魔法少女リリカルなのは―Mission Code"N"― 作:あじめし
ルナディアの左手がなのはの額に触れる。
ルナディア「“神の声”!!」
なのはは一瞬、身体をびくつかせて、間もなく立ち上がった。
ルナディア「ふっ…ふふふふふ!できた…私の最高傑作だ」
エーリヒ「なのはっ!!」
廊下の向こうからエーリヒが走って来た。
エーリヒは、なのはの足もとに広がる血の跡と、血を流しながら立ち上がる彼女を見て青ざめた。
ルナディア「やぁ、遅かったじゃないか」
エーリヒ「お、オレ…だと?」
エーリヒは、目の前に立つ男を見て驚きを隠せなかった。
自分をまったく同じ顔した男がいるという現実。それは記憶を失う前の"本来"の自分を見ているのかもしれないとエーリヒを錯覚させた。
ルナディア「そうとも。お前は私の片割れだからね」
エーリヒ「何を言ってる!それにアンタ!なのはの友達じゃなかったのかよ!」
ネイ「そうね。友達の“ふり”はしていたわね」
エーリヒ「てめぇら…来い、ヴァルファーレ!」
ルナディア「魔法の使い方も忘れさせておけばよかったか。さぁ、なのは。この男を殺してくれ」
なのは「……」
なのはは無言でレイジングハートをエーリヒに向けた。
エーリヒ「ど、どいうこと――」
なのは「バレルショット」
エーリヒ「ぐあぁ!!」
なのは「ディバイン…」
エーリヒ「やめろなのは!」
なのは「バスター」
砲撃は片膝をついていたエーリヒに直撃した。
かなりの至近距離で放たれたため、なのは自身へのダメージも大きく、なのはの傷口から血が噴き出した。
ルナディア「流石だ…美しき悪魔よ」
エーリヒ「む、無茶しやがって…なのは…!」
ネイ「これ以上動かすと、彼女の身体が壊れてしまうわ」
ルナディア「それもそうだ。さて、止めは…ハヅキ、頼んだぞ」
ハヅキ「し、しかし…陛下。この方は」
ネイ「私がやる」
ハヅキ「ネイ様…」
エーリヒ「この…裏切り者…!」
ネイ「終わりよ」
エーリヒ「…へへ、どうかな」
エーリヒは微かな笑みと共に光となって消えた。
そして、光と共にエーリヒは、ルナディアの目の前に現れた。
ルナディア「なっ!」
ハヅキ「陛下っ!」
エーリヒ「覚悟し――」
その時、エーリヒの頭の中に無数のビジョンが現われた。
それはエーリヒの幼少期のものでもあり、ごく最近のものでもあった。
つまりそれは、彼の“記憶”だったのだ。
エーリヒ「うあぁぁぁ!!!」
ルナディア「…そうか。“神の声”の効力がついに切れたか」
エーリヒ「な、何だ…今のは」
ルナディア「どうやらもう一度する必要が――」
シグナム「紫電一閃!!」
ヴィータ「ギガントハンマー!!」
ルナディアの背後に、壁を突き破って突如現れたシグナムとヴィータが迫る。
ネイ「くっ!!」
ハヅキ「陛下!お下がりください!」
ネイとハヅキが、ルナディアを庇うように間に入る。
ルナディアはエーリヒを置き去りにしたまま、なのはを引き連れて距離を取る。シグナムたちの攻撃を防ぎ切ったネイとハヅキも、ルナディアに続く。
シグナム「投降しろ」
ヴィータ「なのはっ!今助けに――」
エリーヒ「待て!」
一歩前に出たヴィータに、なのはが砲撃を放った。
ヴィータ「え――」
シグナム「ヴィータ!」
シグナムのレヴァンティンが、ぎりぎり砲撃を受け止めて事なきを得た。しかしヴィータは、何か恐ろしいものを見たように身体を強張らせ。唖然としていた。
ルナディア「撤収だ。もうここに用はない」
ハヅキ「暴!」
ネイ「フレイムウォール」
ネイは炎の壁を出現させ、それがハヅキの神龍が起こした強風によって、さらに激しく燃え上がった。
エーリヒ「待ちやがれ…ちくしょう!!」
シグナム「今のは、ノートルア執務官ではないのか」
エーリヒ「奴は裏切り者だったんだ…それに、なのはが…連れて行かれた…!」
ヴィータ「ど、どいうことだよ…なのはーっ!!」
シグナム「行くなヴィータ!その壁の中を抜ければ、お前でもただでは済まないぞ」
ヴィータ「くそっ!!あいつらっ!」
炎の壁によって遮られたその向こう。
なのははルナディアたちと共に去って行った。
ティアナ「ぐっ!」
ティアナの左手に刺さった氷柱が血で真っ赤に染まった。
キリエ「うふふ…痛みに苦しむ可愛いお顔。そういう表情、大好きよ」
マオ「キリエ~、陛下が戻れだって」
キリエ「いいところだったのだけど…すぐ済ませるわ」
キリエの銀色の翼から、直径10センチほどの氷柱が現われた。
キリエ「死になさい」
ティアナ(やばいっ!)
フェイト「はぁっ!」
間一髪、フェイトがその間に割って入り、飛ばされた氷柱を切り裂いた。
キリエ「……マオ、ネイお姉様から連絡よ。さ、帰りましょう」
マオ「おっけ~。ばいば~い」
マオはキリエの腕につかまり、二人は破壊された天井から外へと飛び去って行った。
フェイト「はぁはぁ……」
ティアナ「すみません、フェイトさん。手まといで…」
フェイト「ううん、そんなことない。彼女たち、相当強いよ」
シャマル「テスタロッサちゃん!」
フェイト「シャマルさん…」
シャマル「ちょうど遠方の任務帰りで…ごめんなさい、力になれなくて」
フェイト「ティアナの治療をお願いします。あと…あの方たちの」
ロビーに倒れる大勢の管理局員。その中には、襲撃にきたルカリテ捜索隊のメンバーも混ざっていた。
シャマル「酷い……あ、シグナム、ヴィータちゃん!」
シグナムはぼろぼろのスバルを抱え、ヴィータはずっと俯いたままやって来た。
そして、その後ろにはふらつきながら歩くエーリヒがいた。
シグナム「スバルの治療を頼む。まだ息はある」
ティアナ「スバル…!」
シャマル「ヴィータちゃん…どうかしたの…?」
ヴィータ「―――った」
シャマル「え?」
ヴィータ「なのはが……連れて行かれちまった…!」
フェイト「そ、そんな……」
フェイトの手からバルディッシュが落ちた。
エーリヒ「…安心しろ、なのはは絶対に死なない」
シグナム「どういう意味だ」
エーリヒ「兄さん…ルナディアは、なのはを操って利用する気なんだよ」
フェイト「エーリヒ…もしかして」
エーリヒ「あぁ…戻ったんだ…俺の記憶が」
―――第6話へ続く