと変換させて機械の中へと戻っていく。

 これでよし、とひとりごちてから再び視線をネコマタへと向ける。そこには……。

 

『ぬぁー、どけー、このデブ龍神ー?!』

 

 マカラに乗っかられ動けなくなっているネコマタがいた。香澄は特に指示は出していなかったがマカラは自身の判断でネコマタに乗しかかり、逃げ出さないようにしていたのだ。

 それを見れば香澄はマカラへと歩み寄り鱗の生えた背を撫でる。撫でれば独特のひんやりとした表皮とサラリとした液体が気持ち良い。

 

「マカラもありがとう。 でももうどいてあげて、ね?」

 

 香澄の言葉にマカラは頷けばノソノソと重量のある身体をネコマタからどけてやる。

 ネコマタは身体の上から安堵の息を吐くと同時に……。

 

『馬鹿め! この隙を私が逃すと――、』

 

 爪を立て香澄に襲い掛かろうとする……が、しかし。ソレより早く冷たいモノがネコマタの額に押し当てられるではないか。

 無論、それは香澄の手にあるモノで少女の手にスッポリと収まったソレはグロッグ17と呼ばれる可愛げの残る少女には似つかわしくない拳銃だ。

 香澄は一切の躊躇いもなく銃口をネコマタの額の真ん中にポイントしたまま問いかける。

 

「おとなしくしててくれますよね?」

『―、はい。 おとなしく、しています』

 

 少女の静かな恫喝に冷や汗を滝のように流しながら同意せざるを得ないネコマタ。無傷であるならばいざ知らず、満身創痍で最後の一発逆転を狙えばそんな事はない、既にチェックメイトを掛けられていた次第だ。

 そんなやり取りをしていると少女の背後より足音が聞こえてくる。少女が視線だけでそちらを向けば破顔して来訪者の名を呼んだ。

 

「先生、お疲れ様です!」

「そっちもおつかれさん……後、何度も言うけど先生はやめてくれ」

 

 そこには阿修羅のスカジャンを羽織る青年、葛葉一法が片手で男を担ぎ上げてやってくる姿で……ネコマタはその担ぎあげられている男――、己のサマナーの姿を見れば落胆して顔を俯けるのであった。

 

 

 

 

 

     ◆     ◆     ◆

 

 

 

 

 

 鷹島香澄が葛葉一法の手によりCOMPを渡され悪魔を使役するようになって既に二週間が経過していた。

 結論から言おう。鷹島香澄は現在進行形で優秀なデビルサマナーになっている。最初こそ戸惑いも困惑もあったものの慣れてくればなんてことはない、初めて悪魔に会った時に魔獣と魔王に命を狙われたのだ、ソレを思えば他の木っ端悪魔に命を狙われる程度と肝が据わってしまったようなのだ。

 ソレに対して最初は一法も焦ったものの結果としてこれでよかったんだろう、と思っている。問題があるとするならば彼女の執事である岡崎が非常に口やかましかった事ぐらいだ。

 それはさておき、二人は今受けた依頼を終えて捕まえた犯人……住宅街の異界で異界を管理する悪魔を殺そうとした男とその仲魔を捕縛、それを依頼主であるヤタガラスへの引渡しも完了した。

 そして今はと言うと……。

 

「なぁ、一法や。 前にも言ったけどさぁ」

「ダメだ」

「そんな事言うなよぉ……俺、あの娘っ子には割りとガチで才能あると思ってるから言ってんだぜ?」

 

 場所は繁華街の一角にある中華料理店『上海龍(シャンハイドラゴン)』……の地下。と言うのもこの上海龍の地下はお手頃な価格で美味しい中華を提供する料理店ではなく銃器や刀剣と言った武器を販売しているのだ。

 無論本来ならばその様な事は違反で出来ないのだが、上海龍の地下にある武器販売店はヤタガラスに認可を受けている店舗なのだ。即ち超法規的に国家に認可されてると言っても良い。

 尤も、この地下の武器販売店が武器を売るのはサマナーやデビルハンターと言った闇の世界に生きる住人のみであり、一般人に売る事はない。売るものも普通の人間に対し使うには強力すぎる武器だったり霊的加工を施したモノばかりでもある。

 そんな上海龍の地下の一室、そこでは上の中華料理をつまみながら情報交換を行ったり休憩をしたりと思い思いの過ごし方が出来るようにと言うそんな店主の心遣いの利いた部屋。

 葛葉一法ともう一人、派手に染め上げた金髪をオールバックにしてサングラスを掛けたスーツ姿の男は闇の世界よりも裏の世界の住人染みた雰囲気を持っている。

 尤も彼は実際に裏の世界においてそこそこに名の通ったボディガードとして有名で闇の世界においても一流と呼べるサマナーだ。

 そんな彼、名を小林克也と言う……克也は一法に両手を合わせて一法に頭を下げている。だが一法はそれを一瞥すらせず飲茶を楽しんでいる始末だ。

 

「だってあの子俺が鍛えりゃ絶対に超一流のサマナーになるぜ? だから俺にもっとしっかり預けてくれよ、な? な?」

「……この前、香澄の尻触った時にしっかりボコった筈だが……あれか? まだボコられ足りないってか?」

「OK。 俺が悪かった。 あの時はうっかり魔が差しただけなんだ。 もういっぺん謝る、だから座ってくれ」

 

 一法のその目に思わず克也は頭をテーブルにくっつけるぐらい下げて謝辞を述べる。先日ムラムラして香澄にセクハラしたら一法に必要以上に殴られ危うく生死の狭間を漂った事を考えればこれ以上踏み込むのは愚者のやることだ。

 その様子に嘆息を吐く一法。尤も一法自身は眼前のサマナーをそこまで毛嫌ってはいないし、彼の腕前は十分信頼に値すると思っている。

 ただかなり悪い女癖が無く、彼女が本当にただの弟子だというならば預けても良いと思える程だ。

 

「それより克也。 お前、コレで何人捕まえた?」

「ん。 この二週間で五人。 お前は?」

「こっちは四人。 全部魔王持ちだったよ……劣化分霊のモロクにモラクスにミトラス、オーカスって所か」

「うへぇ……劣化分霊でもモロクはやべぇな」

「そっちは?」

「あんま大差ねぇよ。 ただモロクは見てねぇけどバロール出てきた時は死ぬかと思った」

 

 ケルト神話の邪眼の魔王の名が挙がれば一法も辟易とした声をあげる。実際に肉体を持ったバロールは神話に語られるほどの強力な邪眼を持った分霊はいないもののそれを抜きにしても十二分に強力な戦闘力を持つ。

 だがそれはすべての魔王と呼ばれる分類の悪魔に言える事でもある。魔王と呼ばれる分類の悪魔は同レベルの悪魔と比べてその能力が高く、持ちうるスキルも非常に強力であることが多い。

 故に昨今続いている案件、通称『魔王COMP事件』は厄介極まりないのだ。そして一法は今もその案件を追い、眼前の克也もまたその依頼を別方面から受け追っており、二人は互いに情報交換を行なっている最中と言う訳だ。

 テーブルの上の缶ビールを一口呷り、ため息を吐く克也は一法を見て言う。

 

「しかしモラクスにミトラスにオーカス、バロールにモロクねぇ。 割りと低級ばっかとは言え魔王ばかり……一体全体何が目的なんだか、分かるお前?」

「……多分とかそんな言葉ばっか付いて良いなら予想はないでもない」

「ほほぅ?」

 

 ずずい、と身を寄せる克也の額を指で椅子まで押し戻し一法は言葉を続ける。

 

「多分この件の犯人はこの近辺のサマナーの実力を見ているんだと思う」

「実力を見ている?」

「あぁ。 コレまで出てきた魔王は全部が全部強力といえば強力だがある程度の実力のあるサマナーならレベルが低かろうとも十二分に対処の出来る魔王連中ばっかりだ」

「確かに言う通りだな……つまりこの事件の黒幕様は倒せるレベルの魔王だけ出してこの辺りの連中の実力を見て……どうすんのよ?」

「……何かしらのアクションを起こすつもりではあるんだろうよ。 それが何かは分からんがね」

「……そこが分かんないと色々しようもねぇよな」

 

 だな、と頷いて焼売を食べながら空になったセイロを脇へと除けていく。それだけならば普通なのだが量がもはや2mに近い程に積み上げられているのを見れば誰もが異様と感じるだろう。

 尤もその御蔭で彼女はすぐに一法の居場所を察知することが出来たのだが。

 

「すみません、お待たせしました」

 

 二人のテーブルに駆け寄るのは先の話に上がっていた少女、香澄だ。その脇には一法の仲魔であるモー・ショボーのフサもついている。

 

「別に良いさ。 それより報酬は?」

「確かに百五十万、バッチリです。 後、先生の印鑑をお願いします」

 

 言うより早く香澄はテーブルの上に書類を置けば、一法は懐から印鑑を取り出せば即座に押印する。この世界はいくら魑魅魍魎跋扈する世界と言えどこの様な書類は重要なのである。

 閑話休題、一方のフサの手に握られている茶封筒は厚みがありその中身は先に香澄の言ったぐらいの額のお札は入っているであろうと容易に察することが出来る。

 そんなフサだが何を思ったか不意に一法の背後に回ればその両手を一法の首に回して後ろから抱きつくではないか。

 

『あ、コレ報酬ね。 ねぇ、カズノリ! 今日何食べる? 焼肉? お寿司? それともわ・た・し?』

 

 少女のモノとは思えないほど艶っぽい語り方と共にその吐息を一法の耳へふぅ、と注ぎ込む。常人ならば思わず色めき立つところだ。事実、眼前の克也はおぉ!と声を張って目を見開き、香澄は赤くなって顔を抑えているものの指の隙間からその様子をまじまじと見ている。

 仲間の少女のいつもの事とは言え唐突な誘惑と眼前の二人の反応とを見比べれば一法の口からは……。

 

「…………ハァ。 あのな、何処で覚えてくるんだそんな事を……?」

『ぬぬ。 あんまり利いてない? おっかしーなー、ギンコはこうすればカズノリなんかイチコロよ!って……』

「あのババアの言う事真に聞くなよ」

「誰がババアですって?」

 

 大きな嘆息を吐いて俯いていた一法だったが聞き覚えのある声を聞けば思わずそちらへと顔を向けてしまう。

 振り返った先にいたのは白いコートを羽織った黒いスーツの人物だ。金髪の長髪を頭頂部で縛った姿は非常に凛々しくも美しい印象を与える。

 その人物の顔を見れば克也は思わず顔を青くして名前を思わず口に零す。

 

「ま、マダム銀子……い、いらっしゃったんですか?」

「よぉ、ババア。 相変わらず若作りだな」

 

 克也の体面に座る一法は軽く手を振るだけの簡素な挨拶をする。尤も本来ならばそんな対応は許される筈もない。

 なにせこの人物は葛葉一法の所属して“いた”組織のお目付け役として闇の世界では一級の有名人にして実力者、しいては……。

 

「まったく、師匠に対しての口の利き方はもっと徹底的に仕込んでおくべきだったかしら……」

「アレ以上やってたらババアの弟子は全滅だったんじゃねぇかな……事実、三人しか残ってない訳だし」

 

 悪びれもしない弟子の様子に師である銀子は思わず嘆息を吐いた。昔より幾度も矯正しようとしたが最後まで治らなかったこの性格だ、今更言った所で治らないのは承知している。

 だがしかし、それでも銀子は言葉を続ける。ただその目は一法ではなく、その向こう……香澄を見て。

 

「良い? 貴方と私だけならそれでも良いけれど……今の貴方は彼女の師匠なのでしょう? ならもう少ししっかりとした方が良いと思うのだけど?」

「…………」

 

 そんな銀子の言葉に数瞬逡巡した後、一法が発した言葉は……。

 

「申し訳ございません、師匠。 許してください」

「……一法にしては上出来と言う事にしておきましょう」

 

 と、身体を向き直し頭を下げる姿であった。

 やれやれと頭を振りながら自身の甘さに辟易する銀子だったが、そんな彼女の前にフサがふわりと宙を舞ってやって来れば泣きそうな顔を向けて開口一番。

 

『ギンコー、カズノリに全然効かないんだけどー』

「あらあら……そう、じゃあまた何か考えておいてあげるわね」

 

 銀子はそう言うと優しくフサを抱きしめる。フサも抱きしめられれば返すように優しく抱き返して。

 そんな様子を見ている一法はゲンナリとした様子で銀子に口を出す。

 

「おい、ババア。 フサにあんま変なこと教えんなよ……この前マッパにエプロンで台所立ってたのもババアが教えたんだってな?」

「えぇっ?! ふ、フサちゃん、そんな事したの?!」

『ふふーん。 そりゃ一緒に住んでるんだし? そのぐらいしてあげるのが女の甲斐性、ってやつじゃない?』

 

 自信満々、鼻高々と言った様子のフサだが次の一法の言葉を聞けば思わず項垂れてしまう。

 

「……そうだな。 出てきた飯がモー・ショボー向けじゃなけりゃちったぁ評価しないでもなかったな、あぁ」

 

 一法の脳裏には先日白い皿の上に乗ったとても言葉で言い表せば食事中の人ならば思わずその手を止めてしまう光景が思い浮かぶ。故に先まで会話をしながらも続けていた食事の手は止まってしまっていて。

 そんな様子に銀子は思わずフサに耳打ちをして。

 

「ちょっと、フサ。 アンタ何、いつも食べてる様なのを……?」

『……うん。 で、でもやっぱり新鮮で美味しいのが良いかな、って思って頑張ったんだよ?』

 

 二人がヒソヒソと話し込んでいる様子に思わず頭を抱える一法だったが、そんな一法の正面に香澄が立つ。何だ?、と口にするより早く、香澄は一法に問うた。

 

「せ、先生……そ、その、裸エプロンとか、好きなんですか? そ、その……わ、私も……!」

「ストップ、待て、頼むから……。 俺にそう言う性癖はない。 だからソレ以上言葉は続けないでくれ」

「良し、香澄ちゃん。 良かったら俺の家で……」

「克也、それ以上言うなら顔凹むまで殴るからやめてくれ」

 

 羞恥で顔を真赤にする弟子といきり立つ悪友の両方に思わず頭が痛くなるのを必死に耐える一法。ここ最近こういう事が多く思わず胃まで痛くなりそうなのは此処だけの話である。

 一方、そんな香澄の様子に思わず銀子は白目を剥いて呟く。

 

「香澄、恐ろしい子……!」

『恐ろしい子……!』

「……もうこれ以上ツッコまないぞ、俺は……!」

 

 頭痛の種が増えて頭を抱える一法。

 一方、新たな頭痛の種になった銀子はと言うとすぐに平時の様に戻れば視線の奥にいる香澄の狼狽えている様子を見れば微笑みかけて。

 

「あ、香澄さん。 悪いんだけど先ほどの書類、渡してもらって良いかしら?」

「あ、はい、すみません」

 

 笑みと共に優しく言葉を掛けられればハッとした香澄は頭を振ればすぐに手にする書類を銀子へと手渡す。受け取り書類の不備を確かめ、ないことを確認すればソレを懐へとしまう。

 

「ありがとうね、香澄ちゃん。 貴方がやってくれるからこっちも楽で助かるわ」

「いえ、私の出来る事をしてるだけですから」

「……あぁ、本当に良い子……なんでこんな良い子が一法の弟子なんかに……」

 

 思わずそんな言葉が銀子の口から漏れる中、一法は眼前の残る肉まんを口に押しこみ一気に飲み込めば席を立つ。

 

「香澄、帰るぞ。 いつまでもこんな所にいたらババア臭くてかなわねぇ」

 

 それだけ言えば一瞥すらせずに地上への階段へと歩を進めていく。

 

『あーんっ、ちょっとー! 待ってよカズノリー!』

「あ、先生!」

 

 フサは宙を舞い、香澄は足早に一法を追いかける。だがそこに香澄を呼び止める声がひとつ。

 

「ねぇ、香澄ちゃん」

「はい?」

 

 振り向けば声の主は克也だが……その表情はいつになく真剣なもので、いつの間にかかけていたサングラスを外し、黒檀の様な黒い瞳で真っ直ぐに香澄を見ている。

 

「あいつと一緒にいて色々大変だろ?」

 

 良かったら家に来ない?、と言葉を続けようとした克也だったが……ソレより早く。

 

「大変です……けど、色々勉強にもなりますから。 ソレに、一緒にいて楽しいですよ?」

 

 と、微笑みながら香澄は答えたのであった。その言葉にソレ以上の言葉を続けることの出来ない克也。

 そんな克也にそれじゃあまた今度、と言って頭を下げれば香澄は急いで師匠の背中を追っていく。

 残された克也であったが、その横に銀子はくつくつと笑いながら立って。

 

「やれやれ、フラれてしまったね?」

「……ま、しゃーないっす。 割りと本気だったんだけどねぇ……あの子、あんな“甘い”育て方せずにもっとしっかりやりゃあ……」

「やれば?」

「……葛葉四天王狙える、って言うと言い過ぎかもしんないっすけど、そんぐらいの器だと思ってますよ、俺は」

 

 

 

 

 




今回は短めです。
次からクライマックスに向かっていく感じで一つ。
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